浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

第四回したまちコメディ映画祭

2011-09-19 19:29:09 | DVD、映画
この連休は浅草・上野で「したまちコメディ映画祭」というのが開催されてました。

浅草は昔から喜劇の街、ということでコメディ映画ばっかりを集めた映画祭で、全部で10数本のコメディ映画の上映と色んなイベントが行われます。

僕にとってはまぁ地元だし、日本公開前の映画が安く(前売りだと1,300円)観られるのでありがたいイベント。

特筆したいのは会場のあったかさ。

普通の映画館と違って会場(だいたい僕が行くのは浅草公会堂)はこういう映画が好きで来ている人、つまりはまぁ僕も含めて「ボンクラ」(笑)ばっかりなので会場の雰囲気がそもそもあったかい。笑いもいつもより大きいしついつい気を許して声もみんな出ちゃう。「バカだなー」「それダメだって(笑)」「あーあ~(笑)」とかね。雰囲気としてはドリフターズの「全員集合」の収録会場に似ていると思う。僕も子供の頃、一度行っただけだけどね。
終盤のいいシーンでは手拍子したりしてるし、上映後には拍手。なんかアメリカの映画館ってこんな感じなのかな、とも思う。

あとはやっぱり「浅草」ってことだよね。大都市でも無くいい感じにゆったりしてて。特に連休中なんて観光の人が多くてそんなにあせってる人もいない。「まぁだらっとコメディ映画でも観て笑うかぁ」なんて思わせる雰囲気がある。映画の合間に亀十のドラ焼きなんてパクついて、帰り道に居酒屋の軒先でもつ焼きつまみにホッピーなんて飲んじゃったらほんと色んなことがどーでも良くなってきますよ。

僕はこのイベントを去年初めて知って「キックアス」を観た。これまた楽しくてねー。

今年は他に予定も無かったので3本見ました。

日曜日は「宇宙人ポール」。これはこのイベントの中で行われる「映画秘宝祭」というプログラムで映画雑誌映画秘宝主催のもの。上映前に映画評論家の町山智浩と浅草キッドのトークショーもついているお得なもの。このトークが寄り道もたっぷりだったんだけど映画を観るにあたってより楽しめる情報がしっかり語られていて楽しかった。これについてはもう書いたので割愛。
一点だけ思い返すとこの映画って明らかに映画『未知との遭遇』のパロディでもあるのね。そして考えてみると色んな「未知」との遭遇が描かれている。つまり地球人に取っての未知である宇宙人、イギリス人に取っての未知であるアメリカ人、男子(主人公はオタク男子)に取っての未知である女性。そのへんは面白いね。

祝日の月曜は2本。

まずは邦画の『極道めし』。

漫画が原作らしいけど僕はまったく知らなかった。

『極道めし』予告編


話としては、刑務所の中で5人の男がある賭けをする。「順番に『一番旨かった食い物』を話し、もっとも美味しそうだった話をしたやつが正月のお節料理の中から好きな一品を他の囚人からもらえる」という賭け。そして順々に「旨かった食い物」の話をする。

これね、最高です。

とにかくそれぞれの話に出てくる食い物(たまごかけご飯、海辺のバーベキュー、ホットケーキ、ラーメン、オムライス、すき焼き…)がとにかく旨そうで旨そうで。ずっとよだれが出てた。観たのがちょうど上映後にお昼、といういいタイミングだったこともあるしね。

この映画のつくりが非常に巧い。

食べ物が出てくるシーンはすべて囚人の話、つまり想像である、ということ。食べ物が異常に旨そうに写っていたりそのシーンがやけに芝居がかかったりしていても「結局これって想像だもんな」ですべて許せる。

例えばある人の話で戦後すぐのすき焼きの話が出てくる。その肉がきれいに霜降りで旨そうなんです。もしこれが普通なら「こんな時代にこんないい肉ないだろ」と思っちゃうところだけど、これも想像だから「ああ、想像なんで美化されてるんだな」で許せちゃう。映画の中で食い物を旨そうに演出する方法としてはこんなに巧いやり方はないね。

そしてこの映画の主人公は「新入り」というあだ名で呼ばれる一人の囚人。彼の話がメインになっている。これが切なくて切なくて。。見ながら「もう映画はどうでもいい!とにかくお前は幸せになってくれ!」と願い続けてました。

