晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『幕末太陽伝』 90点

2009-12-23 11:33:14 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

幕末太陽伝

1957年/日本

佐平次は川島雄三の分身

総合★★★★☆ 90

ストーリー ★★★★☆90点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆90点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆80点

戦後の名監督として改めて見直されている川島雄三監督の代表作。ご存知古典落語「居残り佐平次」を軸に「品川心中」「三枚起請」「明烏」「お見立て」など郭噺を巧く組み込んだ脚本が素晴らしい。時代劇だが、製作当時(’57)実在の<品川さがみホテル>から郭の<相模屋>に切り替わるプロローグは斬新で、いま観てもそのテンポの良さに感心させられる。
「日活製作再開三周年記念」とタイトルが示すように戦前の名門日活が大映から独立、「太陽族」で当てた勢いで総力を挙げて製作した作品である。川島監督は幕末の太陽族=高杉晋作をはじめとする勤皇の志士を描くことで上層部の了解を取り付けながら、当時ジャズドラマーから喜劇役者に転身したばかりのフランキー堺を主役に抜擢。見事にパワフルでしたたか、そしてシニカルな佐平次像を開花させ、志士たちを脇役に追いやってしまう。これは川島にとって日活を退社する要因でもあるが、佐平次は45歳で夭折した彼の分身でもあった。
フランキーは持ち前のリズム感の良さで見事に答え、肺病持ちでありながら「首が飛んでも動いてみせまさあ!」「地獄も極楽もあるもんか。俺はまだまだ生きるんでえ!」と啖呵を切る一世一代の名演技。今は亡き<こはる>の南田洋子と<おそめ>の左幸子の女郎も、社会の底辺で逞しく生きる女を弾けるように好演している。のちの日活を支える石原裕次郎と小林旭が台詞を交わすなど、お宝的なシーンもあって見飽きない。脇役陣では、品川心中のカタワレ・貸本屋の金造役の小沢昭一が秀逸で、何度観ても哀しくて笑える。
相模屋のセットを忠実に再現しクレーンによる撮影など映像的にも素晴らしく、川島監督51本のなかでも最高傑作である。残念なのは、録音技術のせいか台詞が良く聴き取れない箇所があることか。


『倫敦から来た男』 85点

2009-12-20 10:45:49 | (欧州・アジア他) 2000~09

倫敦から来た男

2007年/ハンガリー=ドイツフランス

登場人物の心情を執拗に追う緊張感

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

ベルギーの文豪ジョルジュ・シムノン原作といえば「メグレ警視シリーズ」が有名だが、この作品はその対極にある主人公の心の奥底にある本質を探るノワール・サスペンス。映像化が難しい原作を、得意の長廻しのカメラによるモノクロで異様な緊張感を醸し出したのは、ハンガリーの鬼才といわれるタル・ベーラ監督。「ヴェルクマイスター・ハーモニー」以来7年目の新作だ。
北フランスの港町で暮らす主人公のマロワン(ミロス・ラヴ・クロボット)は判で押したような単調な日々の繰り返し。線路の切り替えをする鉄道員の彼は毎夜イギリスから来る船から鉄道に乗りかえる様子を制御室から監視しているが、ロンドンから来た男2人が堤防で争いひとりが海に突き落とされる。突き落とした男は傍らのホテルへ入ったまま出てこない。マロワンは落ちたトランクを拾い開けてみると、中にはポンド札がぎっしり入っていた。
冒頭のこのシーンは、普通の監督なら僅か5分もあれば充分なのに、タル・ベーラはなんと30分近くかけて映像化している。「彼の平凡な生活に疑いを持ちながら、誘惑に打ち勝ち人間の尊厳を保つ勇気を持つ人間であることを願う」監督にとって外せない時間なのだろう。
妻(ティルダ・スウィントン)や娘・アンリエット(ボーク・エリカ)には何も言わず、殺人犯・ブラウン(デルジ・ヤーノシュ)の影に怯える不器用な彼と、まるでリアルタイムで一緒にいるようなテンポでひしひしと訴えてくる。ヒッチコックのように決して大きな音量で観客を恐怖に陥れることはしない。不穏な音楽が深い霧に包まれたこの街と人々を映し出していて、モノクロならではの何とも魅力的な世界である。
俳優はチェコやハンガリーの個性派揃い。主役のM・L・クロボットは感情表現が下手で朴訥な労働者を身体中で表現。妻のT・ウィンストンはアカデミー賞女優らしく、やるせない心情を魅せ好演だが、ノーブルすぎて生活苦が滲み出るような感じはしない。むしろブラウン夫人のフィルテシュ・アーギのまばたきしないアップの表情が見どころ。30分ですむストーリーを、登場人物と一緒に体験した気分に浸った138分だった。


『男と女II』 80点

2009-12-12 15:55:18 | (欧州・アジア他)1980~99 

男と女II

1986年/フランス

続編は観ないつもりだったが...。

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆85点

’66の大ヒット作を20年後に置き換えたクロード・ルルーシュ。彼の代表作でもある「男と女」はライフワークとなっている。
20年間会わなかったジャン=ルイ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ(アヌーク・エーメ)はいい年の取り方をしていた。ジャン=ルイはル・マンからパリ・ダカールとレースは違っていても相変わらずのレーシングの世界にいてオマケに若い婚約者までいる。アンヌはスプリクターから映画プロデューサーとなり女優の娘が主演で2人の出会いと別れを映画化するために再会する。いささかでき過ぎの感は否めないが、ルルーシュは精神科医の妻の殺人事件を挟みながら、2人の再会を立体的に絡めて行く。
PART・1のシーンも挿入しながらフランシス・レイの懐かしいテーマ音楽も健在だった。このテの続編は大抵がっかりするので長い間観ないでいた。あまり期待しないで観たがイメージは壊れずに最後まで楽しめた。


