プリティ・プリンセス
2001年/アメリカ
ジュリー・アンドリュースの貫録
shinakamさん
男性
総合 70点
ストーリー 70点
キャスト 80点
演出 70点
ビジュアル 70点
音楽 75点
原題は「プリンセス・ダイアリー」。監督がゲイリー・マーシャルなので邦題は「プリティ」がついたが、無名のおんなの娘が脚光を浴びるというところは似ていなくもない。ヒロインは<ポスト ジュリア・ロバーツ>としてアン・ハサウェイが抜擢され、大女優ジュリー・アンドリュースが気品ある女王役で貫録の共演。
内気で冴えない普通の女高生が突然プリンセスになるという典型的なシンデレラ・ストーリーは流石について行けなかった。が、その後のA・ハサウェイの活躍を観るとG・マーシャル監督は女優を育てる才能があるのだろう。監督作品としてはやはり「プリティ・ウーマン」が頂点でその後の作品にはドジョウはいなかったようだ。
いそしぎ
1965年/アメリカ
美しい海岸と素敵なテーマ音楽
shinakamさん
男性
総合 70点
ストーリー 65点
キャスト 80点
演出 70点
ビジュアル 85点
音楽 85点
「クレオパトラ」で共演し、翌年結婚したエリザベス・テイラーとリチャード・バートンが共演したメロドラマ。監督はヴィンセント・ミネリ。題名はロマンチックだが、シギ科の鳥の名前。9才の息子を溺愛する無名の画家ローラが妻子持ちのミッションスクール校長で牧師でもあるエドワードと恋に落ち、精神的にも自立するまでを描いている。
カリフォルニアの美しい海岸線と「シャドウ・オブ・スマイル」のテーマ曲を背景に、ローラとエドワードは息子がミッション・スクールへ入学するのを機に出逢い、互いに惹かれあう典型的な不倫ドラマ。まるで2人の私生活を映画化したような展開だ。ローラが「12歳の頃から男に見つめられて、息苦しい思いをした」と述懐するが、E・テイラー自身のことを想わせる。
妻クレアをエヴァ・マリー・セイント、ローラの友人彫刻家コズをチャールズ・ブロンソンが演じているが良くも悪くもムードたっぷりの2人芝居だ。
熱いトタン屋根の猫
1958年/アメリカ
命と愛情は金で買ない
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 75点
原作はテネシー・ウィリアムズの戯曲でエリア・カザン演出によりNYで初演しピューリッツア賞を受賞している。エリザベス・テイラー、ポール・ニューマンという2大スターを揃えリチャード・ブリックス監督が脚色・映画化。
ビッグ・ダディと呼ばれる南部の大農園主ポリット65歳の誕生を祝って実家に戻った長男グーパー一家と次男ブリックとマギー夫婦。フットボール選手で奔放な次男と素直なマギーを溺愛し、頼りない長男と強欲な妻メエ夫婦による財産目当ての孫たちの趣向を毛嫌いするビッグ・ダディ。
原作が持つ舞台劇の雰囲気を壊さず愛と欲望、心の葛藤が渦巻く一家の悩みがひとりひとりの人物描写が解るにつれ明らかになってゆく。父は貧しい父に死なれ一代で築き上げた大農園が総てで財産・モノが幸せの基準だが自分がガンだと知って唯一命が買えないものだと悟る。
ブリックが反抗的なのは親友スキッパーを自殺に追い込んだ責任を妻のマギーのせいにすることで酒におぼれ自棄になっている。マギーは愛する夫にかまってもらえずまるで「熱いトタン屋根の猫」のように葛藤する。おまけにスキッパーとの不倫を疑われているが、真実を聴いてもらえない。
原作はブリックとスキッパーが同性愛のためマギーは偽装妻であるという設定なので、その苦しみはより一層過酷な状況だが、映画では規定でその描写は不倫疑惑に変更され、ブリックのいじけた態度がいまひとつ説得力がなかったのが残念。感情が未熟でマギーへの怒りが原因なら「嫌いならさっさと別れろ」と言う気分にさせてしまう。
とはいえ美男・美女の競演は見応えがありE・テイラーは美しいだけでなく演技派への転機となった作品でもある。私生活でも夫マイケル・トッドのチャーター機事故の死亡で役を降りそうになった経緯があった。励ましてくれたエディ・フィッシャーとの結婚はデビー・レイノルズからの略奪愛としてメディアを賑わしている。
体型だけでなく演技で存在感を示したのはビッグ・ダディ役のパール・アイヴィス。一人でのし上がった人生を顧みて<自分に嘘をつかないと生きてゆけないと信じた思い込み>を地下室のソファで反芻し<命と愛情は金で買えない>と悟る。微妙な表情の変化で見事に表現していて見事な助演ぶりである。
