晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ボビー・フィッシャーを探して」(93・米) 75点

2016-10-27 14:34:29 | (米国) 1980~99 

 ・ 才能ある子供を持った家族の在り方を綴った、爽やかなドラマ。


   

 ボビー・フィッシャーとは、70年代アメリカの伝説的チェス・プレイヤー。ロシア(旧ソ連)に敵わなかったチェスで米国初の世界チャンピオンとなったが、奇行を繰り返し80年代行方不明となった実在の英雄。

 本作はその再来と言われたチェスの天才少年ジョシュとその家族の物語で、実の父親フレッド・ウェイツキンの原作を「レナードの朝」「シンドラーの朝」の脚本家スティーヴン・ザイリアンが書き起こし、自らメガホンを執っている。

 野球好きな7歳のジョシュ(マックス・ポメランク)。公園で大人たちがチェスに興じているのを見てその魅力に憑りつかれる。

 スポーツ記者の父フレッド(ジョー・マンデーニャ)はその才能に驚き名手ブルース・パンドルフィーニ(ベン・キングスレー)に1時間60ドルを払ってコーチを依頼する。

 ブルースは素質を見抜きボビー・フィッシャーのような芸術的なチェスを目指すように指導し、ストリート・チェスを禁じる。

 父とともに各地でジュニア・トーナメントへ参加し連勝を重ねるが、対戦相手を憎めない心優しいジョシュは段々とプレッシャーに押し潰されそうになり、とうとう遥か格下の相手に負けてしまう。

 母ボニー(ジョアン・アレン)は、息子の本心は父の期待に応えたいため窮地に立っていることを見抜く。フレッドは行動を改めジョシュにチェスを止めてもいいといい釣りやピクニックへ連れ出す。

 本来の心を取り戻したジョシュはチェスを諦めていなかった。仲違いしたブルースとも和解し全国大会へ挑む・・・。

 実在の人物が主人公で随所にボビー・フィッシャーの映像もあって、いわゆるスポ根的展開はチェスが分からない人にも見応えのあるドラマ構成となっている。コンラッド・L・ホールのチェスの緊張感を見事に捉えた映像がテンポ良く迫ってくる。

 英才教育での家族の在り方が問われるようなテーマは、世の親にとっては大いに参考になるのではないか?筆者の好きな野球・ゴルフなどのスポーツや音楽の世界でも、幼い子供に無理強いする両親を見ると本当に本人の将来を考えているのか心配になってくる。

 本作は最初は本人の才能に懸けた父と好きなことをノビノビとさせることを大切にした母がいて、本人の意思を大切にしたことで、成長していく模範的なプロセス。

 ジョシュを演じたM・ポメランクがとてもピュアな演技でとても可愛い。コーチ役ブルースのベン・キングスレー、ヴィニー役のローレンス・フィッツバーンの2人が対照的な役柄で引き立てている。

 ほかにも担任の先生役にローーラ・リニー、対戦相手である少女の父親役にウィリアム・H・メイシーが扮し、端役ながら印象に残る役柄を演じている。 

 勝ち負けを競う競技は性格が伴わないと先行き不幸になることを、教えてくれる教育的な作品でもあった。
 


「神様メール」(15・ベルギー 仏 ルクセンブルグ)80点

2016-10-23 12:36:17 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ 斬新な発想の設定と人間への温かい眼差しのブラック・コメディ。


   

 ベルギー人でまず連想するのはA・クリスティの名作<名探偵ポアロ>。ロンドン在住で英国人からはフランス人と思われるがその度にベルギー人だと言い返す誇り高い愛国者。

 そのベルギー・首都ブリュッセルには神様がいて、アパートに住み妻(女神)と10歳の娘がいる。兄はJC(イエス・キリスト)で置物になっているという設定。

 パソコンで何でも思いのままに創造する。最初にブリュッセルを作り、そこに鶏・キリン・虎・ガチョウを住まわせる。なんか不似合でアダムとイヴの誕生となるが、退屈凌ぎに事故や災害を起こすダメ親父。

 そんな暴君に愛想をつかした娘エアは6人の使徒を探しに下界へ降りる決意をして、運命に縛られず余命を過ごして欲しいと想って父親のパソコンを操作、世界中の人へ死期を知らせてしまう。

 監督・脚本はジャコ・バン・ドルマルで6年ぶり4作目。原題は「新・新約聖書」で、福音書の構成は斬新でブラックな笑いはベルギー人ならではの自虐的なコメディだ。
 
 主演は少女エアを演じたビリー・グロワース。可愛い笑顔は狂言回し役を超え堂々の演技。6人の使徒のひとりに大女優・カトリーヌ・ドヌーブが登場したのはビックリ!ゴリラと恋に落ちる有閑マダム役でベッドシーン?まであって2度びっくり。

 6人のエピソードはテーマ音楽があって、哀しい現実の暮らしのなか生き甲斐を見つけようとするハナシで、それぞれの願いが叶う温かい眼差しに救われる。

 何度か登場する余命62年以上と知ったケヴィンの行動・終盤の女神の行動・エンドロール後のオチをお見逃しなく!

