晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「レディ・バード」(17・米 )65点

2018-12-30 12:15:25 | 2016~(平成28~)


・自伝的要素をもとに17歳から18歳の1年間を描いたG・ガーウィグの初監督作品。

女優のグレタ・ガーウィグが自身の体験をもとに書き下ろしたオリジナルを、単独初監督で映画化。多くの人々の共感を得て、オスカー作品賞・監督賞など5部門にノミネートされ話題となった。

カリフォルニアの片田舎サクラメントのカトリック高校に通うクリスティン。本名を名乗らず自称「レディ・バード」というチョッピリ背伸びした17歳が、大学進学や恋愛・友情・母との亀裂など揺れ動く1年間をエピソードを盛り込んだユーモアたっぷりな青春ドラマ。

オスカー監督賞候補はたった5人しかいなかったのも驚きだが、マイノリティの視点や政治的メッセージもない、ごく普通のいわば王道を行く青春映画が映画ファンの共感を得て大ヒット。
受賞はならなかったが主要5部門にノミネートされたのは、如何に昨今の作品が衝撃的なインパクト競争に走ったものが多かったかを示すものだったかを証明するものだともいえる。

キャスティングが素晴らしい。主演は「つぐない」(08)「ブルックリン」(16)で若手演技派のシアーシャ・ローナン。実年齢は5歳も年上だがそこは演技でカバーしてマセた女子高生に扮している。
筆者が10代の頃、佐久間良子がセーラー服の女子高生役を演じていたのを思い出す。

両親に扮したのはローリー・メトカーフとトレイシー・レッツの舞台俳優でベテランらしい達者な演技。
恋人役に「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(16)、「スリー・ビルボード」(17)のルーカス・ヘッジスと、「君の名前で僕を呼んで」(17)のティモシー・シャメラというタイプの違う売り出し中の若手を配していて、それぞれ「レディ・バード」の恋心を惑わす役割を担っている。

17歳の彼女にとってサクラメントは古臭いなんの取り得もない窮屈な街で、文化の香り高い大都市NYへ憧れるのはもっともなハナシ。

母マリオンも若い頃は同じ想いだったが、看護師で一家を支える現実と娘の言動はとても受け入れられない。本作は「怒りの葡萄」の感動度合のギャップから始まる<母と娘の愛と葛藤の物語>でもある。

ジョン・ブライアンの巧みな音楽に乗って次から次へとシチュエーションが変動する94分は、観客が泣いたり笑ったりしながら自分の人生とオーバーラップする作品になったことで高評価に繋がっている。

登場人物の女性の微妙な心情描写は長けているが男性描写が類型的だと感じたのは、筆者が男だからだろうか?

「タリーと私の秘密の時間」(17・米 )70点

2018-12-26 12:45:42 | 2016~(平成28~)



・ 妊娠・出産・育児を通して、母親への応援歌を描いたJ・ライトマン。

「ヤング≒アダルト」(11)のトリオ、ジェイソン・ライトマン監督・マッケンジー・デイビス脚本・シャーリーズ・セロン主演で、3人の子育てに奮闘する母親と若いナイト・ナニーとの不思議な交流を描いたヒューマン・ストーリー。原題は「タリー」

「JUNO ジュノ」(07)では大人に早くなり過ぎた少女、「ヤング≒アダルト」では大人になり切れない女性を描いてきたJ・ライトマン。

本作では親になったことで大人にならなければならない女性を、妊娠・出産・育児という大変さを通じて独特の切り口で描いている。

これはD・コーディが3人目の子供を産んで体験したことをもとにシナリオを書き下ろしているだけに、子を持つ女性の共感を得られる設定。

コメディタッチという前触れだが、世の男性には辛口過ぎて耳が痛いシーンが盛り沢山だ。

いつも感心するのはS・セロンの役作りのストイックさ。今回は出世作「モンスター」(03)を上回る18キロも増量して、体形の崩れを晒しての熱演は<女版デ・ニーロ・アプローチ>を実践している。

主人公マーロには、オシャマなサラと発達障害のジョナの姉弟がいる。それだけでも大変なのに3人目を妊娠中。夫ドリューは優しいが無関心。

人には頼りたくないといっていたマーロだが、限界となって兄が世話してくれたナイトナニー(夜だけのベビー・シッター)を頼むことに。

現れたのはタリー(マッケンジー・デイビス)という若い女性だった。その完璧な育児ぶりにすっかり心を許したマーロ。

ふたりの絆の深さが異常なのは、タリーがコスプレで夫のベッドルームへ現れるシーンあたりから。

筆者は当初<ローズマリーの赤ちゃん>のようなサスペンスを予感していたが、このシーンから見事に外れたことを認識、<アメリカン・ビューティ>的なブラック・コメディを想定することに。

