スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

カトリック批判&反復

2024-06-26 19:07:39 | 歌・小説
 『生き抜くためのドストエフスキー入門』の第二章は『白痴』です。『白痴』ではムイシュキン公爵がカトリックのことを激しく批判する場面があります。なぜムイシュキンがカトリックを批判しなければならなかったのかということを,佐藤が詳しく解説しています。
                                        
 『白痴』のムイシュキンによるカトリック批判の要旨は,カトリックは無神論よりも悪いというものです。そしてその理由としてムイシュキンがあげているのは,無神論はただ無を説くだけだけれども.カトリックは歪められた神を説くからだというものです。ムイシュキンによればローマカトリックは信仰ですらなく,西ローマ帝国の継続にすぎず,そのゆえに民衆の大部分は信仰を失い始めています。佐藤が説明しているのは,なぜムイシュキンがこのような仕方でカトリックを批判するのかという点です。
 佐藤はその理由を,ローマカトリックとロシア正教における神と人の関係の捉え方の相違にあるとしています。ごく簡単にいうと,ローマカトリックにおける救済というのは神から人間に対する一方的な恩寵であり,この恩寵はイエスを通して神から人間へと降りてきます。これに対してロシア正教では,人間が神になるということが究極の目標とされます。つまり現実的に存在する一人ひとりの人間がすべて神になることができるということが,ロシア正教の中心的な教義なのです。
 ここでムイシュキンが,ローマカトリックが西ローマ帝国の継続にすぎないといっている点も重要です。西ローマ帝国を継続しているのは,カトリックだけでなくプロテスタントも同様であるというようにロシア正教からはみえるからです。この部分ではムイシュキンはロシア正教をロシアの国家宗教とみていて,ロシアと一体化させています。この路線でいえばロシアは西ローマ帝国の継続ではなく,東ローマ帝国,ビザンチン帝国の後継帝国で,キリスト教的東洋なのです。つまりここには西洋と東洋の対立が含まれていて,この対立は現在まで続いているといえるでしょう。

 ホッブズThomas Hobbesの理論では,自然状態status naturalisは万人の万人に対する闘争状態であるから,その状態を回避するために,万人が自然権jus naturaeを放棄することによって社会契約を結ぶということになっています。したがってこの契約pactumは一回性のものであることになります。しかし,そのような社会契約が本当に存在したのかという疑問や,自然状態において万人がそのような契約を締結するのが可能なのかという疑問は出てきます。僕はそもそも自然状態などというものが存在しなかったと考えますから,ホッブズの理論が有益であるとすれば,社会societasの成立を理念的に説明するのに役立つというように解しますから,このような疑問を呈したりはしませんが,もしもホッブズの理論が,現実的に存在する社会の成立をそのまま説明するものであると解すれば,その社会契約論がこのような批判にさらされることになるのはごく当然のことだとは思います。
 このような批判が出てくるのは,そもそも自然権を放棄するということが不可能なのに,それを可能なものと前提しているからだというのは,ひとつの見解opinioとして出てくるでしょう。スピノザの国家論はその観点からホッブズの国家論を修正したものだといえます。このためにそこでは,ホッブズの社会契約が一回性のものであるのに対し,スピノザの社会契約はいわば反復されるものとして提示されることになります。つまり何らかの社会契約が締結されているということが,現にその社会契約が履行されているということによって保証されるというようになっています。そしてこのようにすれば,少なくともその社会契約を履行している人びとが,その社会契約を締結している集団,たとえば国家Imperiumの中で生きているという現実を説明することができるでしょう。少なくともホッブズの社会契約論は,集団たとえば国家の始原となるような,絶対的な起源の説明でしかないのに対し,スピノザが引き継いだ社会契約論が,そのようなもの,國分のことばを借りれば,神話的なものとなっていないことは理解できると思います。
 ただし,このような仕方で社会契約の理論を引き継いだとしても,なお解決しなければならない問題は確実に残ってしまうのです。

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