・ 唯一の実存主義?アメリカン・ニューシネマで、P・ニューマンの代表作。
ポール・ニューマンといえば、「傷だらけの栄光」(56)、「ハスラー」(62)、「明日に向かって撃て!」(69)、「スティング」(74)、「評決}(83)など長年に亘る活躍で、名作に枚挙にいとまがないが、これも60年代・代表作のひとつ。
題名から<刑務所内での受刑者たちや看守との痛快アクションもの>と思いがちだが、ちょっぴり想定外。原題は「Cool Hand Luke」(図々しいルーク)。原作はフロリダ刑務所体験をもとにしたドン・ピアースで脚本も手がけている。監督はスチュアート・ローゼンバーグ。
酔ってパーキング・メーターを壊したことで収監されたルーク(P・ニューマン)。栄光の軍隊で勲章を授与されながら降格され除隊し、自分の居所がないようなそのクールな人物像は、刑務所長や看守たちにとって扱いにくく囚人たちの注目のマトとなる。
容易に動じない姿勢や反骨精神が、ボス的存在のドラグライン(ジョージ・ケネディ)からも一目置かれる存在となって行く。
唯一、心が許せる母(ジョー・ヴァン・フリート)の死で、脱走を防ぐため懲罰房へ入れられる。素直に従うルークだが、その後権威や体制に挑むように脱走を繰り返す・・・。
紛れもない脱獄ものだが、類似作品とは大きく違うのはその理由。「ショーシャンクの空に」(95)は無実の罪で刑務所入りした主人公には、脱獄する目的がハッキリしている。ルークは反体制のための行動で、脱獄後に何をしたいかハッキリしない。刑務所内はポーカーをしたり、茹で卵の早食い競争をしたり、舗装道路の肉体労働以外それなりに自由な雰囲気だ。おとなしくしていれば2年後に出所できるのに脱獄で罪を重くしてしまう。
P・ニューマンの孤独ななかに、周囲を惹きつける不思議な笑顔がぴったりな主人公ルーク。世の中を拗ね<神の存在を否定した人間中心で物事を図る思想>実存主義の持ち主なのだ。彼と正反対で取り巻きに囲まれながら権力には逆らえないドラグラインを演じたG・ケネディ。2人ともオスカーにノミネートされたがG・ケネディが助演男優賞を獲得している。
随所に出てくるキリスト教を暗喩するようなシーンが見られ、ただの脱獄アクションではないことを意識した作りは、当時流行した「アメリカン・ニューシネマ」のひとつだからか?今観ると作為的で不自然な気もする。
シンプルだが主人公の心情を表すようなラロ・シフリンの音楽が、権力に真っ向から挑み、<囚人たちの神となった主人公>のラストシーンを盛り上げている。