『戦場でワルツを』 80点

2009-12-08 15:47:44 | (欧州・アジア他) 2000~09

戦場でワルツを

2008年/イスラエル=フランス=ドイツ

ネタバレ

衝撃のラストシーン

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★☆☆70点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

「おくりびと」が受賞して逃したアカデミー賞最優秀外国語賞の本命だった。イスラエルのアリ・フォルマンの実体験をもとに映画化したアニメーション・ドキュメンタリー。
’82レバノンに起きた「サブラ・シャティーラ大虐殺事件」は、レバノンのキリスト教マロン派の指導者パシール・ジャマイエル暗殺の報復のため、パレスチナ難民3000人が無差別に虐殺されている。
原題は「バシールとワルツを」である。「戦場のピアニスト」を連想させる邦題による勘違いか、2人連れの老婦人が30分もしないうち退場してしまったほど、暗い色調のアニメと抑揚のないアリ監督自身のナレーションが眠気を催す。映像はビデオで実写撮影を下書きにアニメ化していて妙にリアル。アニメならではの幻想シーンを織り込んでいてもギャップはなく不自然さは感じさせない。
19歳の歩兵だったアリは何故か事件のあった3日間がぽっかりとアナが空いていて記憶がない。心理学者やジャーナリストに協力を得て、かつての旧友たちと会いながら記憶を取り戻す旅を重ねる。ハイライトは上官フレンケルがワルツを踊るように軽機関銃を乱射するシーン。ショパンのワルツOP.64、NO2をバックにした映像は、とても不謹慎ながらアニメならではのファンタジーである。
そして衝撃のラスト・シーンへ。この数分で単なる個人の記憶を取り戻すためのロード・ムービーを超え、平和へのメッセージを訴えたかったことを強烈に思い知らされた。


『ロフト.』 80点

2009-12-06 11:13:36 | (欧州・アジア他) 2000~09

ロフト.

2008年/ベルギー

見事なキャスティングによる密室サスペンス

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

「10人にひとりが観た」という宣伝文句のベルギー映画で、エリク・ヴァン・ローイ監督の群像劇。5人の男が秘密に使うアントワープの川沿いのビルの屋上にある部屋で起きた若い女の殺人事件。
ベルギー映画といえば社会の底辺で暮らす若者を描いた「ロゼッタ」「ある子供」のダルデンヌ兄弟しか思い浮かばないが、これはまるっきり違う作風のエリートたちが起こすサスペンスでよどみないストーリー。バルト・デ・パウという脚本家の手腕によるものだろう。時間軸をずらしながらミスリードを誘う手法に目が放せない。
主役級の建築家ビンセント役のフィリップ・ベーテルス、精神科医クリス役のケーン・デ・ボウをはじめ5人のキャラクターは群像劇に起こりがちな区別がつかなくなる心配がない。妻たちや愛人も魅力的で抜け出たような美人ではないのが妙にリアルでよい。女優陣ではプレビューで来日した市長の愛人役アンのヴェルル・バーデンスのおでこが個性的だった。
R-15なのはエロチックなシーンが多いのではなく、大人たちの愛情や憎しみが複雑に絡み合い残酷な殺人を起こす設定にあるのだろう。都会のエリートたちはどこの国でも欲望と嫉妬が渦巻いていて、ラストシーンで懲りない男と女の世界を思い知らされた。


『スリーピー・ホロウ』 80点

2009-12-01 15:15:12 | (米国) 1980~99 

スリーピー・ホロウ

1999年/アメリカ

ティム・バートンらしさが出たファンタジー

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

ワシントン・アーウィングの原作「スリーピー・ホローの伝説」をティム・バートンが脚色を加えたホラー、ミステリーファンでなくても楽しめるファンタジー。ジョニー・デップとのコンビも絶妙で初期の最高傑作といって良い。
18世紀の終わりNYの北にあるスリーピー・ホローというオランダ系移民が住む村に起きた首なし連続殺人事件を解決するため派遣されたイカボット捜査官(J・デップ)のものがたり。
正義感に溢れ、科学捜査を信望するヒーローなのに臆病でクモを怖がったり、コーヒーカップを持つ手が震えたり何度も気絶するユーモラスなキャラクター。魔女と間違えた父親に母親(リサ・マリー)が殺されたトラウマを抱えている背景もあって、まさにJ・デップの独壇場である。
首切りシーンが何度もでてきたりオドロオドロしい音声で、陰惨さがことさら強調されているところが好みではないが、幻想的な映像が救ってくれる。この年の米アカデミー美術賞受賞作品なのも納得。
競演陣ではカトリーヌ役のクリスチーナ・リッチが不思議な風貌で気になる存在。「アダムス・ファミリー」から成長した彼女を観るだけでも楽しい。ほかにもヴァン・タッセル夫人のミランダ・リチャードソン、首なし騎士?役のクリストファー・ウォーケンからは目が離せない。