晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『新・夫婦善哉』 85点

2010-07-29 11:45:08 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

新・夫婦善哉

1963年/日本

8年振り、豊田・森繁・淡島の名トリオ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

織田作之助原作を豊田四郎・森繁久彌・淡島千景のトリオで大ヒットした「夫婦善哉」。脚本を手掛けたベテラン八住利雄のオリジナルで8年振りに再現した。
船場の若旦那・柳吉(森繁)は中年になっても相変わらずの定職を持たない甘ったれのダメ男。勝気で浪花女を自負する蝶子(淡島)は小料理屋・卯の花を任され、ときには泊り込みで柳吉と果物屋を開くのを夢見てせっせと貯金している。
そんなとき現れたのが東京からきた、お文(淡路恵子)で柳吉は見事に引っかかってしまう。
前作が昭和初期の大阪を舞台にした男女の人情を描いているのに対し、変わりゆく船場・法善寺横丁を背景に柳吉を巡って、はすっぱで色っぽいお文とその情夫(小池朝雄)、蝶子とお文の2つの三角関係が物語の中心。前作の面影をそのまま再現できたのは、主演2人の息があった絶妙なやり取りと、脇を固める大阪弁の達者な役者たち。女将の浪花千栄子、夫の若宮忠三郎、蝶子にぞっこんの長助・田中春男、義弟で跡取り京一・山茶花究など。いきいきとした彼らを見るだけで感動もの。
まだ未成年だった筆者にとって、製作した東京映画は<大人の文芸作>というイメージが強く、リアルタイムで観てはいないが、改めてダメ男としっかりものの女の人情悲喜劇は何故かホッとして幸せな気分にしてくれる。
森繁のダメ男で憎めないキャラクターは名優・藤山寛美も唸らせたほど。「夫婦善哉」「猫と庄造と2人のをんな」で確立し、本作で完成させ右に出るものはいない。


『地の涯に生きるもの』 80点

2010-07-27 10:57:05 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

地の涯に生きるもの

1960年/日本

半世紀後も色褪せないテーマ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

戸川幸夫の「オホーツク老人」を当時47歳だった森繁久彌が念願の映画化。国後の番小屋で生まれた漁師・村田彦市が、望郷の想いのままラウスの番小屋で過ごす孤独な一生を描いている。団伊久磨の音楽に載せて小沢寅三のナレーションで始まるオホーツクの風景は、記録映画の趣きで時代を感じる。
森繁の彦市は71歳の孤独な老人にしては若々しく老け役に不自然さはあるものの、これを機に老人役に目覚めたのでは?というほど後の活躍ぶりのキッカケとなっている。血気盛んな若いトキのエネルギッシュな演技は北の漁師そのもの。
ドラマは妻をめとり3人の息子に恵まれ厳しい環境のなか幸せな半生だったが、次々と愛する人を失い望郷の念を生き甲斐に暮らす男を回想を交えながら展開する。
そこには自然の厳しさ・美しさ、戦争の虚しさ、漁業資源と領土問題をもろに受けた男の人生が語られ、<海は、みんなのもの>というテーマが重くのしかかり、半世紀たっても色褪せない。
妻・おかつ役の草笛光子は漁場の女にしては品がありすぎるのが難。3男の恋人役の司葉子が都会育ちのお嬢さんで楚々とした美しさ。脇を固める俳優では、由利徹・左卜全がとぼけた持ち味そのままで目を引くが、新人・渥美清が森繁と2人だけのシーンでの歯切れ良い演技がひときわ際立っていた。


平均寿命さらに更新

2010-07-27 10:12:02 | 2010.07から東北大震災直後までの日誌
日本人の平均寿命は男女とも過去最高となり男79.59歳、女86.44歳とか。女は世界第一位が25年連続とは驚きで男も5位とはいえ毎年伸び続けているとのこと。原因は3大疾患の予防医学の発達が最大の要因だが、外国人が日本食に注目しているのも納得。自分の余命にあてはめると長いようで短い。男はカタールが1位、女はフランスが3位というのもお国柄があらわれているような気がして面白い。

ミュンヘン・オリンピックで一番盛り上がったのは男子バレーだろう。その主力メンバーで主将の中村祐造が亡くなった。同世代であり、勤めていた会社がバレーボールが盛んでミュンヘンにも代表選手がいた関係で記憶に残るヒトだった。男子バレーが低迷中のいま、またひとり伝説の語り部を失った。

