晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「スケアクロウ」(73・米)85点

2020-04-26 15:04:16 | 外国映画 1960~79


 ・不器用な男二人の友情を描いたロード・ムービーの傑作。

 「フレンチ・コネクション」(71)「ポセイドン・アドベンチャー」(72)のジーン・ハックマン、「ゴッド・ファーザー」(72)「セルピコ」(73)のアル・パチーノ。当時43歳で日の出の勢いハックマンと、33歳でスターダムへの階段を上っていったパチーノの豪華な初共演。シネモービル方式(大型車両による移動)で撮影したリアルな映像で、カメラマン出身のジェリー・シャッツバーグ監督によるロード・ムービー。カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作品。

 6年の刑期を終え再起を図るためピッツバーグへ向かうマックス(G・ハックマン)と、元船員で5年ぶり故郷デトロイトへ帰るフランシス(A・パチーノ)が南カリフォルニアのハイウェイで出逢う。

 粗野でケンカっ早いマックスと、人とは争わず笑いで乗り切ろうとする臆病なフランシス。最後のマッチ一本が縁でヒッチハイクの旅が始まり友情が深まっていく。
 洗車場を二人でやろうと誘うマックスは、たった一人の身内・妹のコーリー(ドロシー・トリスタン)がいるデンバーで馬鹿騒ぎして警察沙汰になり強制労働するハメになってしまう。
 強制労働場仲間の先輩ジャック(リチャード・リンチ)の誘いにも乗らない孤高のマックスは養豚場の掃除をさせられるが、フランシスことライオンは誘いに乗って洗車という軽労働に・・・。生き方が正反対で仲間割れになりそうだった二人だが、ライオンのピンチをマックスが救い元の鞘に収まる。
 
 スケアクロウとは<案山子>のことで<みすぼらしい人間>という俗語もある。性格が正反対なふたりだが、社会の底辺に生きる不器用な男同志。
 友情が芽生えるうち、ライオンは<笑いを取ることで、カラスから畑を守る案山子のように生きろ>とマックスを諭すが、お互いが助け合うことで旅が続いていく。

 酒場での揉めごとで重ね着していたマックスがケンカせず、一枚一枚脱いで行くのは心の鎧を外すことができたためだろう。

 おどけることで世の中から逃げていたライオンには、五年前に家出して妻アニー(ペネロープ・アレン=好演)と再会するという大事が待っていた。肌身離さず脇に抱えた電器スタンドを5歳の子供へ渡せるだろうか?
 
 痛々しく壊れていくライオンと親身なって救おうとするマックスの終盤は二人ががっぷり四つとなるハイライトで、終始サブ・キャラクターだったA・パチーノのインパクトある演技力を感じさせるシーンだ。

 筆者は<最初と最後が良い映画は秀作だ>というのが持論。砂嵐が舞う南カリフォルニアで二人が出逢うプロローグと、ピッツバーグ行き往復切符を買うためブーツの底から10ドル札を出すマックスのモノローグが秀逸だ。

 シャッツバーグは続編を企画していたが実現せずその後の二人は観られないが、ハッピーエンドの余韻が残るエンディングを壊したくない気がする。

 


 

「サムライ」(67・仏/伊)80点

2020-04-23 12:36:19 | 外国映画 1960~79


 ・ J=P・メルヴィルの緻密な計算が行き届いたフィルム・ノワールの頂点。

 ジョアン・マクロード原作をジャン=ピエール・メルヴィルが監督・脚本化したフレンチ・ノワール。アラン・ドロンが孤独な殺し屋に扮し、フランソワ・ペリエ、ナタリー・ドロン、カティ・ロシエが共演。

 <サムライの孤独は、他の誰よりも深い。同等に深いものがあるとすれば密林にいる虎の孤独だろう。>武士道より
というクレジットで始まるこのドラマは、A・ドロンを想定したメルヴィル・ワールド満載。

 寒々しいパリのアパートで、小鳥と暮らす孤独な男。ひと言もなくタバコをくゆらし、もの思いにふける。モノクロのようなメルヴィル・ブルーに小鳥の音と海の底にいるような音声。めまいを起こしそうなカメラワークは緻密な映像美を追求したメルヴィルの真骨頂で始まる孤独な男ジェフ・コステロ(A・ドロン)。

