晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「マクリントック」(63・米 )60点

2018-08-28 15:15:18 | 外国映画 1960~79

・ J・ウェイン、M・オハラのコンビで、コメディタッチの西部劇。




「じゃじゃ馬ならし」をヒントにした「アラモ」のジェームズ・E・グラント脚本を、ジョン・フォードの後継者として期待された「ローハイド」のアンドリュー・V・マクラグレン監督で映画化。

大牧場主マクリントックにジョン・ウェイン、その妻キャサリンにモーリン・オハラが扮し、「静かなる男」(52)で共演したその後のような役柄をコミカルに演じている。

地元の名士マクリントックは、開拓民との交渉役から先住民とのモメ事の纏め役まで頼りにされ何かと忙しい。そんななか2年前離婚した元妻キャサリンが戻ってきた。

東部から里帰りした大学生の愛娘ベッキー(ステファニー・パワーズ)の後見人役を巡って夫と争うためだったが、彼が雇い入れたばかりのルイーズとデヴリン母子など周囲の人々を振り回して大騒動となる。

壮年期を迎えたJ・ウェインが勝気な妻に翻弄される西部男を演じるだけで、なにか新鮮な気分にさせられる。がん治療直前にも関わらず、アクションにも果敢に挑んでいる。

J・ウェインより13歳年下だが息の合った夫婦役がぴったりなM・オハラが、前年の「罠にかかったパパとママ」に続いてのコミカルな役柄で頑張っている。
殴り合いに巻き込まれ泥沼に突き落とされたり、下着姿での追いかけごっこをしたりの大奮闘ぶりは、若いころ鉄火肌の娘役を思い起こさせる。

脇役にブルース・キャボット、チル・ウィルスなどJ・フォード一家やウェインの息子パトリックを配したA・V・マクラグレンの演出は、手堅いが新鮮味に欠け、その後TVへ転じたのも頷ける。

真夏の昼下がりノンビリ過ごすにはぴったりのホーム・コメディだった。

「ブラジルから来た少年」(78・米/英)75点

2018-08-24 12:01:06 | 外国映画 1960~79

・ G・ペック、L・オリビエの二大スター共演によるSFサスペンス。




グレゴリー・ペック、ローレンス・オリビエの米・英二大スターが共演、「猿の惑星」「パピヨン」のフランクリン・J・シャフナー監督によりアイラ・レヴィンの同名小説のSFサスペンスを映画化。ジェリー・ゴールドスミスの音楽がオスカー・ノミネートされた。

アウシュビッツ収容所で<死の天使>と恐れられた遺伝学者・メンゲレ博士が、ナチス残党とともに計画したのは欧米にいる65歳の公務員94人を殺害するもの。
ナチス残党を追跡していたリーベマンは事件を追ううち、彼らの本当の狙いを知る。

「ローマの休日」(53)、「大いなる西部」(58)、「アラバマ物語」(62)など時代を超えてイイ人、正義の男を演じてきたG・ペックがメンゲレに扮して己の能力に溺れ暴走してしまう狂気の男を楽しそうに演じている。

「ハムレット」(48)、「リチャード三世」(55)などシェイクスピア俳優として鳴らしたsir・L・オリビエがナチ・ハンター、リーベーマン役だが、本作の2年前「マラソン・マン」でナチス残党の残酷な歯科医役が強烈な印象を残していて、二人の役柄は交換してもよさそうなイメージ。

共演したジェームス・メイソンも含め、メンゲレ役は誰がはまり役だったか想像してみたが、甲乙つけ難い。

当時としてはクローン問題というテーマが斬新で下手をするとB級ホラーに成りかねないため、劇場未公開となってしまったいわくつきの本作。

63歳のG・ペックと71歳のL・オリビエの取っ組み合いや、クローン技術を説明する教授役の若き日のブルーノ・ガンツも観られる、一見の価値ある貴重な作品だ。

「ナチュラル ウーマン」(17・チリ/米/独/スペイン) 70点

2018-08-22 12:00:29 | 2016~(平成28~)

・ 潜在的差別・偏見に対峙したトランスジェンダー女性のラブ・ストーリー。




チリの名匠セバスティアン・レリオが監督・共同脚本作品で、ベルリン銀熊賞(脚本)、米国アカデミー外国語映画賞受賞。原題は「ファンタスチックな女性」

チリのサンティエゴでウェイトレスをしながらナイトクラブで歌手をしているマリーナ。年上の恋人オルランドと暮らしていたが、彼女の誕生祝の夜自宅のベッドで倒れ、病院へ急いだが亡くなってしまう。

