晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『グッドモーニング・ベトナム』 70点

2011-09-28 16:01:55 | (米国) 1980~99 




グッドモーニング・ベトナム


1987年/アメリカ






サッチモの歌が心に沁みる





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shinakamさん


男性






総合★★★☆☆
70



ストーリー

★★★☆☆
65点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★☆☆
70点




ビジュアル

★★★★☆
75点




音楽

★★★★☆
85点





ベトナム戦争関連映画ではちょっぴり風変わりな切り口の作品を「レイン・マン」のバリー・レヴィンソンが監督。実在のDJエイドリアン・クロナウアーをロビン・ウィリアムズが演じている。
ベトナムでの兵士の士気を高めようと米本国空軍兵で人気のDJクロナウアーがサイゴンへ派遣された5ヶ月間を描いている。
戦地でのラジオは最新ニュースと癒し音楽の放送だが、ニュースには検閲があって当然ネガティブな情報はオフリミット。音楽もビッグバンドのイージー・リスニングが中心。ところがクロナウアーのDJはシャウトで始まりギャグ・ジョーク・モノマネ満載のマシンガントークとロックンロールのオンパレード。たちまち兵士たちの人気者になるが型破りのDJを上官たちは気に入らない。
R・ウィリアムズ扮する主人公は兵役義務で遠くまで派遣された普通の兵士を勇気づけるための言動で、皮肉とスラング連発は品位はないがタブーを破ることで元気になることは確かである。この喋りは台本はなくR・ウィリアムズのフリートークをいっぱいテイクしておいて、編集したらしくナンセンス・ギャグを味わうにはそれなりの知識がないとついて行けない。
それは割り切れるがベトナム蔑視が反戦の視線では描かれず、米国人の平常のベトナム感なのが見ていて辛い。かつて日本人もアジア諸国に同じ行為をしたことは拭い去れない事実だが、少なくとも差別に対しての反省はあった。
主人公も入国早々アオザイの少女を追いかけまわしたし、親戚に札びらを切って見せる。本当の友人とはかけ離れた行為だ。英会話教室も野球を楽しむことも善意だが、米国文化の押しつけともいえる。
事実をもとにしているので大胆な脚色は本意ではないだろう。予想外に評価が高いのも当時の米国感情にはベトナム少年の涙ながらの抗議が勇気ある映像だったのだろう。
救いはサッチモのWhat a Wonderful Worldをバックに映った映像はこの作品の総てを語ってくれて心に深く沁み込んでいった。






『ベッドタイム・ストーリー』 75点

2011-09-25 13:23:43 | (米国) 2000~09 

ベッドタイム・ストーリー

2008年/アメリカ

意外なキャスティングでディズニーらしいファンタジー

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

ディズニーがクリスマス・シーズンに合わせ製作費8千万ドルを投入したファミリー向けコメディ・タッチのファンタジー大作。
「ベッドタイム・ストーリー」とは子供を寝かしつけるため語って聴かせる物語のこと。これにはタブーがあって、子供に語らせること・自分を主人公にすること・ハッピー・エンドにしないことの3つだった。独り者の主人公が姉の留守中、子供たちに聴かせた物語が本当になるというファンタジーだが、タブーを全て破ってしまうことで物語が展開して行く。これを観たあと大人たちはどうストーリーを続ければいいのだろうと余計な心配をしてしまう。
キャスティングに意外性があって主人公のスキーターにディズニーとは一見無縁なアダム・サンドラー、その敵役ケンドルにシリアスなイメージのガイ・ピアースが扮し、ホテル経営の跡目争いをするのがとても新鮮だ。
ディズニーらしく中世の騎士モノ、西部劇、宇宙SFなどVFXを駆使した贅沢なファンタジーが続いて出てきて、底力を感じざるを得ない。日本でも中島哲也監督作品「パコと魔法の絵本」(08)があるが大人も子供も楽しめるような作品が欲しい。


