・ 「羅生門」の構成に似た是枝・坂元コンビによる人間ドラマ。
是枝裕和監督5年ぶりの邦画は、TVドラマのヒットメーカー坂元祐二のオリジナル脚本によるカンヌ映画祭脚本賞受賞作品。
川村元気プロデューサーが<45分3本立て企画>を監督に提案したのがキッカケで、6年前トークショーで意気投合したコンビにより映画化が実現した。
タイトルといいタイトルバックでビルの火災シーンで始まるこのドラマは、とてもミステリアスなスタートをきる。
一人息子・湊(黒川想矢)を溺愛するシングルマザー・早織(安藤サクラ)の日常はホームドラマそのもので、火災シーンは対岸の火事に見えた。
ある日、湊が学校で怪我をしたわけを聴くと担任教師・保利(永山瑛太)に殴られたという。
黒澤明監督の名画「羅生門」(50)に似た構成は、早織の視点で始まり、保利の視点へ移り、最後は湊の視点で事実が明らかになっていく。観客はそれぞれの立場で得た限られた情報による常識は本当に正しいのか?考えさせられる。
早織は子育てに必死なあまり真相を見極めることなく、不誠実な学校の対応に怒りを露わにする。
保利は生徒思いで暴力は誤解なのに丁寧な説明ができず、逆に湊が同級生・依里(柊木陽太)をイジメていると口走ってしまう。
学校は早織をモンスター・ペアレントとして扱い無難に収めようとするあまりあらぬ方向へ・・・。
湊はクラスからイジメに遭っている依里を庇ってあげられず、思わぬ言動に出てしまう。
<豚の脳をもった人間>という言葉がトラウマとなった湊は、似たような環境の依里とはウマが合い、ふたりの秘密基地・廃屋の電車で本当の心を確認し合う。
今更ながら人間は人の噂やメディアやSNSの情報、本人から聴いた言葉から拙速に誤った判断をしがちであることを知らされる。
伏見校長(田中裕子)がウソをついたと告白した湊にトロンボーンの音で気持ちを吐き出たせ<誰かでないとつかめないものではなく、誰にでもつかめるものが幸せだ>と話しかけるシーンがこの作品のハイライト。
カンヌではクィア・パルム賞を受賞していてネタバレもしくは偏見をキライ事前PRされていないが、ここかしこに潜在しているシーンから賞の対象になったのも頷ける。
筆者の少年時代は学校から<らしく生きよう>と教わってきた。組み体操で保利先生がいった<男らしく>はその典型である。
早織が湊に<結婚して子供をもうけ、普通に生きる>ことを願うことと同様に、現代では<無意識な加害者>となる言葉なのだ。
筆者自身、日常茶飯事で<無意識な加害者>になっていたことは数限りなくあり、時代とともに価値観の違いを改めて思い知らされる。
<追記>
・坂本龍一の音楽が遺作となってしまった。まだ彼がYMO結成間もないころお願いしたCM音楽を思い出す。合掌。
・是枝監督の無名時代を知るひとりとして、大監督になった今も密かに応援している。
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