旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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模合・ユレー。温泉そして長寿

2013-04-10 01:14:00 | ノンジャンル
 仕事は別として、私的旅行と言えば(温泉)が目的である。
 沖縄には温泉がない。そこで、ないものねだりのひとつ(温泉)に憧れる。北は北海道から福島、石川、新潟。群馬の猿ヶ京・伊香保もよかった。栃木・鬼怒川、長野、神奈川、甲府、和歌山、岡山。九州にいたっては、各県の名湯から英気をもらった。
 旅行資金が豊潤にあるわけではない。20年ほど前から(摸合・ユレーユーレーとも言う)を掛けているから出来る温泉旅行。

 摸合=もあい=は、沖縄だけの言い方だろうか。ユレーは、明らかに沖縄独特で、それに当たる言葉を辞典に拾えば*無尽=無尽講の略=庶民金融の1種。親(発起人)が仲間を作って一定の掛け金を出し、入札、抽選で落札者を決める。室町時代に起こり江戸時代に盛行。頼母子(たのもし)・頼母子講とも言うとある。
 ユレー・ユーレーは「寄り合い」の転語。現在でも、一般に親しまれている相互扶助的な金融の仕組みだ。人数、掛け金によって規模が異なるには言を待たない。小は主に主婦のワタクシ(へそくり)、大は営業、営農資金、改築資金、教育資金に至る。我が模合は、月2万円だから(中)に当たるのだろう。小、中までは模合(ムエーグァー・ユーレーグァー)だが、高額の掛け金になると(グァー)を省いて「ムエー・ユレー」と言う。なかなか堂々たる呼称に昇格する。

 沖縄で(模合)が成されたのは古い。
 尚敬王代の1733年に模合の法が定められ「困窮士族に対する助けとした」と、歴史記録書「球陽」に出ている。士族とは言っても、下級士族の暮らしは楽ではない。中には、わずかな拝領地を豪農に賃貸させ、模合を掛けて備蓄とした士族もいたという。

 さて。
 模合と長寿の関係をご存知か。
 「模合に参加するお年寄りほど健康」という調査結果が、先月19日の沖縄タイムス紙に掲載されている。琉球大学人間科学科の白井こころ准教授(公衆衛生学)が、今帰仁村の高齢者を対象に実施した調査で、模合など人とのつながりの多い人ほど健康状態が良い傾向にあることが分かった。白井准教授は「多くの人と交流することで健康情報が集まり、人とつながることで精神的にも良い影響を与えている可能性がある」と指摘している。
 理解にかたくない。
 我が模合仲間も、掛け金のほかに2千円を出し合い、それはその日の飲み放題、食べ放題、カラオケの歌い放題に充てられる。その合間に、最近の健康法やエライ人批判、色ばなしが自由に飛び交い(解放と自由の天地)と化す。胸に溜まったモヤモヤを吐露するだけでも気分爽快!ストレス解消になる。そして掛け金の2万円は、つとめて手つかずにして積立て(温泉旅行資金)になる寸法だ。

 八重山歌(やいまうた)の歌者大工哲弘の母親ナリさんは、月3千円の模合を掛けていた。
 今どき「3千円の掛け金でどうするの?」
 そう思ったことだが、彼女たちの目的は他にあった。
 「模合は口実なのよ。島の歌の好きな女たちが集まって、ユンタを半日も歌い合うのよ」
 仲間の家庭を持ち回りしてのユンタ会。偶然、大工家でのそれを参観させてもらったが、婆さん、おばさんたちが生き生きとしていること!「なるほど。模合で人とつながり、好きなユンタを歌えば、長生きするはずじゃわい」と、得心がいったものだ。
 我が模合も今月で満期となる。どこの温泉に遊ぼうか。新緑の日本は、どこへ行っても心身が洗われるに違いない。

     ※お知らせ ばん塾12期公演
 日時:2013年4月28日(日)午後6時30分開演
 場所:沖縄市民小劇場 あしびなー
 料金:2,000円
 チケットのお問い合わせ先:(有)キャンパスレコード 098-932-3801
  

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