晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『ダンケルク』 80点

2012-09-28 11:23:47 | 外国映画 1960~79

ダンケルク

1964年/フランス イタリア

フランス映画らしい異色の反戦映画

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

「ヘッドライト」「地下室のメロディ」のアンリ・ヴェルヌイユ監督が<ズイドコート海岸の週末>(原作)を映画化。異色の反戦映画で如何にももフランス映画らしい。
’40.6月1日と2日の2日間、ダンケルクに程近いズイドコート海岸で仏軍・マイヤ軍曹(ジャン=ポール・ベルモンド)の身の回りで起きたできごとを描いている。
戦闘場面はドイツ軍の一方的な空爆と機銃掃射で逃げ場のない英仏軍が右往左往するシーンが殆ど。フランス兵のエキストラが大量に動員されたなかで、シネスコ画面に展開される凄まじい爆撃は臨場感たっぷりで、その迫力に圧倒される。そんな中淡々と引き上げようとする英国兵、虚無感漂うフランス兵たちが戦争の意義を見いだせないでいる。戦友のアレクサンドラ(フランソワ・ペリエ)はキャンピングカーで野営しながら金儲けに勤しむが、水を汲みに出て死亡。神父は1対1で出会った若いドイツ兵を射殺したことに悩んでいる。
マイヤは英国に渡り、仏軍の窮状を訴える特命を負っていたが失敗。自宅を守ろうしてレイプされそうになった勝気な娘・ジャンヌ(カトリーヌ・スパーク)を救うため2人のフランス兵を射殺してしまい退役を覚悟する。
極限状態で出会った2人は恋に堕ちる。このあたりが如何にもフランス映画。この際不自然な状況には眼をつぶろう。飄々としたJ・P・ベルモンドと赤い服が良く似合うC・スパークのラブ・ストーリーはヌーヴェルバーグを想わせるFINへ。
アンリ・ドカエの撮影、モーリス・ジャールの音楽がこの大作をしっかりと支えている。


『武士の家計簿』 70点

2012-09-26 16:01:02 | 日本映画 2010~15(平成23~27)




武士の家計簿


2010年/日本






普遍的テーマを時代劇で描いた森田芳光





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shinakamさん


男性






総合★★★☆☆
70



ストーリー

★★★☆☆
70点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★☆☆
70点




ビジュアル

★★★★☆
75点




音楽

★★★★☆
75点





2011年12月に61歳で急逝した森田芳光監督の異色時代劇。幅広いテリトリーをこなす多才なヒトだったが、代表作には恵まれなかった。本作は時代劇でありながら幕末から明治に掛けて加賀藩の御算用者・猪山家3代に亘る暮らし振りを様々なエピソードで描いた家族の物語。
原作は古文書をもとに歴史教養書としてまとめた磯田道史のノンフィクション。これを膨らませてハートフルな夫婦愛と父と子の葛藤のドラマに柏田道夫が脚色している。
主人公は8代目猪山直之で下級武士ながらソロバン一筋の堅物で、父・信之は婿養子で母・常とは夫婦円満。オババさまは穏やかな教養人。一家は嫁の駒を迎え、平穏な暮らしを送っていた。前半はユーモアを交えながら淡々とした流れはまるでホームドラマを観るよう。主演の堺雅人を始め中村雅俊・松坂慶子の夫婦が適役でほのぼのとさせてくれる。仲間由紀恵も献身的な妻は大河ドラマの<まつ>を想わせる。
藩の不正を調べたり、財政を立て直すため奮闘して藩主・前田斉泰の側仕えに出世するなどサラリーマン出世物語のようなエピソードはあるものの本題は専ら破産寸前の家系の立て直しにある。出世イコール交際費増が恒例の武家社会は、婚姻や息子・4歳の着袴の儀には格式に応じた多額の出費が伴う。直之が採った手段は思い切った緊縮財政。<絵鯛の祝膳>はそのハイライトだった。
ここまでは好調だったが、父と子の葛藤に移る後半は竜頭蛇尾の感は否めない。徹底してソロバンを叩き込み、家計簿の穴埋めに拾った4文を遣ったことを説教するなどまるで教育ドラマに変貌。何より失笑モノだったのは老いて背負われた直之と若々しい駒の画づくりで、感動の物語を台無しにしてしまった。とはいえ、現代でも通じる普遍的なテーマを時代劇で描いた森田監督には、もっと長生きして「家族ゲーム」を超える代表的な家族ドラマを作って欲しかった。






