晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「遠すぎた橋」(77 英・米) 80点

2015-07-31 17:18:24 | 外国映画 1960~79
 ・ <マーケット・ガーデン作戦>を検証した最後のオールスター大作。

                   

 「史上最大の作戦」の作者コーネリアス・ライアンの「遥かなる橋」を基にリチャード・アッテンボロー監督、ウィリアム・ゴールドマン脚本で映画化。

 44年9月、潰走するドイツ軍を追った英国モンゴメリー元帥率いる北方連合軍の<マーケット・ガーデン作戦>を描いた14大スターが出演した最後のオールスター映画で、2700万ドルの製作費を掛けた175分の大作。

 <マーケット・ガーデン作戦>とは、ベルギー・オランダ間の5つの橋を占領するために、4個の空挺師団・旅団(英第1・米82・米101・ポーランド第1)が敵中に降下する<マーケット>作戦と機甲軍団(英30)が駆け抜ける<ガーデン>作戦で、一気にライン川を渡ってオランダを解放、ベルリン侵攻してクリスマスまでに終戦しようというもの。

 マーケット作戦司令官はブラウニング中将(ダーク・ボガート)、ガーデン作戦司令官にはホロックス中将(エドワード・フォックス)が就いた。事前にオランダ・レジスタンスや偵察隊からドイツ軍の戦車が残っている情報が入っていたが、ブラウニングは軽視。アーカート少将(ショーン・コネリー)、ポーランドのソサボフスキー少将(ジーン・ハックマン)が難色を示すが、作戦は執行される。

 空挺部隊が予定通り5つの橋を占拠できるか?重装備の地上部隊が間に合うか?が充分論議されないまま作戦に酔ってしまった上層部の甘さが、9日間で連合軍側の戦死・戦傷・行方不明者を17千人以上出すという、悲惨な結果となった。

 英国ではこの作戦について語ることは英雄モンゴメリー元帥を傷つけることになりタブーと言われていた。30年以上経ったとはいえ英国人であるR・アッテンボローがここまで表現した勇気は讃えられるもの。

 史実をもとにエピソードを交えながら脚色したというストーリーは、連合軍個々の兵士やオランダ民間人、そして独軍の視点でも描かれていて臨場感溢れる作り。

 圧巻のパラシュート降下シーン、迫力ある戦闘シーンも感心させられるが、何より必要以上にグロテスクな描写が強調されていないところに好感を持った。

 難点は様々な場所で同時並行的に起こる出来事に、基本的なこと(誰が何処で何をしようとしているのか)が判らないと置いてきぼりを食らってしまうこと。大河ドラマのように地図やクレジットが入っていればいいのにと想うのは筆者だけだろうか?
 
 5つの橋のうちアンヘルム橋とナイメーヘン橋での攻防がハイライト。

 アンヘルム橋ではアーカート隊長が降下したのが橋から13キロ離れた場所に降下、橋を攻撃するフロスト中佐(アンソニー・ホプキンス)が、独軍ビートリッヒ中将(マクシミリアン・シェル)率いるSS装甲師団長と激戦。合流予定のソサボフスキーが輸送機不足で間に合わず、ビートリッヒは孤立してしまう。

 ナイメーヘン橋は中央高地に降下した米軍キャビン准将(ライアン・オニール)が命知らずのクック少佐(ロバート・レッドフォード)に奪還を命令。手漕ぎボートで渡河するという離れ業を見せる。出番は少ないが伝説的英雄となったクックを演じるのはレッドフォード以外見当たらない。230万ドルのギャランティには驚かされたが・・・。

 ほかにも地上軍のバンドール中佐を演じたマイケル・ケインの凛々しさが目についたが、霧で出発が遅れ、おまけに長い1本道を駆け抜けるには障害が多すぎた。

 イギリス勢の苦戦ぶりとは対照的に、クック少佐の大活躍・爆破されたソン橋を仮設架橋で渡河したスタウト大佐(エリオット・グールド)・上司を敵中から救い命を取り留めたドーハン軍曹(ジェームズ・カーン)と軍医大佐(アーサー・ヒル)の美談など、米軍空挺団の活躍ぶりが目立つ。