以後どんどんエスカレートして行き<ファイト・クラブ>化して行く破目に・・・。

S・セロンの大熱演も空回り?と思わせながら、タリーを演じたM・デイビスの不思議な魅力と音楽の絶妙なストーリー・テイリングに目が離せない。

自動車事故で入院したマーロが、全ての疑問を回収して物語は終焉する。

マーロの問題は全て解決していないが、ヘッドフォンでゲームに興じていた夫が、揃ってキッチンで同じ音楽を聴くシーンは平穏な家族への応援歌でもあった。










「悲しみに、こんにちは」(17・スペイン)70点

2018-12-21 15:57:52 | 2016~(平成28~)



・幼い少女が 母の死をどう受け止めたかを追ったドキュメンタリー・タッチ作品。

両親を亡くした少女が、バルセロナから70キロ離れたジローナに住む叔父夫婦に引き取られた1993年のひと夏を描いた、スペイン新人監督カルラ・シモンの長編デビュー作品。原題は「1993年の夏」
自身の体験をもとに書き下ろしたオリジナルでベルリン映画祭新人監督賞を受賞した。

幼い少女が母親の死をどのように受け止め乗り越えようとしているのかを、ドキュメンタリー・タッチで描いたシモン監督は、自身の記憶をもとに出来事を積み重ねながら、主人公の感情の揺れを紡ぎだして行く過程がとてもドラマチックだ。

少女フリダを演じたライア・アルティガスと従妹のアナに扮したパウロ・ロブレスはとても演技とは思えないナチュラルな言動で観客を惹きつけてやまない。

監督は「ミツバチのささやき」(73)をお手本にしたというが、是枝作品も参考にしたに違いない。

1993年のスペインはフランコ政権の終焉とともに自由を謳歌した頃で、突然の解放感から若者たちにドラッグが蔓延し、HIV感染が増加していたという。

まだ不治の病であったエイズで母を亡くしバルセロナからカタルーニャの田舎へ越してきた6歳の少女の戸惑い不安が見え隠れする序盤は、わがままな甘えっ子を露見させる。

叔父のエステバ(ダビド・ベルダグエル)とその妻マルガ(ブルーナ・クッシ)は実子のアナ同様わけ隔てなく扱うが、フリダは環境の変化に戸惑うばかり。

様子を見に来た祖父母のあとを追って泣き叫ぶフリダのシークエンスでは、ドラマチックに盛り上げようとすれば如何様にでもできそうだが、まるでドキュメンタリーのように映像の力だけで観客に委ねる手法をとる。これは尊敬するミュハエル・ハネケ監督から学んだという。

フリダのはけ口が年下のアナに向かい、時には意地悪なこともしてしまうがアナはお姉ちゃんができて大好きだといって楽しそう。

エピソードを丁寧に描いた映像はジローナという田舎町の風景・石造りの家・森の光と影に溶け込んでいて、まるでドキュメンタリーを観るよう。

そのため説明不足は否めないが敢えて情報過多にならず、観客の想像に委ねている。

森の中で見つけたマリア像に母の好きなタバコや水色のワンピースを渡すフリダ。願いが叶わないことで母の死を受けとめ、家出をしようとしたが「暗いから明日にするわ」と言って戻ってきたことで自分の置かれたポジションを知ったのかもしれない。

フリダが新しい家族の一員になれた実感がラストで味わえる、清々しいひと夏の物語だった。


「ワンダー 君は太陽」(17・米) 80点

2018-12-15 13:50:06 | 2016~(平成28~)