『そして友よ、静かに死ね』 80点

2012-09-24 14:39:01 |  (欧州・アジア他) 2010~15

そして友よ、静かに死ね

2011年/フランス

香港から本家フランスへ戻ったノワール・サスペンス

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「あるいは裏切りという名の犬」のオリヴィエ・マルシャル監督のフレンチ・ノワール第二弾。原題は「リヨンの男たち」。邦題は、ジャック・ドレー監督、アラン・ドロン主演で「友よ静かに死ね」(’76)という’30年代実在のギャング、ピエール・ルートレルをモデルにした作品にあやかったのだろう。本作も’70年代実在のギャング、モモンことエドモン・ヴィダルの自叙伝「さくらんぼのひとつかみで」をもとにマルシャルとエドガー・マリーがフィクションを書き加えた重厚なノワール・サスペンス。
25年前にギャングの足を洗った主人公モモンは還暦を迎え、家族に囲まれ平穏な暮らしをしていた。そこへ13年前に行方不明となっていた昔の親友・セルジュが警察に捕まったとの知らせが入る。老年期に差しかかった元ギャングは妻とは<法を犯すようなことはしない>と約束し家族を守ることを最優先しようとするが、かつての仲間との絆を断ち切ることもできず苦悩する。子供のころロマ人(ジプシー)なるがゆえ苛められたモモンを救ってくれたセルジュ。若き日にさくらんぼを盗んだだけで禁錮刑6カ月をいう不当な扱いを受けてきたのは虐められてきた民族なるが故だった。
物語は若き日をモノクロ映像で織り込みながら展開し、ドゴール政権下でアルジェ戦争絡みのギャング組織から独立した「リヨンの男たち」と呼ばれるように。次々と銀行強盗を重ねながら仲間とは固い連帯感で結ばれ、ときには裏切り者を処罰してきた。
主演のモモンにはフランスを代表する俳優、ジェラール・ランヴァン。「すべて彼女のために」で妻のために全知全能を賭けた男を好演しているが、今回は抑制の効いた哀愁を誘う演技で魅了している。親友セルジュを演じたのは「ニキータ」「ドーベルマン」のチェッキー・カリョ。渋さはJ・ランヴァンに負けてはいない。この2人が如何に切っても切れない強い絆だったかが共感を呼べば呼ぶほど、ラスト・シーンの余韻が心に深く沁み入ってくる。
若き日のモモンを演じたのはディミトリ・ストロージュ。線が細い2枚目で、風貌はあまりランヴァンとは似ていないが演技力は確か。青年時代だけで1本作れるほどのストーリーをテンポ良く織り込んだシナリオの運びにも感心させられた。ほかにも仲間のダニュエル・デュバルやマックス刑事役のパトリック・カタリオなど男のドラマを盛り上げている。
この手の作品に欠かせないのはスタイリッシュな小道具。70年代の象徴である車はシトロエンDCで音楽はディープ・パープル「ブラック・ナイト」、ジャニス・ジョプリン「ジャニスの祈り」がノスタルジーを誘う。迫力あるアクション・シーンを交えたサスペンスは、<寡黙で義理堅くヒトの道に外れるな>という父の教えを守った主人公を丁寧に描いた人間ドラマとなった。


