晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「頭上の敵機」(49・米)80点

2022-08-26 16:17:43 | 外国映画 1946~59


 ・ リーダーシップの在り方の教材となったH・キングの戦争ドラマ。


 第二次大戦での実戦を忠実に再現した唯一のハリウッド作品と言われた本作。実話をもとに英国駐留米国陸軍・第8空軍の指揮官を通して兵士たちとの信頼関係や苦悩・葛藤を描いたモノクロ映像による戦争ドラマ。 
 
 監督は「地獄への道」(39)の名匠ヘンリー・キング。主演はアメリカの良心ことグレゴリー・ペック。オスカー助演男優賞(ディーン・ジャガー)・録音賞を受賞。

 連合軍と独軍の空中戦実写フィルムや胴体着陸などの撮影によるスリリングな映像で、死と隣り合わせの現場でのリーダーの在り方を問う教材ともなっている。

 米国の弁護士・ストーヴァル(D・ジャガー)は、ロンドンの骨董屋でトビー・ジョッキ(老人の顔をあしらった陶器)を見つけ、7年前年秋の第8空軍918航空群時代を回想する。

 <昼間精密爆撃の信望者>である第8空軍司令官プリチャード少将(M・ミッチェル)のもとで、918航空群指揮官ダベンポート大佐(ゲイリー・メリル)は独軍の猛反撃に遭い部下の士気が低下、対策が執れず苦悩していた。
 精度向上のため低空飛行を命じられ、部下思いの大佐は司令部上官のサヴェージ准将(G・ペック)に猛然と抗議。
 任務より部下を重視する大佐の人柄が欠点であると指摘したサヴェージが指揮を執ることに。

 サヴェージはストーヴァル副官を伴い赴任早々酔っていたゲートリー中佐(ヒュー・マーロウ)を解任し、カイザー軍医(ポール・スチュアート)の忠告も無視し厳しい訓練を挙行。
 パイロット全員が異動届を出すが、ストーヴァルは処理引き延ばしでサヴェージをサポート。さらに厳しい訓練のもとサヴェージ自らB-17機の搭乗し悪天候のなか重要拠点を爆撃無事帰還する。
 悪天候下、帰還命令を無視したことを上司から責められてもサヴェージは部下の奮闘を称えるよう直訴、兵士たちの信頼を勝ち取っていく。

 解任されたゲートリーが負傷したことを隠し闘い続けたのを知ったサヴェージは、彼を大佐に昇進させる。ゲートリーは涙するが、そのときバーの暖炉にはトビー・ジョッキがあった。

 戦渦は益々激化するなか独空軍軍需拠点の爆撃命令が下り、犠牲者を出しながら作戦遂行したサヴェージは空軍本部の移動も断り出撃に拘った。
 しかし限界を超えたサヴェージは出撃直前で錯乱状態に陥りゲートリーに代わる。918航空群の作戦成功をダベンポートから聴かされ漸く落ち着きを取り戻す...。

 二枚目だが大根とも言われていたG・ペック。病に陥った主人公が部隊の成功を爆音で知る瞬間の表情など細かい演技も熟し、演技派でも通用することを証明した貴重な作品となった。
 翌年H・キング監督とのコンビで「拳銃王」に出演後、「ローマの休日」(53)・「白鯨」(56)・「大いなる西部」(58)、さらに「アラバマ物語」(62)と様々な役柄で活躍したのは周知の通り。

 戦争という究極の世界での組織における人間の在り方をどう捉えるか?
 規律の遵守・最適な人材配置・アメとムチの使い分けによる個人育成など、ふたりの指揮官の違いが浮き彫りにされていた。

 サヴェージ准将のモデルとなったのは306航空群アームストロング大佐の在任6週間のできごと。モデルのなかには、のちの太平洋戦終結の英雄として称えられたヒロシマ原爆投下のポール・ティベッツ機長もいたという。
 過去の教訓がありながら未だに戦争が絶えることがない現在、祖国のために戦った英雄たちをどう評価すべきか?永遠のテーマである。

「メンフィス・ベル」(90・英/米)60点

2022-08-12 12:32:00 | (欧州・アジア他)1980~99 


 ・ 爆撃機に搭乗した10人の青春群像劇。


 第二次大戦で英国に駐在した米国第8空軍所属の爆撃機B-17F愛称メンフィス・ベルに搭乗した10人の若者たちが任務遂行する姿を描いた青春群像劇。
 巨匠ウィリアム・ワイラーによる同名のドキュメンタリー映画のリメイクで、こちらはフィクション。娘のキャサリンが製作に加わっている。監督はマイケル・ケイトン=ジョーンズ。

 メンバーは操縦士で真面目なリーダーのデニス(マシュー・モディーン)、詩人で成績優秀な無線士ダニー(エリック・ストルツ)、陽気な副操縦士ルーク(テイト・ドノヴァン)、医大生の爆撃手ヴァル(ビリー・ゼイン)、甘い歌声の後尾銃座クレイ(ハリー・コニック・ジュニア)など。なかにはまだ19歳で自称・持て男の愛称ラスカル(ショーン・アスティン)など、生まれも育ちも様々な若き乗務員たち。
 クレイグ・ハリマン大佐(デヴィッド・ストラザーン)のもとにドイツ・ブレーメンの飛行機生産工場への爆破指令が出た。メンフィス・ベル25回目最後の出撃が決まった。出撃前のダンス・パーティでは普通の若者だが、無事任務遂行が完了すれば隊員たちは帰国できるとあって、不安を隠し将来の夢を語り合い勇気をふるう。

