スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

『エチカ』岩波文庫版&証明からの確定事項

2017-07-30 19:31:40 | 哲学
 岩波文庫版の『エチカ』は上下二巻でセットです。上巻が第一部から第三部までで,下巻が第四部と第五部になっています。上巻の冒頭に訳者である畠中尚志による『エチカ』についてという解説めいたものがあり,下巻の最後には索引が添えられています。
 これが最初に発行されたのは1951年の秋,第1刷は上巻が9月5日,下巻が10月25日のことでした。僕はこの版は所有していませんし,目にしたことすらありません。
 1975年の新春から春にかけて,改版が発行されました。上巻が1月16日,下巻は3月17日のことです。この改版の理由は,その改版自体の中で畠中自身が述べています。ひとつは紙型が傷んでしまったことであり,もうひとつは文語調の個所を改め,新かなを用いるためでした。紙型が傷んだという事実から分かるように,『エチカ』は改刷されていました。上巻は第19刷,下巻は第18刷での改版でした。
 僕がこのブログを開始したのは2006年3月で,使用する『エチカ』としてこの版を示しました。つまり僕が所有していたのはこの版です。改版も増刷はされていて,僕が所有していたのは上巻が1991年5月10日の第33刷,下巻は1990年7月5日の第30刷です。これは僕が『エチカ』を初めて読んだのがそれくらいの時期であったということも意味します。
                                   
 その後,『エチカ』はまた改版されました。畠中は1980年に鬼籍に入っているので畠中による理由の説明はありませんが,紙型がまた傷んだのかもしれません。そしてこれを機に文字が大きくなりました。改版の日は上下巻とも同じで2011年12月8日。上巻の第56刷,下巻の第51冊以降はこの版になっています。
 僕は最近になってこの改版は入手しました。上巻は2017年2月6日の第61刷,下巻は2016年7月5日の第55刷です。文字が大きくなった分,ページ数が増えています。このことが僕のブログにやや不都合を生じさせていることにようやく気付いたのです。

 第五部定理一五証明から確定できる事柄がいくつかあります。
 この証明Demonstratioは第五部定理一四を援用します。そして第五部定理一四証明第五部定理四を援用します。第五部定理四で明瞭判然たる概念といわれるのは共通概念notiones communesです。したがって第五部定理一五で自己ならびに自己の感情affectusを明瞭判然と認識するといわれる場合にも,共通概念を通した十全な思惟の様態cogitandi modiが含まれていると解しておくのが妥当です。第三部定理五三で判然といわれるときは,明らかに表象像imago,すなわち混乱した観念idea inadaequataが意味されているのですが,この定理Propositioはたとえそれが十全に認識される場合にも成立することをスピノザは認めていると解さないと,一連の証明の流れは不成立となるおそれが生じます。ですからそのことが意味されていると僕は解します。すでに説明したように,一般に十全な観念idea adaequataは混乱した観念より明瞭判然としていること,ならびに,たとえばAを最も明瞭判然と認識するということはAを十全に認識するということですから,このことが成立しているということを否定する必要はないと僕は考えます。
 次に,第三部諸感情の定義六により,愛は外部の原因の観念を伴った喜びLaetitia, concomitante idea causae externaeです。このことは第五部定理一四に訴えられているので,第五部定理一四そのものに因果関係が含まれていると解する必要があります。これもすでにいったように,第五部定理一四の論証で援用される第一部定理一五は,因果関係を捨象しては考えられない定理なので,僕はこのこと自体には何の問題もないとみます。ただ,第五部定理一四の文言自体は,単に神の観念に関係させることができるといわれていて,因果関係が明晰になっていません。これは原因としての神と関連させることができるという意味に把握しておくのがよいでしょう。
 最後に,第五部定理一五証明が第五部定理一四を援用するとき,第三部定理五三に示されている喜びlaetitiaが必然的に原因としての神の観念を伴っていなければならないようになっています。つまり第五部定理一四は,それができるということではなく,必然的にそうしているという意味であるべきだと思われます。これは僕が解するその定理の意味に合致しています。

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