⑫-2の第2図は角が逃げる一手。観ていたときは僕は▲4六角と上がるのではないかと思っていたのですが,先手は▲3九角と引きました。
4六と3九以外に6八と4八もあるので四択。そのうち3九は最もなさそうに思えたので意外でした。ですがもしかしたら先手はこの後の後手の指し方を牽制しようとしていたのかもしれません。
後手は△1五歩と突き,▲同歩△同香で香車の交換を迫りました。これに対してはすぐに▲同香と取らず,▲1六歩△同香▲同香△1五歩と進めるのが部分的な定跡。これなら先手は一時的に香車を得することができますし,後手が香車を取り返す間にも好きな手を指す余裕が得られるからです。
ですが先手は角を3九に引いたのを生かす指し方に出ました。それが▲1六歩△同香のときに▲同香と取らず▲1七歩とまた打つ手です。
第1図は前に後手が6筋で歩を交換したために先手が一歩を持っています。さらに後手が桂馬を跳ねたのに乗じて先手が3九に角を引いていたため,部分的にこの手が成立しました。もちろん△1七同香成には▲同香ではなく▲同角と取り,完全に香車を得してしまおうという狙いです。これが成立するなら,先手が後手の動きをうまく咎めたことになるでしょう。
ディオニスが暴君になったのは,他人を信じることができなくなったからでした。他面からいえば,人間はほかの人間のことを簡単に裏切ると確信するようになったからです。ですから自分が間に合わなければ処刑を永遠に免れ得るということを知っているメロスが,セリヌンティウスを躊躇なく裏切るであろうと思ったのは自然です。そして,それに反してメロスが帰ってきたとき,そのメロスの行為に触発されて改心するのも理解できなくはありません。
このときディオニスは,メロスに対して特有の観想をしたのではありません。メロスとディオニスが会ったのもこのときが初めてであったからです。つまりディオニスは一般的に人間を信じることはできず,なぜなら人間は裏切る存在であるからだと思い込んでいたと解さなければなりません。その一般的な人間観を,ディオニスはメロスに対して適用したのです。
ところがそのディオニスが,メロスが帰って来なければ自分が処刑されるという条件の下にセリヌンティウスが人質になることに同意することについては,無条件に前提しているのです。これはそれ自体で不自然であると考えることもできます。なぜならディオニス自身が抱いていたような人間観をセリヌンティウスも共有していたと仮定すれば,セリヌンティウスもその人間観をメロスに対して適用するのですから,セリヌンティウスは人質となることを拒否するでしょう。つまりディオニスは,メロスに対しては適用したような人間観をセリヌンティウスには適用しなかった,厳密にいえば,自分の人間観はセリヌンティウスの人間観には適用できないと無条件で信じていたのです。ディオニスはセリヌンティウスのことを知らなかったのですから,これを無条件に信じたのは明らかに不自然だといえなくありません。
もしもディオニスがこのことに気付いていたら,メロスが提案した時点で,そのような条件の下に人質になるような人間が存在する筈はないと思ったでしょうし,そのようにメロスに対して言ったことでしょう。そしてセリヌンティウスが躊躇いなく人質になったとき,すぐに改心へと触発されていたとしてもおかしくありません。
4六と3九以外に6八と4八もあるので四択。そのうち3九は最もなさそうに思えたので意外でした。ですがもしかしたら先手はこの後の後手の指し方を牽制しようとしていたのかもしれません。
後手は△1五歩と突き,▲同歩△同香で香車の交換を迫りました。これに対してはすぐに▲同香と取らず,▲1六歩△同香▲同香△1五歩と進めるのが部分的な定跡。これなら先手は一時的に香車を得することができますし,後手が香車を取り返す間にも好きな手を指す余裕が得られるからです。
ですが先手は角を3九に引いたのを生かす指し方に出ました。それが▲1六歩△同香のときに▲同香と取らず▲1七歩とまた打つ手です。
第1図は前に後手が6筋で歩を交換したために先手が一歩を持っています。さらに後手が桂馬を跳ねたのに乗じて先手が3九に角を引いていたため,部分的にこの手が成立しました。もちろん△1七同香成には▲同香ではなく▲同角と取り,完全に香車を得してしまおうという狙いです。これが成立するなら,先手が後手の動きをうまく咎めたことになるでしょう。
ディオニスが暴君になったのは,他人を信じることができなくなったからでした。他面からいえば,人間はほかの人間のことを簡単に裏切ると確信するようになったからです。ですから自分が間に合わなければ処刑を永遠に免れ得るということを知っているメロスが,セリヌンティウスを躊躇なく裏切るであろうと思ったのは自然です。そして,それに反してメロスが帰ってきたとき,そのメロスの行為に触発されて改心するのも理解できなくはありません。
このときディオニスは,メロスに対して特有の観想をしたのではありません。メロスとディオニスが会ったのもこのときが初めてであったからです。つまりディオニスは一般的に人間を信じることはできず,なぜなら人間は裏切る存在であるからだと思い込んでいたと解さなければなりません。その一般的な人間観を,ディオニスはメロスに対して適用したのです。
ところがそのディオニスが,メロスが帰って来なければ自分が処刑されるという条件の下にセリヌンティウスが人質になることに同意することについては,無条件に前提しているのです。これはそれ自体で不自然であると考えることもできます。なぜならディオニス自身が抱いていたような人間観をセリヌンティウスも共有していたと仮定すれば,セリヌンティウスもその人間観をメロスに対して適用するのですから,セリヌンティウスは人質となることを拒否するでしょう。つまりディオニスは,メロスに対しては適用したような人間観をセリヌンティウスには適用しなかった,厳密にいえば,自分の人間観はセリヌンティウスの人間観には適用できないと無条件で信じていたのです。ディオニスはセリヌンティウスのことを知らなかったのですから,これを無条件に信じたのは明らかに不自然だといえなくありません。
もしもディオニスがこのことに気付いていたら,メロスが提案した時点で,そのような条件の下に人質になるような人間が存在する筈はないと思ったでしょうし,そのようにメロスに対して言ったことでしょう。そしてセリヌンティウスが躊躇いなく人質になったとき,すぐに改心へと触発されていたとしてもおかしくありません。