 孤独なサムライと密林の虎を結びつけた武士道とは、メルヴィルの創作だが、トレンチ・コートにソフト帽をかぶる姿は出陣前のサムライの佇まいを連想させ、盗難車のシトロエンDS21は鞍をつけた馬のようで歩く姿もスタイリッシュ。
 ハリウッド進出に失敗した彼の復活を本作で見事に果たし、メルヴィルとのコンビは「仁義」「リスボン特急」と続いていく。

 共演したのは、強引な捜査でジェフを執拗に追いかける警部にフランソワ・ペリエ。アリバイ作りに協力したジャーヌを演じたパートナーでこれがデビュー作のナタリ-・ドロン。そして殺害を目撃しながら人違いだと証言したナイトクラブのピアノ弾きヴァレリーのカティ・ロシエ。
 特別出演したのがジャーヌを愛人に持つ富豪ビエネルに扮したミシェル・ボワロン監督。「お嬢さんお手やわらかに!」(59)「殿方ごめんあそばせ」(57)でお馴染みだが2年後「個人教授」でN・ドロンをスターにしているのも皮肉な出来事だ。

 メトロでの追跡や陸橋の上での襲撃など名シーンがのちの映画のお手本になったのはその映像がすばらしかった証でもある。

 メルヴィル所有のジェンネル撮影所が残した最後の名作は孤独な男の虚無感漂う印象的なラストシーンで幕を閉じる。
 メルヴィルを支えたアンリ・ドカエ撮影監督とフランソワ・ド・ルーベの調べが欠かせない。

「アメリカン・グラフティ」(73・米)80点

2020-04-20 12:01:19 | 外国映画 1960~79


・ 甘く切ない青春のワン・ナイトもので、ジョージ・ルーカスの出世作。

 「スター・ウォーズ」「インディ・ジョーンズ」シリーズでハリウッドを席巻したジョージ・ルーカスの出世作。デビュー作に失敗した彼の起死回生の2作目は、F・フォード・コッポラ製作によって実現した自身の青春時代を彷彿させるワン・ナイトもの。

 カリフォルニア北部の田舎町ペタルマ。高校を卒業して東部の大学に進学するカート(リチャード・ドレイファス)と違う大学進学に決まっているスティーヴ(ロニー・ハワード)が旅立つ夜、いつものメルズ・ドライヴインに集まった仲間四人のエピソードを追った青春ドラマ。キャッチ・フレーズは「1962年の夏、あなたはどこにいましたか?」

 「ロック・アラウンド・ザ・クロック」「悲しき街角」や「オンリー・ユー」などのオールディズが41曲も流れ、ジーンズやフレア・スカートに身を包んだ若者たちが憧れの車で街を練り歩く。

 同世代だった筆者には、大国アメリカの文化が憧れの国だった時代だ。今の若者には実感はないと思うが、友人が親の車で運転するのを羨ましく想い、<いつか自分も・・・>という願望の記憶がある。
 
 ジョン・ミルナー(ポール・ル・マット)が乗る黄色い31年型カスタム・フォードのデューク・クーペが一目置かれ、スティーヴの58年型シボレーを借りてはしゃぐテリー(チャールズ・マーティン・スミス)の気持ちが手に取るように分かる。

 ガール・ハントの必需品でもあった車だが、なかなか上手く行かない四人の青春は甘く切ないワン・ナイトでもあった。

 日本でもFENで聴くことができたDJウルフマン・ジャックが「新しい人生だ。予定通り出発だ」と励まし、金髪の謎の美女への想いを断ち切ったカート。
 アメリカが白人社会で形成され、ベトナム戦争という忌まわしい時代に突入する前の青春体験は「オール・サマー・ロング」が流れるエンディング・クレジットでその後の四人が明かされる。

 本作で大成功したルーカスは伝説のプロデューサーへの道を歩み出し、スティーヴを演じたR・ハワードは「アポロ13」「バック・ドラフト」などの監督となり、ドラッグ・レースに挑む脇役で出演したハリソン・フォードがスターへ上っていく切っ掛けとなったエポックメイキングな作品でもある。
 