 激戦地アンヘルムでのスパイダー医師(ローレンス・オリヴィエ)、野戦病院として自宅を解放したホルスト夫人(リヴ・ウルマン)の関わりが描かれるが民間人の犠牲者も決して少なくない。

 司令部が作戦失敗を認め撤退命令を出すのが遅かった。それでもブラウニング司令官は命辛々帰隊したアーカートへ「作戦は90%成功した。ただ遠すぎた橋へ行っただけ」というコメントが虚しく響いた。

 家を焼かれた手押し車で家財道具を載せて歩くアンヘルムの人々の姿がこの作戦を象徴しているようだ。
 
 

「ダークナイト ライジング」(12・米 英)75点

2015-07-29 14:57:19 | (米国) 2010~15

 ・ 王道のヒーローもので完結したダークナイト3部作。

                   

 アメコミのヒーロー・バットマンの実写版第7作、クリストファー・ノーランのダークナイト3部作完結編。主演はシリーズ3作ともクリスチャン・ベールが演じている。

 「バットマン ビギンズ」(05)でバットマンことブルース・ウェインの生い立ちを描き、リアリティ溢れるバットマンを登場させたC・ノーラン。

 第2作「ダークナイト」(08)では宿敵ジョーカーを登場させ、正義とは?ヒーローとは?という根源的なテーマを追及して大ヒット。

 完結編は大いなる期待を背負っての登場。ジョーカーとの死闘から8年後。つかの間の平和を取り戻したゴッサムシティの壊滅を宣言したのはべイン(トム・ハーディ)。自宅にひきこもり身も心もボロボロだったブルース・ウェイン(C・ベール)は、証券取引所の破壊で財産も失ってしまう。

 普通の人間が頑張ってヒーローを演じるにはそれなりの必然性とプロセスがあり、その行動がどのようなものであり、どう受け止められたかは前2作で描かれている。

 唯一の味方・執事アルフレッド(マイケル・ケイン)とも別れ、孤独の闘いを決意したブルース。怪力のマスクマン・ベイルとの闘いに敗れ、奈落へ幽閉され地下牢獄で死を覚悟する。

 今回の敵であるベインは、デント法で表向きの平和を維持するゴッサムシティを否定し、ウェインが隠し持つ「クリーンエネルギープロジェクト」核融合を強奪。パヴェル博士を脅迫して中性子爆弾を製作させ壊滅を図ろうとする。
 
 絶体絶命のウェインが如何に地下牢を脱出し、ゴッサムシティの平和を取り戻すか?というどうやら王道のヒーローものに徹しているようだ。

 そこにはコミック版へのリスペクトが見られ、ノーマン製リアルなバットマンが如何に全うできるかを図りながらの完結編でもあった。

 お馴染みの執事アルフレッド(M・ケイン)、ウェイン・エンタープライズ社長フォックス(モーガン・フリーマン)、ゴードン警察本部長(ゲイリー・オールドマン)に加え、アン・ハサウェイがキャットウーマン役で彩を添えている。出番はそれほど多くないが、充分印象に残るシーンで役柄を魅了した。

 ラーズ・アル・グール役のリーアム・ニーソン、ジョナサン・クレイン役のキリアン・マーフィも完結編らしく顔を出しているが、新登場のミランダ役のマリオン・コティヤールは勘のいい人なら役柄を見抜いてしまうだろう。

 敵役ベインを演じたT・ハーディは逞しい身体のスキンへッドにマスク姿で素顔はホンのちょっという俳優としては複雑な役を見事に演じていたが、正体がバレてからは尻ツボミだったのは気の毒。
 
 大活躍したのが、若き警官ジョン・ブレイク(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。怪我をして身動きが取れないゴードンや危機は避けたがるフォーリー副本部長(マシュー・モディーン)に成り替わり孤軍奮闘する姿は、まるでバットマンのような大活躍。

 まるで誰でもその気になればバットマンになれるのだという暗示のよう。終盤で本名がロビンと分かるのは、もしかして続編があれば彼がバットマン?

