晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『カンナさん大成功です!』 75点

2010-04-29 14:10:35 | (欧州・アジア他) 2000~09

カンナさん大成功です!

2007年/韓国

エンタテインメント精神溢れるも切れ味に欠ける

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

’06韓国の動員NO.1に輝いたラブ・コメディ。鈴木由美子の漫画をもとにキム・ヨンファが監督しているという。原作を未読だがほとんどオリジナルに近いのだろう。芸能界のエピソード、整形への意識など韓国事情が伺えるテーマをもとに若い女性の想いを巧みに取り入れながら共感を得られたのが大ヒットの要因だろう。
整形天国といわれる韓国のラブ・ストーリーといえばキム・ギドク監督の「絶対の愛」があったが、テーマ性・インパクト面では対極にあって、エンタテインメント溢れる作品である。ラブ・コメディなので理屈はいらないものの切れ味に欠けるのは残念だ。
米国スタッフによる特殊メイクで整形前のカンナと術後のジェニーを演じたキム・アジュンが同一人物には思えないほど見事な変身振りは感心させられるが、女優としては表情も乏しく、歌も吹き替えなしで歌っていて素人芸の域は脱しているが突き抜けない。相手役のいけめんプロデューサーサンジュン役のチュ・ジンモがもう少し達者なら違ったのかもしれない。
脇を固めた父親のイム・ヒョンシクやチョイ役の占い師イ・ウォンジン、タクシー運転手イ・ボスムなどが出ると雰囲気が変わってくるのは役者の差だろう。


『七年目の浮気』 80点

2010-04-24 10:49:44 | 外国映画 1946~59




七年目の浮気


1955年/アメリカ






ワイルダー苦心の作で後世に残る





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
80点




キャスト

★★★★☆
85点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
80点





ブロードウェイで’52から3年間ロングヒットしたジョージ・アクセルロッドの戯曲をビリー・ワイルダーが映画化。マリリン・モンローの伝説的シーン(地下鉄の通気口で白いスカートが吹き上がる)が今でも有名である。
NY三流雑誌の編集者・リチャード(トム・イーウェル)が、妻子を避暑地に送りつかの間の独身生活をエンジョイしようとするが妄想癖に葛藤するコメディ。
舞台劇を映画化することでは第一人者であるワイルダー監督にしては切れ味に欠け凡作となってしまった。主役のT・イーウェルは舞台でも主役を務めただけあって如何にも小心者の善良な中年サラリーマンぶりを見せているが、映画向きではない台詞のオンパレードでは間が持てない。モンロー似のブロンド娘という役のM・モンローの引き立て役となってしまった。
それでも「逢いびき」で涙を誘ったラフマニノフの「第2ピアノ協奏曲」を引用したり名シーンは外していない。
地下鉄の通気口のシーンは映画を見た帰りでおこるが、観た映画の題名が「大アマゾンの半漁人」というのが笑える。肝心のシーンは巷間言われる膝を曲げてスカートを抑えるポーズではなく上半身と下半身のカット変わりの味気ないシーン。これはNYで撮影したシーンが野次馬に邪魔されて使えずセットで撮り直したものだと聞いている。NYロケに立ち会った夫の元大リーガー、ジョー・ディマジオとの離婚原因となったのもこの伝説を確定的にしている。2人が新婚旅行で来日したのは自分が9歳のときで、ニュース映画で観たがこんな人形のようなひとがいるんだと驚いた覚えがある。映画のできよりもM・モンローが大女優として映画史に残る作品。ワイルダーの苦心作でもある。






『ナイアガラ』 75点

2010-04-23 10:50:40 | 外国映画 1946~59

ナイアガラ

1953年/アメリカ

ナイアガラ観光とモンローウォーク

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆75点

チャールズ・ブラケットがプロデュース、脚本にも加わったナイアガラを舞台にしたサスペンス。C・ブラケットはヒロインにアン・バクスターを起用したかったが折り合わず、新人のジーン・ピータースとなったという。そのためモンローウォーク誕生となった準主役のマリリン・モンローが際立って見える。とくに愛唱歌「キス」を口ずさむモンローは、のちの作品を思わせる彼女の魅力を彷彿とさせる。
新婚旅行でナイアガラへきたカットラー夫妻(ケイシー・アダムス、J・ピータース)が朝鮮戦争の後遺症で精神医療で滞在しているジョージ(ジョセフ・コットン)と不倫をしていて夫に嫌気がさした妻・ローズ(M・モンロー)のルーミス夫妻に巻き込まれるストーリー。
ナイアガラの壮大な風景映像は観光気分に浸れるほど素晴らしい。激流に巻き込まれそうになるクライマックスは最大の見どころだが、全体はのちの2時間ドラマのお手本のような印象。名優J・コットンも2人の女優の引き立て役となっただけの気の毒な役割だった。


