「味覚の秋を代表する秋刀魚の水揚げ量が今年は少ないそうだね」
「海水温の都合らしいが、少ないと聞くと、無いものねだりで余計食したくなる。1尾でご飯2杯はいける」
「この時季、沖縄で秋刀魚以上に食されているのはグルクン。宜野湾市真栄原にある行き付けの割烹・大将のガラスの水槽には5、6尾のグルクンが泳いでいる」
「えっ?グルクンは遊泳魚だから水槽では飼えないのではないかい」
「そこが店のこだわりでね、読谷村都屋漁港に揚がる活きのいいモノを開店直前に仕入れて、言葉通り‟活き造り”にして出している。冷凍庫入りしたグルクンはもっぱら唐揚げ、刺身になる」
「けれども、グルクンはデリケートな魚で、手で直接触れると、人間の火傷にあたる熱を感じるほどだそうじゃないか。直送とは言え扱いに気を遣うな」
「そこがプロの仕業。水温もさることながら専用の手袋を使う。グルクンは水中では鮮やかな青魚だが、釣り上げたとたんに表面が赤くなる」
「確かに。鮮魚店に並べられたグルクンはすべて赤いからな。うちのカミさんもグルクンは赤い魚と決めてかかっている。外気に触れるとそうなるのかな」
「その説もある。また、一方には擬態説もある。人間に対しては無害だが、赤魚には防御のための毒性を放つモノが少なくない。グルクンも外敵に遭遇すると自己防衛のための擬態するという説もある。実際‟大将”のグルクンも水槽内では青いが、水槽のガラスを叩いたり、突っついたりすると一瞬、赤くなることがあるそうな」
「グルクンは沖縄の県魚だよね」
何杯目かのビールをお代わりした二人の(グルクン談義)は、さらにジョッキの追加を促進する勢いになってきた。
{沖縄の魚・グルクン選定}
終戦7年目の昭和27年(1952)。日本国から見放されたままの人びとは、先の見えない不安を強いられていた。(住民に少しでも明るい話題を)と「沖縄の魚」を選定することになった。「県魚」ではなく「沖縄の魚」としたのは当時はまだアメリカの統治下にあって「県」を名乗れなかったからである。
選考にあたったのは軍政府下にある農林水産部沖縄水産協会、琉球漁業協同組合連合会、農林漁業中央金庫など。(これらの団体にも‟県”の冠が付いてない)。
選考委員会には各地区漁協推薦の魚があった。
○カチュー(和名・鰹)○赤マチ(和名・ハマダイ)○グルクン(和名・タカサゴ)○ガチュン(和名・メアジ)○マクブ(和名・ベラ)などなど。
その結果、グルクンが選出された。
理由。イ=年間水揚げ量が多い大衆魚である。ロ=品質良好。ハ=親しみがある。
「沖縄・魚の本」を頼りに蘊蓄をたれると、グルクンとはフエフキダイ科タカサゴダイ属をさす沖縄方言名の総称。したがって種類も多々。
○餌をちびりちびり食べるカブクァーグルクン。○水面近くを浮いたように遊泳するウクーグルクン。○やや深場を遊泳し、1本釣りで漁獲されるシチューグルクン。○やや大きめのコージャーグルクン。○体が平たいヒラーグルクン。○尾びれのふちが赤いアカジューグルクンなどなど、特徴を捉えた方言名はなかなか面白い。本土におけるイワシ、アジ、サバ類などと同様、多獲性大衆魚で8種類が生息している。県魚に正式指定の栄誉を得たのは昭和45年(1970)、日本復帰を2年後にひかえた12月のことだった。
奄美諸島以南から遠くはインド洋に分布。沿岸からリーフの傾斜面、水深5メートルほどに群れをなして滞泳もしくは遊泳する。
専門的には沖縄の伝統漁法・追い込み漁が主流。素人の沖釣りは大抵、グルクン釣りに始まる。盛漁期は5月。また、グルクンは宮古、八重山における鰹漁1本釣りの活き餌として重宝され、沖縄の漁業を支えている。
ところで。
初心者にも釣れるのがグルクン・・・・と言われる。
グルクンは何百、何千尾が群れをなして遊泳する。腕のいい船頭が操る貸し釣り船に当たると、船頭は魚群の進行方向を見極め、先廻りして待機。魚群接近を「とおっ!なまやさっ!=よしっ!今だ!」と釣り糸投入を告げてくれる。仕掛けはさ引き。オキアミを餌にして垂れた手ぐすりの棹先までの間には釣り針が4、5個ついている。それを無数の魚群の中に投入するのだから、グルクンが針に掛からないわけがない。入れ食いだ。と、自慢したいところだが、ボクの場合、そうはいかなかった。うるま市屋慶名漁港を勇んで出港したことだが、漁場の平安座島の東の沖合いに着く以前に船酔い・・・・。棹を投げるどころかオキアミの生臭さにやられ、往復(寝たきり)。以来、グルクンは「釣るものではない。食するものだ」に専念している。
件の男たちの(グルクン談義)はまだ続いている。
「グルクンは同じ大きさのモノ同士が群れをなす。鮮魚店に並んだそれを見てみろよ。大きさが計ったように同じだ。それにさぁ・・・・」。
そこで彼はビールの残りを喉を鳴らして飲み干し「お代わり!」の声を発した。今宵はグルクンばなしで居座るつもりらしい。
