旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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歌謡曲の中に・自分

2017-09-01 00:10:00 | ノンジャンル
 「歌謡曲と流行歌は、どう異なるのか?」。
 妙な性格で、分からなくてもいいことにこだわったりする。そんな時には暇つぶしに「日本語大辞典」のお世話になる。
 *歌謡曲=演歌を中心とする日本独自の大衆的な歌曲。多くは西洋音階によるが、日本の音楽感覚が折衷されている。
 *流行歌=ある一時期に多くの人々のあいだに伝わり、好んで歌われた歌。
 とある。
 なるほど。同じようでありながら、微妙な異なりがあることに気付く。演歌に分類され、日本独自の大衆的歌曲でも、人々に受け入れられないと流行歌にはなれない理屈だ。
 ボクの中にある歌謡曲は流行歌になり得たか・・・・。大ヒットとは言わないまでも、過ぎた日々が鮮やかに刻み込まれていて、いまによみがえる。

 ◇「こんなベッピン見たことない」唄/神楽坂はん子。
 ♪こんなベッピン見たことない!とかなんとかおっしゃって その手は桑名の蛤よ だけど何だかそわそわするの アラ どうしましょう ホニホニ浮いてきた~
 
 世にいう芸者ソングのひとつである。日本は敗戦国ながら、それからの立ち直りは早かった。流行歌がそれを反映している。戦地からの復員者を待つ「岸壁の母」や夜の女を歌った「星の流れに」が国民の唇に乗る一方、東京では、いち早く料亭が復活。お座敷が華やかになった。進駐軍高官の「お・も・て・な・し」もここでなされ、芸者ガールが注目された。米国に帰還した米兵は、日本という国を「フジヤマ」と「ゲイシャガール」をもって米国中に紹介?したと聞く。この歌は神楽坂はん子も出演して映画化され、沖縄でも昭和27、8年ごろ上映された。が、父兄同伴でなければ劇場、映画館は入場禁止の時代。それゆえ中学生だったボクは同名の映画を鑑賞?仕損ねている。けれども、映画館の屋根に取り付けられたスピーカーから流れる(呼び込み)の同曲から「ベッピン」なる言葉を教わった。美しい女性をそう称するということを・・・・。漢字では{別嬪}と書くことは後で知った。しかも{別嬪}とは、普通のモノではなく、特別誂えの別モノ、別の品・別品が転じた言葉ということを知るのは、さらに後のことである。
 いまでもベッピンは、いないことはないが、アチラ誂えに統一されたベッピンばかりで、個性や素地を活かした美しい女性・別嬪には、滅多にお目にかかれない。これも時代の流れなのだろう。いや、ボクの「美しいないが女性・別嬪」を見る目が鈍っているのだろう。
 歌の文句にある「見たこともないベッピン」を見たいとは思わないか!口説いてみたいとは思わないか!芸者遊びをしたことはないが、1度は酔わせてみたい。

 ◇「テネシーワルツ」唄/江利チエミ。
 アチラのポピュラーが、いわゆる流行歌になったハシリではなかろうか。
 かつて、進んで学習した外国語も国が戦争態勢にはいると、殊に英語は敵国語として使用禁止になった時代がある。それは戦後になっても大人たちの意識に刷り込まれていたらしい。けれども戦後の若者たちは、自由と平和を標榜する(アメリカ世)をすんなり受け入れ、アメリカへの憧れをふくらませていた。それをさらに増加させたのは、アチラの映画や音楽ではなかっただろうか。
 テネシーワルツもそのひとつ。
 テネシーの「シー」を意識的に「スィー」。ワルツを「ウォルツ」なぞと、妙な発音をして、強国アメリカ文化を手に入れたような気になっていた。
 映画を見ればション・デルク、ランドルフ・スコット、ジェームス・キャグニー。そして若手のジョン・ウェインらが、二丁拳銃を腰に、ライフルを片手に荒馬を乗りこなし、アメリカ西部や南部の大草原を駆け、インディアンをやっつける!スクリーンに見るあのスケールの大きさは青少年の血を騒がせるに余りあるものだった。
 現実的には、学校の行き帰りに通る歓楽街のAサインバー(米兵専用)やキャバレーのジュークボックスらは(いまにして思えば)パティー・ペイジが歌うオリジナルの「テネシーワルツ」やアチラもの音楽が昼間から聞こえていた。
 ボクなぞ通学路をいいことに、わざわざ下校時を遅らせ、自由と平和のアメリカを感じ取りに行ったものだ。バー、キャバレーのドアの隙間から中をのぞき、GIたちが口走る英語、それに応えるホステスたちの嬌声に(大人の世界)を実地見学した。
 「ここはアナタたちの来るところではないよ」。
 そう言ってチューインガムをくれた厚化粧のオネーサンもいた。
 テネシーワルツも江利チエミが1枚加わり、いよいよ大開拓地テネシー州は豊かな大地として上原少年の心を憧れが揺すぶってやまなかった。いまでもアメリカと言えばワシントンやニューヨークなぞよりも、テネシーへ馬に乗って行きたい。
 が・・・・。ヨーロッパは幾度か旅しているが、ハワイを除くアメリカへは未だ渡っていない。アメリカは真実「自由と平和」の国でいるだろうか。
 9月。蝉もまだおとなしくしてはくれない。もうちょっと暑さがやわらいだら馴染みのスナックへ行って「こんなペッピンみたことない」と「テネスィーウォルツ」を口づさんでこよう。歌謡曲、流行歌の中にはボク自身がいる。


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