『ウィンチェスター銃’73』 80点

2012-09-17 15:50:18 | 外国映画 1960~79

ウィンチェスター銃’73

1950年/アメリカ

銃を巡っての人間模様をテンポ良く描いた異色西部劇

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

ロバート・リチャーズ、ボーデン・チェイスのシナリオをアンソニー・マンが的確に映像化して彼の出世作となった異色西部劇。主演のジェームズ・スチュアートとのコンビによる8作品の初作品だが、彼の出番は思ったより少なく題名の通り「ウィンチェスター銃’73」が主役。銃を巡っての人間模様がとても簡潔ながら巧みに描かれていてとても新鮮な西部劇に仕上がっている。
冒頭相棒とドッチ・シティに現れたリン(J・スチュアート)。保安官ワイアット・アープ(ウィル・ギア)が主宰する射撃コンテストに出場して見事に1000丁に1丁と言われる名銃「ウィンチェスターM1873」を獲得するが、争った仇敵ヘンリー(スティーヴン・マクナリー)に強奪されてしまう。
次々と銃はヒトの手に亘り、その人のエピソードがその時代を象徴していて非常に面白い。小心者の悪党がいたりポーカー好きの武器商人がいたり仲間を平気で見殺しにするワルが現れたり、もちろん西部劇には欠かせないインディアン(先住民)の酋長や騎兵隊の兵士、紅一点のダンサーまでこと欠かない。
脇役たちがそれぞれいい味を出していて、J・スチュアートを盛り立てクライマックスへ。これだけ盛りだくさんのエピソードを交えながら93分にまとめたA・マン監督の手腕も鮮やかだ。
製作会社(ユニヴァーサル)は格上のスターJ・スチュアートを引き出すため、初めてタレント・エージェント制を提案しヒットすれば歩合いが入る手法が見事に当たったとか。このため俳優のギャラ高騰を招く皮肉な現象を招いてしまった。
脇役ではダンサー、ローラ役のシェリー・ウィンタース、悪党ワコ役のダン・デュリエが手堅く、リンの仇敵で因縁の深いヘンリー役のS・マクナリーが押され気味。
チョイ役で若き酋長ヤング・ブルにロック・ハドソン、騎兵隊兵士役にトニー・カーチスという後の大スターが出ているのも興味深い。


『最強のふたり』 80点

2012-09-16 13:01:36 |  (欧州・アジア他) 2010~15

最強のふたり

2011年/フランス


シリアスなのにコミカルなサジ加減がちょっぴり多め

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆85点

03のTVドキュメントをもとにエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュが脚本・監督した11年フランス観客動員数1位の作品。東京国際映画祭グランプリ受賞時に見逃したが今回公開で久しぶりに満杯の映画館で鑑賞。
頸椎損傷で車椅子生活の大富豪とその介護人のセネガル移民との交流をコミカルに描いたヒューマン・コメディ。
貴族の家系・大富豪と貧民層の移民。現代美術に精通しクラシック好きとアース・ウィンド・アンド・ファイアを愛するソウル好き、服装はスーツとスエット、何から何まで好対称な2人。普段は巡りあうハズのないフィリップのふとした好奇心から介護人としてドリスを仮雇用したことがキッカケでスキンシップが始まる。
実話がもとだけに、キレイごと過ぎるきらいはあるものの、シリアスなのにこれだけコミカルに仕上がったのが大ヒットの理由だろう。始まってすぐに観客が声をあげて笑う映画を久しぶりに味わった。
生気を失いつつあった大富豪が普段接触のない黒人の若者の率直な言動に「生きることの素晴らしさ」を思い知らされるストーリーは共感を呼ぶ。
主演のフィリップを演じたフランソワ・クリゼは身動きが取れない大富豪の苛立ちと生きる喜びを細かな表情の変化で見事に演じて魅せた。ドリスを演じたオマール・シーはノビノビとした等身大の演技はこれから引く手あまたの可能性を秘めている。フランス語が堪能ならもっと楽しめたことだろう。


『サンセット大通り』 85点

2012-09-15 17:09:18 | 外国映画 1946~59

サンセット大通り

1950年/アメリカ

ハリウッドに君臨し続けたB・ワイルダーの真骨頂

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆90点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