『昼下がりの決斗』 75点

2011-09-24 12:13:24 | 外国映画 1960~79





昼下がりの決斗


1962年/アメリカ







リアリズムと見え隠れするダンディズム西部劇





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
75



ストーリー

★★★★☆
75点




キャスト

★★★★☆
75点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
75点





のちに「バイオレンスの巨匠」「最後の西部劇監督」と呼ばれたサム・ペキンパーの監督2作目。
カリフォルニアの鉱山で発掘された金の搬送人として雇われた元保安官スティーヴ。旧知のギルと再会した彼は助手のヘックと出発する。もう老境に入ったスティーヴとギルだが、どこか死に場所を探しているようなスティーヴとまだやまっけがあるギルでは目的が違うようだ。
のちに話題作を世に送り出したペキンパーもこの頃は出身であるTVの西部劇ディレクターだった名残りもあって、ド派手なアクションもバイオレンス描写もなくリアルな西部劇の風情。とはいえ従来の正統派とは違ってリアルで斬新なストーリーがマニアには高い評価を受けている。
ジョエル・マクリー扮するスティーヴは最後まで正義にこだわり、ランドルフ・スコット扮するギルは旧友との友情と裏切りが交錯する。若いヘックの恋人エルザの頑固な父との断絶、若さゆえの無謀な行動は現代風で従来の西部劇では描かれなかったシチュエーション。時代は保安官が警官に変わり、自動車や中華料理店など新しい文明が見え始め<些細なメンツで無意味な正義漢を発揮することの虚しさ>が伝わってくるような切なさを味わう。
西部劇には欠かせない銃撃戦はロングショットとフォーカスを交互に入れた緊張感を出す映像手法はリアリズムを意識したペキンパーならでは。紅葉が美しいセラネバダの山もダンディズムにこだわった主人公の描写には欠かせない。






『テキサスの五人の仲間』 90点

2011-09-23 12:54:50 | 外国映画 1960~79

テキサスの五人の仲間

1966年/アメリカ

シリアスな展開なのに、何故か軽妙

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 90

ストーリー ★★★★☆90点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

TVドラマ出身のフィルダー・クックが製作・監督した隠れた西部劇の傑作。
「ハスラー」のシドニー・キャロルによるポーカーゲームを題材にした脚本は、シリアスなのに何故か軽妙な展開に引き込まれ文句なしに面白い。
ダッジ・シティで5人のギャンブラーによる年に一度大金を賭けたポーカー・ゲームの開催日。会場のホテルは野次馬たちが興味深々で大騒ぎの中、旅の途中1泊することになった3人家族。夫のメレディスがポーカー狂いで飛び入り参加、農場を買うために10年掛かりで貯めた有り金を失うピンチに陥る。
ポーカーと聞いただけで目の色が変わる夫にヘンリー・フォンダ、凛とした賢夫人にポール・ニューマンの奥さんジョアン・ウッドワード。2人ともオスカー俳優でH・フォンダは<実直なアメリカの良心>J・ウッドワードは<貞淑な妻>のイメージが焼き付いている。このイメージが巧く作用してこのドラマをグイグイ引き込んで行く。
なにしろ「一生に一度あるかないかの良い手」の最中に心臓発作で倒れたメレディス。なんと続きを妻のメリーに託しドクター(バージェス・メレディス)の家へ担架で運ばれてしまう。
メリーを相手にするギャンブラーたちが個性的。牧場主のヘンリー(ジェイソン・ロバーズ)は娘の結婚式、弁護士ハバーショウ(ケヴィン・マッカーシー)は牛泥棒弁護の裁判で抜け出したし、迎えに行ったベン(チャールス・ビックフォード)は商売道具の葬儀用馬車で疾走。牛の仲買いをするジェス(ジョン・カレン)も奥さんと3年も会っていない。胴元ドラモント(ロバート・ミドルトン)を加えた5人は一癖も二癖もありそうな人ばかり。ポーカーのルールも知らないメリーは賭け金の工面まで迫られる絶体絶命に...。カードを手に銀行頭取バリンジャー(ポール・フォード)へ金を借りに行く。
これ以上はネタバレになるので書きようがないが<絶妙な邦題>にヒントがありそう。
95分の小品ながら2人の演技とJ・ロバーツ、C・ビックフォード、B・メレディスなど粒ぞろいで個性的な名脇役達の絶妙なキャスティングを心行くまで堪能することができた。


『アウトロー(1976)』 80点

2011-09-22 10:43:36 | 外国映画 1960~79

アウトロー(1976)

1976年/アメリカ

建国200年記念に相応しい?

