旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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午年の春・大寒む小寒む

2014-01-10 00:10:00 | ノンジャンル
 「兄ちゃん!見て見て!雪ってこんなに積もるんだねッ!ホラッ!雪かきしている。楽しそう。沖縄も雪が降ればいいのにねッ」。
 兄と妹が夕刻のテレビの全国ニュースを見ながら話している。
 「ばかッ。沖縄は南国なのに雪が降るかよッ。霰さえ降らないのに」。
 「あ・ら・れ?あられって何?」。
 「ん・・・・」。
 中学生の兄は小学生の妹の問いかけに窮してしまった。

 雪はもちろん、霰もそうそう降らない。冬が来ても毎年(霰)にお目にかかることなく、70余年生きてきた私自身、霰の降る日の記憶は10日あるかどうか。実際にはそれ以上の日数降ったのかも知れないが、日常的でないのである。霰とは何だろう。あらためて気象用語の手引きを本棚の奥から取り出した。

 霰=雪の結晶に過冷却の水滴がついたもの。
 それだけではもう分からない。「雪の結晶」「過冷却」は、頭では理解できても実感に遠い。(あられ)からは、餅を小さく切って煎ったあとに味付けをした駄菓子しか答えは導き出せないのである。
 霙(みぞれ)にしてからがそうだ。またぞろ辞書に頼れば、
 霙=雪と雨が入り混じって降るもの。また、その状態。氷雨。
 これも実感できない。(みぞれ)は、夏の盛りに汗を入れるに食する「かき氷」しか知らない。かつて埼玉県鴻巣に住む友人宅を訪れた際、霙が降った。締め切ってストーブと炬燵に入った居間の窓を開けて、小皿で霙を受け、砂糖をかけて食したことがある。物珍しさの行為を友人夫婦は笑って済ませたが、子どもたちは「異国人」「変なおじさん」と見て取ったか、妙な表情で来客をうかがっていた。

 霰は日常的には降らないが、琉歌の中には登場する。

 ♪埋ん火ゆ起ち掻ちあさいあさい 霰降る夜や明かしかにてぃ
 <うじゅんびゆ うくち かちあさいあさい あらりふる ゆるや あかしかにてぃ>

 沖縄語では「れ」は、基本的に「り」に変化する。
 歌意=冬の夜も更けて就寝したものの、布団の中もなかなか温まらず、遂には起き出して、火鉢の中に薄く灰を被せて置いた火種・埋れ火を火箸で掻きあさり、火を起こして暖をとる。ああ、陽が昇る夜明けまでこのままでいよう。冬の夜は長い。実に明かしかねる・・・・。

 ♪庭ぬクバぬ葉に 音立てぃてぃ降ゆる 霰伽すゆる 冬ぬ夜半
 <にわぬ クバぬふぁに うとぅたてぃてぃ ふゆる あらりトゥジすゆる ふゆぬやふぁん>

 *クバ=ヤシ科の常緑高木。棕櫚(しゅろ)のこと。多くは熱帯、亜熱帯の樹木。葉は茎が丈夫で大きな扇型。山林に自生。庭園に植栽されるが、現在では南国情緒を演出して街路樹としても用いられる。
 昔から「クバ扇=クバおうじ」と称する夏場の扇や「くば笠」などを作ってきた。葉の根元を覆う茶褐色の繊維は頑丈な縄になる。
 歌意=しんしんと更ける寒い夜。庭のクバの葉にパラパラと音を立てて霰が降っている。語り合う人もなし。その音を唯一の慰めとして夜半を過ごす我が身・・・・。

 さらに狂歌にいわく。

 ♪夏やかまらさる 古刀自ややてぃん 霰降る夜や かなくなゆさ
 
 *かまらさ=鬱陶しい。古刀自=古女房。かなさ=愛おしい
 歌意=夏の夜。傍に寝る古女房は暑苦しく鬱陶しいが、冬の寒い夜の就寝の時には、互いに温もり合って、何とも愛おしくなる。
 「それで9月、10月生まれの子が多いのだ」と決め付けた御仁がいるが、さあ、それはどうか。

 ところで。
 “大寒む小寒む 山から小僧がやってきた”という唱歌があった。
 大寒むは「非常に寒い」と理解できるが「小寒む」とはどんな寒さだろう。にわかに気になったのだが・・・・。大、小を重ねた慣用句は他にもある。殊に「小」は多々。
 *夕焼け小焼け=夕焼けはよしとして、小焼けとは興味深い。
 *小首をかしげる=小首とは首のどの辺りか。
 *小耳にはさむ=真実のほどは知らないが、ちょいとした噂は小耳にはさむ。
 *小鼻を膨らませる=得意気な表情。鼻だけでよさそうだが「小」を付ける。小鼻とは、鼻のどこを指すのか。沖縄語には「鼻ふらちゅん」がある。この場合は得意気を通り越して「非常識に自画自賛をするさま」を言い、あまり歓迎される態度ではない。
 *小股の切れ上がったいい女=足の長いさまを言い当てた言葉のようだが、八頭身なる言葉が出た戦後は、皆が皆とは言わないまでも、小股の切れ上がったいい女が多くなったのは確かなようだ。
 *小言=面と向かって言われる叱責(大言)は、耳に痛くても反省をしながら受けることが出来る。しかし、大したことでもないのにネチネチやられる小言はたまったものではない。
 この正月早々「飲み過ぎ」の小言を古女房にボヤかれている。
 「小賢しいわいッ」と片付けてはいるが、相変わらずの一年を過ごしそうな気配濃厚である。
 はてさて。取り留めのない雑文に過ぎたが、読者諸氏も時には「言葉遊び」を楽しんで戴きたい。

 ※1月中旬の催事。
 *ホエールウォッチング情報
  期間:1月から3月は、ザトウクジラの群れが新しい命を育むため、遠く北の海から暖かい慶良間(ケラマ)諸島の海へやってくる、ホエールウォッチングのベストシーズンです。

 *第36回 本部八重岳桜まつり
  期間: 2014年1月18日(土)~2月2日(日)
  場所:八重岳桜の森公園(本部町)

 *第7回 今帰仁グスク桜まつり
  期間:2014年1月18日(土)~2月2日(日)
  場所:今帰仁城跡(今帰仁村)



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