「失われた週末」(’45)でオスカーを獲って以来ハリウッドに君臨し続けたビリー・ワイルダーが、第1期黄金時代を迎える50年代の記念碑的作品。「午前10時の映画祭」の大画面で観ることができて幸せだ。
チャールズ・ブラケットとの共同脚本はハリウッドの内幕をリアリティ溢れるスタイルで暴露したセンセーショナルなテーマ。折りしもブロードウェイ女優の暴露モノ「イヴの総て」とオスカー争いをしてテーマがテーマだけに敗れたが、いまでもアメリカを代表する映画であることは間違いない。
のちにワイルダーの定番とも言われた回想形式で主人公がナレーションをいれるプロローグは、殺された売れない脚本家の主人公(ウィリアム・ホールデン)が豪邸のプールで射殺され死体が浮いているシーンで始まる。
ここから半年前に遡り、幽霊屋敷のような大邸宅に住むサイレント映画の大女優ノーマ・デズモンドとの異様な共同生活となる。ノーマに扮したのは真の大女優グロリア・スワンソンだった。もっとも重要な役をワイルダーはグレタ・ガルボにあっさり断られ混迷を極めた。メイ・ウェスト、ポーラ・ネグリ、メアリー・ピッグフォードなどサイレントのヒロインたちに当たったが難航し、ダメもとで声を掛けたスワンソンの起用に成功した。実生活の彼女はリタイアしていても本作のように落ちぶれてはいなかったが、まるでドキュメントと感違いしそうな白熱の演技は彼女の代表作ともなっている。
誤解のもととなった原因のひとつに執事役のエリッヒ・フォン・シュトロハイムの存在がある。彼は20年代は将来を嘱望された監督で、のちに俳優に転向したがスワンソンを見出した張本人。劇中上映されたノーマ主演の映画は、彼が監督しスワンソンが主演した幻の映画「クイーン・ケリー」で虚実がナイマゼになっている。元監督でノーマの最初の夫であり落ちぶれたノーマを最後まで面倒をみる執事の役は、本人もさぞやりにくかったことだろう。
さらにセシル・B・デルミ監督が本人役で登場し「サムソンとデリラ」のセットで再会する設定がある。デミル監督・スワンソン主演の作品はパラマウントのヒット作を何本も手掛けている。
そんな舞台裏を単なる楽屋落ちとせず、時代とともに変化するハリウッドに取り残された大女優の復活への妄執と老いへの恐怖を見事に再現させた悲劇のドラマは見応えがある。
蝋人形呼ばわりされたバスター・キートンたちが本人役でポーカーをしたりスワンソンがチャップリンの形態模写をしたりするシークエンスは、ワイルダー自身が売れない脚本家だったときの大スターへ一矢報いた緊張感が画面から伝わってくる。ワイルダーが「アパートの鍵貸します」で再びオスカーを獲るまで10年かかったのはこの作品が影響したのかもしれない。