 今世界が不安を抱えている経済危機、政情不安、核開発競争などをゴッサムシティに織り込んだ本作は、バットマンとベインの格闘シーンや殆どをCGではなく実写で魅せた映像で、伝説のヒーローものを完結させた。

 

                   

「サンダーボルト」(74・米) 80点

2015-07-24 13:20:43 | 外国映画 1960~79

 ・ M・チミノ監督デビュー作は西部劇スタイルのロード・ムービー。

                    

アメリカン・ニューシネマの終焉期を迎えた頃登場したマイケル・チミノ監督。「ダーティ・ハリー2」(73)で脚本を担当した彼が、クリント・イーストウッドを主演に据えたロード・ムービーで監督デビューした。

 アメリカ中西部モンタナの小麦畑に囲まれポツンと建っている教会で、説教中の牧師が入ってきた男にいきなりモーゼル銃で襲撃される。

 逃走した牧師は若者が運転するポンティアック ファイヤー・バードに乗り込み、難を逃れる。この出会いから2人に奇妙な友情が生まれる。

 牧師は朝鮮戦争の英雄で、退役後銀行の大金庫から50万ドルを奪った通称サンダーボルト(C・イーストウッド)と呼ばれた中年男。仲間から金を独り占めした疑いで追われていた。

 若者はライトフット(ジェフ・ブリッジス)という天涯孤独なベトナム戦争世代で、車も盗んだものだった。

 2人が亡くなったボスが金を隠した小学校を訪ねると、そこは新校舎になっていた。執拗に追ってきたのは大男のレッド(ジョージ・ケネディ)と気弱なグッディ(ジェフリー・ルイス)で真相を知ってガッカリする。

 モンタナの詩情溢れる風景とともに、車を乗り継ぎ旅する2人と追いかける2人の情景は、まるで西部劇を観るような趣き。何度もカーチェイスがあって飽きさせないが、むしろサンダーボルトとライトフットの緊密さが増してゆくエピソードが続く。

 無口だが、頼りになるサンダーボルト。C・イーストウッドの定番だ。対するライトフットは威勢がいいが女好きで刹那的。どこか憎めない笑顔が人を惹きつける。23歳で好演したJ・ブリッジスの出世作となった。

 ライトフットに<またやればいい>と明るく言われた3人は、また金庫を襲うことを決意する。そのための資金作りに4人は地道にアルバイトを始める。ここからのライト・コメディタッチの展開がなかなか面白い。

 時代はこのタッチが微妙だったのかもしれない。一部の高評価を除くと大ヒット作にはならず、イーストウッドとチミノのコンビはこの1作のみとなりそれぞれの道を歩むこととなる。

 最後に白いキャデラック・エルドラドが登場するまで、アメ車好きには堪らないこのロードムービーはポール・ウィリアムスの主題歌とともに終焉を迎える。

 C・イーストウッドは役柄ではJ・ブリッジスに慕われるが、この後2人の競演は実現しなかった。M・チミノがライトフットに肩入れしすぎた本作は、イーストウッドには気に入らなかったのでは?と邪推するほど。

 2人に加え、G・ケネディ、G・ルイスがそれぞれの持ち味をだした男のドラマは<70年代の西部劇>だった。
 
 

 

 

「シャーロック・ホームズの冒険」(70・米) 75点

2015-07-22 16:21:38 | 外国映画 1960~79

 ・ B・ワイルダー構想10年のS・ホームズ大作は、ネッシー登場。

                   

 コナン・ドイルの原作「シャーロック・ホームズ」シリーズは探偵小説の古典で、さまざまな映像化がされている。

 最も原作に近いのはグラナダTVシリーズ「シャーロック・ホームズの冒険」(84~94)であろう。シャーロックを演じたジェレミー・ブレットの頭脳明晰で自信たっぷりな事件解決ぶりは数あるホームズ俳優のなかでもピカイチ。

 同名の本作は巨匠・ビリー・ワイルダーのオリジナルで構想10年というのに日本では劇場公開されず、21世紀になってDVD化され日の目を見た。

 ロンドン・ベーカー街のハドスン夫人所有のアパートに相棒ジョン・ワトスン医師と同居している探偵シャーロック・ホームズ。近頃は興味が湧かない事件ばかりでモルヒネに手をだしワトスンを心配させる。