「野いちご」(57・スウェーデン) 80点

2016-10-19 15:26:23 | 外国映画 1946~59

 ・ 老境の孤独を39歳のベイルマンが描いた傑作。


   

 イングマール・ベイルマンといえば彼を崇拝する映画人も多いスウェーデンの巨匠だが、難解な哲学的な作品で敬遠する人も多い。

 筆者もその一人だが、本作は老医師の一日を通して、老いや死、家族などをテーマに夢や追想を交えながら比較的分かりやすいストーリー。

 名誉博士号授賞式に出席するため車でストックホルムから出発した医師イーサクが同行した人々との触れ合いから過去の辛辣な出来事や青春時代の失恋や両親との思い出を追想していくロードムービー仕立てで<映像の魔術師>と言われる所以も堪能できる。

 医師イーサクを演じたのは78歳の大御所ヴィクトル・シェストレムでこれが彼の遺作となった。

 何より驚かされたのはベイルマンが39歳という年齢。普通この年齢で老境での不安・追憶を映画化しようとは思わない。

 それを映像化して、そこから救いの光を見出すような鮮やかな結末を余情たっぷりに描いて魅せる力量はただものではない。

 筆者も最近若い頃の思い出を夢で回想することが間々にあるが、失敗したことへの自責の念や苦い思い出のほうが断然多いのに気付かされる。

 イーサクも初恋の人サーラ(ビビ・アンデショーン)との思い出は弟に奪われるという悲惨なもの。途中同乗してきたヒッチハイクの若者男二人に女ひとりで彼女がサーラとダブって見える。

 事故で途中乗せたアルマン夫婦は諍いばかりで過去の自分を見るよう。妻の浮気も見過ごし研究に没頭してきたイーサクには年老いた母の孤独や息子夫婦のことも関心事から遠ざける意識があった。

 昨夜見た死に対する悪夢から今夜サーラが夢で言った「私はあなたが好きよ。今日も明日もずっと・・・。」まで、様々な夢と現実が交錯しながら希望の光を見出そうとするイーサク。

 長年仕えてきた家政婦アグダとの関係も少し変化の兆しが・・・。

 ベイルマンの人間観察に温かさを感じる作品だった。

 
 

「すれ違いのダイアリーズ」(14・タイ)75点

2016-10-14 12:36:44 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ タイ版「二十四の瞳」+清々しいラブ・ストーリー。 


   

 山奥の湖上にある水上学校に赴任した新米教師ソーンと前任者女性教師エーンとの日記を通じての交流を描いたタイの映画。監督は「フェーンチャンぼくの恋人」の共同監督ラティワット・タラートーンで、’14東京国際映画祭で「先生の日記」のタイトルで上映され好評を博した。

 経済発展目覚ましいタイには今日この映画のようなボートハウスで漁業を営む家族はメッキリ減少してしまっている。そのため水上小学校はほとんどなく貴重な存在だが、その風景は今もタイの人々にも郷愁として残っているのだろう。

 携帯も繋がらない電気も水道などのライフラインとも無縁な地域に都会からやってきたソーン(スクリット・ウィセートケーオ)。教師の経験はなく純朴な体育会系青年が一念発起してやっと得た仕事は、月~金まで学校で子供たちと過ごすという過酷な日常だった。

 最初は子供たちとは打ち解け合えず戸惑うことばかり。そんななか見つけた前任教師エーン(チャーマーン・ブンヤサック)の日記を通して同じように迷い悩みながら過ごしたことが励みになっていく。

 汽車を知らない子供たちのために学校をボートで引っ張って教えるなど実践教育するソーン。柱に背丈を測るなど子供たちとの交流は、まるで昭和二十年代の日本「二十四の瞳」の情景。

 日記でしかエーンを知らないソーン。遠距離恋愛が破局し、同じような経験をしたエーンに何時しか日記を通して憧れと恋心を抱くように・・・。

 ソーンを中心に進行しながらエーンのエピソードが絡む構成とカメラワークが巧みで、後半ベタなシーンもそれ程気にならないでストーリーに乗って行けた。

 主人公のソーンは如何にも純朴な好青年でエーンは自己を確立した行動派の美人。二人のすれ違いは「君の名は」「ユー・ガット・メール」など古今東西ラブストーリーの定番。

 このところ枯れてきてTVや映画を見て泣いたことはない筆者が、終盤で涙ぐんでしまったのは我ながら驚き!
 