『あなたへ』 80点

2012-09-14 10:42:49 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

あなたへ

2012年/日本

鳩になった日本のC・イーストウッド

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

昭和最後の大スター・高倉健が盟友・降旗康男監督と組んで6年振りに銀幕に登場した。これでコンビ20作目だけに健さんワールド満載の111分。夫婦の絆を描いたという番宣も効いて、シネコンは思ったより女性客が多く、若いころからの健さんファンにとっても嬉しい限り。
堅物の刑務官が定年後指導技官となり晩婚ながら幸せな結婚生活を送り、退職後の旅行を楽しみにしていた矢先、妻が病に倒れあっという間に先立ってしまった。妻は遺書管理のNPO法人に絵手紙を2枚残していた。
富山から妻の故郷長崎・平戸まで想い出をたどりながら旅の途中であったヒトの人生を垣間見る1200キロあまりのロード・ムービーは、日本のC・イーストウッドを想わせる思い入れたっぷりな心の旅でもあった。
<主役は幸せにしない>ことと<ヒトはイイことをするために、悪いことをする>をテーマに映画作りをしてきた降旗監督。刑務官として多くの受刑者と接してきた孤独な主人公をどのように再生させるのかがこの作品の最大のテーマだったろう。
登場人物はみんな普通に暮らしながら悩みを抱えていた。亡くなった妻は刑務所を慰問する童謡歌手でありながらたった一人のために歌っていた。宮沢賢治の「星めぐりの歌」がとても哀しい。
途中出会った元中学の国語教師(ビートたけし)は<旅と放浪の違い>について語りながら種田山頭火に憧れるが、どこか孤独感が漂う。北海道のイカ飯を全国で実演販売する販売員たち(草剛・佐藤浩市)も妻の浮気や過去を語らない孤独感が見え隠れする。
切なさを増長させるのがロード・ムービーならではの日本の美しい風景。富山の山並みや兵庫・武田城址が雲海に漂う景観は観ているだけで心が洗われる。そして平戸の海に沈もうとする燃えるような夕陽をバックに浮かぶ漁船はこの映画に何かを決断させる主人公を象徴している。それは佐藤浩市のために<鳩になった主人公>が答えである。
相変わらずの健さんワールドを支えたのが豪華な脇役陣。妻の洋子に田中裕子を始め平戸の食堂の女主人に余貴美子、刑務所の同僚の妻に原田美枝子という達者な女優に加え食堂の娘に綾瀬はるかがフレッシュな彩りを添えている。男優陣では、たけし・草・佐藤のほかに刑務所の同僚に長塚京三、平戸の漁師に大滝秀治などのベテランに三浦貴大の若手が加わり岡村隆史・浅野忠信などはほんのチョイ役という豪華さ。
81歳で堂々たる主役を演じた健さん。次回作は果してあるのだろうか?健さんファンとしてはそれが切ない...。


『コーチ・カーター』 75点

2012-09-04 12:59:05 | (米国) 2000~09 

コーチ・カーター

2005年/アメリカ

ちょっと長いが飽きさせないヒューマン・スポーツ映画

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

実在のバスケットコーチ、ケン・カーターがモデルのヒューマン・スポーツ映画。’99のカリフォルニア州リッチモンド高校で起きた<ロックアウト事件>をもとにサミュエル・L・ジャクソンが格好良く演じている。
スポーツ店経営が順調なカーターは、母校のバスケット・チームのコーチを引き受ける。選手たちはガールフレンドを妊娠させたり、麻薬の売買に関わったり下層社会の生徒たちで、卒業後の行く末は刑務所暮らしも多い。カーターは強いチームにすることはもとより、卒業後の人生を何とか自立させてやりたいという想いがあった。このあたりが他のスポーツ根性ものとは毛色が違うタッチとなっている。
ハードなしごきを課すが、学業で一定以上の成績を残すため授業には必ず出席しイチバン前の席で受けること。試合の日は上着とネクタイを着用することなどを、本人および親と契約を交わし、守らない場合は退部させるという約束を交わした。
4勝22敗という下位チームがカリフォルニアの代表争いをするまでにするにはカーターの揺るぎない指導力の賜物あってのこと。しかし生徒たちの環境はバスケットが強くなること以外余り変わっていなかった。成績もほとんど平均以下。
ここで体育館を使わせず、試合にも参加させないという強硬手段にでたカーター。学校・父兄・地域を敵に回すことに。このあたりはまるで日本の高校野球を観るようで面白い。
ぶれない信念の持ち主、コーチ・カーターを演じたS・L・ジャクソンは多彩な幅広い役をこなす俳優だが、本人から推薦を受けバスケットが吹き替えではなく本物であることを条件で引き受けたという。それだけにゲームの映像はかなり臨場感があって迫力満点。チョッピリ長いのと、あまりにもドラマチックなゲーム展開が興を削ぐ結果になってしまったのが残念。
モデルに配慮してカーターが英雄的描写になってしまったのは止むをえなかったのかもしれないが、米国の差別社会を切り取って単なるスポーツ感動ドラマに描かなかったのは好感が持てた。