近くのスーパーへ車で出かけ、駐車場でリア・ウィンドウが閉まらなくなる。ディーラーに問い合わせたところレギュレーターを変えなければならないとのこと。猛暑でクーラーが効かないなか、16号を走るのは難行苦行。おまけに約9万円の出費は痛い。交換を待つ間、大リーグ中継を見る。このところ好調の松井が、14号2ラン。それでもエンゼルスはブルペンが弱く連敗で西部地区3位へ転落。

『インセプション』 85点

2010-07-24 14:42:32 | (米国) 2010~15

インセプション

2010年/アメリカ

ノーマン監督の独自性と娯楽性をMIXした集大成

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆80点

バットマン・シリーズのクリストファー・ノーランのオリジナル脚本・監督作品。夢のなかでヒトの潜在意識にもぐり込んで<アイデアを盗む>スペシャリストが、<ある考えを植え込む>という命がけの仕事に挑むアドベンチャー・アクション。主演にレオナルド・ディカプリオ、共演に渡辺謙という魅力的なキャスティング。
冒頭、摩訶不思議な日本の城に住むサイトー(渡辺謙)と主人公コブ(L・ディカプリオ)のシーンでいきなり迷路に入ってしまい、これは失敗作では?と不安を感じる。
それでも、サイトーから命がけの仕事を引き受けたコブが世界中のスペシャリストとチームを組み、世界的企業グループの御曹司ロバート(キリアン・マーフィー)に挑む構図が見え始めると、息もつかせぬカーチェイス、折れ曲がる街並み、高層ビルの廃墟、無重力のアクションなど「マトリックス」を思わせる不思議な映像シーンに魅了されてしまった。現実と夢、夢とその夢の中なのか?考える暇もなく時間・空間を超えた多重構造の流れに身を任せてゆくうち、トキの経つのを忘れノーマン・ワールドに浸ってしまっていた。コブが持っている独楽を回すことが<夢と現実を確かめる手段であること>を予備知識として持っておくと分かりやすい。
C・ノーマンは「メメント」の高評価で世界に認められ「インソムニア」「プレステージ」で独自の世界を築き、バットマン・シリーズで興業的にも信頼を勝ち取ったいま脂の乗っている監督のひとり。今回は独自性と娯楽性をMIXした、いままでの集大成といえる娯楽大作といえる。
主演のL・ディカプリオは、前作「シャッター・アイランド」に続いて現実離れしたセンチメンタルな男を演じ、はまり役となりそう。対する渡辺謙は出番も多く、ひいき目でなく堂々たる受けの演技で、一番有名な日本のハリウッド俳優として存在感を見せている。
ほかにも妻のモルにマリアン・コティアールが謎の言動で、「エディット・ピアフ~愛の賛歌~」とは別人のようなボリューム感で魅惑的。義父で恩師のマイルズにマイケル・ケインは出番は少ないが印象的なシーンに登場してストーリーに重みを増している。さらにチームの一員でフランスの夢の設計士にエレン・ペイジ、モロッコの偽装士にトム・ハーディ、睡眠を調節するインドの調合士ユスフにディリーブ・ラオなど国際色豊か。
夢のアクションの世界にどっぷり浸かって暑さを忘れるのも一興。ノーラン監督の次回作はバットマン第3作らしいが、007も観てみたい。


