晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ベイビー・ドライバー」(17・米 )60点

2018-02-21 13:53:19 | 2016~(平成28~)

・ ハリウッドへ初進出したE・ライトによる娯楽要素満載のクライム・アクション




74年・英国生まれの奇才エドガー・ライトがハリウッドに進出、音楽に乗ったカーチェイスと純愛ストーリーのエンターテインメント。

犯罪者の逃走を助ける<逃がし屋>のベイビー(アンセル・エルゴード)はipodで音楽を聞きながら驚異の運転テクニックで役割を果たして行く。
彼は幼いころ、自動車事故で両親を失い自身も耳鳴りが収まらずipodが必需品なのだ。

<逃がし屋>になったキッカケは犯罪組織のボス・ドク(ケヴィン・スペイシー)の車を盗もうとして仕事の損失を返済するためで、返済完了の最後の仕事は郵便局襲撃だった。

E・ライトは21歳のとき、<ベルボトムズ>のハラハラ・ドキドキ感でカーチェイスを思いついている。音楽の歌詞・ビートにシンクロさせ台詞・アクションを振り付け編集されていて、いわばミュージック・ビデオの映像化だ。

冒頭のカーチェイスと<ハーレム・ジャックル>に乗せてベイビーがコーヒーを買う長廻しはミュージカルのようで、カーチェイス版<ラ・ラ・ランド>と言われる所以。

暴走するカーアクションは英国では不可能なため、ハリウッド進出で思う存分力量を発揮したE・ライト。マニアックなファン向けではなく、普段敬遠しそうな若い女性にも観てもらえそうな配慮もなされている。

ベイビーを演じたA・エルゴートは長身でイケメンだし、その恋人でダイナーのウェイトレス・デボラに扮したリリー・ジェームズとのラブロマンスの行方がどうなるかでラストまで引っ張って行く。

30曲あまり流れる音楽が好みかどうかで評価も違ってくると思うが、筆者のようなロック音痴にも充分楽しめたのは、テンポの良さと映像美によるもの。

ボス役のK・スペイシー、凶悪犯バッツのジェイミー・フォックスが流石の存在感を見せているが、怒ると怖いインテリ犯罪仲間・バディ(ジョン・ハム)の予想外の絡みが終半の盛り上がりにひと役買っている。

親代わりの育ての親ジョセフ(ジョン・バーンサル)や、ベイビーとデボラの純愛がカーチェイスと銃撃戦ばかりの映像疲れを和ませてくれた。

筆者にはウォークマンのソニーが<ipodが大活躍するドラマを製作した>ことに、時代の移り変わりを感じさせ感慨深い。

「パターソン」(16・米 )85点

2018-02-18 12:00:02 | 2016~(平成28~)

・ 日常の中の営みを、詩情あふれるタッチで描いたJ・ジャームッシュ。




「ストレンジャー・サン・パラダイス」(84)以来、独特のオフビートな作品でファンを魅了しているジム・ジャームッシュ監督。筆者はビル・マーレイ主演「ブロークン・フラワーズ」(06)しか知らないが、4年ぶりの本作は初期3部作を彷彿させる語り口で集大成ともいわれている。

ニュージャージー州パターソン市のバス運転手で詩人でもあるパターソンの日常を、ゆっくりしたテンポで綴った7日間を描き、詩情あふれる空気感を醸し出している。

ベッドで目覚め、妻・ローラにキスしてシリアルの朝食を済ませ、愛妻のサンドウィッチを手に歩いて職場へ。
配車係と言葉を交わし、市内を巡回しながら客のたわいない会話を耳にしながら仕事を終える。夕方帰宅して妻のおしゃべりに頷きながら夕食を共にした後、愛犬マーヴィンと散歩に出る。
途中、行きつけのバーでビール1杯を飲みながらマスターと会話を楽しんで帰宅する。

月曜から金曜まで判で押したような毎日だが、ありふれた日常に微妙な違いがある。

パターソンを演じたのはアダム・ドライバー。<スター・ウォーズ>シリーズの悪役だが、筆者には近作「沈黙 サイレンス」(16)でガルパ神父役の印象が強い。独特の風貌で、役柄にどっぷりと浸かった感性で演じ切り本物感が漂う。
寡黙だが、携帯電話もPCを持たず手書きのノートに綴る詩を愛し、妻を愛し、心許せる場所を愛する優しい心の持ち主。イザというとき素早い反応を見せる元海兵隊員でもある。

妻・ローラに扮したのはイラン系美人女優のゴルシフテ・ファラハニ。インテリアからケーキまで白黒模様にのめり込み、PCでギターを買い教則本で覚えた歌でカントリー・ミュージシャンを夢見る天然感性の人。

