トシの読書日記

読書備忘録

小説読み方指南

2012-07-17 16:06:26 | あ行の作家
阿部公彦「小説的思考のススメ」読了



紀伊國屋書店がやっているサイトで、「書評空間」というのがありまして、各界のお歴々がそれこそ種々雑多な本を取り上げては書評をしているんですが、阿部公彦(あべ・まさひこ)という東大文学部の准教授がその中に名を連ねているわけです。またこの人の書評が他の人達とは一味も二味も違う視点で、めっぽう面白く、ちょいちょいチェックしているんですが、なんと!その阿部先生が本を書いたというので、早速買って読んでみたと、こういうわけであります。


本書は、小説には読み方がある。その勘所をしっかり押さえて読んでいけば、小説というものは、かくも楽しく、また読む者にとってこれほど知的な興奮を促すものはないと。その「勘所」が小説的思考であると、こうおっしゃるわけです。


それで、古今の日本の小説から11人の作家を選んで、この小説はこう読め、と指南をしてくれています。取り上げる作家は、太宰治、夏目漱石、辻原登、よしもとばなな、絲山秋子、吉田修一、志賀直哉、佐伯一麦、大江健三郎、古井由吉、小島信夫の各氏です。この中で、自分はが全く読んでいないのは古井由吉のみで、あとの作家は少なくても2~3作品くらいは読んでいるので、興味津々でページをめくったのです。


しかしすごいですね。この細かい読み方。それを書いた作家がこれを読んだら、作家冥利に尽きると感嘆の声をもらすだろうなぁと余計なことまで考えてしまうくらい、一つの作品を微に入り細にわたってそれこそ一字一句のその言葉の裏を読み、そこで作者は何を読者に思わせようとしているのかという、分析。ため息が出ました。


自分は、到底こんな読み方はできませんが、しかしここに書いてあることを踏まえてもう一度その小説を読み直してみようとは思いました。特に夏目漱石の「明暗」、小島信夫の「抱擁家族」。いずれ再読してみるつもりです。