『クイズ・ショウ』 85点

2010-07-22 10:15:38 | (米国) 1980~99 

クイズ・ショウ

1994年/アメリカ

無垢な時代の終焉を迎えた50年代の米国

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

TVというメディアが今とは比べ物にならないほど影響力を持つ50年代の米国で起きたスキャンダルをもとに、「普通の人々」のロバート・レッドフォードがアメリカの良心を描いた社会派ドラマ。
クイズ番組は誰でもチャンスが与えられリッチになれるアメリカンドリームの象徴的な存在。その頂点に立つ「21(トゥエンティ・ワン)」がヤラセではないか?と気付いた立法管理小委員会の若き捜査官ディック・グッドウィン(ロブ・モロウ)。この映画の原作者でもあり、のちにJ・F・ケネディのスピーチ創案者で大統領顧問になったヒトである。本来なら彼が放送業界の不正を糺す奮戦記になりそうだが、レッドフォードは2人のクイズ解答者からその仕組みと時代性を浮き彫りして見せる。ひとりはハービー・ステンペル(ジョン・タトゥーロ)で風采の上がらないユダヤ人。もうひとりはチャールズ・ヴァンドーレン(レイフ・ファインズ)で名門の一族の大学講師。対象的な2人が味わう快感と挫折感がTVという虚構のヒーローが貧しいものが成功する時代から見栄えのいいインテリがもてはやされる時代に変革しようとしていることを表している。登場人物の誰もがもつ共感部分とあわせもつ弱みを同時に描いてゆくので、観客は主役不在の不安感に苛まれる。これこそ社会派レッドフォードの真髄でもある。
前半、J・タトゥーロのオタクの怪演振りが目立つ。ラジオ向けの顔と言われながら、クイズにおける知識を武器にマスコミでの成功を夢み<自分の都合だけでネタを追うマスコミ>に幻滅する。レイフ・ファインズの誘惑に惑わされる気弱なインテリぶりもいい。勇気ある自己批判者は賞賛に値するというアメリカ好みの計算が崩れるときの戸惑いの表情は印象的。
ディック・グッドウィンは、ハーバード大の首席卒というエリートであることを武器に、ユダヤ人であることを隠そうともしない。無垢な時代の終焉を迎える変化を読みとったので後の成功に結び付いたのだろう。演じたR・モロウが2人の個性に負けてしまったのが残念。


『渇いた太陽』 80点

2010-07-16 10:56:42 | 外国映画 1960~79

渇いた太陽

1962年/アメリカ

欲を追い求める人間の虚しさと愚かしさ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「欲望という名の電車」のテネシー・ウィリアムズの戯曲「青春の甘い鳥」をリチャード・ブルックスが脚色・監督、<夢と愛を得ようとする青年を描いた>人間ドラマ。
ハリウッドで成功を夢見る青年チャンス(ポール・ニューマン)は、若さと美貌に絶望した女優アレクサンドラ(ジュラルディン・ペイジ)を車に乗せ、生まれ故郷ホームタウンST.へ帰ってきた。そこには彼の恋人ヘブンリー(シャーリー・ナイト)が待っていたはずが...。
ブロードウェイで演じたというP・ニューマンとG・ペイジの立場が何度も逆転するさまが、欲を追い求める人間の虚しさとして赤裸々に描かれ、一番の見どころ。
物語は故郷でのチャンスがどのような存在であったかがメインとなってゆく。父親ボス(エド・ベグリエ)の権力の犠牲者である娘が恋人だったことで、彼の居場所がなくなっていた。<ひき潮>のメロディとともに、夢と愛の両方を得ようとするチャンスの野望の行方は?
チャンスとアレクサンドラ、チャンスとヘブンリー、2つが交錯するドラマは原作の持つ毒がないせいか、出演者の熱演にもかかわらず胸に迫るものがない。
G・ペイジがのちにオスカー女優として評価されるが、ノミネートされたこの作品がもっとも受賞に値するのでは?ボスのE・ベグリエが、権力・名誉を手に入れた挙句、もっとも愛するものを失う人間の愚かしさを演じ、同助演男優賞を受賞。P・ニューマンは適役だが、2人の好演に喰われてしまい、アンバランスとなってしまったのは皮肉なことだ。


