・ 権力に巻き込まれた人生は、現代社会の縮図のよう。
「カッコーの巣の上で」「アマデウス」の巨匠ミロス・フォアマン監督が<魂の兄弟>と呼ぶジャン=クロード・カリエールの脚本。18世紀末から19世紀初め、激動のスペインを舞台に、画家ゴヤを通して描いた人間模様。
主演のハビエル・バルデムはゴヤではなく、ロレンソという神父で異端審問の推進者。ヒロイン、イネス(ナタリー・ポートマン)は、豪商トマス(ホセ・ルイス・ゴメス)の娘で、ともに宮廷画家のゴヤ(ステラン・スカルスガルド)に肖像画を描いてもらっている。
面識のない2人だが、居酒屋で豚肉を食べないことを理由に審問に問われたイネスは、拷問に耐えられず事実ではない異教徒であると認めてしまう。父は娘を救うために、ロレンソを晩餐会に招待したいとゴヤに頼みこみ、ロレンソとある取引を強引にする。
カルロス4世と王妃のお気に入り宮廷画家であるゴヤは、普通の人々の生活を描いた版画作家でもある。彼にジャーナリストとしての感覚を重ねるように「フランス軍の進撃」から「スペイン独立戦争」までを版画集「戦争の惨禍」が映像化されている。
ドラマはロレンソとイネスの軌跡を追いながら心地良いテンポで描いて行く。ソレンソは権力におもねながら翻弄され、保身のため残酷な言動をしてしまう。イネスは光り輝く豪商の娘が時代に流され、別人のようになってしまう。ソレンソが最後にとった行動に幾分救われた気がしたが…。
H・バルデムは、その栄光と挫折を見事に演じ切って、油の乗りきった個性的俳優としてのチカラを如何なく発揮している。
N・ポートマンは、薄幸の汚れ役をこなし、その娘15歳のアリシア役まで演じて敢闘賞もの。単なるお姫様女優からの脱皮を果たした。
200年前のスペインの宮殿や風景の中で展開されるこのドラマは、現代社会の構図に共通するところがあるのでは?チェコ生まれのフォアマン監督は50年前の学生時代とこの時代を重ねている。