旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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畳語・重ねことばをたのしもう。パート11

2017-02-01 00:10:00 | ノンジャンル
 ‟迎春で言ちん 真冬にどぅ向かる 三線どぅ弾ちゅる 風邪や引くな”
 〈げいしゅうで いちん まふゆにどぅ んかる サンシンどぅ ふぃちゅる カジふぃくな

 そんな狂歌を詠んでみた。
 (繁華街、商店街の看板やテレビ、新聞、チラシなどには、まだ‟迎春”の2文字が見え、もう‟春”を手に入れたような振る舞いだが、どうしてどうして時候は真冬に向かっているのだ。恒例のようにインフルエンザが徘徊して風邪引きさん多々。三線は弾いても風邪は引くな)というお奨めである。
 土曜日、日曜日の夕刻、日頃の運動不足を補うために家の近辺を小1時間散策している。と、この2週間ほど前から、通りすがりの家から三線の音が決まって聞こえる。仕事がら三線の音に敏感なボクは‟歩き”を止め、呼吸を整えて、しばし聞き入る。節は「かぢゃでぃ風」だ。
 頬や鼻の先のこわばりとは裏腹に、温かい気分になる。ついついボクも口三線で伴奏してみるのだが、初心者らしく(ひっかかい むっかかい=ひっかかりが多いさま。ミスが多いこと)で、かぢゃでぃ風は前に進まない。声のほどからして30歳がらみの女性・・・・。
 「稽古を始めて1年?ほどかな。チンダミ(調弦)は甘く、絃を押さえる左指の押すチブ(ポジション)が微妙にズレているな。ドンマイ!ドンマイ!生まれながらの名人はいない。お続けなさい。楽しみなさい」。
 心の中で、エールを送り、その場を離れる。ウォーキングのせいばかりではなく、身も心もすっかりホンワカしている。

 さて。八重山石垣の畳語・重ねことばを楽しもう。

 ◇ざん はんたり
 *肥満体系。そのさま。本島語には(ぶってー ふぃってー)(ぶってー まんてー)がある。
 我が家にも(ざん はんたり)が1人いる。それが幼少から歌三線をよくし、歌者と称されている。舞台公演、テレビ出演のオファーがあると、数日前から厚着をし、さらに通風性のないパーカーに身を包み、ただでさえ丸い身をさらに着ぶくれさせて、近所にある運動公園に出掛けるのを慣例としている。帰ってくると汗を流し、次に取る行動は、顔面にローラーを掛けることである。他所さまに見られるという意識が、涙ぐましい努力を強いるのだろうが普段(ざん はんたり)と同居している者には、いささか得心がいかない。

 ◇よーがり かーがり
 *異常に痩せているさま、本島では(よーがり ふぃーがり。よーがり ひーがり)という。病後の(よーがり かーがり)は、1日も早く健康的な(ざん はんたり)を復活させたほうがいい。肥満、痩身はDNAによるとも言われるが、努力でコントロールできないものではなさそうだ。
 この「畳語・重ねことば」を採取した歌者大工哲弘と行くスナック、おでん屋のママ、女将は大抵(よーがり かーがり)している。痩身好みなのである。肥満女を前にして飲むと眠気が襲うそうな。事実、彼の妻女苗子は、最盛期の体重を12キロ落としている。奥村チヨよろしく‟あなた好みの女になりたい~”一心からだ。夫婦相和し。

 ◇ぶるっかい ぴぎっかい
 *幾度も行きつ戻りつするさま。同じ行動を繰り返すさま。
 沖縄の俗語に「師走ぬ女や 道端ぬ草ん 踏ん枯らすん=シワーシぬウィナグ(ヰナグ)や みちばたぬクサん くんからすん」がある。
 正月を間近に控えた殊に主婦は、お供えものや馳走の食材をあがなうのにマチ(市場)と自宅を(ぶるっかい ぴぎっかい)する。そのさまは往復の草を踏み枯らすほどの多忙を言い当てている。
 師走中旬にもなると正月用品が出回る。それをいち早く購入するのは金持ち連。そうでない庶民は、ぎりぎりまで購入を控える。大晦日が迫ると品々はディスカウントセールにかけられるからだ。商人もまた、売り尽くさなければ、いい正月が迎えられない。そこに売り買いの駆け引きがある訳だが、1銭でも2銭でも安価になるのを待つ。こうした(ぶるっかい ぴぎっかい)には、主婦のやりくりの知恵が見えて、なんとも逞しい。

 さて、今日も散歩に出掛けるか。
 件の三線は「かぢゃでぃ風」を奏でているだろうか。
 3月4日。RBCiラジオ主催・第25回「ゆかる日まさる日さんしんの日」に間に合うだろうか。
 「さんしんの日」には、正午の時報を合図に沖縄中に三線が一斉に「かぢゃでぃ風」を奏でる。おそらく、件の女性もそれを目標にしての稽古だろう。
 チンダミはちゃんとできるようになっているだろうか。押いチブは修正されているだろうか。急がなくてもいい。3月4日は毎年やってくるのだから。因みに当日の生放送は午前11時45分から午後9時まで。毎時報ごとに「かぢゃでぃ風」を演奏。古典音楽、島うたを網羅した9時間15分の構成。海外、県外を結んでの一大イベントだが、主会場は読谷村立文化センター鳳ホール。

 外へ出る。さすがに寒い。けれども15分も行けば彼女の「かぢゃでぃ風」が、温もりをくれる。「きっちゃき ひぃちゃき=つまずくこと。そのさま」をしないように、さあ、急ごう。

「ゆかる日まさる日さんしんの日」
   

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