 メンフィス・ベルが米空軍博物館に展示されるほど有名なのは、戦時国債引き受け募集キャンペーンに利用されたため。ワイラー監督のドキュメントもプロパガンダ映画である。
 従って本作でも広報担当ブルース・デリンジャー大佐(ジョン・イスゴー)が若者たちを英雄に仕立てるための準備は怠りない。もちろんメンバー全員が24回も搭乗経験があるわけでもない。
 「父親たちの星条旗」で英雄に仕立て上げられた若者同様だが、本作ではあくまで若者賛歌でハリマン大佐が遺族からの手紙をデリンジャーに読ませるシーンやエンディング・クレジットで「全ての国の戦死者に捧げる」と述べる程度で戦争の悲惨さは抑制気味である。

 みどころは本物のB-17機を使ったリアルな特撮映像とアメリカの正義や良心、搭乗篤い友情を描いたスリリングなエピソード。
 ダニーが「僕は いずれあの雲の上で死ぬだろう・・・。」とイエーツの詩を朗読を詠んだあと出撃。ユージン(コートニー・ゲインズ)がお守りを無くしパニクったり、空中での激しい銃撃戦がありルークが敵機銃撃後僚友機に激突したり死への恐怖が迫ってくる。
 ブレーメンの工場が視界不良で黙視できず、無差別爆撃を回避するため旋回して爆弾投下を選んだデニスの大英断。
 帰還中も旋回銃座が破壊されラスカルの落下危機をバージ(リード・ダイアモンド)が助ける。
 ダニーが負傷して二週間通っただけの医大生ヴァルに託される。必死の手当のあと命を優先して落下傘付きでドイツ人に託すか連れて帰るかで意見が別れる。
 第4エンジンが被弾停止によるあわや炎上を急降下で消火したり、いよいよ着陸というとき片方の車輪がでないなど波乱万丈。
 全てが事実ではないが昼間爆撃を任務としていた初期の作戦では似たようなエピソードは事欠かないことだろう。

 戦争末期45年2月にはドレスデン、3月には東京で無差別爆弾投下をしたアメリカの正義は戦争終結のためだという。
 前にも述べたが筆者はB-29の焼夷弾投下により1歳2ヶ月で死んでいたかもしれない。真面目なリーダーであったデニスのモデルがB-29の搭乗員だったことを知って益々複雑な想いでこゝろの整理がついていない。
 いま中東やウクライナでミサイルが投下され一般人が命を失う現実を観るにつけ、無事帰還で拍手するような作品には色眼鏡で観てしまう自分がいる。

 
 

 
 

 
 

 

「ガンヒルの決斗」(59・米)70点

2022-08-08 12:25:30 | 外国映画 1946~59


 ・ 斬新さはないが二大俳優の競演が見どころ。


 ジョン・スタージェス監督のいわゆる<決斗三部作の3作目>。原題は<Last Train From GunHill>
 先住民の妻を殺した犯人を追ってガンヒルにやってきた保安官マレットのカーク・ダグラスと大牧場主クレイグ・ベルデンのアンソニー・クインによる「炎の人ゴッホ」(56)以来二度目の競演が最大の見どころ。

 50年代全盛期だった西部劇のいいとこ取りをしたようなストーリーのレス・クラッチ・フィールドの原作を「八十日間世界一周」のジェームズ・ボーが脚本とあるがダルトン・トランポがゴーストライターとして加わっている。ここにも赤狩りに批判的だったK・ダグラスの侠気が窺える。

 チェルキー族の妻キャサリン(シヴァ・ロダン)を殺され息子が持ち帰った馬の鞍にCBの刻印を観たマレットは旧友のクレイグ・ベルデンの住むガンヒルのもとへ訪ねて行く。
 いまは大牧場主となっているマレットは大いに歓迎するが、息子リック(アール・ホリマン)の嘘を知り見逃してくれと懇願するが、モーガンはリックを捕らえホテルに立て籠もる。
 ガンヒル発の最終列車で犯人を連行できるか?

 「真昼の決闘」(52)・「ララミーから来た男」(55)・「決断の3時10分」(57)をミックスしたようなストーリーで斬新さはないが「OK牧場・・」のスタッフが再結集され西部劇の楽しさをフンダンに取り入れ二大俳優が対決するカタルシス感たっぷりな終焉を味わえる。

 凜々しい堂々とした風貌でアクションを中心に娯楽映画に捧げたK・ダグラスと「道」(54)での旅芸人サンパノ役や「革命児サパタ」(52)「炎の人ゴッホ」(56)でのオスカー助演賞受賞など印象深い役柄で足跡を残したA・クイン。
 「良い子に育てろ」と言ったA・クインの言葉はカークの息子マイケルを想わせるような台詞だった。

 ふたりに絡む情婦リンダ役キャロリン・ジョーンズは後のアダムズ・ファミリーの妻モーティシャ役でお馴染み。イーストウッド作品で印象深いブライアン・ハットンが息子の友達役で出演している。

 スタージェス監督の代表作といえば「荒野の七人」(60)、「大脱走」(63)といえるが、シンプルだが最後まで目が離せない娯楽作品を作らせたら第一人者と言える。本作でもそんな95分を味わえた。