P・アイヴィス同様長男の妻マドレーヌ・シャーウッドも舞台で同じ役を演じてこのドラマには欠かせない憎まれ役をこなし、主演の2人を際立たせている。ビッグ・ママのジュディス・アンダーソン、気の毒な長男ジャック・カーソンも適役でまるで舞台をみるような108分であった。
ジャイアンツ
1956年/アメリカ
移りゆくテキサスと一家族の叙事詩
shinakamさん
男性
総合
80点
ストーリー
80点
キャスト
85点
演出
80点
ビジュアル
85点
音楽
80点
「陽のあたる場所」「シェーン」のジョージ・スティーヴンスが監督し、2度目のオスカーを獲得。原作はエドナ・ファーバーのベストセラーで一大叙事詩をどのように映像化したかが見所でスティーヴンス監督は職人的手腕で纏めたがそれでも3時間20分の長編となった。
テキサスの広大な牧場主ベネディクト家の3代目ビックと東部育ちレスリーの出会いから夫婦として過ごした30年間を移りゆく情景と時代の変遷を切り取っている。
20年代のベネディクト家は59万エーカーの大牧場を経営する名家で駅名にもその名があるほど。ビックは姉の不慮の死で事実上の牧場主となる。テキサスは米社会の保守的伝統的な象徴で男女、階級、人種の差別偏見は当たり前。リベラルな文化で育ったレスリーには戸惑うことばかりで、トキには夫婦仲もの微妙になるが自分を貫きとおす。
ここで時代の変革を背負った若者が牧童だったジェット。レスリーに片想いを抱きながら大金を掴むことを夢見て油田掘りに賭ける。序盤はレスリーを巡ってビックとジェットの男としての競い合いが主軸となっている。演じたのがロック・ハドソン、エリザベス・テイラーに今回3作目で遺作となった伝説のスター、ジェームズ・ディーン。壮大なテキサスの情景をバックに悠々と流れるウィリアム・C・メラーの映像とディミトリ・ティオムキンの音楽はまさにエピックそのもの。
トキは流れ一家には1男2女が生まれ、牧場には石油採掘のやぐらが林立する中をカウボーイが牛を追う情景となり、やがて駅は空港が交通の主役へと変遷する。石油王となったジェットは自分の名がついた空港へ凱旋しホテルの祝賀パーティでの演説がラジオで放送されるという名士扱いへ。誰もいなくなった祝賀会場で酔いつぶれながらレスリーへの想いをつぶやくジェットは、J・ディーンのアドリブが採用されたが、台詞が聞き取れなく吹き替えになったという曰くつき。それでも彼の一世一代の名演といわれるのは撮影終了1週間後事故死したからかもしれない。
時代が変わっても人種偏見は根強く、白人のメキシコ人への扱いはアフリカ系アメリカ人へのそれと同じだ。こちこちのテキサス男のビックの一人息子ジョーダン(デニス・ホッパー)がメキシコ人医師の娘と結婚しジェットのホテルで冷遇を受けたのがこの映画のハイライト。そしてレストランでの食事のシークエンスはまさにオバマ大統領が幼少時に受けた処遇と同じ。今でも続くアメリカの暗部がこの映画最大のハイライトであることが40年以上前の作品でありながら現在を映し出している。
主役の3人はともに20代だった頃の老け役で、朝ドラや大河ドラマでの若いタレントを連想させ無理があるが、3人とも役に成りきった熱演で好感が持て、ドラマの足を引っ張るほどの弱点にはならない。
花嫁の父
1950年/アメリカ
善きアメリカ時代のホーム・ドラマ
shinakamさん
男性
総合
80点
ストーリー
80点
キャスト
80点
演出
85点
ビジュアル
75点
音楽
75点
一人娘を嫁に出す父親の心情をコメディタッチで描いたハリウッドのホーム・ドラマ。テーマは古今東西何度も取り上げられているが50年製作で父親役のスペンサー・トレイシーが晩年演じ人種偏見を取り入れた「招かれざる客」の父親とは違って、古き善き時代のアメリカ家庭の雰囲気が溢れている。ヴィンセント・ミネリ監督得意のジャンルで、娘を溺愛する父をS・トレイシーが飄々とした演技を魅せている。
小津安二郎監督作品の笠智衆演じる無口な父とは正反対で、本作の父は娘のために何かと口出しをするが結婚費用を出す以外役割がないさまを、多少オーバーながらコミカルに描いて世の父親に同情を誘う。20年前の礼服を試着するシーンは可笑しさをこらえきれなかった。
20歳の娘を演じたのが当時18歳のエリザベス・テーラーで、その美しさと大人びた姿はモノクロながら早くも大スターの片鱗を窺わせる。完成直後コンラッド・ヒルトン・ジュニアと挙式したのも話題をさらった。以来6度も式を挙げるとは誰が想像したことだろう。このころのリズの美しさはヒトキワ目を惹いていた。
その母を演じたジョーン・ベネットも負けず劣らず美しく、幸せな上流階級の妻らしさが出ていた。