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆75点

フォレスト・カーターの原作をクリント・イーストウッドが監督・主演する西部劇。建国200年記念というだけあって、南北戦争末期のミズーリ・カンザスを舞台に孤独のガンマンが出会ったさまざまな人々との関わりを描いている。
俗に言うマカロニ・ウェスタンで再生したイーストウッドにとって西部劇は帰郷するようなもの。この年は<ダーティ・ハリー3>でスター入りしていたにも関わらずこの作品は「荒野のストレンジャー」以来の西部劇で思い入れも深い。「シェーン」を敬愛するだけあって孤独なガンマンはまさにはまり役だが、今回はひとり旅ではない。
妻子を北軍ゲリラ部隊長に殺され家を焼かれた男が南軍に加わったが、終戦。部隊長に復讐するために旅を続けるうちにお尋ね者として追われるハメになる。北軍や賞金稼ぎに命を狙われながら、先住民や開拓移民など旅の途中で連れが増えて行くのが面白い。女や犬まで、まるで家族の大移動である。
アリゾナ・ユタ・カリフォルニアと大規模なロケを重ねた風景を背景に情緒たっぷりに映像を重ねて行く手法はイーストウッド作品には欠かせないが、大画面に映る人間の小ささも伝わってくる。
脚本はフィリップ・カウフマンとソニア・チャーナスで丁寧な構成はさすがだが、少し冗長になってしまったのが残念。イーストウッドらしい無駄のないテンポの良さがまだ見られないのは脚本に忠実だったからだろうか?
顔に切り傷がありビーフ・ジャーキーを噛みながら茶色のつばを吐く主人公ジョージ・ウェールズは確かに「アウトロー」の風貌だが、仇の部隊長テリル大尉を殺すことで目的は果せる。つい関わりを持ってしまうヒーローはどこか<木枯らし紋次郎>的だ。
先住民チェロキー族のローンはワシントンでリンカーン大統領へ直訴したという。北軍に味方したコマンチ族のテン・ベアーズは本当の男を信用する義侠心のある男で2人の先住民は敵役ではないところが如何にも記念映画らしい。
農民だった男が早撃ちのガンマンだったり、銃をもったことのない女・年寄りが騎乗している男たちを射殺したり、西部劇ファンには不自然な銃撃戦もあるが、そこは目をつぶってアメリカの歴史の1ページを懐古してみたい。ラスト・シーンは西部劇では大切だが、男の友情が滲み出る爽やかなエンディングで心地良い。


『シマロン(1960)』 80点

2011-09-21 10:29:38 | 外国映画 1960~79




シマロン(1960)


1960年/アメリカ






壮大な西部開拓史劇のリメイク 





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
80点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
85点




音楽

★★★★☆
75点





 エドナ・ファーバーの原作で31年・第4回アカデミー最優秀作品賞・脚本賞受賞作品のリメイク。アーノルド・シェルマン脚本、アンソニー・マン監督はオクラホマの壮大な西部開拓史を前半は夫ヤンシー、後半を妻セイブラ中心に描き、一見<一粒で2度美味しいドラマ>を完成させた。
 正義の男シマロンと呼ばれたヤンシーが奮闘する前半は西部劇そのもの、とくに序盤の土地獲得レース「グレート・ラン」の再現は圧巻でA・マンの本領発揮ぶりが伺える。
 ところが途中から放浪癖のあるヤンシーが新しい土地を求め街を出ると、夫の留守の間オクラホマ・ウィグワム新聞社を守りながら街の発展に寄与するセイブラの女性のドラマへ方向転換、観客を戸惑わせてしまう。どうやらA・マンが途中降板した影響が出てしまったようだ。シマロンは知事の推薦を受けるほどの街の英雄で銅像も立っているが、フロンティア終了の地には居場所がなかった。自由と平等を実践した男の物語から夫婦の物語として描かれ、主役はだんだんオーセージという街の物語へ代っていった。このあたりは原作に近くリメイク版の中途半端さは否めない。
 ヤンシーを演じたグレン・フォードは終盤見せ場もなく時代遅れの男となってしまった。妻セイブラのマリア・シェルは50年代欧州文芸作品での作品が多く、なかでも「居酒屋」でのアル中になった薄幸のヒロインが印象に残る。今回女の半生を演じたが晩年の老け役に無理があり少し荷が重かったか?
 脇役ではヤンシーを慕うバンプ役デクシー・リーのアン・バクスター、グレート・ランに参加して得た荒地から石油を掘り当て街の名士へのし上がったトム・ワイヤット役のアーサー・オコンネルが適役。ウェストサイド・ストーリーでお馴染みのラス・タンブリンのアップが見られるのもファンには楽しみのひとつ。
 原作を大胆にアレンジしようと大作に挑んだ本作は及第点はつけられてもグレート・ランの印象が強烈で尻つぼみになってしまった。






