博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『興亡の世界史05 シルクロードと唐帝国』その1

2007年02月23日 | 世界史書籍
森安孝夫『興亡の世界史05 シルクロードと唐帝国』(講談社、2007年2月)

この巻ではソグド人を軸にシルクロードを舞台にした交易や唐・突厥といった帝国の興亡を追う、という内容のはずですが、まず「序章 本当の『自虐史観』とは何か」で、今までの日本人の世界史の知識は西洋史と中国史に偏りすぎていたと批判します。そしてこの状況を改めるには高校の世界史の指導要領と教科書、そして世界史教員の認識を変えていく必要があるとします。

そしてあとがきでも昨年の世界史未履修問題について触れ、
「ほとんどの大学生にとっては、高校の世界史が『一生もの』になる。だから『世界史必修』には大きな意義がある。しかし、現在のように肥大化した世界史教科書を高校生に押しつけるのはもはや無理である。教科書はもっとスリム化し、一方で少なくとも総合大学の入試に簡単な世界史問題を出すべきである。教科書をスリム化するには、西洋史を大幅に削減すればよい。現代の日本人にとって、ギリシアの思想家やルネサンスの芸術家たちの名前を細かく覚えたり、フランス革命を日単位で暗記したりする必要などない。逆にこれまで軽視されてきた近隣の朝鮮・北アジア・東南アジアの歴史と遊牧騎馬民族の動向などについては、やや記述を増やしてはどうか。」(本書361頁)
と提言します。

何か高校の世界史履修の実態について少し誤解があるようなのでフォローしておきます。まず言葉尻をとらえるようでアレですが、今の高校生の多くは世界史をちゃんと履修していても「ギリシアの思想家やルネサンスの芸術家たちの名前を細かく覚えたり、フランス革命を日単位で暗記したり」していません。というのは、そもそも高校世界史には古代から現代まで万遍なく詳細に学ぶ4単位の「世界史B」と、近現代史を重点的に学ぶ2単位の「世界史A」の2科目に別れており、このどちらかを高校在学中に履修することになっています。

で、世界史を受験科目にする生徒はBの方を履修し、それ以外の生徒は大体時間数の少なくて済むAの方を履修することになるわけですが、まず理系で社会を受験する必要のある生徒は大体地理Bを履修します。(地理と日本史も受験用のBと一般教養用のAに分かれています。)文系の生徒でも世界史よりは日本史を受験科目にする生徒が多いので、(参考までにセンター試験の受験者数をご覧下さい。地理B・世界史B・日本史Bの受験者がここ数年それぞれ12万人・10万人・15万人前後で、割合に直せば2.4:2:3ぐらいになります。世界史Bの受験者はこの3科目の中で最も少ないのです。)高校生の多くが世界史Aの方を履修することになるわけです。

世界史Aの教科書では古代・中世をごくごく簡単にすっ飛ばしてしまい、ルネサンスあたりから少しずつ記述が詳しくなります。そして19世紀末の帝国主義の開始あたりから記述が世界史B並みに詳しくなり、ここら辺から現在までの歴史が全体の半分近くを占めています。また、東西交渉史を割と詳しく扱っているのもこの科目の特徴です。(ただしふた昔ほど前の認識で書かれているので、著者が批判するように「オアシスの道(絹の道)」なんて記述があったりするのですが……)教科書も(世界史Bと比較しての話ですが)随分とスリムになっています。

しかしそれでも一年間で教科書を全部やる余裕は無いので、だいたいは前半分を飛ばして帝国主義の開始あたりからゆっくり時間をかけて指導していくことになるわけです。だから本書の「ギリシアの思想家やルネサンスの芸術家たちの名前を細かく覚えたり、フランス革命を日単位で暗記したり」の部分は「条約の名称を細かく覚えたり、第二次世界大戦の戦況を一ヶ月単位で暗記したり」とでも改めた方が良いと思われます(^^;)

しかし世界史教員の認識が変われば、教科書にはそれなりに詳しく載っているわけですし、「やっぱり東西交渉史もやっておこうか」ということになると思うので、世界史教員に意識変革を呼びかける著者の方針自体は間違ってはいないと思います。

長くなりましたので、本編の内容についてはまた次回……
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