ポール・オースター
「ブルックリン・フォリーズ」(新潮文庫)を読む。
かつてこの著者の「幽霊たち」
「孤独の発明」などを読んでいたとはいえ、
それほどのファンではないと思っていたのに、
訃報を知り、意外なほど落胆している自分がいたという。
追悼の意を込めて読んだ本書は、
厳しくも慈愛に満ちた人情噺でほっこり。
本書は「私は静かに死ねる場所を探していた」
で始まり「私は幸福だったのだ」で終わる。
主人公は還暦を迎えつつあるネイサン。
保険外交員だった職を辞め、妻と離婚した
この初老の男が、ブルックリンの古本屋で働いている
甥のトムと再会してから、人生が新たに動き出す。
インテリだが人生につまづいているトムを始め、
古本屋のオーナーで前科のあるハリーや
歌手でジャンキー、そして新興宗教の夫に
幽閉されているトムの妹ローリー。そこから
一人逃げてきた娘のルーシーなど、
年齢や置かれた状況はさまざまだけど、
人生が崖っぷちな人たちが、ネイサンの回りに集まり、
少しずつ人生をやり直していく。輪の力というか
共同体が持つ癒やしの力というか。
最年少のルーシーがキーパーソンだ。
ひたすら無口なこの女の子が、
ダメダメな大人たちを信頼し、
人生をやり直そうとする彼ら彼女らの
背中を押し続けることで、次第に口を開くようになる。
ネイサンも冴えない男なのだけど、
基本的に善良なのがいいのかな。あたふたしながらも、
なんとか事態を好転させようと動く。停滞しないところも、いい。
訳者の柴田元幸の解説によると、
オースターの著作のなかでもとびきり楽天的であるという。
2002年の「幻影の書」から
自分の人生が何らかの形で終わってしまったと
感じている男の物語が5作続いているといい、
本作はその3作目にあたるらしい。
人生が何らかの形で終わってる自分には、
ぴったりのシリーズではないか、ってほっとかんかい、あん?
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます