晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「知りすぎていた男」(56・米) 80点

2013-07-17 11:12:36 | 外国映画 1946~59
 ・主題歌「ケ・セラ・セラ」が大ヒットしたドリス・デイの代表作。


     

 本作の22年前、英国で「暗殺者の家」と言う題名で製作したヒッチコックのリメイクだが、なかなか面白い。

 モロッコを観光旅行中の外科医・ベンとブロードウェイのスター・ジョーの夫妻が、国際テロ事件に巻き込まれるサスペンス。ヒッチコックには珍しい子供が絡むハナシでもある。

 例によって掴みがとても興味深い。カサブランカからマラケシュへ移るバスで見知らぬ男と知り合い仲良くなるが、ホテルでの会食は突然のキャンセル。翌日市場での情景が異国情緒盛り上がる最中に殺人事件が起こる。殺されたのがバスで知り合ったフランス人で現地人に扮装した姿だった。ベンに残した言葉が「政治家が殺される。ロンドンへ。アンブローズ・チャペル」である。

 ヒッチコック作品ではお馴染みのジェムズ・スチュワートが初のコンビを組んだドリス・デイとは年の離れた夫婦役でぴったりと息の合った演技を見せている。これは外科医とブロードウェイのスターという設定が上手くはまったせいであろう。ヒロインはD・デイ以外考えられないほど彼女の代表作となった。

 大ヒット作「ケ・セラ・セラ」が2度出てくるが、何れもこのドラマに不可欠な場面で、単なる挿入歌ではないところが流石。

 そして有名なバーナード・ハーマンが指揮する「嵐雲のカンカータ」でのシンバル奏者の音までの緊張感は、この映画のハイライト・シーン。こんな名シーンを作ったヒッチとハーマンが、10年後「引き裂かれたカーテン」で仲違いして長年のコンビを解消してしまった。映画音楽とは難しいもんだと改めて思う。ちなみにこの作品は、オスカー(主題歌・歌曲賞)を受賞している。

 ヒッチらしいユーモアも散りばめられていて楽しい作品だが、剥製屋でのヤリトリは少々脱線気味だった。

「泥棒成金」(55・米) 80点

2013-07-16 06:46:51 | 外国映画 1946~59
 ・G・ケリーの際立った美しさを惹きだしたヒッチコック。


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 デイヴィッド・ドッジの原作をジョン・マイケル・ヘイスが脚色、ヒッチコックが監督。ケーリー・グラントとグレース・ケリーを起用して、サスペンス・タッチのお洒落なラブ・ストーリーに仕立て上げている。

 <猫>と呼ばれる宝石泥棒のジョン・ロビー(C・グラント)は引退して、南仏・リヴィエラで悠々自適な生活を楽しんでいたが、パリ警視ルビックから類似の事件で疑われているのを知りニースへ逃亡する。ニースには旧友ベルタニが料理店を経営しているが、警察の追及を逃れるためさらにカンヌへ。ここでアメリカの石油王の成金・スティヴン母娘に出会う。

 ヒッチコックは<G・ケリーが出演ならどんなストーリーでもいい>と言った曰くつきの作品で、彼独特のサスペンス色はかなり薄味のためヒッチ・マニアには正直言って物足りない。その分彼が拘ったのはヒロインの美しさを惹きだすこと。これは、衣装のイーデス・ヘッド苦心の成果によるものだろう。ジョンと初めてすれ違うレストランではブルーのドレス、海岸でのドライブではピンク地に白のワンピース、海岸ではモノクロのシックな水着、そしてパーティでは白いイヴニング・ドレス。<クール・ビューティ>と呼ばれた彼女のファッションに目を奪われる。

 撮影は名コンビ、ロバート・パークスで南仏の美しい風景は観光したような気分に浸ることができる。また、花火を背景にしたラブ・シーンはこの映画のハイライトでもある。

 G・ケリーはこのロケがキッカケでモナコ王妃となり、後に52歳という若さでこのロケ地近くで交通事故死する。彼女を語るには切っても切れない作品となってしまった。

「25年目の弦楽四重奏」(13・米) 80点

2013-07-14 15:01:30 | (米国) 2010~15

 ・<人間関係を熟考させる作品>を目指したジルバーマン監督。

  

 ベートーベンの最晩年作「弦楽四重奏曲第14番」をモチーフに、25周年記念公演を控えたメンバーの人生を重ね合わせた人間ドラマ。監督は2作目で初のフィクション長編ドラマに挑んだヤーロン・ジルバーマン。

 弦楽四重奏団<フーガ>のメンバーで最年長はチェロのピーター(クリストファー・ウォーケン)。最愛の妻を亡くしながら、穏やかでリーダー・シップもあり他の3人は教え子。父親のような存在であるピーターが、パーキンソン病の宣告を受け引退を決意する。第1バイオリンのダニエル(マーク・イヴァニール)は音を極めるために妥協を許さず、音楽に全てを打ち込む孤高の奏者。第2バイオリンのロバート(フィリップ・シーモア・ホフマン)はダニエルと遜色のない技巧の持ち主で、演奏全体に彩りを添える貴重な存在。ビオラのジュリエット(キャサリン・キーナー)はロバートの妻で娘アレクサンドラ(イモージェン・ブーツ)の母であり、優秀なビオラ奏者。尊敬しているピーターなしではこの四重奏は成立しないと考えピーターに引退を思い留まるよう懇願する。
 
最近<中高年向け、音楽ドラマ>(カルテット!人生のオペラハウス、アンコール!!)の公開が目立つが、本作も長年連れ添った夫婦などの複雑な人間関係を描いた感動ドラマ。監督は<人間関係を熟考させる作品>を目指してこの曲が不可欠だったという。詩人T・S・エリオットが最も愛した曲で、シューベルトが驚嘆し、シューマンは病に倒れたときこの曲しか聴きたくないと言わしめ、吉田秀和が「精神が音楽の形をとった、精神と叡智の究極の姿」と評論した<嬰ハ短調131>。
 <休みなしの全楽章アタッカで演奏すべき>というベートーベンの意図は、7楽章を休みなしに弾くことで調弦不能な弦楽器個有の不協和音を如何に克服するか?がテーマとなってくる。25年の過程で生じた心に秘めた嫉妬心やプライド、秘めていた恋が絡み合う不協和音。冬のNYセントラル・パークの雪景色、フリック・コレクションでのレンブラントの自画像、サザビーズのオークション会場など、撮影監督フレデリック・エルムズの選び抜かれたショットを背景に、それぞれの人生が浮かび上がって行く。久しぶりに大人の映画を観た想いがする。

 監督は複数の四重奏団をモデルにシナリオを書き上げた。40年続いた「グァルネリ」はチェリストの引退で弟子が跡を継いだが、数年で活動後解散。「イタリア」は男3女1の構成で2人の男と付き合っているという噂があり、暗譜で演奏する。「エマーソン」は第1と第2が交互に入れ替わって演奏する。ドラマは随所にこのシークエンスを取り入れスリリングなエンディングへと向かう。

 P・シーモア・ホフマン、C・ウォーケン、K・ターナーという個性豊かな演技派が競い合うこのドラマ。なかでも苦境に陥りながらも、見事な引き際を見せた誠実な人柄を演じたC・ウォーケンが秀逸だった。3人に囲まれながらM・イヴァニールの健闘ぶりも目立ち、娘・アレクサンドラのI・ブーツの若い溌剌とした演技とフラメンコ・ダンサー役リラズ・チャリの情熱的な踊りもこのドラマのアクセントとして存在感を見せた。ただ、若いとはいえアレクサンドラの心の変化のスピードにはリアル感に乏しく、ついて行けなかった。

 演奏したのはブレンターノ弦楽四重奏団で吹き替えだが、チェロのニナ・リーが実名で演奏したり、メゾ・ソプラノのアンネ=ゾフィー・フォン・オッターが「死の都」のアリアを歌ったり、本物感も充分。筆者は44年続き今月改散の「東京クァルテット」の代りにこの映画に出会えたのがとても幸せだ。

 

「チザム」(70・米) 70点

2013-07-13 07:56:46 | 外国映画 1960~79

 ・<リンカン郡の死闘>をチザムの視点で描いた西部劇。

  

 西部劇の無法者として名高いビリー・ザ・キッドが関わったニューメキシコ・リンカン郡の死闘。ここに牧畜王国を築き、<ぺコスの王者>と呼ばれた実在のジョン・チザムを主人公にした西部劇。チザムを演じたのは貫録充分のジョン・ウェインで、監督は「シェナンドー河」(65)、「大いなる男たち」(69)のアンドリュー・V・マクラグレン。

 プロローグで馬に乗ったJ・ウェインのシルエットが映った途端、テーマ・ミュージックとともにその世界に引き込まれる。大牧場主・チザムは古くからの手腕でぺコス河一帯に10万頭の牛を所有している。当時は現金より牛が価値を決める時代だった。かたや新興勢力のローレンス・マーフィー(フォレスト・タッカー)が、経済・司法・政治の権力者を抱き込みながら台頭しつつあった。

 衝突のキッカケは英国人牧場主タンストールの所有する牛を、マーフィーが奪ったことに意義を立てるために、州知事に直訴の途上で保安官助手らに射殺されたこと。タンストールと親しかったチザムは保安官助手を捕まえ裁判にかけようとするが、放浪していたところをタンストールに牧童として雇ってくれ堅気になろうとしていたボニーことビリー・ザ・キッド(ジョフリー・デュエル)が怒りのあまり射殺。もうひとりの敵・エヴァンスを倒すことに躍起となる。

 ここにチザム対マーフィーの対決の構図が明らかになる。史実はチザムとビリーは必ずしも信頼厚い仲ではなかったようだ。本作では姪のサリーが東部からやってきてそのパーティでビリーと仲良くなるが、チザムが快く思わずそれとなく忠告している。その結果サリーはビリーの牧童仲間だったパット・ギャレットと結ばれることになる。西部劇ファンならその後チザムの推薦で保安官となったP・ギャレットがビリー・ザ・キッドを射殺するのは周知のとおり。

 実在のチザムは正義漢溢れる大ボスとはいえないところもあったようだが、J・ウェイン扮するチザムはバッファローの大群を暴走させ乗り込む正義の男そのもの。マーフィーとの1対1の殴り合いまでしてJ・ウェイン健在ぶりを見せている。

 「勇気ある追跡」(68)でオスカーを獲得したJ・ウェインの出番は、スターで見せる正統派西部劇としては思ったより少なく、この種の作品の円熟期であることも予感させる。


「華麗なる一族」(74・日) 80点

2013-07-11 08:09:36 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

 ・今日のメガバンク時代を予見した経済ドラマ。


  

 山崎豊子の経済小説を「戦争と人間 完結編」のコンビ、山田信夫・脚本、山本薩夫・監督で今日のメガバンク時代を予見した作品。
 フィクションとあるが、戦後最大の倒産と言われた山陽特殊鋼と神戸銀行の岡崎一族がモデルであることは一目瞭然。原作の雰囲気を壊さずに映画化するのはかなり難しいのに、無難にこなした山田・山本コンビ。

 のちに何度もTVドラマ化されているが、長男・鉄平と父・大介の葛藤が中心になっているのに対し、映画では万表一族のひとりひとりの心の内や高度成長期での企業戦士たちの葛藤もしっかりと描かれている。

 時代を経て観ると陳腐に感じる「妾妻同禽」が黙認されている万表家。大介を演じた佐分信ならではの貫録。長男の鉄平には仲代達矢が扮し颯爽としていて、のちの加山雄三やキムタクに見劣りしない熱血漢ぶり。仲代はまさに映画スターで、TVだとはみ出してしまいそう。
 秘書兼愛人役の京マチ子、大同製鋼社長・二谷英明など多士済々で当時の層の厚さには驚かされる。
 大蔵官僚で万表家・娘婿の田宮二郎の気位の高い演技も目立っていたが、のちに演技での猟銃自殺を実際に真似たのは衝撃的だった。
 何といっても政経癒着の象徴・永田大蔵大臣役の小沢栄太郎なくしては始まらない。

 戦後の経済界を揺るがした事件も、昨今の政治経済の大変動にはスケールが及ばないが、日本の経済史には欠くことのできない事件を映画化したことは、40年前は斜陽化したとはいえ映画産業がまだ元気だった証だろう。

「永遠に美しく」(92・米) 70点

2013-07-10 10:06:03 | (米国) 1980~99 

 ・SFXを駆使したブラック・コメディ。

  

 「バック・トゥ・ザ・フィーチャー」3部作のロバート・ゼメキスがシナリオを読んで気に入り監督した、女性の<いつまでも若く美しくありたい>という願望を描いたブラック・コメディ。

 人気女優で最近落ち目のマデリーン(メリル・ストリープ)の楽屋へ現れた友人ヘレン(ゴールデン・ホーン)は、有名整形外科医アーネスト(ブルース・ウィルス)と婚約したことを自慢気に紹介。
 いつもの癖でマデリーンがアーネストを誘惑、2人は結婚してしまう。ヘレンは激太り過食症で7年後は病院送り。
 さらに7年後マデリーン夫婦宛て、ヘレンから出版記念のパーティ招待状が届く。夫婦は14年前のスリムなヘレンとの再会に行天する。

 M・ストリープ、G・ホーンの2大女優にB・ウィリス、イザベラ・ロッセリーニを加えた豪華キャストで、真面目にコメディを演じさせる魅力的なキャスティング。<永遠に若く美しくいられる秘薬>を飲むという突拍子もない話も、軽快でテンポ良く進むと大人のお伽噺として何となく納得してしまう。

 おまけに当時最新のSFXを多用して、ヘレンを身動きができないほどの肥満体にしたり、マデリーンの首を180度廻したり、ヘレンの胴体をくり抜いたりブラックのやり放題に目を奪われているうちに、女の嫉妬と若く美しくありたいという風刺がじわじわと効いてくる。楽屋落ちでモンローやガルボも飲んでいるという皮肉な台詞まででてくる。

 本当は<不老不死>を得た人間の皮肉な不幸せを孕んでいるが、コメディとして突き抜けているところが
手塚治虫の「火の鳥」とは違うところ。

 2人の役柄はマデリーンをG・ホーン、ヘレンをM・ストリープにした方が適役だと思ったが監督は敢えて入れ替えたのだろうか?それにしてもM・ストリープは役柄の広い達者な女優だと改めて知らされる。
 B・ウィリスは「ダイハード」で押しも押されぬアクション大スターでありながら、役柄を狭められるのを嫌がったのか優柔不断な中年男を好演し、命懸けのダイビングが水のなかで救われるというシニカルな笑いを誘っている。
 マデリーンを診察して卒倒してしまう医師にシドニー・ポラックが出ていたのもご愛嬌。

 肩の凝らない楽しい作品だが、2年後「フォレスト・ガンプ/一期一会」でSFXを多用してオスカーを獲得したゼメキス監督のウォーミング・アップ作品として見るのが正解か?。

 
  
  

「モロッコ」(30・米) 80点

2013-07-08 05:43:46 | 外国映画 1945以前 

  ・スタンバーグ監督、ディートリッヒ主演によるハリウッド初作品。

     

 ドイツ初トーキー「嘆きの天使」(30)のジョセスフォン・スタンバーク監督が、ハリウッドで再びマレーネ・ディートリッヒ主演で映画化した究極のラブ・ストーリー。ベノ・ヴィグニーの戯曲「エイミー・ジョリー」の原作をジュールス・ファースマンが脚本化している。

 「嘆きの天使」で安キャバレーの女ローラ・ローラに扮し、一躍世界に名を知られるディートリッヒ。その退廃的な美しさと脚線美、セクシーな歌声そのままで本作のヒロインエイミー・ジョリーを演じている。役柄に合わせダイエットして奥歯を抜いてさらに退廃的な美しさを増した感がある。

 モロッコへ渡る船旅に乗り合わせた大富豪の芸術家ベシエール(アドルフ・マンジュー)と謎の美女エイミー・ジョリー(M・ディートリッヒ)。エイミーは新天地モロッコのクラブ歌手として働くためだが、何処か退廃的な雰囲気。ひとめ惚れしたベシエールが困るようなことがお役に立ちたいと名刺を手渡すが、「ありがとう」と受け取った名刺を千切って海へ捨ててしまう。

 クラブで歌うシーンが圧巻。シルクハットの男装の麗人姿で上客の夫人にキスするシーンはアメリカでは大変話題となったとか。タキシードで煙草をくわえた姿は宝塚の原点を観る想い。戦後の幼い美空ひばりが「悲しき口笛」で歌っている姿も連想させる。変わって林檎売りのコケティッシュな姿では、自慢の脚線美が目を奪う。

 観客の中にいた外人部隊兵士のトム・ブラウン(ゲイリー・クーパー)に声を掛けられたエイミーはこっそりと家の鍵を渡す。

 こうして2人の恋が始まるが、撮影中スタンバーグは同い年の2人が仲良くなるのに嫉妬したらしい。スタンバーグは富豪の紳士ベシエールに自身を託していたような節がある。ベシエールに「彼女の幸せがイチバンなんだ。」と言わせているのは監督自身の本音だったのだ。

 当時のG・クーパーは主演でありながら明らかに格下で、監督はジョン・ギルバート、フレドリック・マーチをキャスティングしたかったようだ。不良でキザだが純情な男トムは適役のG・クーパーは本作を機に大スターの道を歩むことになる。

 クラブでのシーン以外にも後のラブ・ストーリーのお手本になるような名シーンが数多くあって、2本指での挨拶、鏡にルージュで描いた伝言、真珠がバラける音などなど・・・。究極は何といってもラスト・シーンだろう。戦後の「第3の男」(49)と並ぶ名シーンといわれているが同感だ。エンディング・タイトルの後にも映像と音声があったのは恐らく最初の作品だったのでは。現実味がないなどと言わずに、その余韻に酔いしれて欲しい。

 
 

「めまい」(58・米) 80点

2013-07-07 08:02:18 | 外国映画 1946~59
  

 ・前衛映像で心理サスペンスを描いたヒッチコック。

 「悪魔のような女」のピエール・ボアロー、トーマス・ナルスジャック原作「死者の中から」を、ヒッチコックが斬新なカメラワークを駆使入して映像化したサスペンス。

 高度恐怖症のため退職した刑事・スコティ(ジェームズ・スチュワート)が、旧友の依頼で彼の妻マデリン(キム・ノヴァク)を尾行する。曾祖母の霊に取付かれたという彼女は、奇怪な行動の末海に飛び込んでしまう。

 ソールバスのタイトル・デザインから始まる前半は、スコティとマデリンのミステリアスなラブ・ロマンスの雰囲気。サンフランシスコの観光名所(アーニーズ・レストラン、ゴールデンゲート公園、パレス美術館、エンパイア・ホテルなど)が楽しめる。

 カメラワークが独特で、レストランでスコティがマデリンに出会うシーンや曲がりくねった坂道を俯瞰で捉えた映像はとても斬新。とくに「めまいショット」と言われる鐘楼の螺旋階段をズームアウトしながらカメラを前方へ動かす手法は思わず頭がクラクラしてしまうほど。

 鐘楼から飛び降りたマデリンを救えなかったスコティが療養所を退院し、街で良く似た女を偶然みつけた後半からは、心理サスペンスへと変貌する。

 若いころ観た時はミステリータッチのラブ・ロマンスとしか思わなかったが、ヒッチコックはこの作品を「<死姦願望>を持った男の物語」と称しているとおり、よく似た女・ジュディ(K・ノヴァクの二役)をマリガンそっくりに変えて行く。療養所以降はスコティの妄想では?という説があるほど、別人の狂気じみた男を演じたJ・スチュアートが頑張った作品でもある。

 ヒロインK・ノヴァクの起用はヴェラ・マイルズが妊娠したための代りで、ヒッチコックはミス・キャストだと思ったようだが前半の謎の女の雰囲気はハッとするような美しさ。おそらく後半がお気に召さなかったのだろうが彼女には出世作となった。

今観ると、テンポの緩さやCGの映像に50年前の作品であることを再認識させられるが、当時としては前衛的な心理サスペンス・ミステリーでトリュフォーが絶賛したのが頷ける。

「動く標的」(66・米) 75点

2013-07-06 07:53:05 | 外国映画 1960~79

  ・豪華キャストで魅せるP・ニューマンのハード・ボイルド。

 

 ロス・マクドナルドの探偵小説「ルー・アーチャー」シリーズからポール・ニューマンが主演したハード・ボイルドの佳作。

 旧友の弁護士の紹介で私立探偵ルー・ハーパー(P・ニューマン)が受けた仕事は、大富豪サンプスンの失踪事件で依頼主は夫人(ローレン・バコール)。義理の娘や自家用飛行機パイロット、愛人関係にあったかつての人気女優とその夫や「バー・ピアノ」の歌手など謎めいた関係者が次々と現れる。

 ハード・ボイルドの代表作といえばレイモンド・チャンドラーの「フィリップ・マーロウ」シリーズ。映画化も数多くされていてハンフリー・ボガート、ロバート・ミッチャムなどが演じている。対してルー・アーチャーはP・ニューマンの2作のみ。おまけに主人公の名前が<アーチャー>から<ハーパー>に変えられている。これは製作会社が「ハスラー」(61)、「ハッド」(62)とP・ニューマンのヒット作はHがついているという理由だからとのこと。原作ファンには違和感があったことだろう。

 原作のアーチャーは「身長188cm、体重86kg、青い瞳に黒い髪、顔は細長く<コヨーテが笑ったような、痩せて飢えている顔つき>」で、ニューマン演じるハーパーとはイメージが違うが、原作に拘りのない筆者にはカッコ良く好印象のキャラクターだった。

