晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「西部の男」(40・米)85点

2021-07-25 12:08:41 | 外国映画 1945以前 


 ・ W・ワイラーが流れ者と悪徳判事の奇妙な友情を描いた西部劇。


 多彩な作品を手がけ米国映画界を代表する監督のひとり、ウィリアム・ワイラー。西部開拓時代の牧畜業者と農耕入植者との争いを背景に、流れ者と土地の権力者との奇妙な友情と対決を描いた西部劇。

 馬泥棒と間違えられ捉えられた流れ者コール・ハーデンにゲイリー・クーパー、悪徳判事ロイ・ビーンにウォルター・ブレナンが扮している。トキにコミカルなふたりの人間模様と、馬の疾走や畑・民家の炎上シーンなど迫真の映像でシビアな開拓時代を描写した傑作だ。

 「モロッコ」(30)以来、スターとして活躍しているCOOPことG・クーパー。どちらかというと2枚目俳優=大根役者では?という定評があった。本作では、後のC・イーストウッドの役柄に反映された得体の知れない流れ者に扮し、とぼけた雰囲気を醸し出しながらドラマを牽引している。翌年「ヨーク軍曹」、その翌年「打撃王」と実在の英雄を演じて大スターの位置を築いていく。
 「真昼の決闘」(58)ではシリアスな保安官に扮し二度目のオスカーを手にしているが、3年後60歳でジョンウェインと並ぶ西部劇スターを失ってしまった。

 そのスターを喰ってしまったのがW・ブレナン。筆者にとって「リオ・ブラボー」(60)での老牢番スタンピー役の印象が濃いブレナンだが、戦前の名脇役のひとりで本作を含めオスカー助演男優賞を3度も獲得している。
 演じたロイ・ビーンはジョン・ヒューストン監督ポール・ニューマン主演でも映画化されている実在の治安判事だが、殺人・牛泥棒・詐欺など犯罪歴が多数ある人物で法秩序を守るヒーローとは言いがたい。
 本作では女優リリー・ラングトリーに憧れるアイドル・オタクぶりと酒場を経営する悪徳判事という二面性を持った男を愛嬌たっぷりに演じていた。牧畜業者の味方で畑や民家を焼き討ちした黒幕ながら知らんぷり。だが「リリーの髪の毛に誓ってか?」とハーデンに問い詰められあっさり白状してしまう。

 嘘から出た誠で、リリーの公演がある劇場で対決する二人。おかしな友情は最後まで人間味溢れるシーンであった。

 本作以来西部劇を手がけなかったW・ワイラーは、18年後グレゴリー・ペック主演「西部の人」で二度目の西部劇をどのように描いたのか?見比べて観るのも興味深い。


 

「間違えられた男」(56・米)75点

2021-07-18 12:31:13 | 外国映画 1946~59


 ・ 唯一、実録ドラマ構成に挑んだヒッチ。


 ’53NYで強盗犯に間違えられた男の冤罪事件をもとにアルフレッド・ヒッチコック監督によってモノクロで映画化されたサスペンス。主演に唯一ヘンリー・フォンダを起用、共演はヴェラ・マイルズ。

 ヒッチはカメオ出演が観客の興味を惹くシーンでお馴染みだが、本作では冒頭シルエットで登場し「これは実際に起こった事件です」というTVのヒッチコック劇場を連想させる異色のスタート。

 VIP専用クラブのバンドマンであるマニー(H・フォンダ)は、妻ローズ(V・マイルズ)と二人の息子と慎ましく暮らしていた。妻の歯の治療に300ドルが必要となり、金を借りるため生命保険会社に出向いたマニー。2度も強盗に入られた保険会社の事務員から強盗犯に間違えられ拘束されてしまう。
 7500ドルの保釈金を工面してもらい、妻とともにアリバイ立証のために奔走するが・・・。

 警察の捜査は、ルール通りで致命的ミスはないもののおざなりで、マニーが犯人であることから物事を進めている。職業への偏見や趣味の競馬や借金、イタリア系であることなど先入観がアリアリ。
 カメラはマニーの戸惑いや警察の事務的な対応どなを丁寧に追い、観客を臨場感溢れるシーンへと巻き込んで行く。

 ヒッチは得意のユーモアとストーリー・テーラーを封印しドキュメンタリー調の雰囲気でスタート、新しい実録ドラマ構成に挑んでいる。ただトリュフォーに語っているように社会派には不向きで、無罪証明に必死なマニー夫婦の心情に寄り添いエンタテインメントとのバランスが中途半端な感は否めない。

 主演のH・フォンダは実年齢より13歳も年下の役柄ながら普通の市民を演じる巧みさが際立ち、冤罪の重さをヒシヒシと伝えている。前年「十二人の怒れる男」とともに<アメリカの良心を演じるスター>としてポジションを不動のものとしている。
 共演したV・マイルズは健気な妻に扮し、後半心身に異常を来す役柄を無難にこなしヒッチの期待に応えている。「めまい」には妊娠のため果たせなかったが、三年後の「サイコ」で主人公の妹役に起用された。
 実在の弁護士アンソニー・クエイルを演じたフランク・オコナーは、刑事事件が専門ではない元議員というキャラクターで二人を支えている存在。

 冤罪は本人のみならず家族や親族など周辺にまで傷つけてしまう。オウムの長野サリン事件での河野夫妻を連想させる本作。
エンディング・クレジットはヒッチらしくないが、救いが欲しい観客には不可欠なシーンだった。

「市民ケーン」(41・米)80点

2021-07-12 12:14:41 | 外国映画 1945以前 


 ・ 映画の教科書として燦然と輝くO・ウェルズの名作。


 弱冠25歳で製作・監督・共同脚本・主演して<メディア王の生涯>を描いた名作。アメリカ映画史上最高作品と評価が高い本作。オスカー9部門ノミネートされながら脚本賞のみ受賞となった。

  パンフォーカス、長回し、ローアングル、超クローズアップ、モンタージュ、クレーンショットなど当時の映画ファンを驚愕させた映像は、その後の作品に多大な影響を与え今でも映画の教科書的存在となっている。
 しかし、CGなど技術革新が著しい現代、その驚きは少なくなってしまったのは否めない。

 むしろ実在のメディア王・ウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルとした主人公ケーンの描き方には不変の面白さがある。O・ウェルズとともに脚本を担当したハーマン・J・マンキーウッツの葛藤ぶりが映画化されるほど<Mank/マンク(20)>。

 ケーンが豪邸サナドゥ城で小さなスノードームを手に、「バラのつぼみ」という言葉を残し孤独の生涯を終えたのは何故か?ニュース記者が関係者に取材を重ねながら謎解きをしていくストーリーは、時間軸の操作によって人物像を浮かび上がらせていく。
 回想シーンを多用するこの演出法はクロサワの「羅生門」(50)など名作に受け継がれている。

 少年時代スノー・ボードに描かれていたその言葉は、幼くして両親から引き離され英才教育を受けたケーンが唯一手にすることがなかった<愛情欲求への執心>だろうか?
 
  今をときめくGAFAの創業者やメディア王マードック、大統領にまで上り詰めたトランプなど、<愛と権力への欲求>を追い求め続ける人物への興味は枚挙に暇がなく、映画化もされているが本作を越えるものでは無い。

 アメリカン・ドリームを果たした実在人物を強烈に批判した本作がオスカー受賞を妨げ、興行的に失敗しても名作といわれる所以はここにあるのかもしれない。

 O・ウェルズのその後は本作を凌ぐ名作も名演も果たせなかったが、映画史に燦然と輝く人であることは誰もが納得するところだろう。