 

「七人の無頼漢」(56・米)75点

2020-04-17 16:05:22 | 外国映画 1946~59


・ ラナウン・サイクルの西部劇7作品で最初のヒット作。

 製作ハリー・ジョー・ブラウン、監督バッド・ベディカー、主演ランドルフ・スコットの黄金トリオによる西部劇で、ラナウン・サイクルと呼ばれている。
 原案はのちに「続・荒野の七人」(66)、「戦う幌馬車」(67)、「大列車強盗」(73)など多数の西部劇を監督しているバート・ケネディで、これが脚本デビュー作でもある。

 愛妻を殺され2万ドル相当の金塊を奪われた元保安官が、幌馬車で西へ向かう夫婦と同行しながら七人の男たちを追って行くストーリー。

 雨の夜、岩場で休むふたりの男にズブ濡れの男が現れるプロローグ。コーヒーを手に語り合う間もなく銃声が聞こえ、カット替わりで男が2頭の馬の手綱を取っているシーンになることで、二人が倒されたことが分かる場面で幕が開く。

 まもなく幌馬車の夫婦やガンマンたちと同行するうち男が主人公の元保安官ストライド(R・スコット)で、愛妻殺しで金塊強盗で逃亡中の七人を追っていることが次第に分かっていく・・・。冒頭の二人はその仲間だった。

 大自然を背景に旅する幌馬車や先住民が登場し、合間にトラブルや銃撃戦があり決闘で幕を閉じるという西部劇に相応しいテーマがしっかりと描かれていた。おまけにラブ・ロマンスまであるのに僅か78分というのも驚かされる。

 ヌーベルバーグを支えたフランス批評家のアンドレ・バザンが激賞したことで名作だと再評価されたのは、もともとB級娯楽西部劇でありながら美しい構図と省略による巧みなカット割りからだろう。
 銃声や水浴びの音だけで画面に出なかったことを想像させる演出の見事さとB・ケネディのシナリオ、撮影監督ウィリアム・H・クローシアの功績も大きい。

 主演したR・スコットはジョン・ウェインの代役だったが、クールな表情とスタイリッシュな身のこなしは役柄にぴったり。碧い瞳の美しい人妻アニー(ゲイル・ラッセル)との淡いラブ・ストーリーも程良い味付けになっている。実直な夫(ウォルター・リード)も損な役柄ながら見せ場は用意されていた。

 好敵手になる若いガンマン、マスターズに扮したリー・マーヴィンがいい。不適な面構えで緑のスカーフのダンディなスタイルは存在感溢れ、ドラマを最後まで引っ張って行く。彼の出世作でのちの大活躍が窺える好演だ。

 最後の決闘シーンは若いマスターズに対し初老のストライドには分があるとは思えないが、早撃ちを巧みなカット割りにすることで名シーンとなった。

 昨年の東京国際映画際のウェスタン特集で屋上上映された本作。西部劇ファンには全盛期を飾る作品のひとつとして見逃せない。
 
 

「追跡者」(98・米)70点

2020-04-13 16:47:22 | (米国) 1980~99 


・T・L・ジョーンズの当たり役を楽しむ。

「逃亡者」(93)で、オスカー助演男優賞を受賞したトミー・リー・ジョーンズが扮したジェラード連邦保安官(補)とその部下たちが逃亡した殺人容疑者の元CIA特殊工作員を追うサスペンス。監督はスチュアート・ベアード、共演はウェズリー・スナイプス、ロバート・ダウニー・Jr。原題は「U.S.Marsyals」

新型コロナ拡大に伴い在宅を余儀なくされ、映画館通いも2か月半ほどご無沙汰している。こんなトキはスカッとするアクション・サスペンスが最適だと思い本作を鑑賞した。

「逃亡者」(93)はリアルタイムで観ている。本作は公開当時評判があまり芳しくないためスルーしたが、懐かしい想いも重なって充分楽しめた。
あれから5年後チキンの着ぐるみで登場したジェラード。サントリーの缶コーヒーBOSSの原型を見る再登板は真面目な捜査に笑いを誘う。
上司のキャサリン保安官(ケイト・ネリガン)やレンフロ(ジョー・パントリアーノ)など4人の部下たちもお馴染みの面々も再登場。
加えて囚人護送機での墜落事故などド派手な序盤は、つかみの巧さが光っていた。

