Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

まろやかで深く

2020年07月24日 | 映画など

阪本順治監督「一度も撃ってません」を見る。

時はすでに2020年。

日本映画界には、

松田優作もいないし、原田芳雄もいない。

だが、しかし。石橋蓮司がいるではないか。

こうして19年振りの主演作がつくられたのは、

かつて松田優作の遊戯シリーズや角川映画、

原田芳雄のアウトロー映画に

胸をときめかせたシネフィルたちへのプレゼントだと思いたい。

じっくり熟成させたワインのような、

日本のハードボイルド映画の到達点で、円熟の極み。

 

 

石橋さん。

佇まいが絵になる、というか。

この人がサングラスにハット、

トレンチコート姿というだけで映画になる。

そんな石橋さんが演じるのは、売れないハードボイルド作家。

夜な夜な街を徘徊しては、小説のネタを仕入れ、

全共闘世代の仲間で、

いまはヤクザな弁護士(岸部一徳)から、殺しを請け負い、

自分の手は汚さず、武器マニアの青年(妻夫木聡)に丸投げするという。

怪しいけれど、思い切りヘタレなジジイという役どころ。

そんな石橋さんが、ヤクザに目をつけられ、

これまで銃なんかいちども撃ったことがないのに、

ついに戦うことになってしまいそうになる物語に、

思わず笑いつつも、サスペンスフルな展開が飽きさせない。

 

昔ちょっと売れた歌手を演じる桃井かおりが素晴らしい。

岸部一徳もふくめ、みんな革命を目指して挫折した人たちであり、

老齢になっても、何かに抗おうとする姿がカッコいい。

 

かつて若松孝二監督が90年に、

原田芳雄と桃井かおり主演で撮った

「われに撃つ用意あり」という映画があった。

全共闘くずれのアウトローが、

自分に落とし前をつけるために戦う原田芳雄は

時代に遅れてはいたけれど、まぎれもないヒーローだった。

あの映画では石橋さんは、原田芳雄の古い友人役で、

アル中で野球狂のおっさんを演じていた。

ヤクザにあっけなく殺される役どころだったけど、

あのおっさんが実は死んでおらず、

なんとかごまかしながら生きながらえてきたのだけど、

いよいよ落とし前をつける番がやってきたのが今回の主演作なのだろう。

「われに撃つ用意」なんか全然ないのに。

 

相変わらず名台詞が連発する丸山昇一の脚本と、

阪本順治監督のムーディかつコミカルな演出も効いている。

石橋さんが78歳にして、

ついに日本のハードボイルド映画の頂点に立ったわけで、

まずはお祝いしたいところ。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 慰みの報酬 | トップ | 不審者のにやけ顔 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画など」カテゴリの最新記事