スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

生き抜くためのドストエフスキー入門&偶然と空虚

2024-03-09 18:57:54 | 歌・小説
 先月のことになりますが佐藤優の『生き抜くためのドストエフスキー入門』という本を読み終えました。前々から佐藤優が書いたものを読みたいと思っていましたので,とりあえず簡単に読めそうで価格も手頃なこの本を選択しました。2021年11月1日に新潮文庫から発行されたものです。佐藤は同年の6月に,新潮社で3回に分けて講座を行いました。この本はその講座の内容を文章化したものです。そのまま文章化していますので,どちらかといえば話しことばに近い内容で書かれています。
                                        
 本の内容は題名からおおよその類推ができます。特徴はふたつあって,ひとつはドストエフスキー入門といわれているように,入門書的な内容であるということです。これはおそらく元が講座であったためで,ドストエフスキーに詳しくない人にも分かるような内容でなければなかったからでしょう。もうひとつが,生き抜くための,とあるように,この本は文芸評論であるよりは,実用書的な内容をもっています。少なくとも佐藤はそれを目指しているといっていいでしょう。なお,この題名自体は講座の名称とは異なっていて,講座は21世紀に長編小説を読む意味という副題で行われました。ただその講座の時点で佐藤が実用的な内容を目指していたのは間違いありません。これもおそらくそれが講座であったからで,講座であるからにはそうした内容を持たせた方が,受講者の関心を高めるだろうと佐藤が考えたからだと思います。
 あとがきで佐藤は自身がドストエフスキーを読むとき,3つの利点をもっているといっています。第一に基礎教育がキリスト教神学であったという点です。第二に外交官としてモスクワで7年8ヶ月の生活を送ったことです。そして第三に,自身が所属する国家の暴力性と温かさの両方を身にもって知っているという点です。最初の2点はドストエフスキーの小説を理解するために役立ち,第三の点はドストエフスキーと佐藤の人生における共通点です。確かにこの3点を有する人間は稀で,佐藤にとって有利に働いていると思います。

 國分はこの部分でふたりの思想家の名前をあげています。ひとりは古代ローマの末期の哲学者のボエティウスAnicius Manlius Torquatus Severinus Boethiusです。そしてもうひとりが中世の神学者であるトマス・アクィナスThomas Aquinasです。僕はアクィナスの方は知っていましたが,ボエティウスの方は知りませんでした。またアクィナスの方も知っているというだけであって,思想の詳しい内容を知っているわけではありません。なのでこれから示すことは,國分がそのようにいっているということであって,僕がそれについて確証を得ているわけではないということを前もっていっておきます。
 國分によれが,このふたりは偶然というのを,複数の異なった系列の因果関係の出会いとして規定しています。したがって,自然Naturaのうちに偶然が生じるためには,現にそれらの間では連絡が生じない複数の因果関係の系列が存在するのでなければならないことになります。それが可能になるための条件が,真空vacuumすなわち空虚vacuumが存在することであると國分はいいます。ここのところは,ボエティウスやアクィナスがそのようにいっていると國分がいっているというようには僕には解せないので,國分がそのようにいうと僕はいいます。ただ,ボエティウスなりアクィナスなりが,直接的にそのような主張をしているという可能性を否定するものではありません。
 AとBが真空すなわち空虚で隔てられているというのは,AとBの間に何らかの関係が存在しないということを意味します。これは真空すなわち空虚をここでどのように規定しているのかということから自明です。したがって,真空すなわち空虚を否定するnegareということと,必然性necessitasを肯定するaffirmareということは,一貫した立場であることになるでしょう。空虚が存在しなければ偶然が発生する余地はなく,すべては必然的necessariusであるということになるからです。だからスピノザはそもそも自然には偶然は存在していないという意味でも偶然を否定しているのだと國分はいいます。この結論に関しては僕も一致しているということは,すでに述べた通りです。
 國分は空虚の否定を物理学,必然性の肯定を哲学として,スピノザの物理学とスピノザの哲学は一貫しているというようにいっています。

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