晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『フレンジー』 85点

2010-12-31 13:58:49 | 外国映画 1960~79

フレンジー

1972年/アメリカ

ヒッチ晩年の最高傑作 

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆90点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆80点

話題作「鳥」以来不評を買っていた60年代のヒッチコックが、故郷ロンドンで3年の準備ののち、見事復活を遂げた晩年の最高傑作。
テムズ河畔で市長が演説中にネクタイ絞殺死体が浮かび、聴衆が大騒ぎとなっていた。元空軍の英雄リチャード(ジョン・フィンチ)は、短気な性格で酒場を首になり元妻・ブレンダ(バーバラ・リー・ハント)を訪ねる。彼女が経営する結婚相談所には常連の変人ロビンソンがいて、ネクタイで絞殺されてしまう。直後に訪れたリチャードは秘書の証言で犯人として追われる羽目になる。
今でこそ「コロンボ」などで珍しくないが、犯人の種明かしは開始後わずか15分という斬新さ。しかも犯人ロビンソンは仮名で、コベント・ガーデンの青果市場で働くマザコンで善良そうなリチャードの友人ラスク(バリー・フォスター)なのだ。
ここまで無理無駄のないストーリー展開は、久しぶりに往年のヒッチを想わせるテンポの良い緊張感で飽きさせない。しかもラスクの次のターゲットがリチャードの恋人で酒場の同僚バブス(アンナ・マッセイ)で、殺人鬼に間違えられても仕方がない主人公の逃亡劇はヒッチお得意の路線。
ブレンダの殺人はこれでもかというほどリアルな絞殺方法で、ハリウッドでは倫理規定で映像化できなかった鬱憤を晴らした感があり、瞳孔が開きっぱなしの眼が印象的。いっぽうバブスは一切絞殺現場を見せず、カメラが2人の跡を追い部屋のドアが閉まるとカメラはドンドン退いて行き、街の騒音とともに部屋の窓ガラスが映るという長廻し。2つの殺人シークエンスは映像の見せ方として両極にあるのだが、ブレンダのリアルな殺害を見せられた後だけに観客はそれだけで充分という設定。
美男・美女の出ないヒッチ作品は珍しいうえ、おまけに主人公は気の毒であっても共感できる人物ではなく、助けてくれる友人のいないところも今風か?
もうひとつヒッチ作品に欠かせないのは随所に見せるユーモアだ。死体入りジャガイモ袋のトラック荷台から証拠のタイピンを取り戻そうとするラスクの奮闘ぶり。フランス料理に凝った夫人(ヴィヴィアン・マーチャント)から毎回奇妙な料理を出され辟易する警部(アレックス・マッコーエン)。この2人を主人公にドラマ化しても面白いのでは?と思わせるほどのキャラである。
2つのシークエンスは特に秀逸で、猟奇連続殺人事件ながらスパイスの利かせ方が絶妙なため陰湿さを感じさせない見事さ。してやったりのヒッチ監督得意満面の表情が目に浮かぶ。そしてテンポの良いラストシーンは何度観ても唸らさせられる。


『引き裂かれたカーテン』 75点

2010-12-30 13:51:18 | 外国映画 1960~79




引き裂かれたカーテン


1966年/アメリカ






ヒッチコック監督50作記念のスパイ映画 








総合★★★★☆
75



ストーリー

★★★☆☆
70点




キャスト

★★★★☆
75点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
80点





ヒッチコックが監督50本目に選んだのが久しぶりのスパイ映画。当時の60年代は東西冷戦の真っ只中で、映画も「007」シリーズを始めスパイもの全盛期だったためか。
米物理学者マイケル(ポール・ニューマン)はコペンハーゲンで開催される科学者国際会議に出席するため、婚約者で秘書のサラ(ジュリー・アンドリュース)と船旅を楽しんでいた。到着後マイケルは講演当日に突然サラをNYへ帰るように言って、何故か東ベルリンへ。サラは密かに跡を追う。
記念映画とあってP・ニューマン、J・アンドリュースの2大スターを起用したため、かなり前評判が高かった。とくにJ・アンドリュースは大ヒットした「サウンド・オブ・ミュージック」の次回作で、ベッド・シーンがあるというので興味深々。今観ると普通で、たいして話題にもならなかっただろう。ヒッチコックはサラのキャラクターを情熱的で愚直な可愛らしさをイメージしてエヴァ・マリー・セイントの起用を考えていた。しかし製作会社がウンといわずジュリーを指名してきたため、聡明で品行方正なサラの誕生となった。
肝心の出来は、正直いっていまひとつの感は否めなかった。「マーニー」といい晩年のヒッチコックには時代に乗ったテーマに迎合してしまって斬新さがない。ミサイル理論を盗むという作戦は荒唐無稽でスパイ・アクションもので充分。ヒッチコックの手腕は違うところにある。
とはいえ素晴らしいシーンはいくつかあり、農場での秘密警察のグロメク(ヴォルクガング・キーリング)との静かな格闘シーンやバスでの逃亡シーンは有名でたっぷりと魅せてくれる。お得意のユーモア・センスも健在で侯爵夫人(リラ・ケドロワ)やバレリーナ(タマラ・トゥマノヴァ)など脇役が随所で見せてくれる。
ヒッチコックは常連のスタッフと別れワガママな注文をつけられなかったのも災いしたのか、残念な作品となってしまった。






『続忍びの者』 80点

2010-12-05 12:07:58 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

続忍びの者

1963年/日本

大河ドラマの先駆け?新解釈の戦国時代劇

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

大ヒットした、「忍びの者」の続編で村山知義原作、高岩肇脚色、山本薩夫監督のトリオも変わっていない。前作が忍者の人間性を抹殺した生き方の悩みを描いて従来の忍者に命を吹き込んだ傑作だったのに対し、今回はスケールの大きな戦国時代劇を踏襲しながら歴史の影で忍者がどのような役割を果たしかを描いている。そのせいか新鮮な忍者の戦いぶりよりは諜報合戦が多く、忍者ものとしては物足りないのは贅沢な注文か?
忍者狩りに執念を燃やす信長(城健三郎=若山富三郎)は山里で平穏に暮らす五右衛門(市川雷蔵)夫婦にもおよび、一粒種五平を目の前で失う。妻のマキ(藤村志保)の里に戻り雑賀党の忍者となって信長暗殺の機会を狙う。
史実の流れのなかで忍者たちが戦国武将に仕官しながら命運を共にしてゆくさまが新鮮だ。明智光秀(山村総)に加担した雑賀党。信長に止めを刺したのは五右衛門だった。家康(永井智雄)に仕えた服部半蔵(伊達三郎)は雑賀党を全滅させた秀吉(東野英治郎)暗殺を五右衛門に仕掛ける。
執念深い信長、律義な光秀、明朗快活な秀吉。自分で手を下さず目的を辛抱強く果たしてゆく家康がもっとも知略溢れる忍びであるという。戦国武将達の性格を大胆に描写したストーリーは講談調で迷いがない。
当時は正月とお盆にはオールスターが顔を揃えた興行が恒例となっていたのでこのお盆上映作品も豪華キャスト。市川雷蔵は埋没することなく忍者の悲哀を好演。共演陣は、前半の城健三郎(若山富三郎)・山村総が支え後半は東野英治郎と伊達三郎が個性を発揮して際立っていた。若手では監督の甥である山本圭が森蘭丸役で美形ぶりを披露。
いまならNHK大河ドラマに相応しい戦国時代劇を手堅くまとめた山本薩夫の手腕は流石である。