逃亡者の元CIA工作員シェリダン(W・スナイプス)が身を守るため同僚二人の殺人を犯したことがまもなく判明するが、スピード感が溢れ131分の長さを感じさせず編集マンとして実績を重ねた監督の本領発揮によるものだ。

中国人スパイと情報を流した犯人捜査が絡んで外交保安局と連邦保安局との合同捜査という展開は説得力がなく、サスペンスの魅力が希薄になってしまった。これが脚本デビュー作のジョン・ポークの力量不足が要因か?

その分補うかのようにアクション満載で若いW・スナイプスと中盤登場したR・ダウニー・Jr(ロイス捜査官)の切れの良いアクションが際立っていたし49歳のTLジョーンズも大奮闘。
イケメン捜査官に扮したR・D・Jrは当時薬物依存症で苦しんでいたというから驚きだ。

紅一点シェリダンの恋人マリー役のイレーヌ・ジェコブが彩を添えるが、演技力を魅せる場面がなく気の毒。ハリウッドは彼女を活かせる場所ではなかったようだ。

ジェラード保安官とその部下の連邦捜査官の活躍を描いたシリーズ化を企画していた思惑は外れてしまったが、その後「ハンテッド」(03)、「ノー・カントリー」(07)など一連の作品でT・L・ジョーンズのはまり役となっていった功績は大きい。



「三人の名付親」(48・米)80点

2020-04-02 12:53:19 | 外国映画 1946~59


・J・フォード、J・ウェインコンビによるクリスマス西部劇。

 <初期西部劇の空に輝く星、ハリー・ケリーに捧ぐ>というクレジットで始まる西部劇。ジョンフォードの盟友ハリー・ケリー主演「恵みの光」(19)のリメイクで主演はジョン・ウェイン、ケリーの息子H・ケリー・Jrのデビュー作。

 アリゾナで銀行強盗に失敗した三人の無法者がメキシコへ逃亡中、途中の水場で幌馬車を発見する。出産間近だった婦人から生まれた赤ん坊を託され名付親となった三人は、聖書に導かれ赤ん坊を世話しながら砂漠を逃避行する・・・。

 130本以上の作品を手掛け、西部劇でも駅馬車(39)怒りの葡萄(40)荒野の決闘(46)など数多くの名作を生んできたJ・フォード監督。本作は前年亡くなった無声映画の名優H・ケリーを偲んでリメイクしている。
 駅馬車のシーンとともにお馴染みのテーマ曲が流れ、アリゾナの荒涼とした砂漠の映像美など<詩情豊かな映像の詩人>ぶりは健在だ。
 J・ウェインはこの年フォード監督「アパッチ砦」、ハワード・ホークス監督「赤い河」で主演、翌年「黄色いリボン」に出演するなど絶頂期。
 正義のガンマンが多い役柄が定番のデュークにとって珍しく銀行強盗役だが、殺人は一切ないどころか乳飲み子を抱え砂漠を放浪するというサバイバルぶりが見どころの心優しい大男。やはり悪役は似合わない。

 幌馬車で生まれた赤ん坊を聖書に導かれニュー・エレサレムへ向かう三人は、東方の三博士を暗示する。メキシコの名優ペドロ・アルメンダスと賛美歌で美声を披露するH・ケリーJrがそれぞれの持ち味を発揮して力尽きる姿が切ない。
 三人を追うスイート保安官のウォード・ボンド、貯水タンクの管理人フローリー夫人に扮したジェーン・グーウェルなどベテラン俳優のほか、ベン・ジョンソン、フランシス・フォード、ハンク・ウォーデンなどフォード一家が揃う本作。
 リチャード・ヘイグマンのピアノとともにロバにすがって酒場に現れたデュークを温かく迎える。
 「刑は受けるが、母親との約束は破れない」という台詞とともにハッピー・エンドとなるファンタジーは、何時観ても家族揃って楽しめる西部劇だ。ただし傍にミネラル・ウォーターを置いておくことをお勧めする。