スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

読売と朝日&同様の仕方

2024-02-15 19:04:25 | 歌・小説
 『なぜ漱石は終わらないのか』のⅡ章で,漱石の朝日新聞入社の経緯について触れられています。漱石は先に読売新聞から入社を誘われ,それを断ってから朝日新聞への入社の依頼を受け,それに応じました。僕はこのことについて,読売新聞が提示してきた条件は漱石には受け入れることができず,朝日新聞は漱石が満足することができる条件を提示したのでそれを受けたというように解釈してきました。しかしこの部分ではこのことが,それとは別の文脈において説明されていますので,ここでも簡単に紹介しておきましょう。
                                        
 ひとつは,朝日新聞の主筆であった池辺三山との関係です。池辺が漱石に注目したのは,漱石が知的商品になり得るからだったと小森はいっています。そして漱石はそういった注目のされ方に心を動かされたのではないかという見方です。漱石と池辺との間にある特別な信頼関係があったのは間違いありません。というのは,後に池辺は朝日新聞を退社することになるのですが,そのときに池辺に誘われて朝日新聞に入社した自分は残ってのよいかという主旨の,事実上の進退伺を漱石は提出しているからです。この場合,たとえば池辺が朝日新聞ではなく読売新聞の主筆であったら,漱石は朝日新聞ではなく読売新聞に入社していたであろうということになります。
 もうひとつ,読売新聞は尾崎紅葉を中心とした硯友社という文学結社系であったという点があげられています。漱石は硯友社の小説には批判的で,たとえば『草枕』では『金色夜叉』を批判しています。この当時の漱石は自身が写生文派の小説家であると自認していて,硯友社系の小説が掲載される読売新聞には入社したくないという気持ちがあったのではないかとのことです。この場合は,当時の読売新聞が,現に硯友社系の小説家を抱えていた新聞社であった以上,漱石はどのような条件を提示されようと読売新聞に入社することがなかったということになるでしょう。
 どの見方が正しくてどれが誤っているということではないと思います。それぞれの状況が輻輳して,漱石は朝日新聞への入社を決断したということなのでしょう。

 ある観念ideaとその観念を観念対象ideatumとする観念の観念idea ideaeは,平行論における同一個体の関係を有します。なのでここでの説明は,やや厳密さを欠くことになります。ある知性intellectusの本性essentiaを構成する限りでの神Deusと,ある知性を観念対象とした観念の本性を構成する限りでの神は,必ずしも同一の神であるということはできないからです。ただ,たとえばある人間の身体humanum corpusとその身体の観念であるその人間の精神mens humanaは,同一個体であるから,ある人間の身体の本性を構成する限りでの神とその人間の精神の本性を構成する限りでの神というのは異なった神であるという場合ほどの差異はありません。なぜなら,これらふたつの神は,前者が神の延長の属性Extensionis attributumを指すのに対して後者が延長の属性を観念対象とする神の思惟の属性Cogitationis attributumを指しますから,実在的にrealiter区別されなければなりません。しかしある人間の精神の本性を構成する神とその人間の精神の観念の本性を構成する限りでの神は,同じように思惟の属性を意味することになるので,身体と精神が実在的に区別されるというのと同じ意味で実在的に区別されるという必要はありません。これは,人間の身体と人間の精神は同一の秩序ordoおよび連結connexioで発生するとしても,前者が延長の属性における秩序および連結で説明されなければならないのに対し,後者は思惟の属性における秩序および連結で説明されなければならないという点に留意すれば,容易に理解することができるでしょう。ある人間の精神とその人間の精神の観念は,同一の秩序および連結で発生しますが,それらはどちらも思惟の属性における秩序および連結で説明することが可能だからです。だからスピノザは第二部定理二〇で,これらが同様の仕方で神の中に生じ,同様の仕方で神に帰せられるといっているのです。
 このことから,もしも現実的に存在するAという人間の知性のうちにXの観念があるのであれば,Aの知性のうちにはXの観念の観念もまたあるということが帰結します。ある人間の知性とその人間の知性の観念が同様の仕方で神の中に生じ,同様の仕方で神に帰せられるのであれば,それはこの条件の下でXの観念とXの観念の観念の間にも適用されなければならないからです。
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