『シャネル&ストラヴィンスキー』 80点

2011-09-19 10:57:22 | (欧州・アジア他) 2000~09

シャネル&ストラヴィンスキー

2009年/フランス

触発し合ったシャネルとストラヴィンスキー 

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

クリス・グリーンハルジュ原作・脚本をヤン・クーネンとカルロード・グニティが脚色して、Mビデオ出身らしく美しい映像に定評のあるヤン・クーネンが監督している。
1913シャンゼリゼ劇場で初演されたオペラ「春の祭典」は、ストラヴィンスキーの革新的音楽とニジンスキーの振付けが酷評される。数少ないブラボーの声に賛同したココ・シャネルは7年後ミシアが主宰するサロンで再会したストラヴィンスキーへガルシュに所有するヴィラで暮らすことを提案する。妻と4人の子供とパリで亡命中のストラヴィンスキーは家族ともどもというシャネルの提案を受けることに。
シャネル生誕125周年を記念した映画の3作目。史実を踏まえた映画なのでどこまで本当なのだろうか?と関心を抱いてしまうが、フィクションとして観てもなかなか面白い。シャネルは13年ドーヴィルにブティックをオープンし、最愛のヒトでパトロンでもあったアーサー”ボーイ”カぺルを失い孤独を囲っていた。シャネルは芸術家としての孤独とエゴをストラヴィンスキーに自分を重ねていたのだろう。シャネルが生涯独身を全うしたが愛したヒトは3人とも仕事のパトロンかパートナーだった。ストラヴィンスキーとはボーイと香水のパートナーであるディミトリ・パロヴィッチの隙間に出逢っている。ひとときの出来事から真実に迫り、人生を芸術に捧げ触発し合った2人について描こうとしたのだろう。
シャネルは自立した女として妻子が同居する男を愛しながら「君は芸術家ではなく洋服屋だ。」といわれ「私は愛人ではないのよ。」と言い放つ。その間女の強さを香水にしたのが<NO.5>というが、エピソードとして描かれる程度で感動はない。
名言が多いシャネルだが本作は言葉は少なく、演じたアナ・ムグラリスがその風貌とスタイルでシャネルを表現している。ストラヴィンスキーを演じたマッツ・ミケルセンも台詞よりその孤独な風貌と筋肉質の体による演技で独特の世界を創っている。ドラマとしてもっとも印象に残る演技をしたのはストラヴィンスキーの妻カトリーヌを演じたエレーナ・モロゾワ。病弱ながら写譜としてカケガエのない存在。白と黒で統一したシャネルトーンにさり気なく赤い服で主張する。妻のいる男を愛して恥ずかしくないのかといって去ってゆく別の女の強さを見せていた。
触発し合った2人だが、3大オペラでひとつのスタイルを創ったストラヴィンスキーがバロックへの回帰をした新古典主義に転換したのはシャネルと関係があったのだろうか?


『愛を読むひと』 85点

2011-09-17 17:10:20 | (米国) 2000~09 

愛を読むひと

2008年/アメリカ=ドイツ

行間を読みながら感じる想い

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

ベルンハルト・シュリンクのベストセラー「朗読者」をスティーヴン・ダルドリーが監督した話題作。
弁護士のマイケルは妻と別れ娘を母に預けたまま独り暮らし。長年心から離れない想いが心を憂鬱にさせることがある。それは15歳のマイケルが気分が悪くなったとき看病してくれた21歳年上のハンナとのこと。
序盤は孤独を抱えた年上の女性と少年の物語でスタートする。激しく求めあう二人には少年を有頂天にさせるが、愛というには余りにも不自然な関係である。何故かハンナは少年の読書好きなのを知り朗読をせがむ。それは種類を問わず「オデュッセイヤ」「犬を連れた奥さん」「チャタレー夫人の恋」まで。ある日路面電車の車掌で真面目さを買われ事務職に変わることでこの関係は突然壊れる。
マイケルはハイデンベルグの法科大となり、ハンナとの意外な再会をする。ハンナはSSの戦犯で収容所の看守だった。
序盤にハンナの抱える「秘密」への伏線を巧妙に折り込んで物語は<人間の尊厳とは?>というシリアスなテーマへと進んで行く。
マイケルにはレイフ・ファインズが扮し青少年時代をデヴィッド・クロスが演じている。悩みを抱えたまま翻弄された人生を送り大人になったマイケル。憂いのある風貌はファインズ得意の役柄だ。D・クロスが多感な少年時代と青年になり分別を持つことで悩みが深くなるサマを、表情の変化で巧みに表現してなかなかの好演。
30代でフルヌードで少年を誘惑し心の隙間を埋めようとする女から、60代で深く切ない老いの姿まで、複雑な女の運命に苛まれた心の襞を全身全霊で演じ、6度目のノミネートでオスカーを獲得した。この役をニコール・キッドマンに譲らずに良かったと述懐したことだろう。
行間を読みながら感じる文芸作品の映画化だけに難しかったと思うがS・ダルドリーは見事に映像化してくれた。主人公がマイケルではなくミヒャエルでドイツ語だったらと思うのは贅沢な願いなので我慢しよう。


