晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「人生万歳!」(08・米) 70点

2014-12-27 17:00:56 | (米国) 2000~09 

 ・ NYに戻って、いつもながらアレン節は健在。

                  

70年代NYを舞台に大活躍したウディ・アレンが、ヨーロッパから戻ってきた。

 偏屈な老人物理学者が、南部の田舎町から出てきた娘に同情して家に泊めたのがキッカケで、結婚するハメに。そこへ彼女の母親がやってきて、テンヤワンヤの展開になってく行く。

 あり得ないハナシに、斜に構えていながらいつの間にか引き込まれ、ストーリーを楽しんでしまう。カメラに向かって語りかけたり、相変わらずの台詞の洪水とロリコン嗜好は健在だ。

 今回本人は登場しないが、何処となく似たイメージのラリー・デヴィッドが主人公ボリスを演じていて、まるで分身のよう。ハッピー・バースデイを2回唄いながら手洗いする生真面目な?ボリス。日本でも保育園で子供たちに奨励している習慣は、ここからか?

 南部から出てきた田舎娘メロディには前年レスラーでM・ロークの娘役を好演したエヴァン・レイチェルウッドが扮している。どちらかというと暗い影のある役がお似合いの彼女が、こんな明るい役をしているのに新鮮な驚きが!

 ハナシは真面目な母親マリエッタ(パトリシア・クラークソン)が、NYで大変身してプロ・カメラマンになり2人の恋人と同棲したり、追いかけてきた父親ジョン(エド・べグリー・Jr)がゲイを自覚したり、<何でもアリの世界>。

 政治・宗教・人生について皮肉満載のウンチクを披露するボリスは、<愛と平和の幻想>に気付いて2度目の飛び降り自殺をするが、そこには次の人生が・・・。

 いままで、彼の作品に興味なかったひとにお薦めの90分。


「紙の月」(14・日) 80点

2014-12-14 17:14:03 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・ 宮沢りえを支えた脇役陣と吉田演出。
                    

角田光代のベストセラーを若手の気鋭・吉田大八監督で映画化。平凡な女性銀行員が巨額の横領事件を引き起こした経緯を描いたサスペンス。

 観終わって2週間以上経過しながら筆が進まなかったのは珍しいが、決して出来が悪いわけではない。むしろ、映像や音楽センスの良さに流石CM出身監督らしい美意識が窺え、好感をもって映画館を出た。

 年頭NHKで観たTVドラマは原作に近く、主人公(原田知世)の過去や同級生などが登場して彼女の心の襞に分け入った人間ドラマだった。

 それと比較すると映画ならではの簡略化もされていて、彼女が年下の大学生に入れ上げた経緯に絞り、ヒロイン・梨花(宮沢りえ)の変貌ぶりを追うストーリーはとても分かりやすい。

 反面、原作にはないふたりの銀行員・お局役の小林聡美、若手ちゃっかり役の大島優子を加え、ヒロインを惹きたてる重要な役割を果たしている。上司役・近藤芳正と併せ、如何にも地方銀行の支店はこんな雰囲気なのではと思わせる典型的な臨場感溢れる構成だ。

 時代設定をバブル直後の94年から現在に移したのだろうか?夫婦のすれ違いの描写が割と淡泊で、年下の大学生・池松荘亮との関係もあっさりしていて現代風。

 昔の事件滋賀銀行の奥村彰子や足利銀行の大竹章子、三和銀行の伊藤素子など横領した女子銀行員のようにドロドロした男女関係から抜き差しならなくなったという悲壮感がない。

 70過ぎの老人にはヒロインの気持ちはよく分からない。むしろ上海に単身赴任した夫・田辺誠一に同情してしまう。吉田監督と脚本の早船歌江子は腕時計など微細なところで微妙な女ごころを描き切ったのだろうが、いまいち突っ込み不足では?

 起承転結でいえば、結は観客に委ねたこの作品。先のキャスティングに石橋蓮司、中原ひとみを加えた脇役陣が、5年振りの本格的主演で映画界に復帰した宮沢りえを盛り立てている。

 今年度の主演女優賞を総なめしそうな宮沢りえ。もっと映画で魅了して欲しい。
 

「セブン」(95・米) 80点

2014-12-06 16:25:52 | (米国) 1980~99 

 ・スタイリッシュで衝撃的なエンディングのD・フィッチャー作品。

                    


 シナリオのアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーがNY在住経験を生かして描いたオリジナルを鬼才デヴィッド・フィンチャーが監督。

 スタイリッシュな映像と衝撃的なエンディングで評判となったサイコ・サスペンス。

 先ずタイトルからノイズの効いた音声のバックで斬新さが窺える。大都会デトロイト?で長年刑事を務め、定年まであと1週間のベテラン刑事(サマセット)と望んで転勤してきた若手刑事ミルズ(ブラッド・キッド)が追う連続殺人事件。キリスト教の「七つの大罪」を追うように、大食・強欲・怠惰・肉欲・高慢と事件は続き、残るは嫉妬と墳怒のみ。

 作品には哲学的な深い意味があるらしいが、次から次へと起こる猟奇的な殺人事件を追う二人の刑事を観るだけでも充分楽しめる。

 M・フリーマンがとても好い味を出している。諦観的でありながら、最後の仕事として犯人を追う執念は長年務めてきた彼の生き方を滲ませている。

 B・ピットは血気盛んな若手刑事を熱演して彼の代表作のひとつで、作品選びの巧さに感心する。

 ミルズの妻トレイシーを演じたのが、トップスターのグウィネス・パルトローなのも見逃せない。単なる美男・美女の夫婦でないところが終盤で大きな意味を持ってくる。

 肝心の犯人は、なかなか姿を見せないが終盤思わぬ意外な登場の仕方をする。おまけに演じたのが演技派俳優のケヴィン・スペイシーに二度びっくり。

 最後でまた驚かせてくれた。エンディングではデヴィット・ボウイの主題歌とともにK・スペイシーがトップ・クレジットなのも頷ける。

 観方によっては大都会の汚点剥き出しの悪趣味な作品だが、D・フィンチャーらしいパワフルで戦闘的な作品だ。

 <世界は素晴らしい。闘う価値がある>というヘミングウェイの言葉を引用するように。