 ハーパーはしがない私立探偵で、妻(ジャネット・リー)とは別居中。離婚話が中途半端なまま独り暮らし。序盤でコーヒー豆が切れていて昨日棄てたドリップをゴミ箱から拾って不味そうに飲むシーンはハードボイルド・ファンには堪らない魅力。今を時めく・村上春樹が高校時代10回も観たという西海岸のトラッド・ファッションはニューマンの真骨頂だ。いつもガムを噛んでいて、ポルシェ356スピードスターのオンボロで疾走する主人公をカッコイイと感じるかで、本作が好き嫌いの分岐点があるような気がする。

 ストーリーは登場人物が多く、ご都合主義が目立って本格的ミステリーの趣はない。最大の見所は、ニューマンを始めとする豪華キャストだ。L・バコールは下半身マヒでありながら貫録十分で夫の失踪にビクともしない。J・リーは離婚話をしながら夫に見せる女心の微妙さ。かつての人気女優シェリー・ウィンタースは、昔の面影がないすっかり落ちぶれた哀感が漂う中年女。かつての大女優競演はオールドファンには必見だ。

 なかでもS・ウィンタースは「陽のあたる場所」(52)でM・クリフト、E・テーラーを相手にしてオスカー主演女優賞候補となり、「アンネの日記」(59)で獲得(助演女優賞)した名女優。役柄とはいえここまで曝すとは女優魂は凄まじい。

 大富豪の娘役パメラ・ティフィンの水着姿や歌手役のジュリー・ハリスの歌もあって、女優陣の競演は地味なハードボイルドに彩りを添える華やかさ。

 ウィリアム・ゴールドマンの脚本は手堅く、コンラッド・L・ホールの撮影はスタイリッシュで、ジョニー・マンデルの音楽は軽快だ。序盤の痺れるような主人公の紹介シーンとラストシーンの洒落た余韻はジャック・スマイト監督にとって出世作ともいえる。本作が後の「エアポート’75」(74)、「ミッドウェイ」(76)など大作を手掛けるキッカケとなったかもしれない。 

「王子と踊り子」(57・米) 80点

2013-07-05 06:39:42 | 外国映画 1946~59

  イメージそのもので演技したM・モンロー。

   

 「7年目の浮気」(55)、「バス停留所」(56)と演技に自信を深めたマリリン・モンローが、自ら製作権を得て映画化した英国風ウィットとアイロニーに富んだラブ・コメディ。もとはテレス・ラディガンの舞台劇で’53エリザベス女王戴冠式を記念してローレンス・オリヴィエが監督・主演して大ヒットしたもの。そのラディガンが脚色し、L・オリヴィエが監督・主演してモンローをバックアップしている。

 ’11英国ジョージ5世の戴冠式に出席のためロンドンにきたカルパチア国大公チャールズ(L・オリヴィエ)と米国の踊り子エルシー(M・モンロー)の恋物語。

 <バルカンの狐>という呼称のチャールズは、英国外務省接待によるミュージカルで端役のエルシーに目を付け、2人きりの晩餐会へ招待する。摂政としては有能だが、恋には不器用なチャールズ。陳腐なラブコールはエルシーには届かず間が持てないチャールズは、ウォッカをがぶ飲みするエルシーを持て余す。真面目な外務省職員ノースブルック(リチャード・ワッティス)に八つ当たり。

 このあたりは舞台劇なら最高に面白いスチエーションだが、映画だとチャールズ大公の可笑しさがいまひとつ伝わってこない。重厚だがユーモラスな雰囲気がオリヴィエらしく絶妙なのに、英語が堪能ではない筆者には理解不足だったのかも。

 モンロー演じるエルシーは本人が望んだとおり素直で可愛らしく、賢くもあり、チャールズの息子・16歳のニコラス国王(ジェレミー・スペンサー)や母である皇太后(ジビル・ソーンダイク)にも気に入られる。殆ど白いドレス姿で出ずっぱりのモンローは、チョッピリ気になるお腹のぽっこりもご愛嬌で、全盛期のモンローを堪能できる。

 もうひとつの見所は戴冠式の様子で、ドラマの流れを損なうのでは?と思うほどシッカリ描写されていて、オリヴィエ監督の拘りを感じさせる。ゴージャスな雰囲気が溢れ出ていた。

 撮影中の2人は、モンローが期待していたようにオリヴィエが好意的には接してくれず、かなり傷ついたようだが作品を観る限り致命的なトラブルがあったとは思えなかった。本作のあと「お熱いのがお好き」(59)、「恋をしましょう」(60)、「荒馬と女」(61)と3作しか残さなかったモンロー。その後、コメディセンス抜群の彼女を超える大女優は現れていない。