一見性格も趣味も違う夫婦なのに、お互いへの愛情は深く距離感がほどよく、週末は仲良くホラー映画を観に行く。

そんな二人に嫉妬するイングリッシュ・ブルドッグのマーヴィンが事件を起こしたりする。

あらすじを書いてもこの作品の良さは伝わらないが、感動のあまりついつい長文になってしまった。

最後に登場する日本人詩人(永瀬正敏)が、パターソンと出会う滝の名所グレート・フォールズ・パークでウィリアム・C・ウィリアムの詩を語り、「詩への理解が、異民族を結ぶ唯一の絆」という言葉が象徴的。

何気ない日常のなかにある出来事を、独自のユーモア・センスで優しく描かれるパターソンの日々が、とても愛おしく豊かに見えてくる。




「ミスター・ノーボディ」 (73・伊/仏/西独 )75点

2018-02-14 06:48:33 | 外国映画 1960~79

・ ファンには味わい深い<最後のマカロニ・ウェスタン>。




「怒りの荒野」(67)のトニーノ・ヴァレリ監督というよりセルジオ・レオーネ原案、製作総指揮として名高い<最後のマカロニ・ウェスタン>であるとの印象が深い。

伝説の老ガンマンと謎の風来坊が登場するこのドラマはウェスタン好きには味わい深く、西部のアウトローへの挽歌でもある。

老ガンマン・ジャック・ボーレガードには正統派ヘンリー・フォンダ、風来坊ノーボディには甘いマスクでとぼけた味のテレンス・ヒルが扮し、エンニオ・モリコーネの音楽とともにドラマが進行する。

「荒野の用心棒」(64)で火をつけたイタリア製西部劇を、米国ではスパゲッティ・ウェスタンと呼ばれたマカロニ・ウェスタンの元祖S・レオーネ。

そろそろ終焉を迎えようとしていた頃、T・ヒル主演の「風来坊」シリーズが大ヒット。その喜劇性に疑問を持ち侮辱されたのでは?という思いから本作を考案したという。

監督したT・ヴァレルは、パロディを随所に織り込みながらクールでスタイリッシュな二人の位置づけをブラシュアップして撮影に挑んでいる。

序盤ではサム・ペキンパーへの皮肉を込めたハイスピードでの射撃シーンやワイルドバンチが登場、墓標にはS・ペキンパーの名まで・・・。

最大の見せ場は口笛とともに流れる「ワルキューレの騎行」をモチーフとしたテーマソングで現れた150人のワイルドバンチとジャック一人の対決。それを汽車から見つめるノーボディ。

さらにジャックとノーボディの決闘へと続くラストシーンは意外な終結を迎え、伝説のガンマンは不滅となった。

かなり完成度が高く評判も良かったが、レオーネへの賛辞が高まったためヴァレリにとっては不本意な結果となってしまった作品でもある。



「ブランカとギター弾き」(15・伊 )70点

2018-02-10 14:06:15 |  (欧州・アジア他) 2010~15

・E・クストリッツアに見出された日本人監督の長編デビュー作。




ヴェネツィアのワークショップで注目されエミール・クストリッツアに見出された長谷川宏紀の長編デビュー作はマニラのスラム街を舞台に孤児の少女と盲目のギタリストとの交流を描いた大人のファンタジー。

ヴェネツィア映画祭のマジックランタン(若者からの)・ソッリーゾ・ディベルソ(ジャーナリストからの)各賞を受賞している。

窃盗や物乞いで暮らすスラム街の孤児ブランカ(サイデル・ガブテロ)は街頭TVでセレブが養子を貰うニュースを見た大人が「いい女だな。金があったら買いたいな」というのを見て、母親を買うことを思いつく。

盲目のストリート・ミュージシャン、ピーター(ピーター・ミラリ)を誘って旅に出る。旅先でも窃盗で金を調達したブランカは、3万ペソで母親を買うというビラを作り街中で貼り始める。

ピーターは何もかも見越したように歌でお金が稼げることを教え、レストランで歌う仕事を得ることに成功したが、ベッドで寝起きする生活は長続きしなかった。

75年生まれの長谷川監督は20代の頃からマニラのスラム街を訪れていつか映画にしたいと思っていたそうで、恩師クリトリッツアの<グローバルに世界を見て、ローカルに立て>を実現した。

主演のブランカを演じたS・ガブデロは、You Tubeで歌っているのがキッカケで起用された演技未経験。共演したピーターはキアポ教会の地下道で監督と出会い短編に出演したストリート・ミュージシャン。