『アパートの鍵貸します』 85点

2010-07-15 10:55:36 | 外国映画 1960~79




アパートの鍵貸します


1960年/アメリカ






I Can’t spellワイルダーの最高作





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
85



ストーリー

★★★★☆
85点




キャスト

★★★★☆
85点




演出

★★★★☆
85点




ビジュアル

★★★★☆
85点




音楽

★★★★☆
80点





ビリー・ワイルダーが製作・監督・脚色したハリウッド最高のロマンティック・コメディ。これをピークに時代が徐々に彼を必要としなくなっていく映画史上貴重な作品でもある。
ストーリーはマンハッタンに暮らす生命保険会社の平サラリーマンC.C.バクスター(通称バド)(ジャック・レモン)とエレベーター嬢フラン(シャーリー・マックレーン)との笑いとペーソスのラブ・ロマンス。
アパートに住む独身のバドが残業する1~2時間を4人の上司に貸すことで出世の糸口にしている。いよいよ人事部長(フレッド・マクレイ)に呼ばれ勇んで27階へ行くとそれは5人目の利用者だった。おまけに浮気相手はバドが片思いしているエレベータ嬢だった。
何よりも計算しつくされたI・A・L・ダイアモンドとの共同脚本が緻密で素晴らしい。お人よしで几帳面な小市民バド、とてもキュートで一途なフランの2人が、だんだん距離が近づきながら抜きさしならない状況になってゆくさまは興味がつきない。人事部長やマリリン・モンロー似の女性をゲットしたジョーをはじめとする4人の上司課長の身勝手ながら憎めない言動。そして隣人ドクター・ドレイファス(ジャック・クラシェン)の設定の上手さ。脇役ひとりひとりがいきいきと描かれている。
そして小道具の使い方の上手さは唸らざるを得ない。とくにフランがアパートで忘れた割れたコンパクト。これでバドの憧れたフランがシェルドレイク人事部長の浮気相手だったと分かる。おまけに部屋を貸したことがキッカケで部長補佐に昇格し個室を与えられたその部屋で。ほかにもテニスラケット、鍵、レコード、カミソリ、シャンペンそしてトランプ。それぞれが何かを語っているような見事な設定である。
テレビでは「駅馬車」や「拳銃無宿」が流れるが、お目当てのグレタ・ガルボの「グランド・ホテル」がCMでなかなか見られないというシーン。映画人ワイルダーの誇りあるカットだ。
フランの「I Can’t spell」という台詞。保険会社に就職できなかった理由だが、<とても言葉では言えない>というバドへのラブ・コールでもある。小粋なエンディングとともに何度見ても新しい発見のある傑作だ。






『月蒼くして』 80点

2010-07-14 12:01:53 | 外国映画 1946~59

月蒼くして

1953年/アメリカ

D・ニーヴンのキザな台詞に喰われた

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

F・ヒュー・ハーバートの戯曲を自身が脚本化した。N.Y.エンパイア・ステート・ビルで出会った男女のラブ・コメディで、監督はオットー・プレミンジャー。ラブ・コメディといえばキャメロン・ディアスだが少し前までの女王はメグ・ライアン。本作はトム・ハンクスと共演した「めぐり逢えたら」(’93)、ウォーレン・ベイテイ、アネット・ベニング主演「めぐり逢い」(’94)の舞台設定のお手本でもある。
公開当時過激な台詞のオンパレードで不道徳な映画としてカトリック協会から上映禁止を迫られたとか。日本でも映倫未許可作品である。いま見ると何処が問題なのか首をかしげるほど。ヒロインパティ(マギー・マクナマラ)が<キスならかまわない>とかバージン、SEXなどという台詞がモラルの崩壊と騒ぐ要因なのか?それほど女性のタブーが多い時代だったのだろう。
パティは清純でウブなのか?カマトトですれっからしなのか?危うい22歳の女優の卵。彼女を追いかけるのは独身の建築士ドン(ウィリアム・ホールデン)。プレゼントをキッカケに食事を誘うという典型的なプレイボーイ。案の定、同じアパートの婚約者?シンシア(ドーン・アダムス)に見つかってしまう。
シンシアの父、デヴィッド・ニーヴンがドンを上回るプレイボーイぶりを発揮する。娘の心配はそっちのけでパティに600ドルをプレゼントして気を誘う。いちばんのはまり役でキザな台詞のオンパレード。極めつけが「私も魅力はあるが、節操のない男といわれる」
ウィリアム・ホールデンは30歳の役柄にしては老け過ぎて無理があった。どうもコメディはぴったりこない。M・マクラマンは、オスカーにノミネートされたが、「ローマの休日」と同じ年だったのが不運だった。


『依頼人(1994)』 80点

2010-07-13 10:20:49 | (米国) 1980~99 

依頼人(1994)