・世代を超えポジティブになれるベストセラーの映画化。

R・J・パラシオの児童文学書「ワンダー」を、「美女と野獣」の脚本を手掛けたスティーブン・チョボウスキーが監督・共同脚本で映画化。

「ルーム」(16)の天才子役ジェイコブ・トレンブレイが顔に傷害を持つ少年を演じ、ジュリア・ロバーツ、オーウェン・ウィルソンが両親役でサポート。

遺伝子の突然変異により顔に疾患を持つオギー(J・トレンブレイ)は、幼い頃から両親や姉から愛されて育ち、スターウォーズ好きな10歳の少年。

母と自宅学習してきたが、将来のために小学5年生の年になって初めて学校へ通うことに。

周りから奇異な眼で見られながらも、徐々に馴染んで友達もできて行くが・・・。

いわゆる<感動ポルノ>と呼ばれる、お涙頂戴の物語では?と敬遠する向きもありそうな展開ながら、フィクション故の原作がしっかりしているのと監督のユーモアセンスやディズニーならではの仕掛けで世代を超えて楽しめる作品に仕上がった。

オギーの心情をナレーションに込めた冒頭では、彼が顔以外は普通の元気な少年で、両親・姉に可愛がられていることが分かる。彼を学校までまで送り出す両親の不安は如何ばかりか・・・。
案の定子供の残酷な反応に遭いながら不登校にならなかったのはオギーの賢さと逞しさが幸いした。

姉のヴィア(イザベラ・ビドビッチ)は手のかからない娘で弟とも仲が良いが、両親が自分を注目してくれないことや親友ミランダ(ダニエル・ローズ・ラッセル)が無視することで密かに悩んでいる。ボーイフレンドには一人っ子とウソをついてしまう。

オギーの同級生ジャック(ノア・ジュプ)はオギーと仲良くなったのに、ハロウィンでの出来事からオギーに避けられてしまう。母親の女手ひとつで育てられ奨学生のジャックは、いじめっ子のジュリアン(プラース・ガイザー)と喧嘩して退学になることを心配する。

ミランダは両親が不仲で夏休みにイケてる友人たちと過ごし、何となく大人しいヴィアを避けるようになる。

オギーを取り巻く人たちは、姿形は勿論それぞれの悩みを抱えていることを視点を変えて描いているので10歳の子供やティーンが観ても共感できる中身が盛り沢山。

オギーが太陽で出てくる人全てが善き衛星という非現実的な描き方に異論もあろうが、こんなポジティブな作品で最後まで観客を惹きつける映画は、流石にディズニー資本らしい作りだ。

天才J・トレンブレイを初めする子役たちはこれからハリウッドを背負って行く逸材揃い。「プリティ・ウーマン」以来四半世紀を経て、こんな抑えた演技で感動を誘うJ・ロバーツの変わらない存在感も凄い。

家族揃って鑑賞できる貴重な作品に拍手を送りたい。



「30年後の同窓会」(17・米 )80点

2018-12-10 12:10:49 | 2016~(平成28~)


・ 中年男3人の再生ロード・ムービー。

「6才のボクが、大人になるまで。」(14 )のリチャード・リンクレイター監督が、ダリル・ポニックの小説「LAST FLAG FLYING」を映画化。

ベトナム戦争の戦友・3人が30年振りに再会、バージニア州ノーフォークからニューハンプシャー州ポーツマスまでアメリカ東部を北上する旅を経て再生する物語。

出演は「フォックス・キャッチャー」(14)のスチーブ・カレルを中心に、「トランボ/ハリウッドに最も嫌われた男」(15)のブライアン・クランストン、「マトリックス」3部作のローレンス・フィッシュバーンのベテラン俳優たち。3週間のリハーサルを積んで撮影に挑んだ。

再会のキッカケはドク(S・カレル)が、サル(B・クランストン)の経営するバーに現れたこと。
ドクは1年前に妻を亡くし、2日前イラク戦争で亡くした息子の遺体対面に立ち会って欲しいという。

途中立ち寄ったのは教会で、牧師は元戦友のミューラー(L・フィッツバーン)だった。3人は忌まわしい過去を引き摺ってもいた。

哀しみに暮れ塞ぎがちなドク、酒好きでジョークばかりのサル、神に仕え旅に気乗りしなかったミューラー。50代になり境遇も変わった3人の中年男が旅を続けるうち、徐々に打ち解け昔に戻って行く。

原作者で本作の共同脚本を手掛けたD・ポニックの原作に「さらば冬のかもめ」がある。ジャック・ニコルソン主演で映画化されたが、その30年後のイラク戦争の時代の頃である。

息子を故郷へ埋葬したいドクとアーリントンで英雄として扱いたい上官。二人の支援で故郷へ戻ることになり、息子の親友である若い軍曹ワシントン(J・クイントン・ジョンソン)とともに戻る途中のエピソードがハイライト。
テロリストと間違えられたり、アムトラック内での猥談で大笑い、携帯を買って列車に乗り遅れたりする帰路ではすっかり30年前に戻っていた。

