「ザ・バンク/堕ちた巨像（０９・米・独・英） ７０点

　・思ったよりシンプル、映像美に本領発揮のＴ・ティクヴァ監督によるアクション・サスペンス。




「ラン・ローラ・ラン」（９８）、「パヒューム/ある人殺しの物語」（０６）などで知られるドイツの気鋭トム・ティクヴァ監督のハリウッド進出作。

　ルクセンブルグに本拠を構える国際銀行ＩＢＢＣの不正疑惑を捜査するインターポール（国際刑事警察機構）捜査官が、ＮＹ検事補とともに真相に迫って行くサスペンス。脚本は犯罪スキャンダルで９１年破たんした実在のＢＣＣＩ（７２年設立）をヒントにした新人・エリック・ウォーレン・シンガー。

　ベルリン・リヨン・ルクセンブルグ・ミラノ・ＮＹそしてイスタンブールと欧米を駆け巡る壮大なストーリーは＜ボーン・シリーズ＞を思わせ、次々と事件のキーマンが殺害され、目が離せない。ただ、全体の雰囲気はかなり地味で、調査や尾行・追跡がメイン。

主演は捜査官ルイ・サリンジャーを演じたクライヴ・オーエン。孤独感を漂わせ、強靭な精神力と、時折魅せる優しさを持ち合わせた男。巨大な国際組織に果敢に挑む苦闘ぶりがぴったりだが如何せん華がない。その分サポートするのはＮＹ検事補エレノア・ホイットマン。演じたのはナオミ・ワッツで、如何にもハリウッド風美形女優だが、活躍の場はあまりなく中途半端。

　銀行頭取に「ある愛の風景」（０７）のウルリク・トムセン、その側近で元東独軍人で暗殺エージェントに「イースタン・プロミス」（０８）のアーミン・ミュラー＝スタール、義足の暗殺者に「ミリオンダラー・ベイビー」（０４）のブライアン・Ｆ・オバーンが扮し、ティクヴァ・ワールドを盛り立てている。

　ティクヴァは雨のベルリン中央駅から、ガラス張りのルクセンブルグ高層ビル、ミラノの街並み、イスタンブールのトプカピ宮殿など映像美を独特のカメラワークで堪能させてくれる。さらにジョニー・クリメック、ラインホルト・ハイルに監督自身が加わった音楽は節度を保ち、殊更大仰にしないところに好感を持った。ただ、エンタテインメントを期待したハリウッド製作者とはテイストが噛み合わなかったようだ。

　そこで追加撮影されたのがＮＹ・グッゲンハイム美術館での銃撃戦。フランク・ロイド・ライド設計による斬新な螺旋と吹き抜け構造の現代美術館はアーティスティックな建造物。ここで繰り広げられる１５分あまりの銃撃戦とイスタンブールでの追跡劇はまさに製作総指揮ジョン・ウーの香港ノワール風にとって代わる。

　随所にティクヴァの世界が垣間見られたものの、ハリウッド・エンタテインメントに力ずくで抑え込まれ竜頭蛇尾の感があった。もう一度ティクヴァ監督でインターポールものを観てみたい。