 そこへ飛び込んできたのは、テムズ川に落ちて記憶を失った美女。ホームズが記憶を呼び戻そうと会話するうち、彼女はベルギー人ガブリエルといい夫の鉱山技師が行方不明ということが判明する。

 夫の失踪、謎のヨナ商会、カナリア、宛名不明の手紙など不可解な出来事と遭遇したシャーロックは、兄マイクロフトが所属する秘密クラブ、ディオゲネス・クラブへ呼び出され詮索は中止するよう勧告される。

 事件のカギはスコットランド・インパネスにあると睨んだシャーロックは、ワトスン、ガブリエル夫人とともにネス湖のあるインパネスへ旅立つ。

 B・ワイルダーは、ホームズの私生活に関わる未発表だった4つのエピソード(本人曰く、四楽章の交響曲)を描いた210分の長編として撮影したが、配給会社・UAから2時間ほどに短縮するよう強い要望があり、やむなく2つのエピソードへ短縮したという。

 そのため序盤のロシア・バレエ団のエピソードは、本編とは関係ないエピソードとして浮いた存在である印象は拭えない。ただワトスンのコミカルな人柄が描かれて、地味で暗い展開になりがちな導入部としては必要だったのかもしれない。
 
 19世紀末のロンドンの街並み、スコットランドの雄大な情景、セットでの重厚感が画面から伝わってくるB・ワイルダーらしい手抜きのない深みのある構成には好感が持てる。

 シャーロックを演じたロバート・スティーヴンスは、監督期待通りの演技を見せたというが、いかんせん地味なキャラクター。ワトスンのコリン・ブレークリーも謎の美女ガブリエル夫人役のジュヌヴィエーヴ・パ-ジュも手堅い演技だが、主役を凌ぐほどではない。

 当初はピーター・オトゥールのホームズ、ピーター・セラーズのワトスンでのキャスティング構想だったというから、大分印象が違ったものになったことだろう。

 存在感を見せたのは、兄マイクロフト役のクリストファー・リー。93歳で亡くなったが、当時ドラキュラ俳優として大活躍中だった頃の出演だけに油が乗り切っていて、原作とはキャラクターが違うマイクロフトを演じている。

 終盤にヴィクトリア女王が登場するなど意外な展開のこのドラマは、シャーロックが弾くヴァイオリンが奏でるもの悲しいメロディで幕が下りる。

 ネッシーとホームズという異色の組み合わせは時空を超えた設定だが、ミクロス・ローザの協奏曲が全編に流れる音楽を聴いていると、ホームズが活躍したであろう時代の雰囲気を充分想像することができた。
 
  
 

「河内山宗俊」(36・日) 80点

2015-07-20 14:10:54 | 日本映画 1945(昭和20)以前 

 ・ 大胆な省略でテンポ・アップした山中貞雄の斬新な発想の時代劇。

                   

 若くして26本の作品を遺しながら、現存は3本しかない戦前の天才監督・山中貞雄の作。講談「天保六花撰」を基にした河竹黙阿弥の世話物歌舞伎「天衣粉上野初花ー河内山ー」を、山中が盟友・三村伸太郎に脚本化させた。

 お馴染みのお数寄屋坊主の河内山、浪人・金子市之亟、直侍、三千歳、くらやみの丑松、北村大膳らが登場するが、大胆なアレンジでチャンバラ映画全盛の時代劇に新風を送り込んだ。

 森田屋清蔵親分の用心棒・金子市之亟(中村翫右衛門)は街の寺銭を集める役をしているが、甘酒屋のお浪(原節子)からは、受け取らず想いを寄せていた。

 お浪は広太郎(市川扇升)という弟を案じているが、広太郎は直次郎と名を変えて隠れ賭場を営む茶坊主・河内山宗俊に懐いて家に帰らない。

 おまけに市之亟の嘗ての朋輩・北村大膳(清川荘司)の小柄を盗んで売り飛ばしてしまう。

 旧来の歌舞伎に飽き足らず昭和6年(31)旗揚げした前進座の存在が欠かせない。幻の名作「街の入墨者」(35)や遺作となった「人情紙風船」(37)同様、前進座の当り狂言の映画化である。