ほかにもセバスチャンやラウルのストリート・チルドレンはオーディションで選ばれ、街角に立つトランスジェンダーの人達も本物感たっぷり。

おじいちゃんと孫のような二人が出会い、交流を重ねるうち心の繋がりが深まっていく。シンプルだが、現代の寓話的なストーリーは、<金では買えないもの><本当の貧しさ>とは何か?を暗示するような言葉がちりばめられている。

ピーターが奏でブランカが歌う「カリノサ」はフィリピン民謡を監督が作詞している。パリでシナリオを書きフィリピンで撮影し、韓国で編集した本作は、貧しさ・差別というボーダレスな問題を改めて考えさせる。

長谷川監督には日本での次回作を期待したい。










「ボブという名の猫」(16・英 )70点

2018-02-09 12:00:39 | 2016~(平成28~)

・ 猫好きにはたまらない、癒しと人生再生のドラマ。




 ロンドンでストリート・ミュージシャンの若者が野良猫との出逢いがキッカケでセカンド・チャンスをものにするという、実話をもとにしたドラマ。原作「ボブという名のストリート・キャット」を映画化、監督は「007トゥモロー・ネバー・ダイ」のロジャー・スポティスウッド。

  ジェームズ・ボーウェン(ルーク・トレッダウェイ)は、ミュージシャンになる夢が果たせず薬物依存となりメタドン療法中。ソーシャル・ワーカーのヴァル(ジョアンヌ・フロガット)は、ホームレス状態だった彼に再生の見込みがあるとアパートの世話をする。

  そこへ侵入してきたのがケガをしている茶トラの野良猫だった。ボブという名のなずけ親である隣人ベティ(ルタ・ドミンタス)の好意により動物病院へ連れて行く。治療費はタダだったが薬代は有料でなけなしの金をはたく破目に・・・。

  キャサリン妃も絶賛したというボブは本人(猫)が出演している。猫は独立心が旺盛で、撮影では相当の苦労が忍ばれるが、代役7匹とともに猫好きにはたまらない。副題にあるハイタッチやジェームズに寄り添う姿がとても可愛く代役には不可能な堂々たる演技。ちなみにギャラはキャットミルクとチーズだったとか。

  両親の離婚でオーストラリアと行ったり来たりの経験を持つジェームズは、薬物に走った自分の過失を素直に認め、経験を正直に書いたという。

  映画は、同じ境遇の若者バズや兄の死がトラウマになっているベティのようなロンドンの底辺に暮らす若者像を描写しながら、セカンドチャンスをものにできる仕組みもさり気なく伝えている。

  チャンスをものにするにはキッカケとなった「You Tube」の存在。勿論本人の頑張りと周りのベティ・ヴァル・出版を持ち掛けたメアリーの支援があったからでもある。

 現在、ホームレスの自立支援や動物福祉活動に参加しているジェームズ。本作が最大のツールであることは間違いないが、ドラマとして充分機能しているのはR・スポティスウッド監督や俳優・スタッフの力量による賜物だ。

「スターリング大進撃」(15・ロシア )70点

2018-02-06 11:14:01 |  (欧州・アジア他) 2010~15

・ 小品ながら拾い物の良質な戦争ヒューマン・ドラマ。




42年ナチス・ドイツ軍がロシア南部に侵略した「ブラウ作戦」。ロシア軍参謀本部の作戦失敗により銃殺刑が決まった若き中尉と本部へ送還する役目を命令された衛兵が、生死を共にするうち相互に生まれる儚い友情を描いたロシア製戦争ドラマ。監督はセルゲイ・ボボフ。

ロシア映画なので戦争オタクには戦車が本物感があり戦争シーンもリアルに映る。欧米の派手な戦争アクションと比較するとかなり見劣りするが、なかなか見応えある作品に仕上がっている。

邦題が勇ましく、おまけに副題が<ヒトラーの蒼き野望>とあるので、大掛かりな戦争映画を想定するが、ヒトラーは登場せず若き兵士の友情物語を通じて戦争の虚しさを訴えている想定外の展開。

原題の「ベルリンへの道」もぴんと来ないが、売らんかなの題名創りは作品イメージを損なう典型的な事例。

参謀本部がナチス軍に翻弄され指令を伝えられず部隊が壊滅状態になり、責任を押し付けられたオルガホフ中尉(ユーリー・ボリソフ)。即席軍法会議で銃殺刑が決まってしまう。刑が執行されるには本部の承認がいるため、見張り役だったズラバエブ衛兵(アミール・アブディカロフ)が本部へ護送する役目を命令される。

若きロシア人エリート中尉と堅物で文字も書けないカガフ人兵卒の命懸けの旅は、敵の襲撃が何時あるか分からない運命共同体でありホノかな友情が芽生え始める。

思わぬ展開から二人は英雄扱いにされるシーンはイーストウッドの「父親たちの星条旗」(05)を連想したり、全体の流れはジョン・ウーの「ブロークバック・マウンティン」(06)のようでもある。