原因は静脈瘤だったが、翌日刑事が訊ねてきた。それは、彼女がトランスジェンダーであるため医師が不自然な死を疑い、専門分野の女性刑事を差し向けたからだった。

自身もトランスジェンダーの歌手、ダニエラ・ヴェガが自分らしさを貫くヒロインを演じるラブストーリー。オルランドにはチリの名優フランススコ・レジェス。

セクシャル・マイノリティの映画は話題性もあって賞の対象にもなり易いテーマだが、大半は欧米作品。本作はカトリックの国・チリの作品であることが目を惹いた。何しろ離婚が認められたのが21世紀の04年で、20世紀まで同性婚での性行為は処罰の対象となった保守的な国だから。

オルランドには別れた妻や息子がいて、マリーナの存在は嫌悪感そのもの。元妻は面と向かって怪物呼ばわりされ、息子からは顔をビニールテープでグルグル巻きにする暴力を受け、葬儀に顔を出すなと念押しされる。

それでも向かい風に立ち向かうマリーナ。この印象的なシーンはバスター・キートンを連想させる。

死後も幻想シーンでオルランドが度々登場し、マリーナを導いてくれるなどレリオ流の映像が観客の共感を呼ぶ。

マリーナの心情を映し出す小道具に鏡と音楽が巧みに組み込まれ、冒頭のイグアスの滝と遺品のキーがミステリー・タッチを誘う。

先日亡くなったアレサ・フランクリンの「ナチュラル・ウーマン」が車中で流れ、ヘンデルのアリア「オンブラ・マイ・フ」がマリーナの人生を暗喩してエピローグとなる。

レリオ監督は自身の出世作「グロリアの青春」をジュリアン・ムーアでリメイクするという。とても楽しみだ。


「華麗なる激情」(65・米/伊) 70点

2018-08-18 15:36:53 | 外国映画 1960~79

・ ミケランジェロの苦悩と葛藤を描いた巨匠C・リード。




イタリア・ルネサンスの偉大な芸術家ミケランジェロが描いた、システィーナ礼拝堂天井画誕生の歴史スぺクタル。アーヴィング・ストーン原作「ミケランジェロの生涯 苦悩と歓喜」をフィリップ・ダン脚本、 「第三の男」(49)の巨匠キャロル・リードが監督。

ミケランジェロには「十戒」(56)、「ベンハー」(59)のチャールトン・ヘストン、ローマ教皇ユリウス2世には「マイ・フェア・レディ」(54)のレックス・ハリソンが扮し、対立しながらもいつしか信頼と友情が育まれる二人の関係を中心にドラマが展開する。

ミケランジェロについて中学校の美術教科書程度の知識しかない筆者には、冒頭13分ほどの時代背景とその生立ち作品が紹介され彼が彫刻家で在りたいという心情が理解できたのがとても参考になった。

そのミケランジェロにシスティーナの礼拝堂天井に十二使徒のフレスコ画を依頼したのがトキの教皇ユリウス2世。神の代理人ながら騎士の鎧を身に纏い好戦的な人物。

芸術家らしくないC・ヘストンはミスキャストでは?と思ったが、幼い頃石切り場で働き彫刻家を目指し、20代にダビデ像などを彫り上げたミケランジェロは恐らく筋骨隆々だったに違いなく、怒りっぽく激しい性格も相まって苦悩する芸術家を違和感なく演じていた。

R・ハリソンは、端正な顔立ちで法衣を着た神の代理人と華麗な軍服を着た指揮官姿で魅了する。芸術に対する理解もありながら金銭の感覚に老獪さも持ち合わせる教皇を重厚感たっぷりに演じている。

腐った酒は新しくても樽ゴト捨てる酒場での出来事から十二使徒の絵画を描くことを放棄したミケランジェロ。カララの石切り場で旧約聖書創世記を描くことを思いつく。

その間建築家ブラマンテ(ハリー・アンドリュース)が推薦したラファエロの力量を認めながらミケランジェロに拘ったユリウス2世。

「歴史に残るのは武功ではない」と悟ったのは晩年だったが、領土戦争に明け暮れ、パトロンでもあったユリウス2世の本音だったことだろう。

「グレイテスト・ショーマン」(17・米 )70点

2018-08-08 11:25:20 | 2016~(平成28~)