『駅/STATION』 85点

2012-09-02 16:15:51 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 

駅/STATION

1981年/日本

降旗・高倉・木村トリオでの最高傑作

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

倉本聡が高倉健のために描き下ろしたオリジナル脚本を降旗康男監督、木村大作撮影で映像化した。オリンピック射撃の代表に選ばれた刑事が主人公で、北海道を舞台に繰り広げられる出逢いと別れの人間模様を想い入れタップリに描いたドラマ。
三部構成で、第一部は’67、1 直子。銭函駅のホームで主人公三上(高倉健)が妻直子(いしだあゆみ)と幼い息子との別れのプロローグ。どうやら、すれ違い生活による一度の過ちを許せない三上が別れを切りだしたらしい。直子の、デッキでの<泣き笑いの敬礼>がとても切なく、2人のこれからの孤独な人生を予感させる。射撃コーチでもあるベテラン刑事・相馬(大滝秀治)が指名手配22号に射殺され、第一部は終了。
第二部は’76.6 すず子。赤いミニスカートの女・連続通り魔事件が発生する。容疑者は吉松五郎で、増毛駅前の風待食堂に妹・すず子(烏丸せつこ)が働いている。警察は妹想いの容疑者を増毛で張り込むことに。三上は妹の結婚式で雄冬へ帰郷中だったため要員として加わることになる。茫洋としたすず子に翻弄される捜査陣。動きがあったのは、すず子が好きな男・チンピラの雪夫(宇崎竜童)を兄に引き合わせるためだった。
第三部は’79.12 桐子。銀行襲撃事件で出前のラーメンに忍ばせた拳銃で犯人を射殺した三上。犯人の母(村瀬幸子)の「警官の人殺し!」という声が耳から離れない。歳末の独り暮らしに孤独感が襲ってくる。年末に帰郷するため増毛へ。列車はここが終点でここからは日に一度の連絡船しか交通手段がない陸の孤島・雄冬。しけで不通となり立ち寄ったのが居酒屋「桐子」。女将(倍賞千恵子)と観るTVは歌番組で、八代亜紀の<舟唄>が流れていた...。
若い人にはピンとこないのだろうが、倉本の脚本は台詞ひとつに無駄がなく、独特の省略があって余韻が残る構成が魅力である。そこに観客の想像が膨らむことで深みが増してくる。主人公は、妻子との別れよりオリンピックが大切だった。しかし同じメキシコを目指したマラソンの円谷が世間や周囲の期待に押しつぶされ有名な遺書(父上様、母上様、三日とろろ美味しゅうございました。...)を残し自殺したのを食堂のTVで見た瞬間、彼のオリンピックは芳しくない結果だったのを想像させる。ヒトを殺めた罪の意識は消え去ることはなく、通り魔殺人犯・吉松を刑務所で慰問し続けたのも彼の寂寥感が為せる技なのだろう。倉本の脚本は吉松との交流も彼の死刑が執行される際の手紙を読むシーンで観客に伝わる手法だ。吉松に扮した根津甚八はうっかりすると見逃すほど出番が少ないが、印象に残る。同じ役柄は室田日出男にもいえる。出番は3シーンあるが台詞はない。それでも無名俳優ではできない役柄である。
冬の銭函駅で始まるドラマは、梅雨のない6月を挟んで冬の増毛で終わる。木村大作の映像は厳しい北海道と雄大な情景を随所に織り込み情感を見事に切り取って魅せる。
音楽担当の宇崎竜童は俳優としての出番も多くイメージどおりの好演で、ほかにも田中邦衛をはじめとする手堅い脇役陣が健さんを愛情たっぷりに支えている。
女優陣では何といっても倍賞千恵子が複雑な女心を演じて、健さんを何倍も魅力的にさせている。寅さんの妹・さくら役でその才能を奪われ、大女優への道を閉ざされてしまったのが如何にも惜しい。2人の絡みは挿入歌の<舟唄>とともに映画史に残る名シーンだと思う。いしだあゆみも出番は少ないが、<プロローグが忘れ難い名シーンという数少ない作品>に足跡を残してくれた。撮影されたが没になったと言われている{幻のエピローグ}を観て見たかった。彼女の代表作といっても過言ではない。
降旗・高倉・木村トリオの最高傑作を堪能した132分。