1994年/アメリカ

プロフェッショナルと母性愛の狭間

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「ザ・ファーム法律事務所」「ペリカン文書」と原作が立て続けに映画化されたジョン・グリシャムの作品をジョエル・シューマッカーが監督。ところはエルビス・プレスリーの聖地で有名なメンフィス。マフィアに絡む秘密を偶然知ってしまった11歳の少年マーク(ブラッド・レンフロ)と1ドルで弁護を引き受けたサラ(スーザン・サランドン)の心のふれあいを描いたヒューマン・サスペンス。
車内でガス自殺しようとする男を目撃したマークが巻き込まれる冒頭のシーンは、ハラハラ・ドキドキのサスペンスタッチを充分味わえ、大いに期待できる。偶然上院議員の死体の隠し場所を知ってしまったマークは連邦検察官ロイ(トミー・リー・ジョーンズ)の証言要請に応えると母と弟の命に関わることを察知、弁護士を雇うことを思いつく。
マークの人物設定がなかなかいい。父親のDVDが原因でトレーラー・ハウス暮らしの一家は、27歳の若い母と8歳の弟の3人暮らし。自分は甘えたい年頃なのに児童と呼ばれることを嫌がる背伸びした悪ガキ。生意気な言動と愛らしい瞳がアンバランス。演ずるB・レンフロは5000人のオーディションで選ばれただけあって母性愛をくすぐる好演。25歳の若さで08年亡くなり、リバー・フェニックスと比較されたのもうなずける。彼の不幸はデビュー作が代表作となってしまったことだろう。
S・サランドンは2児の母親で親権を奪われた元アルコール依存症の女弁護士。わずか1ドルで弁護を引き受けた背景には自分の家庭問題と事件がオーバー・ラップしていたから。母性愛で引き受けながらプロフェッショナルとして法廷での駆け引きを駆使するサラの選択肢は狭間で微妙に揺れている。
アメリカの法曹界の構図も見え隠れする。それは連邦検察官に象徴される野心家であったり、金と成功を同義とする男社会である法曹界。女弁護士の範囲は限られていた。メンフィスという地方都市の黒人裁判官(オシー・デイヴィス)が威厳をもって裁く法廷劇は絶妙なバランスをみせてくれている。<連邦保証人保護プログラム>という制度で証人が守られるのもアメリカらしい解決策だ。
T・L・ジョーンズがどこか愛嬌ある憎めない敵役でいい味を出している。


『コレリ大尉のマンドリン』 80点

2010-07-03 16:43:47 | (米国) 2000~09 

コレリ大尉のマンドリン

2001年/アメリカ

美しい地中海の島で起きた戦争秘話

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

ルイ・ド・ベルニエール原作のベストセラーを「恋に落ちたシェイクスピア」のショーン・マッテンが監督。第二次大戦中で起きたギリシャ・ケファロニア島で起きた実話をもとにした島の娘とイタリア兵の恋物語。その実話とは’43イタリア降伏とともに同盟国ドイツ軍がギリシャ統治のイタリア兵9千人を銃殺したこと。この話をベースに島の娘・ペラギア(ペネロペ・クルス)とイタリア将校コレリ大尉(ニコラス・ケイジ)とのラブ・ストーリーが展開されるといえば、悲恋を想定するが良くも悪くも裏切られる。
エメラルドの海と碧い空、緑の山と土埃りの美しいケファロニア島。ヒロイン、ペラギアと医師の父、漁師の婚約者など貧しいがギリシャ正教の信仰厚い村人たちの穏やかな暮らしが繰り広げられる。この島は戦火と無縁に思えたがイタリア軍が侵攻して占領下へ。コレリ大尉の登場まで約25分ありN・ケイジのワンマン映画ではないのがわかる。原地ロケで臨場感溢れているのに違和感があるのはギリシャ・イタリア・ドイツと言葉の違う人々全員が英語の台詞のためだろう。ハリウッド映画の宿命である。
前半はラブ・ストーリー、後半は唐突に戦争ものへ。バランスが良くないのは脚本のせいか?ペラギアの半世紀にわたる人生を綴った長編小説を、125分の映画にする難しさがここかしこにうかがえる。コレリ大尉は実戦経験がなく「食べて唄って愛し合う」をモットーの明るく屈託のないイタリア人気質。ペラギアがコレリに惹かれる様子がマンドリン演奏のシーンだが、N・ケイジの健闘にもかかわらずいまひとつ感情移入しにくい。
栄えある?ゴールデンラズベリー賞主演女優賞を受賞した美しいペネロペ・クルス、ダンスシーンが素晴らしい。父のジョン・ハートは娘に「愛と恋」の違いを諭すなど、名台詞で見せどころがいっぱい。婚約者でパルチザンに入った漁師クリスチャン・ベールとその母イレーネ・パパス。独軍将校のデイヴィット・モリシー。いづれも個性豊かな豪華な俳優が脇を固めている。それぞれ見どころはあるが、エピソードとして映る印象で全体としてまとまりがなく、もったいない。
終戦後も内戦・大地震に苦しめられたギリシャ。その追悼の意味もあったのか終盤のシーンが付け加えられたのだろう。エンディングにろうろうと流れるラッセル・ワトソンの歌う「ペラギアの歌」がとてもよかったので、印象的な終わり方がほかにあったような気がする。