 

「アウトロー」(76・米) 80点

2016-10-13 14:06:10 | 外国映画 1960~79

  ・ 建国200年記念、C・イーストウッド作品は共生がテーマの西部劇。


    

 46歳になったクリント・イーストウッドの監督5作目で「建国200年記念」と銘打った西部劇大作。

 <西部劇とジャズは米国が誇る固有の文化>というイーストウッドは西部劇スターの印象が深いが、実際は数多くの作品中たった9作しかない。それだけ記憶に残る作品が多いからか?

 南北戦争の末期、農業で暮らしを立てていたジョゼイ・ウェルズ(C・イーストウッド)が、強盗団レッド・レッグ隊の襲撃に遭って家と妻子を失い復讐を誓う。

 南軍に参加したが敗戦降伏せず5000ドルの賞金が懸けられてしまい、元レッド・レッグ隊で北軍大尉になっていたテリルや、賞金稼ぎらに追跡される。

 負傷した若者ジェイミーと逃亡するが、先住民やカンザスからの移民など関わった環境・人種の違いを乗り越え、人間らしさを取り戻すというロードムービー。

 135分を超える長編だが、フィリップ・カウフマンの脚本が決して飽きさせない。それぞれの出会いと交流がとても興味をそそりユーモアを交えながらの逃亡劇は、孤独なガンマンを本来の人情味ある人間へと変えて行く。

 なかでもチーフ・ダン・ジョージ扮する先住民の老人ローン・ウェイティが人間味溢れる好い味を出している。

 彼以外でも南軍のリーダーで北軍に騙され謀らずも追跡に加わったフレッチャー役・ジョン・ヴァーノ、カンザス移民の老女サラを演じたポーラ・トルーマン、先住民の娘リトル・ムーンライトのジェラルディ・キームスなど多士済々。

 冒頭出ていたジョゼイの息子役には実子カイルが出演していたのも話題ひとつ。俳優としては大成しなかったが、のちにミュージシャンに転身し「グラントリノ」(08)の音楽を担当したのは記憶に新しい。

 イーストウッドのお気に入りソンドラ・ロックも彩りを魅せていたが、違和感があったのは気のせいか?

 勧善懲悪の西部劇が飽きられ一時不毛となりかけた西部劇は本作で息を吹き替えし、数は減ったものの21世紀の今日まで面々と続いて行く。


 

「イミテーション・ゲーム /エニグマと天才数学者の秘密」(14・英米)80点

2016-10-06 15:44:12 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ 実在人物A・チューリングの生涯に基づいたヒューマン・ドラマ


   

 第二次世界大戦の終結に重大な貢献をした実在の人物アラン・チューリングの生涯を描いたヒューマン・ドラマ。

 監督はモルテン・ティルドルムでこの年オスカー8部門にノミネートされ、グレアム・ムーアが脚色賞を受賞した話題作。

 51年ある容疑で警察の取り調べに応じたアラン・チューリング(ヴェネティクト・カンパーバッチ)。現職は大学教授だが過去は謎めいていた。

 時代は39年第二次大戦中英国海軍解読不可能と言われる独軍の暗号エニグマに苦慮していたころに戻り、その基本部分を解明しようと挑んだ27歳のA・チューリングとそのチームの葛藤が描かれる。

 なかでもクロスワードパズルの天才で善き理解者のジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)との恋愛模様と同僚ヒュー(マシュー・グッド)たちとの青春ドラマ風景とともに彼の人物像が浮き彫りにされる。

 エニグマは159×10の18乗通りあり、解明制限時間は18時間というもの。チューリングはコンピュータの理論化して、その装置をクリストファーと命名し解明に挑むが、チーム内で孤立、海軍上層部からは金食い虫で厄介者として睨まれてしまう。

 パズル好きの子供だったチューリング。人付き合いができない天才だったが、16歳でクリストファーだけが親友と呼べる存在だった。

 この少年時代が彼の原点で、暗号解読装置に命名した所以でもある。

 彼の人物像は天才にして変人、「自分は人間か?、機械か?、英雄?か、それとも犯罪者か?」と刑事に問うシーンが象徴的。

 彼の不幸はアスペルガー症候群(発達障害者)だったことと、当時重罪とされた同性愛者だったこと。

 こんな難役をリアルに演じられるV・カンパーバッチの演技は改めて巧い俳優であると知らされた。

 相手役のK・ナイトレイはミス・キャストとの噂はあったが、久し振りの好演で相変わらずの美しさがこの重いドラマの清涼剤的存在だった。

 AIの元祖といわれるA・チューリングの最後は哀れな孤独死だったが、今日のコンピュータ社会では、彼は偉業を成し遂げた英雄だった。

 人の気持ちを理解できない人物が誰にも解読できない暗号を解いたのだから。

 フィクションながら彼のドキュメンタリーを堪能した想いだった。