スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

ニーチェとゲーテ&別の論証

2014-07-08 19:16:02 | 哲学
 『偶像の黄昏』の「ある反時代的人間の逍遥」の最後,四八の終りから五一にかけて,ニーチェはゲーテに言及しています。そこでゲーテはニーチェによって,ドイツの事件ではなくヨーロッパの事件であると評され,ニーチェ自身が畏敬の念を抱いている最後のドイツ人であるといわれています。ニーチェにとってゲーテとは,ルネッサンスの自然性へ向うことによって18世紀を超克しようとした思想的な試みでした。
                         
 ニーチェは処女作である『悲劇の誕生』でも,何度となくゲーテに言及しています。その文脈もすべてゲーテを肯定的に評価するものです。ニーチェのゲーテに対する態度は,終始一貫していたといっていいでしょう。
                         
 ゲーテの作品のうち,僕がきちんと読んだといえるのは,『若きウェルテルの悩み』だけです。代表作はおそらく『ファウスト』。一般的にはゲーテはそうした作家として規定されているかもしれませんが,ニーチェは思想家としてゲーテを評価していることになります。そしてゲーテが思想家であったということは,少なくともゲーテの一面として,否定することができない事実であると思われます。
 どのように規定するにせよ,ゲーテがスピノザを好んでいたということは,あまり知られていないかもしれません。ゲーテの書斎,執筆をする机の前の本棚には『エチカ』があり,ゲーテは事あるごとにそれを読み返していたと伝えられています。ゲーテを思想家とみなすとき,スピノザとの親和性を抜きに評価することはできないといえます。
 ニーチェ自身もそのことはよく知っていました。ニーチェはゲーテが自身の思想を形成する際に援用した要素として,『偶像の黄昏』ではよっつを示しています。まず歴史,そして自然科学,さらに古代,最後にスピノザです。ほかのみっつと比べたとき,スピノザだけが異質な,あるいは特別なものであることが分かります。
 基本的にニーチェにとって,ゲーテとスピノザはひとつの対になるような組合わせでした。『偶像の黄昏』の時点ではニーチェはスピノザには否定的であったといえますが,それでもスピノザの名前だけは出さざるを得なかったということでしょう。

 スピノザの哲学の無限と有限の関係の結論は,別の考え方からも導出可能です。ここまでの論証と齟齬を来すことになりますが,有限であるものは無限ではないというテーゼが偽の命題であるということ,いい換えれば有限であるものは無限であるというテーゼは真の命題であるということ,よって限定と否定の関係から,無限であるものと有限であるものの間に,本来あるべきであると思われる関係を結果的に導き出すことができるということ,つまり結論だけは同じですので,参考までにこの別の訴訟過程についても示しておくことにします。もちろんただ結論が一致するからという理由だけが,わざわざ齟齬を生じさせる別の論証を示す理由ではありません。これから示す論証過程も,それなりの有力性をもっていると僕は考えています。
 第一部定理二二第一部定理二三では,必然的にかつ無限に存在する様態的変状様態化した神の属性と,スピノザはいっています。ふたつの定理の文言に,部分的な相違はありますが,基本的に同一であるという点には,反論の余地がないものと僕は考えます。ここで必然的といわれているのは,必然の第一のタイプであり,永遠なといい換えることができます。そしてこれが具体的に示しているのは,直接無限様態のことです。この様態的変状を直接無限様態と解することにも,反論の余地はない筈です。
 第一部定理二八証明では,神の属性が定まった存在を有する有限な様態的変状に様態化するといわれています。ここでいわれている様態的変状が個物res singularisでなければならないことは明白です。ここでは様態的変状は有限なと形容されています。『エチカ』では有限様態がres singularisといわれるのだからです。
 第二部定理一〇系で様態的変状という語句が用いられるとき,これが人間の本性を示しているということは,系全体の文章から間違いないところです。したがって,たとえば岩波文庫版117ページの第二部自然学②要請一第二部定義七から,ここでもres singularisについて,様態的変状といわれていることになります。

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