旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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お盆の後は

2018-09-01 00:10:00 | ノンジャンル
 「エイサーの歌三線、鳴り物、それを盛り上げる若者たちの囃し声が遠退く頃、朝夕に涼風が生れる」。
 そう伝えられてきたが、そう簡単には(オレの夏の幕は引くまいぞ!)とばかり残暑(残ゐ暑さ・ぬくゐ あちさ)が居座っている。各青年団のエイサーも名残惜しいのか、これから行われる県観光協会などの主催する「ふるさとエイサー祭り」や「沖縄全糖エイサーまつり」、各種イベント参加に向けて、ひと息入れる間もなく、稽古にいい汗をかいている。祭りの好きな七月太陽(シチグァチ ティーダ)も、エイサーに未練が残るのだろう、いや、むしろ、エイサーからエネルギーを得て、衰えを知らないでいる。
 各地では、旧盆の先祖供養を無事に済ませた人びとが、今度は自分たちの慰労のための催しをする。八重山には『イタツキ バラ』がある。

 『イタツキ バラ』
 旧盆明けの17日。先祖霊はあの世にお送りしても、送ってくれる縁者のいない無縁仏はこの世に残ってさまよっていると考え、辺りをあらためて掃き清め獅子舞や棒術などを演じ、同時に人は慰労の宴を催すのである。
 『イタツキ』とは、古語の(いたつき=労わる。骨を休める)の意。『バラ』は疲労、邪気を祓うことを意味している。
 九州にも同様の習慣があるようだ。
 鹿児島には、結婚式や諸々の祭りの後祝いとしての『イタシキ バレ』があり、手伝い衆を招いて酒宴を催す。種子島、五島列島では『イタシキ バライ」と称する。また奄美大島喜界島でも、大きな祝事の翌日、殊に料理方を中心に催す『イタジキ バレ」という慰労宴がある。それは大分県の一部にもあるそうな。もっとも、九州のそれらは現存しているかどうか、私自身は確かめてはないが・・・・。沖縄本島南部に残る『野払い』と共通するものがある。

 『ヌーバレー・野払れー』
 沖縄本島南部に残る旧盆後、来年の豊作を祈願するとともに、無縁仏をもてなし、あの世に送り出す行事。南城市知念、知名、安座間、佐敷、大里、玉城。八重瀬町具志頭などにみられる。
 旧盆・御送いの翌日16日。午後から村びとは、それぞれの集会所(公民館)に集まり、まずは村の守護神に来年の豊作を祈願。そして、あらかじめ配役しておいた弥勒さま役、獅子舞、棒術、歌三線、組踊などの支度をし、特設舞台への出番を待つ。村びとは弥勒さまと(豊年)(安政)などと墨痕あざやかに染め抜かれた旗頭を先頭に村内を練り歩き、集会所に参集。夜遅くまでの慰労演芸に移る。
 集会所をアシビナー(遊び庭)と称し、到着した道ジュネ―(行列)連は、今度は長者が先頭に加わり遊び庭を逆時計まわりしてから、芸能披露という本格的祭りに入る手順になっているのも面白い。それらの形式は各集落ごと多少の異なりがあるのは言うを待たない。
 行事にはめりはりが肝要。ヌーバレーの場合、舞台披露が終演すると出場者も観客も間を置かず帰宅を急ぐ。居残りは厳禁。それもちゃんと理由がある。浮かれ気分で遊び庭に残ると盆明けのこと、そこいらを徘徊する無縁仏の霊に、あの世へ連れ去られるという。それも長老たちが考え出した生活の知恵ではあるまいか。
 「クァッチーさらー、油断すな」。
 馳走や娯楽を堪能したら、油断しがちであるからして、祭りは祭りとして(めりはり)をつけ、明日からの労働に差し支えないようにとする戒めだろう。

 旧暦七月は古式にもとずく催事が多い。それも対象は神仏。
 本島北部今帰仁村、大宜味村、国頭村では「ウンジャミ」が盆明けの亥の日に執り行われる。

 『ウンジャミ=海神祭』
 ニーガン(根神)と呼ばれる地域の祭祀を司るカミンチュ(神人・神女)が中心になって、海の彼方にあると信じられているニライ・カナイから神々を招き、神々に奉納するカミアシビ(神遊び)という儀式。豊作、豊漁、集落の安寧を願う。ウンジャミは女性が取り仕切る神事で、別に「ウィナグぬWUがみ・女の拝み」の呼名がある。
 人びとの願いをすべて叶えてくれるニライ・カナイの神々を迎えたら、送り届けはしなくてはならない。カミアシビの奉納、祈願が済むとカミンチュ達と村の女性たちは集落の海辺に出て、ニライ・カナイ神をかの国へ送る。その時は男衆も参加して御願バーリーを漕ぐ。女たちは総出で海に腰までつかり、チジン(小鼓)、パーランクー(片面の小鼓)や手を打ち鳴らし、カチャーシー風の即興手振り舞いをして囃し立てるさまは、それは見モノである。
 七月は人びとが神と一体になる月と言えるかも知れない。そして八月十五夜遊びを待つのである。

 ♪待ち兼にてぃ居たる 七月ん済まち なまた八月ぬ十五夜待たな

 歌意=待ち兼ねていた旧盆も無事済ませた。さあ、次は八月の十五夜を楽しみに働こう。


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