ズラバエブがオルガホフに頼んだ母への手紙は届いたのだろうか?戦争に翻弄される兵の悲劇を静かに描いた拾い物のヒューマンドラマだった。




「シークレット・アイズ」(15・米)70点

2018-02-04 17:03:04 | (米国) 2010~15

・ J・ロバーツ、N・キッドマン初共演による「瞳の奥の秘密」のリメイク作。




オスカー外国語映画賞を受賞したアルゼンチン映画「瞳の奥の秘密」(09)を、キウェテル・イジョフォー主演、ジュリア・ロバーツ、ニコール・キッドマン共演によってリメイクされたサスペンス。監督は「ニュースの天才」のビリー・レイ。

02ロスで、9.11同時多発テロをキッカケに組まれた「テロ対策合同捜査班」チームのFBI捜査官レイ(C・イジョフォー)が殺人事件発生で駆け付けた現場で発見された被害者親友ジェス(J・ロバーツ)の愛娘だった。

捜査に乗り出したレイはエリート検事クレア(N・キッドマン)共々容疑者特定に漕ぎ着けるが、何故か真相は闇に葬られてしまう。

レイはFBIを退官後、犯人逮捕に執念を燃やしていたレイは独自捜査を続けて、13年後ついに容疑者を発見した・・・。

「瞳の・・・」を観た筆者は結果を知っていたので更なるひねりに興味があったが、オリジナルとして観た場合キャッチフレーズにある<衝撃のラスト20分>は、意外な展開に驚いたことだろう。

更なるひねりは、納得したがはっきり決着させたいハリウッド流を実感した。

最大のハリウッド流アレンジは同い年のJ・ロバーツとN・キッドマンの初共演。オリジナルのジュリアの役は男で被害者は新妻だったが、役柄を変えて実現したもの。

そのため二人のバランスを取るためかニコールの見せ場が激減。レスがクレアに好意を抱きながら不相応だとあきらめる微妙な相互の心理描写が台無し。彼女の見せ場はブラウスのボタンが外れたまま容疑者とのやり取りするぐらい。

オリジナル同様、現在と事件発生時の展開が交錯しながら進むサスペンスは13年前(オリジナルは25年)との区別がつきにくく、J・ロバーツがメッキリ老けて見えるくらいで二人の変化は分かりにくいのが難点。

オリジナルの持つインパクトや情緒・深みに欠けるきらいはあったが、豪華キャストによるハリウッド流アレンジを楽しみながら観ることができた。



「ナイト・アンド・ザ・シティ」(92・米)60点

2018-02-03 12:11:08 | (米国) 1980~99 

・ 「街の野獣」(50 J・ダッシン監督)を、A・ウィンクラー監督、R・デ・ニーロ主演でリメイク。




赤狩りで米国を追われたジュールズ・ダッシン監督がジェラルド・カーンの小説を映画化した「街の野獣」(50・R・ウィドマーク主演)を、舞台をロンドンから90年代のNYへ移し、アーウィン・ウィンクラー監督、ロバート・デ・ニーロでリメイク。

デ・ニーロ扮するしがない弁護士ハリーが、ボクサー同士の揉め事を知り示談を狙ったのがキッカケで、ボクシング界に魅せられ興行師になろうと大奮闘する物語。

A・ウィンクラーといえば、ロッキーシリーズのプロデューサーで有名な人だが、「真実の瞬間」で監督デビューし、本作が2作目。

デ・ニーロといえばNY大好きでボクシングでは「ライジング・ブル」など名作を輩出。しかも前年「ケープ・フィアー」で共演したジェシカ・ラングがコンビとなれば、自ずと期待が膨らむ。

デニーロ好きの筆者。ほとんど出ずっぱりで口先三寸の三流弁護士のデニーロだが、何とか這い上がろうとする男の悲哀さに欠け、軽さもなく失敗作と言わざるを得ない。

夫から独立して酒場経営を目指す愛人ヘレン役のJ・ラングは好演だが、あまりにも好い人で現実味がない。

拾い物だったのが、元ボクシング・チャンプのアル役・ジャック・ウォーデンや高利貸し・ペック役のイーライ・ウォラックが見られたこと。

「羊たちの沈黙」のタク・フジモトのカメラもダウンタウンの雰囲気を捉え、エンディングに流れるフレディ・プリテンダーの主題歌<グレート・プリテンダー>がぴったりだっただけに、シナリオさえ良ければ名作になれたのに・・・と想わせる作品だった。