スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

夏目漱石『心』を読み直す&弁明

2024-02-03 18:53:08 | 歌・小説
 昨年10月に小森陽一の『夏目漱石『心』を読み直す』という本を読み終えました。かもがわ出版から2020年9月20日に発売されたものです。僕が入手したのは第2刷なのですが,なぜか2020年5月31日となっていて,これでは第1刷の前に第2刷が出ていることになっておかしいです。たぶん2021年5月31日なのではないでしょうか。
                                        
 小森は30年以上にわたって文学講座を続けていました。ところが新型コロナウイルスが流行することによって会場の都合がつかなくなり,その文学講座を継続することができなくなりました。そういう状況の中で,たびせん・つなぐという旅行サイトの事業者から,オンライン文学講座の開催の申し出がありました。小森はオンラインの技術には疎かったのですが,サイトの方からの開催の申し出だったので引き受けることにしました。そのとき,オンラインでの文学講座をするのであれば,多くの人が読んだことがあるであろう『こころ』を教材にするのがふさわしいだろうと考えたのです。この本は,その講座をまとめたものです。
 オンライン講座というのは題材に対してどの程度の知識がある人が受講するのかということが分からない面があります。なので内容はそこまで難しいものとはなっていません。まえがきの中で小森は,中学・高校生の皆さんも読み直しに挑戦してみてください,と書いていいます。ここから分かるように,中学生や高校生が読んだとしてもその内容は理解することができるようなものになっています。
 ひとつだけ特徴があるとすれば,このオンライン講座は,新型コロナウイルスの流行によって開催されることになったものです。このために,感染症というのがその中心を貫くひとつのテーマになっています。読み直すというのは現代的に読み直すということであって,講座が開かれた現代というのは新型コロナウイルスという感染症が大流行した現代です。つまり感染症を通して,『こころ』の時代と現代を関連付けることを目指しているといえるでしょう。

 僕自身の見解opinioを先に述べておけば,僕もスピノザと同様に,方法論的懐疑doute méthodiqueに対しては疑問を有しています。もっとも僕はスピノザ主義者という立場から発言しているので,ある意味では僕がそのような見解を抱くのは当然といえば当然です。ただ僕は同時に,このことに関してはデカルトRené Descartesのために弁明しておきたいという気持ちもあるのです。
 方法論的懐疑というのは,あくまでも方法のひとつであって,何らかの問題に対する解答そのものではありません。すでにいっておいたように,デカルトが問いたかったのは,絶対的に正しいといえることは何であるのかということなのであって,絶対的に正しい事柄を導き出すための最善の方法は何かということではないのです。それに対して僕が,あるいはスピノザが,方法論的懐疑に疑問を呈するのは,絶対的に正しい事柄は何であるのかということに対して直接的に答えようとすることからではありません。むしろデカルトの方法論を踏襲した上で,知性intellectusが真理veritasを認識するcognoscereとはどういうことかという別の問いを立てることで生じてくる疑問なのです。少なくともデカルトは,大真面目に自身がまったく疑い得ないことは何であるのかということを検討することによって一切の疑いを有することができないものとしての絶対的な真理を発見しようとしたのであって,その営為自体は何ら否定されるべきではないと僕は考えます。
 次に,絶対的に正しい事柄,それがデカルトにとってはデカルトが一切の疑いを有し得ない事柄であったのですが,デカルトが哲学を開始するにあたってそれを求めたことは,方法論そのものとして正しいと僕は考えます。スピノザの哲学にひきつけていえば,デカルトはこうした営みを開始したとき,第二部定理四〇で示されているような公準に従っていたのです。すなわち,もしも十全な観念idea adaequataが十全な観念からしか発生しないのであれば,哲学を開始するにあたって何よりも必要とされるのは,与件としての十全な観念です。もしもそれが与えられていなければ,導出される観念もまた十全な観念であるということが保証できなくなってしまうからです。その場合,その哲学は真理性を失ってしまうでしょう。
コメント
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