秋口のグルクンは脂がのっていて美味。
「海水温の都合らしいが、少ないと聞くと、無いものねだりで余計食したくなる。1尾でご飯2杯はいける」
「この時季、沖縄で秋刀魚以上に食されているのはグルクン。宜野湾市真栄原にある行き付けの割烹・大将のガラスの水槽には5、6尾のグルクンが泳いでいる」
「えっ?グルクンは遊泳魚だから水槽では飼えないのではないかい」
「そこが店のこだわりでね、読谷村都屋漁港に揚がる活きのいいモノを開店直前に仕入れて、言葉通り‟活き造り”にして出している。冷凍庫入りしたグルクンはもっぱら唐揚げ、刺身になる」
「けれども、グルクンはデリケートな魚で、手で直接触れると、人間の火傷にあたる熱を感じるほどだそうじゃないか。直送とは言え扱いに気を遣うな」
「そこがプロの仕業。水温もさることながら専用の手袋を使う。グルクンは水中では鮮やかな青魚だが、釣り上げたとたんに表面が赤くなる」
「確かに。鮮魚店に並べられたグルクンはすべて赤いからな。うちのカミさんもグルクンは赤い魚と決めてかかっている。外気に触れるとそうなるのかな」
「その説もある。また、一方には擬態説もある。人間に対しては無害だが、赤魚には防御のための毒性を放つモノが少なくない。グルクンも外敵に遭遇すると自己防衛のための擬態するという説もある。実際‟大将”のグルクンも水槽内では青いが、水槽のガラスを叩いたり、突っついたりすると一瞬、赤くなることがあるそうな」
「グルクンは沖縄の県魚だよね」
何杯目かのビールをお代わりした二人の(グルクン談義)は、さらにジョッキの追加を促進する勢いになってきた。
{沖縄の魚・グルクン選定}
終戦7年目の昭和27年(1952)。日本国から見放されたままの人びとは、先の見えない不安を強いられていた。(住民に少しでも明るい話題を)と「沖縄の魚」を選定することになった。「県魚」ではなく「沖縄の魚」としたのは当時はまだアメリカの統治下にあって「県」を名乗れなかったからである。
選考にあたったのは軍政府下にある農林水産部沖縄水産協会、琉球漁業協同組合連合会、農林漁業中央金庫など。(これらの団体にも‟県”の冠が付いてない)。
選考委員会には各地区漁協推薦の魚があった。
○カチュー(和名・鰹)○赤マチ(和名・ハマダイ)○グルクン(和名・タカサゴ)○ガチュン(和名・メアジ)○マクブ(和名・ベラ)などなど。
その結果、グルクンが選出された。
理由。イ=年間水揚げ量が多い大衆魚である。ロ=品質良好。ハ=親しみがある。
「沖縄・魚の本」を頼りに蘊蓄をたれると、グルクンとはフエフキダイ科タカサゴダイ属をさす沖縄方言名の総称。したがって種類も多々。
○餌をちびりちびり食べるカブクァーグルクン。○水面近くを浮いたように遊泳するウクーグルクン。○やや深場を遊泳し、1本釣りで漁獲されるシチューグルクン。○やや大きめのコージャーグルクン。○体が平たいヒラーグルクン。○尾びれのふちが赤いアカジューグルクンなどなど、特徴を捉えた方言名はなかなか面白い。本土におけるイワシ、アジ、サバ類などと同様、多獲性大衆魚で8種類が生息している。県魚に正式指定の栄誉を得たのは昭和45年(1970)、日本復帰を2年後にひかえた12月のことだった。
奄美諸島以南から遠くはインド洋に分布。沿岸からリーフの傾斜面、水深5メートルほどに群れをなして滞泳もしくは遊泳する。
専門的には沖縄の伝統漁法・追い込み漁が主流。素人の沖釣りは大抵、グルクン釣りに始まる。盛漁期は5月。また、グルクンは宮古、八重山における鰹漁1本釣りの活き餌として重宝され、沖縄の漁業を支えている。
ところで。
初心者にも釣れるのがグルクン・・・・と言われる。
グルクンは何百、何千尾が群れをなして遊泳する。腕のいい船頭が操る貸し釣り船に当たると、船頭は魚群の進行方向を見極め、先廻りして待機。魚群接近を「とおっ!なまやさっ!=よしっ!今だ!」と釣り糸投入を告げてくれる。仕掛けはさ引き。オキアミを餌にして垂れた手ぐすりの棹先までの間には釣り針が4、5個ついている。それを無数の魚群の中に投入するのだから、グルクンが針に掛からないわけがない。入れ食いだ。と、自慢したいところだが、ボクの場合、そうはいかなかった。うるま市屋慶名漁港を勇んで出港したことだが、漁場の平安座島の東の沖合いに着く以前に船酔い・・・・。棹を投げるどころかオキアミの生臭さにやられ、往復(寝たきり)。以来、グルクンは「釣るものではない。食するものだ」に専念している。
件の男たちの(グルクン談義)はまだ続いている。
「グルクンは同じ大きさのモノ同士が群れをなす。鮮魚店に並んだそれを見てみろよ。大きさが計ったように同じだ。それにさぁ・・・・」。
そこで彼はビールの残りを喉を鳴らして飲み干し「お代わり!」の声を発した。今宵はグルクンばなしで居座るつもりらしい。
秋口のグルクンは脂がのっていて美味。