・ ライブ体感に似たテンポとスピード重視のエンタメ作品。




地上で最も偉大なショーマンで、ペテン王子とも呼ばれた19世紀アメリカの実在興行師P・T・バーナムの半生を描いたミュージカル。

ジェニー・ビックス原案・脚本化でマイケル・グレイシーが初監督したまるでライブを体感したような気分にさせられるショーの魅惑的な展開と、差別や偏見に対するアンチテーゼのダイジェスト版のようなテンポ重視のエンタメ作品。

バーナムには「レ・ミゼラブル」(12)でミュージカル映画の第一人者となったヒュー・ジャックマン。
楽曲にはラ・ラ・ラ・ランドのベンジ・パセック、ジャスティン・ポールが加わっている。

少年時代仕立屋の息子だったバーナムが、幼馴染で名家の娘チャリティと結婚。妻子を幸せにするため辿りついたのは、日陰で生きてきた個性を持った人々を集めショーを作り上げること。

それは、小人症・大男・髭女・タトゥー男などフリークショー(見世物小屋)のサーカスで、新聞記者の酷評をよそに大衆から支持を得て大成功を収めた。

身分の違いを乗り越え結婚したバーナムは、差別と偏見に対するアンチテーゼがあったことだろう。しかし世評は、自分の成功のためにハンデキャッパーたちを利用したに違いないとも思われていた。

バーナムは社交界で認められるため、英国劇作家フィリップ・カーライル(ザック・エフロン)の伝手でイギリス女王に謁見、欧州随一のオペラ歌手ジェニー・リンド(レベッカ・ファーガソン)の公演に没頭する。

ジェットコースターのような浮き沈みの結果大団円を迎えるまで、破綻しそうなストーリーを魅惑的なショーや歌声で魅了した105分だった。

なかでも、髭女レティ(キアラセトル)の<This Is Me>、ジェニー・リンドの<Never Enough>などが印象に残る。

ほかにもバーナムとチャリティ(ミシェル・ウィリアムズ)、フィリップとアン・ウィラー(ゼン・デイヤ)のダンス・ナンバーなども、名場面として記憶されることだろう。

ミュージカルを敬遠気味の筆者にも程よいテンポでその魅力を堪能できた。シナリオに深みが増したらもう少し評価が高かったのでは?





「しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス」 (16・カナダ/アイルランド)80点

2018-08-05 11:50:05 | 2016~(平成28~)

・素朴派画家モードとその夫の夫婦愛を描いた人間ドラマ。




カナダで最も愛されている画家モード・ルイスが、夫との出逢いから一緒に暮らした32年間を描いた人間ドラマ。シェリー・ホワイトの脚本でアシュリング・ウォルシュが監督。

重度のリュウマチを患っているモードはカナダ東部ノバスコシア州で叔母と暮らしていたが、家政婦募集のチラシで押し掛けたのが、エベレットが住むマーシャルタウンの小さな家。

孤児院育ちで無学なエベレットは魚の行商などで暮らす武骨な男で、身体が不自由なモードを一目見て追い返そうとするが・・・。

モードを演じたのが、今最も旬なイギリス女優のサリー・ホーキンス。両親が絵本作家で本人もイラストレーター志望の彼女は、モードが乗り移ったような筆遣いで愛とユーモアに満ちたモードを演じている。
筆者はマイク・リー作品で脇役をしていた20代の彼女を覚えていたが、30代で「ブルー・ジャスミン」(13)で注目され、40代になって「シェイプ・オブ・ウォーター」(17)で大注目されたのは驚くばかり。本作と「パディントン2」と3本が同時公開されていたのもビックリ!!

エベレットに扮したイーサン・ホークは、「トレーニング・デイ」(01)でデンゼル・ワシントン相手に張り合った若い警官役の記憶が印象深い。本作では表面上は粗暴な差別主義者見えるが、表情の微妙な変化で内面は思いやりのある優しさを秘めた不器用な男を好演している。

往年の名作ピエトロ・ジェルミ「道」に似た二人の関係は、一緒に暮らすうちいつの間にか主従関係が逆転している。
それはモードの絵が評判を呼んでニクソン副大統領夫人からオーダーが来たからではなく、二人が暮らす日常で培ってきた存在感の確かさからだ。

何度か衝突しながらも変わり者同士が電気も水道もない4メートル四方の小さな家で暮らす幸せを実感していたからだろう。
昔から<割れ鍋に綴じ蓋>の例えがあるが、本作では片方がゴムが伸びきり片方が穴だらけの靴下に例えられていた。

成功後もつましい生活を続け、フレームに宿る心象風景を描き続けていたモード。エンディングでも目を凝らして観て欲しい。