善人しか出ないこんな作品はもう現れないだろう。
黒い罠
1958年/アメリカ
O・ウェルズのワンマン映画
shinakamさん
男性
総合 75点
ストーリー 65点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 75点
オーソン・ウェルズが久しぶりにハリウッドへ復帰して監督・脚本・出演したカルト作品。主演の麻薬捜査官・チャールトン・ヘストンを向こうに廻し悪徳警官役を思い入れたっぷりに演じ、主役を喰う怪演ぶり。もともと100キロをはるかに超えた体格に服の下に詰め物をしてさらに巨漢を強調、杖を手に足を引きずって登場しただけで目を奪われてしまう。
監督としても技量を遺憾なく発揮して影やコントラストを多用、冒頭の自動車爆破の長廻しはマニアにはあまりにも有名なシークエンス。長廻しは容疑者尋問の2カットも5分以上あって、ヒッチコックと張り合う監督ウェルズを想像させる。
脚本も原作の舞台ロスアンジェルスを米国とメキシコの国境ロス・ロブレスに移し、怪しげな雰囲気を強調。ハリウッドの常識を覆し、主演のヴァルガス(C・ヘストン)をメキシコ人、相手役の妻スーザン(ジャネット・リー)を米国人に入れ替え、人種偏見に異議を唱えている。さまざまな工夫にもかかわらず肝心のストーリーが陳腐で、おまけにヴァルガス夫妻の人間像が平板なためクインラン警部(O・ウェルズ)と相棒メンジース(ジョセフ・キャレイヤ)の友情と裏切りがメインとなってしまった。カメオ出演のはずのマレーネ・デートリッヒ(酒場の女主人ターニャ)との思わせぶりな再会や、デニス・ウィーバー扮するモーテルの夜勤係がストーリーとは関係なく印象的なのも全体のバランスを欠く結果となってしまった。
今回は96分の劇場公開版を観ての所見だがほかにも108分ものと131分の完全版があるという。それほどウェルズの不本意なまま編集されたという証明だが米国で不評なのも分かるような気がする。反面欧州とくにフランスでは評価が高く、ブラッセル世界博映画祭でグランプリを獲得している。映画に対する感覚の違いを感じる作品でもある。
ボー・ジェスト(1939)
1939年/アメリカ
ミステリアスなプロローグで最後まで惹きつける
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 85点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 80点
パーシヴァル・クリストファーレンの原作を映画化したサイレントの名作(’26)をウィリアム・ウェルマン製作・監督、ゲーリー・クーパー主演で再映画化した。
トゥレグ族の攻撃を守る仏軍のジンダヌフ砦に到着したボジョレー少佐率いる外人部隊。兵が銃を抱えたまま全滅しているのを知る。先に偵察に行ったラッパ手まで消えていた。兵のひとりが持っていたロンドン警視庁長官あての手紙を読むと「自分がブランドン卿の秘宝<青い水>を盗んだ」という内容。半信半疑で引き上げると炎が揚がり砦は全焼してしまう。このミステリアスなプロローグが興味を惹き、終盤まで楽しめる冒険ドラマだ。
ブランドン卿は放蕩のあまり家に寄り付かず、夫人は女手ひとつ、孤児で養子のジェスト3兄弟、甥や姪を育てている。とうとう秘宝の<青い水>を売って生活の糧にするハメになり、家には模造品を置いていた。15年後子供たちは立派に成長するが卿から手紙が来て<青い水>を処分するという内容が書いてあって夫人は困惑する。その夜、停電があって秘宝は無くなっていて、ボー(G・クーパー)ディグビー(ロバート・プレストン)ジョン(レイ・ミランド)の3兄弟は次々と自分が盗んだと置き手紙を残し外人部隊へ志願して行く。
ここからは<青い水>を巡ってのマーコフ軍曹(ブライアン・ドレンヴィ)の悪役振りが際立ち、主役が霞むほど縦横無尽の大活躍。のちに3度目の映画化でテリー・サラバスの軍曹だけが目立ったのも納得。
最後で謎解きがあって、なるほどと思わせる展開は脚本の出来が良いのだろう。3兄弟が遊んでいたバイキングの密葬も伏線として生きていた。兄弟の硬い絆や正義のためには自分を犠牲にしてまで行動する男への賛歌はこの時代にはうってつけのテーマ。
長男のボーを演じたG・クーパー、3男ジョンを演じたレイ・ミランドの2枚目振りとイソベルを演じたスーザン・ヘイワードの美女振りが如何にもハリウッド作品らしいが無国籍風映画はならずにすんでいる。砂漠での戦闘シーンなど随所に見応え充分なシーンとともに結末まで楽しむことができた。