スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

漱石の聖書&ヒント

2013-04-23 19:10:53 | 歌・小説
 漱石が留学のために渡英するための船中で,熊本時代に出会ったノットと偶然に再会したことについては,僕は船中から妻に宛てた書簡の方で先に知りましたが,高木文雄も『漱石の道程』で触れています。それによれば漱石はこの夫人については一切の悪口を残していないばかりか,最上級の夫人であるという主旨の賛辞を連ねているそうです。そしてこの船中で,ノットは漱石に聖書を与えたとのこと。今は知りませんが,高木がこれを記した当時,その聖書は東北大学内に保管されていたようで,相当数のアンダーラインや書き込みがあったとのことです。もちろんそれは漱石自身の手によるものと考えられなければなりません。この聖書を漱石が受け取った日というのがはっきりと特定されていて,1900年の10月10日のこと。したがってこれ以降,漱石がこの聖書を熱心に読んだということは疑い得ないところです。
                         
 船中ではおそらく時間を持て余すようなこともあった筈で,この聖書を読むということがあったかもしれません。ただ,それだけの書き込みがあるなら,それは船中だけでなされたものでないということは明らかだろうと思います。そもそも東北大学に保管されていたということは,漱石は帰国時には持ち帰ったということになりますから,帰国後の書き込みが含まれていると考えることも可能です。
 高木も同じような見方をしていて,帰国後の『文学論』の講義を作るときにもなされたかもしれないといっています。書き込みやラインが多い箇所は「創世記」「ヨブ記」「マタイ福音書」の3か所だそう。前のふたつは旧約で,福音書は新約ですから,この聖書は両方が含まれていたことになります。多くラインが引かれているのはeagleという単語で12か所。そのうち4か所はwingsという単語も伴っているというように,高木の調査は実に丹念なものです。
 キリスト教への宗教観については別にして,少なくとも漱石がかなり真剣に聖書を読んだのだということは,疑うことができない事実であるといっていいでしょう。

 疑問に答えることに僕が禁欲という立場を堅持するべきであるとしても,疑問を疑問のままで放置しておくというわけにはいかないということは当然です。ただ,ではこれにどのような解決手段を選択するのかということは後回しにすることにして,すでに今回の考察の主旨との関連だけでいえば,判然とした事柄がいくつか浮かび上がっていますから,それを先にまとめておき,今後の考察のために役立てるということにしておきましょう。
 第一部定理二六証明の①の部分は,もしもある事物が作用に決定されるといわれるのであれば,この決定というのは積極的なものでなければならないということを明示しています。このこと自体はこの証明に関する疑問のひとつを構成しているわけなのですが,今はそのことは無視することとすれば,少なくともスピノザが,ある事物がほかの事物を何らかの作用に決定するとすれば,それは積極的なものとして理解されるべきである,あるいはそのように理解されなければならないと認識しているであろうということは,間違いがないといっていいと思います。考察の主題はあくまでもスピノザの哲学においてある事柄が積極的であるといわれる場合の意味に関係するのですから,スピノザがたとえば何を積極的であると認識しているのかということを理解することは,その考察にとって最も大事な点であるといって差し支えありません。いい換えれば,この部分には,その最も大事な点が言及されていると理解できるわけです。もちろん,おそらくスピノザは,このことだけを積極的ということばで表現するわけではないと思われますから,これを解決すれば考察の主題のすべてが解決されるということにはならないかもしれません。しかし,ここに考察の主題に大きく関係するようなヒントが含まれているということは,間違いないということになるでしょう。
 ただし,ここでは,何が積極的であるといわれているのかは,ふたつの仕方で解釈することが可能です。すなわち論証のこの部分は,ある事物を作用に決定するというとき,その決定という行為自体についてそれは積極的であると表明していると解釈することができます。しかし一方では,その決定を行う主体に関して,それは積極的であると表明していると解釈することも可能だといえるでしょう。

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