シリアスな反戦映画にもなるストーリーを馬鹿話や猥談を交え、ユーモラスな展開にしながら中年男3人の人物像をリアルに浮き彫りにするストーリー展開は流石だ。
なかでも、思い通りの行動で優しさもあるストーリーを動かす役柄のB・クランストンの好演が目立った。

二つの戦争をテーマにしながら戦争シーンは一切なく会話だけでその状況が目に浮かんでくる。忌まわしい過去も戦友の実家を訪ねることでひと区切りがついた。

正義の戦いが欺瞞でありながら愛国心は失わない3人の生きざまがアメリカという国を支えており、若い世代にも脈々と引き継がれて行く姿を息子の遺書が象徴しているようだ。

家族愛・友情・大切な人を失う哀しみについて語りかける本作は、青年期を謳歌したり悩んだりする日常を切り取ってきたリンクレイターが成熟期を迎えた証か。

エンディングに流れるボブ・ディランの「Not Dark Yet」が染み入ってくる。









「さよなら、僕のマンハッタン」(17・米 )70点

2018-12-05 12:10:22 | 2016~(平成28~)

・ M・ウェブ監督によるNYを舞台にした青春ドラマは、ブラックリストからの映画化。

「(500)日のサマー」(09)のマーク・ウェブ監督が、大学卒業後進路に迷う青年の恋愛や大人への成長を描いた88分。原題は劇中曲でもあるサイモン&ガーファンクルの「ニューヨークの少年」。主演のモラトリアム青年・トーマスに扮したのはカラム・ターナー。

マンハッタンのロウアー・イーストに暮らすトーマスはアッパー・ウェストの親元から離れて独り暮らし。ある日、想いを寄せるミミと一緒にいたナイトクラブで父の密会の場を目撃。

恋人がいるミミとの関係に悩み、父親の不倫で実家に戻っても両親とギクシャクしてしまう。

そこへ隣人の初老の男が加わって思わぬ展開へ・・・。

M・ウェブはブラックリスト(映画化されていない脚本の会員制ウェブサイト)から、10年掛りで念願のアラン・ローブのシナリオを監督。キャスティング、ロケ地、音楽、衣装や小道具全てに彼のセンスが織り込まれている。

主人公の脇を固めるのは3人のベテランだ。
作家を目指し挫折、出版社経営で成功した父イーサンに007シリーズのピアース・ブロスナン。
躁鬱症に悩まされながら息子を気遣う母ジュディスに「セックス・アンド・シティ」のミランダで生粋のNY育ちのシンシア・ニクソン。
トーマスに何かとアドバイスをする謎の隣人W・F・ジェラルドに製作総指揮のジェフ・ブリッジス。ナレーションも務めているが終盤でその訳が分かる。「恋のゆくえ フェビラス・ベイカー・ボーイ」(90)、「クレイジー・ハート」(09)、「トゥルー・グリッド」(10)などが記憶に残る名優だが、今回は渋い演技で存在感たっぷり。

加えて、古書店員でミュージシャンの恋人がいながらトーマスも気になるミミにカーシー・クレモンズ。

さらに、父の愛人でトーマスに付きまとわれる知的でセクシーなジョハンナに、「アンダー・ワールド」シリーズでお馴染みのケイト・ベッキンセール。複雑な役柄で筆者には腑に落ちていないが、本作では欠かせない存在となっている。

それぞれの住まいとファッションを丹念に映像化。流れる楽曲もサイモン&ガーファンクルを初め、ボブ・ディラン、ルー・リード、チャールズ・ミングスなどで彩り、キャラクターやシークエンスを惹き立てる。

グランド・セントラル オイスターバー&レストラン、ロウワー・イーストサイド ナイトクラブ「The BIX」、ブルックリン・ミュージアム、バー「ブルックリン・イン」、レコード・ショップ、古書店など80年代のNY映画好きには見逃せないスポットも効果的。

「卒業」(67)のNY版ともいえる本作。ジョハンナがトーマスに言った「人はいつも無意識に行動をしてしまうもの」がキイワードだが、終盤の展開は出来過ぎながら悩む青年トーマスが少し大人へと成長していくのが、若かりし頃のモヤモヤ感を思い出させてくれた。