『紳士は金髪がお好き('53)』 75点

2010-04-22 11:14:44 | 外国映画 1946~59

紳士は金髪がお好き('53)

1953年/アメリカ

M・モンローのイメージと地位を確立したミュージカル・コメディ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

アニタ・ルース原作のブロードウェイ・ミュージカルをハワード・ホークスが監督、ジェーン・ラッセルの相手役として出演したマリリン・モンローの起用が当たって大ヒットしたミュージカル・コメディ。まだイメージが確立していなかったM・モンローのSEXYで内面の可愛らしさを引き出すことに成功させた映画として有名だ。
これは「腰抜け二挺拳銃」など、すでに大スターであるジェーン・ラッセルをしっかりものの姉的存在に据えることでモンローの魅力を開花させたH・ホークスの手腕を改めて評価したい。「百万長者と結婚する方法」もそうだが共演する女優を喰ってしまうモンローの起用は、この後なかなか難しいものとなってゆく。
「ダイヤモンドは女の最良の友」など4曲を歌っているが、決して上手いとは言えないものの独特の甘ったるい歌い方はなかなかのもの。決して吹き替えを許さなかった彼女の女優魂も感じる。
<男は美人を選び、女は金持ちを選ぶ>という台詞もモンローに言われると妙に説得力があるのが不思議。


『お熱いのがお好き(’59)』 85点

2010-04-21 11:06:31 | 外国映画 1946~59

お熱いのがお好き(’59)

1959年/アメリカ

スラップスティック・コメディの傑作

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆90点

演出 ★★★★☆90点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

コメディでもその真価を発揮したビリー・ワイルダーが「昼下がりの情事」に続きI・A・L・ダイアモンドと組んで監督・脚本を手掛けたスラップスティック・コメディの傑作。AFI(アメリカフィルム協会)が選んだベスト・コメディ100の1位に輝いている。
何しろ2枚目俳優トニー・カーティスと喜劇俳優ジャック・レモンのコンビが女装して<てんやわんや>の大騒ぎ。加えてお色気と可愛らしさをいかんなく発揮するマリリン・モンローの共演だけでもその楽しさが伺える。
これを完璧に生かしたワイルダー監督の職人芸は誰にも追随を許さないものがある。ウィットに富んだ台詞が随所に散りばめられ、画面の切り替えのテンポの良さは映画史に残る名シーンが満載。
主役2人の女装をグロテスクに見せないためモノクロにしたことを知ったM・モンローはとても不機嫌だったという逸話が残っている。おまけに情緒不安定で撮影に大変苦労したという監督自身の述懐がある。そのため編集でモンローのシーンを大幅にカットしたらしいが、完成品を見るとその懸念は微塵も感じられない。名シーン列車のなかで歌う「I Wanna Be Loved by You」はモンローの名シーンのひとつでもある。ジョージ・クラフトを起用して「聖バレンタインデーの大虐殺」や「イタリアオペラ愛好会」などでギャング映画をパロディ化したり、大口喜劇俳優のジョー・E・ブラウンをシェル石油の御曹司に仕立てJ・レモンと「ラ・クンパルシータ」を踊るシーンなども忘れられない。
秀逸なのはラストシーンの台詞で、コメディ映画のお手本であろう。これだけの名画だがアカデミー賞にたくさんノミネートされながら衣装デザイン賞のみの受賞とは?


『ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い』 85点

2010-04-17 16:02:51 | (欧州・アジア他) 2000~09

ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い

2009年/イタリア=スペイン

妥協のない絵画のような映像美の音楽映画

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆90点

「タンゴ」「カルメン」などこだわりのスペイン監督カルロス・サウラと、「ラスト・エンペラー」「地獄の黙示録」など映像の巨匠ヴィットリオ・ストラーロのコンビによる、オペラ「ドンジョバンニ」誕生秘話をモチーフにした音楽映画。
長い題名が示すとおり、モーツァルトの有名なオペラ「ドン・ジョバンニ」のシナリオを作ったロレンツォ・ダ・ポンテが主人公。
ドン・ジョバンニはスペイン語でのドンファンとしてお馴染み。17世紀のスペイン貴族のプレイボーイのことで、モリエールの台本をもとにしているといわれているが、本編はダ・ポンテ自身の半生が投影されているというユニークな発想。ダポンテとアンネッタの恋と劇中劇が同時に進行するところが実に違和感なくスムーズで、見事な展開には感心させられた。
フィクションだがカサノヴァ、皇帝ヨーゼフ二世、サルエリ、モーツァルトと著名な登場人物が彩りを添え、ストーリーも史実に近いと思わせる。それぞれの人物描写も的確である。この手の作品によくみられる間延びすることがなく、妥協を許さない美術・衣装・音楽を駆使したストーリーは127分という長さも程よい時間だ。
主演のロレンツォ・バルドィッチをはじめ、あまりなじみのない俳優が多いが手抜きを一切しない演出に見事に応えて演技力も確か。見どころのオペラも勿論本物で吹き替えなし。台詞もイタリア語を基本に必然性のあるところではドイツ語も交えていて雰囲気を壊さない。恋人アンネッタ役・エミリア・グランチャーレの透きとおるような美しさが際立ってみえたのもこの作品が成功した要因のひとつだろう。オペラにあまりなじみのないようなひとにも楽しめる作品である。


