トシの読書日記

読書備忘録

死にたくない!

2016-01-20 04:07:24 | ま行の作家


三島由紀夫「命売ります」読了



新聞の広告で「今、話題沸騰中!」のコピーに乗せられて買ってみました。平成10年にちくま文庫より発刊されたものです。


いや、驚きました。あの三島由紀夫がこんなエンタメを書くんですね。しかも読み始めたら止まらない、一気呵成に読んでしまいました。昭和43年に「プレイボーイ」誌に掲載されたとのことです。

しかし、エンタメとはいえ、三島の死生観のようなものを次のような一文から知ることができます。


<羽仁男(主人公)の考えは、すべてを無意味からはじめて、その上で意味づけの自由に生きるという考えだった。そのためには、決して決して、意味ある行動からはじめてはならなかった。まず意味ある行動からはじめて、挫折したり、絶望したりして、無意味に直面するという人間は、ただのセンチメンタリストだった。命の惜しい奴らだった。戸棚をあければ、そこにすでに、堆(うずたか)い汚れ物と一緒に、無意味が鎮座していることが明らかなとき、人はどうして、無意味を探求したり、無意味を生活したりする必要があるだろう。>


「命売ります」という広告を新聞に載せ、次から次に現れる依頼人から思わぬ金を受け取り、得意になっていた前半から、後半に入るとやはり人間の悲しい性、皮肉にも命が惜しくなるわけですね。敵のアジトに閉じ込められ、命からがら逃げ出して交番に駆け込むというオチは情けなくて笑わせられました。


なかなかよくできた小説でありました。