観ながら美味しそうな食べ物でヨダレが出たと思ってたらきれいに泣かされました。ヨダレだらだら、涙ボロボロのいい映画です。

ヒロイン役も良い。イベントということで映画上映後には出演者一同が登壇したんだけどこのヒロインの人顔小さくてびっくりした。こんな人が作るラーメンならそりゃ旨いよ。

出演者の一人、麿赤児(いい役やってたなぁ)が上映後のティーチインで「この映画を観ていると塀の中とこっちとどっちが幸せなのか分からなくなってくる」と言っていた。それってなんとなく分かるなぁ。

いやもちろん塀の中は嫌ですよ。でもね、僕らは毎日好きなもの好きなだけ食べてるわけだけど、この映画の彼らのように「あれ、食いてぇ!」と心の底から願えることって決して悪いことじゃないと思う。

とにかくこの映画お勧めです。タイトルがタイトルだし基本的にはずっと男5人が食い物の話をしているだけなので敬遠する方もいらっしゃるかも知れないけど、絶対にどんな人でも楽しめる映画だと思います。
邦画でこれほど不自然なところ無くて、逆に言えば全部不自然なファンタジーで、旨そうで泣ける映画ってなかなか無いと思う。『南極料理人』も良かったけどわかりやすいストーリーがある分、こっちのほうがいい部分もある。

一点だけ注意。観た後にどこのラーメン屋行くか決めてから観ることをお勧めします。めちゃくちゃ食べたくなるから。実際、僕は観終わった後ですぐラーメン屋行った。

二本目は『モンスター上司』。

10月に日本公開予定の洋画です。

『モンスター上司』予告編


困った上司に困らされてる3人の男が上司殺害計画を立てる、という話。見所は主人公3人のバカさっぷりと上司のひどさっぷり。

3人の男はそれぞれ別々の会社にいて別々の上司に困らされているわけだけど、まず証券会社に勤める男の上司がパワハラばりばりのケビン・スペーシー。

さすがアカデミー賞俳優だけあって「うわーこんな人ほんと嫌だわ」と思える最悪上司。

歯科助手の男の上司はジェニファー・アニストン。なんと彼女が欲求不満のセクハラ上司を演じてる。この女優さんはドラマ「フレンズ」で国民的女優になったんだけど、一皮向けるためにこういう悪役にチャレンジしたとのこと。
いや、はっきり言いますけどこの人がセクハラしてくる会社なんて、、、ねぇ。(実際、他の主人公二人も劇中「お前の上司最高じゃん」と言う)

工場に勤める男の上司はバカな二代目社長。スダレ禿、ビールっ腹の最悪社長を演じるのはなんとイケ面俳優コリン・ファレル。

この人が



こんな役。最高ね。

もうこの3人の最悪上司っぷりだけで観る価値ありますよ。

主人公トリオはそれぞれがそれぞれの上司を殺すとすぐばれるのでお互いが協力し合って互いの上司を殺そう、と計画する。でもねぇ、この3人がバカなもんで話はぐちゃぐちゃに。

笑ったわー。

はっきり言ってこの映画は頭からっぽにして大笑いできる映画です。


とにかく、したまちコメディ映画祭楽しいよ。
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もっと楽しめる

2011-09-19 00:59:57 | DVD、映画
あらかじめ言っておきますが、今回、ちょっと宗教についての話をしますが、僕自身は無宗教と言うか一般的な日本人の宗教観しか持ち合わせていません。特定の宗派の信徒ということもないです。

僕も含め日本人にはどうも宗教アレルギーというのがあるような気がする。特に新しい宗教が入ってきた場合にはね。

素人考えなので間違ってたら申し訳ないけど、日本人は日本人なりに「新しい宗教が入ってくると必ず政治と結びついて戦いが起こる」と経験として分かっているからじゃないかと思う。

このへん、壬申の乱とかキリスト教伝来とか第二次大戦後とか色々話したいけど長くなるので割愛。

僕の宗教観も一般的な日本人の宗教観と大差ないと言っていいからまぁ同じようなものです。お墓参りにも行くしクリスマスは祝う。

ただ高校の頃からふと思っていたことがあって、それは「英米文学を知ろうと思ったらキリスト教の知識は避けて通れないな」ということ。

高校の頃から英語が好きだったし元々文学は好きだったので、大学はそういうところに行きたいなと思っていた。そんなに数多くないけど英米文学を読んだり、こっちのほうが数が多いけどアメリカ映画を観ていて「あ、キリスト教の知識は必要だな」と思ったんだよね。