『シャッター アイランド』 85点

2010-04-15 14:31:13 | (米国) 2000~09 

シャッター アイランド

2009年/アメリカ

謎解きより、スコセッシ監督のテーマ性を感じる

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

「ミスティック・リバー」を書いたデニス・ルへイン原作のラストが袋とじになったことで話題となった本格的ミステーリーを、レータ・カログリディスが脚色。脚本を気に入ったマーティン・スコセッシがレオナルド・ディカプリオと4回目のコンビを組んだ話題作。
ロードアイランドの沖に浮かぶ孤島はシャッター・アイランドと呼ばれる。そこには精神を患った犯罪者だけを収容するアッシュクリフ病院がある。’54年の秋、行方不明の女性を捜索するため連邦保安官テディ(L・ディカプリオ)は初コンビを組む相棒チャック(マーク・ラファロ)を同行し、唯一の交通手段であるフェリーで乗り込む。大量殺戮戦争体験と妻の死というトラウマを抱えながら謎を追う、テディ苦闘の2日間を描いている。
かなり力の入った事前宣伝のためか、謎解きにばかり注意を払うと意外と早く推理ができてしまい、最後のどんでん返しが感じられないまま期待外れとなってしまいがち。
ここは主人公と同じ目線で進展を見守ると、スコセッシ監督が描いてきた共通のテーマ性が深く感じられ面白さが増してくる。人間の奥に潜むバイオレンスとそれを制御する精神力。最後のテディのつぶやきは、カトリック信仰でいう<罪と赦し>でもある。これこそ「どんでん返し」の妙味だろう。L・ディカプリオはPTSDを抱えた深刻な主人公を熱演して達者な俳優であることを印象づける。ほかでは謎めいた病院長のベン・キングズレーが相変わらず秀逸。
ロバート・リチャードソンの映像はほかのミステリー作品を思い浮かべるシーンもあり目新しさはないが、さすが手堅い作りで感心させられた。


『恋文('53)』 80点

2010-04-11 11:13:54 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

恋文('53)

1953年/日本

大女優・田中絹代の第1回監督作品

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

丹羽文雄の原作メロドラマを戦前からの大女優・田中絹代が初めて監督したことで記念すべき作品。朝鮮戦争終結をテーマに翻弄されたヒロインと敗戦後立ち直れない男のスレ違いを描いた文芸作。
題名から想像すると当時大ヒットした「君の名は」のようなメロドラマを思わせるが、戦後の都会の情景を映しながら社会の渦に巻き込まれた人々の暮らしをシリアスに描いている。その分2人の出会いと別れがいまひとつ盛り上がらない気がした。
興味深かったのは実在した東京・渋谷の通称・恋文横丁、すずらん通りの代書屋という仕事の存在。朝鮮戦争で滞在した米軍兵が寂しさを紛らわすため現地妻を囲いオンリーと呼ばれたとのこと。帰国した彼らから、生活のため手紙でお金をムシンするための代筆であった。恋文とはそれを指してはいないが、このドラマの核となっている。
渋谷周辺をはじめ銀座・日比谷公園・明治神宮参道など当時の風景がロケ地として使われていて、貴重な文化遺産的な映像でもある。
主演の森雅之(真弓礼吉)は元海軍士官で戦後に順応できない優男ぶりはイメージどおり。礼吉を子供の頃から一途に慕う久我美子も上品で薄幸なヒロインにぴったり。ただセーラー服姿は年齢的に無理があった。田中絹代は崇拝していた成瀬巳喜男のバックアップもあり脚本・木下恵介、助監督・石井輝男、撮影・音楽などそうそうたるスタッフを得て、初監督作品としては無難な出来となっている。脇役陣も宇野重吉・香川京子・沢村貞子・関千恵子・花井蘭子などバラエティに富んでいる。田中絹代も中年のオンリーとして出演存在感を見せている。主要な役に礼吉の弟役で道三重三という俳優が出ているが、二枚目ながら素人のような演技で興ざめ。その後名前を聞かないのも納得。