『ジェイン・オースティン 秘められた恋』 80点

2011-09-16 11:04:23 | (欧州・アジア他) 2000~09

ジェイン・オースティン 秘められた恋

2007年/イギリス

18世紀末、ハンプシャーの情景が蘇る映像

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

英国の女流作家ジェイン・オースティンとのちの政治家トーマス・ルフロイとの恋は、火遊びだという定説をくつがえす伝記作家ジョン・スペンスの原作をサラ・ウィリアムズ、ケヴィン・ウッドが脚本化。「キンキーブーツ」で名を上げたジュリアン・ジャロルドが監督したラブ・ストーリー。
1795クリスマス休暇で親友の故郷ハンプシャーに来たトム。ロンドンで暮らすトムには、田舎の暮らしは軽蔑の対象でしかないが、親友ヘンリーの妹ジェインとのユーモアと機知に富んだやりとりに少しづつ惹かれるものがあった。
史実をねじ曲げることはできない実在の人物の恋物語は、想定どおりの展開。この時代の背景や情景が如何にリアルかが問われるが、田舎の風景・衣装・美術など丁寧な作りは充分満足する出来栄え。
18世紀末の中流社会の娘は、財産や家柄で親が相手を決めて行く時代であった。これはJ・オースティンの小説「高慢と偏見」でコミカルに描かれているが、まさにそれを地で行く風情。ジェインは地元の名家グレシャム家の甥ウィスリーと婚約寸前だったが、「愛こそ結婚の絶対条件」という彼女にはハンサムで聡明なトムが理想の相手となるには時間がかからなかった。
主演のアン・ハサウェイは美しい瞳と黒髪で現実を見据えた芯のある凛とした女性を演じてアメリカ人であるハンデを乗り越える好演。相手役のジェームズ・マカヴォイも魅力的だが頼りにならない苦学生役は「つぐない」同様この時代に合った雰囲気を感じさせた。
脇を固めたジェインの父母ジェームズ・クロムウェル、ジュリー・ウルターズやレディ・グリシャムのマギー・スミスなどベテラン達が時代表現を的確にしていて若い2人を上手く支えている。
ジェインの姉カサンドラ役のアンナ・マックスウェル・マーティン、グレシャムの甥ウィスリー役のローレンス・フォックスはA・ハサウェイの引き立て役で損な役割をするハメになってしまった。


『アフリカの女王』 80点

2011-09-14 16:41:45 | 外国映画 1946~59

アフリカの女王

1951年/イギリス

アフリカ・ロケと2人芝居の魅力

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆75点

C・S・フォレスターの原作をジョン・ヒューストンが監督、ジェムズ・エイジイと脚色した逸話の多い冒険活劇ドラマ。製作費がかさむ割に「男と女が川を下るだけの航海ドラマ」で紆余曲折があって難航したが、サム・スピーゲルがJ・ヒューストンと共同で設立した「ホライズン・プロ」が映画化に漕ぎ付けた。
男はカナダ生まれの飲んだくれで食糧・郵便を配達する川蒸気・アフリカの女王号のひとり船長。女は兄とともに独領コンゴへイギリスから渡ってきた宣教師。生まれも育ちも違う2人がドイツ砲艦「ルイザ」をお手製の魚雷で撃沈に挑むという途方もないハナシ。
キャスティングが命ともいえる作品だが、「キーラーゴ」「黄金」でJ・ヒューストンによって従来のハードボイルド・イメージ脱却に成功したハンフリー・ボガートと、イメージどおりのキャサリーン・ペップバーンに落着。見事に2人芝居の魅力あるアドベンチャー・ロマンスへと結実した。
いまでは珍しくもないが、8週間にわたるアフリカでのロケは難航を極め無事撮影できたのは奇跡と言われた。のちにK・ペップバーンは「アフリカの女王とわたし」という本を出版し憂さ晴らし。J・エイジイが倒れ代役で起用されたピーター・ヴィアテルは映画より像狩りに夢中になったJ・ヒューストンをモデルに「ホワイトハンター・ブラックハート」を書きクリント・イーストウッド主演で映画化されたほど。
主演したH・ボガートがよれよれの作業服と髭面でユーモアたっぷりにヒーローを演じたことで念願のオスカーを獲得。ライバルが「欲望という名の電車」のマーロン・ブランドだったのも驚きで、何から何までハリウッド映画史に残る作品である。