日本の小説を読んでいても日本土着の文化が下敷きになっているように、英米の作品というのは知らず知らずのうちに土着の文化、特にキリスト教の文化が下敷きになっていると思う。

それは意識的、ということではなくて元々そういう土台があるから物語にもそれが出てきてしまうんだろう。

で、そのあたりを知っていれば更に楽しめる。

例えば、関が原の戦いというものがどういう戦いで、その後、侍はどういう状況だったか、ということを知っていれば映画「七人の侍」は更に趣深いじゃないですか。もちろんそれを知らなくても楽しめるものではあるけど。

ハリウッド映画はキリスト教の知識があればもっと楽しめる。もちろんそれが無くても楽しめるのがハリウッド映画の素晴らしいところではあるけども。


今日ね、『宇宙人ポール』という映画を観たんです。

イギリス人のオタク二人がアメリカ旅行をする。その途中で宇宙人を拾う。その宇宙人はポールという名前で60年前に地球に来たんだけどそれから軍に実験されてたんでめちゃくちゃアメリカ文化に染まってる。その三人の珍道中、というおバカ映画。めちゃんこバカで笑ってばかりの映画でした。

観たのは「したまちコメディ映画祭」という浅草で行われている映画祭の一環だった(したコメについてはまたちゃんと書きたい)ので冒頭に映画評論家町山智浩のトークもついていたんですよ。その中で、町山さんが「実はこの宇宙人の名前はポールではなくてパウロなんです」と言っていたのね。

そもそも英語圏で一般的な男性名である「ポール」と言うのは新約聖書の著者の一人でありキリスト教の聖人である聖パウロから来ている。トムが聖トマスから、ジョンが聖ヨハネから来てるのと一緒ですね。

そう思ってこの映画を観ると「あー確かに」と思うんですよ。

ネタバレしたくないので詳しくは言いませんが。

聖パウロというのは最初はキリストを信じておらずむしろ迫害する側にいた人。その彼が何故かいきなり盲目になってしまう。困っているととつぜん目から鱗が落ち、目が見えるようになった(目から鱗、と言う言葉はこの人の話からきている)。それ以降、キリスト教を信じるようになり布教に力を注いだ、という人だそうです。

映画「宇宙人ポール」を観ていると「あ、この話を下敷きにしてるのかな?」と思うエピソードが出てくる。そして、そう思って観るとこの映画全体の読み取り方がまた変わってくる。

もちろんこの「宇宙人ポール」はそんなことぜーんぜん考えず頭空っぽにしても楽しめる映画ですからぜひ観て頂きたい。(あの)スティーブン・スピルバーグがちらっと出てきます。この出てくるシーンが最高ですよ。


とにかくまぁ、いろんな映画を聖書を土台に観てみると見え方が変わってくる、むしろ深く思える映画ってたくさんあるんですよ。

例えば『ダークナイト』のジョーカーは明らかに聖書のサタンの存在で、となるとつまりあの話って『失楽園』だともとれる。

『マグノリア』の最後のあの雨は出エジプト記に似ている。出エジプト記ではイスラエルの民を奴隷にしているエジプト王を懲らしめるため神は一帯を○○○であふれ返させた。これはエジプト王にした十の災いのうちの2つめなんだけど、一つ目は血の災い。そのときの台詞「There will be brad(血よあふれよ)」が同じ監督の最新作のタイトルであることはとても興味深い。

『レスラー』のランディ・ラムは明らかにキリストに例えられる。その話はこちら⇒「語りたい男と感じたい女、あるいは映画「ザ・レスラー」雑感

『グリーンマイル』の不思議な男ジョン・コーフィーはイニシャルがJ・Cでこれってイエス・キリスト(Jesus Christ)と一緒。『新・猿の惑星』で人類から迫害された猿の夫妻がサーカス小屋の馬の寝床で子供を産む(キリストは馬小屋で生まれたことになってる)のはつまり「生まれた子供は救世主である」という意味だろう…

なんてこと考えてると映画って本当に面白い。
コメント (2)
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