『モンタナの風に抱かれて』 80点

2010-04-08 14:04:41 | (米国) 1980~99 

モンタナの風に抱かれて

1998年/アメリカ

詩情あふれる大自然を舞台に馬と人間の再生を謳いあげる

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆80点

「リバー・ランズ・スル-・イット」で'20年代モンタナの美しい自然を描いたロバート・レッドフォード監督が、再び詩情あふれる大自然を謳いあげる2時間47分の人間ドラマで、今回は出演もしている。ニコラス・エヴァンスの原作「ホース・ウィスパラー」を、「フォレスト・ガンプ」のエリック・ロスと「マジソン郡の橋」のリチャード・ラグラヴェネーズが共同脚本化した。「ホース・ウィスパラー」とは<馬を癒す能力のあるひと>のこと。
N.Y.暮らしのマクレーン一家の一人娘・グレース(スカーレット・ヨハンソン)は愛馬ピルグリムに乗って事故に遭い片足切断、愛馬は暴れ馬となってしまう。雑誌編集長の母アニー(クリティン・スコット・トーマス)は、休みを取ってホース・ウィスパラーのカウボーイ・トム(R・レッドフォード)が住むモンタナへ、強引に娘と馬を連れて行く。これは、傷ついた娘と愛馬の心と体を癒すドラマだが、同時にマクレーン夫婦の人生を見直す旅でもあった。
とにかく丁寧でストーリーに手抜きがない。その分間延びしてしまったともいえるが、大自然と馬を美しい映像でたっぷりと写し、観客を癒してくれる。
R・レッドフォードはモンタナの風土と馬をこよなく愛しているのが画面から溢れ出ていて、相変わらずの自己陶酔部分が気になるが、彼の持ち味がよく出ていたので善しとしたい。C・S・トーマスはエリートのキャリア・ウーマンを毅然と演じながら、母であり女である迷える女性をそこはかとなく醸し出して好演。さらに芸域を拡げている。娘役はいまをときめくS・ヨハンソン。多感な少女の心のうちを表情ひとつで使い分ける多才ぶりを発揮している。ほかにも優しいが自信のない夫にサム・ニールやダイアン・ウィースト、クリス・クーパーののちのオスカー俳優が夫婦役で共演し、朴訥で人間味溢れる会話が醸し出されている。何より素晴らしかったのは愛馬プルグリム。1頭だけではできなかったと思うが、このドラマには欠かせない迫力ある暴れ馬から人に寄り添う素直な馬まで、幅広い役割を映像で魅せてくれた。


『侍』 80点

2010-04-07 12:13:36 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

1965年/日本

岡本喜八と橋本忍のコラボレーション

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆75点

江戸末期「桜田門外の変」をもとに父と子の絆・情愛を描いた郡司次郎の時代劇小説を橋本忍が大胆に脚色、岡本喜八が初の本格的時代劇に挑んだ。歴史的な事件を当事者の水戸浪士・羽山市五郎(江原達怡)が語りで進行させる展開はユニーク。2人のコラボレーションはのちの「日本のいちばん長い日」につながる意味でも興味深い作品。
<人を斬るのが侍ならば、恋の未練はなぜ斬れぬ>と歌謡曲でも歌われ、戦前の大河内伝次郎・坂東妻三郎、戦後は阪妻の遺児・田村高廣や東千代之介など何度も映画化されている題材である。中学時代、東千代之介作品を映画館で観た記憶があり、純粋な愛を身分の違いで壊されたニヒルな二枚目の主人公が井伊大老のご落胤と知り雪の中を駆けつける新納鶴千代の運命を可哀そうだと思ったのを覚えている。
今回は三船敏郎で年齢的にも無理があり、どうしても「椿三十郎」を連想せざるを得ない。橋本脚本は充分承知で豪放磊落なイメージに書き換えられていて、岡本監督もシリアスな演出で切れの良いカット割り、迫力ある映像で期待に応えている。名師久世竜による殺陣シーンも見逃せない。
豪華キャストも見どころのひとつ。井伊直弼に松本幸四郎、長野主膳に市川高麗蔵、松平佐兵督に市川中車の歌舞伎役者を配しさらに東野栄治郎、杉村春子の新劇俳優や志村喬を加え重厚な脇役陣。どうしてもテンポが重くなるのは止むを得ない。
相変わらずの怪演・伊藤雄之助、新玉三千代の横顔の美しさ、八千草薫の清楚な美しさ、小林桂樹の律義さも見どころのひとつ。
黒澤作品と比較されたせいか当時の評価は低く話題にならなかったが、時代劇の名作のひとつだと思う。