 山中は題名・役柄は同じでも、オリジナル・ストーリーであることで映画の存在感を主張している。本作でも、宗俊がお使い僧・道海と偽り松江出雲守に乗り込んでまんまと騙す名場面の設定や、上州屋の娘浪路から小柄に変えられる設定がコミカルなアレンジとなっていた。

 直侍と三千歳の道行もあっさりとしていて、歌舞伎好きには物足りないかも。

 見どころは多彩な登場人物の見事な扱いかた。主役の河内山を始め市之亟の人物像も小悪党だが、決して弱い者苛めはしない人情家。「悪に強きは、善にも」という人情が絡むヒロイズムは健在だ。

 お馴染みの前進座メンバー河原崎長十郎・山岸しづ江夫妻に中村翫右衛門、市川莚司(加東大介)、助高屋助蔵に入って新鮮だったのは、本作が本格デビューであるお浪役の原節子。若干16歳でその可憐さは、大輪の花が咲く前のつぼみという風情。

 山中は<最後のチャンバラ以外見どころはない>と卑下していたというが、大胆な省略による展開の速さは鮮やか。斬新な構図と口語調の台詞ともに髷を付けた現代劇ともいわれ、従来の時代劇にはないエンディングとともに新鮮な驚きだ。

 洋画にも長けていた山中は西部劇・ガンマンの友情物語を意識していたのかもしれない。無い物強請りと承知の上だが、C・イーストウッドでリメイクが観られたらなどど夢物語を想像してしまう。 
 

「マレーナ」(00・伊) 70点

2015-07-16 15:41:40 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ 少年の目を通してムッソリーニ時代のシチリアを描いたJ・トルレナード

                   

 「ニューシネマ・パラダイス」(88)のジュゼッペ・トルナトーレが、ムッソリーニ時代の故郷シチリアを舞台に少年の一途な片想いを描いた物語。

 ’40の春、シチリア島漁村に住む12歳の少年レナート(ジュゼッペ・スルファーロ)は自転車を買って貰いグループの仲間入りをする。

 そこで視たのは村一番の美しい女性マレーナ(モニカ・ベルッチ)で、その時以来頭に浮かぶのは寝ても覚めても彼女のことばかり。

 <女は美しいことが罪作りである>ことを、時にはコミカルに時には残酷に、無力な少年の目を通して大人社会を描いていくトルレナード。

 男たちは欲望の対象として、女たちは嫉妬の目で絶えず視線を浴びるミューズ役は、イタリアの宝石M・ベルッチなくして成立しないような展開。

 それを意識しながらも堂々と村を闊歩するのがマレーナで、夫が戦地に赴き独り一途に想いながらアリタ・ヴァリのレコード「MA L’AMORE NO」で踊るシーンは覗き見するレナートでなくても男から見れば魅力的。

 男なら、少年時代出会った年上の女に憧憬の念を抱いた経験は誰にもあるはず。夢の中でそのヒトと善からぬ妄想をするのも自然現象だが、さすがに映像で見ると恥ずかしい。

 レナートができることは、マレーナを遠くから見守ることだけ。それはストーカーと変わりないが、観客は同じ視線で見ることになりどうしても男目線となってしまう。

 戦地に出向いた夫の訃報・父親の死・不倫裁判・マザコン弁護士との結婚、ついにはドイツ兵相手の娼婦になったマレーナ。レナートは、元気をなくす出来事が続き家族を心配させる。

 父親がとった荒療治はプロによる童貞を失う儀式。これには幾らイタリアでも早過ぎるだろうと驚かされた。イタリア映画にはこういったオーバーな喜劇シークエンスはつきものだが・・・。

 マレーナはミューズなので、殆ど台詞を発しない。存在そのものの演技はモデル出身であるM・ベルッチのスタイル・容貌を上手く生かし切っての起用が見事に嵌っていた。

 そのミューズが村の女たちにリンチされるシーンは残酷で、傍観する男たちも無力だ。

 終盤で、マレーナとレナートがそれぞれ新しい人生を歩み出すところで幕が下りる。どうやら筆者が観たのは日本用短縮版(92分)のようだ。

 半ズボンから長ズボンになったレナートが<お幸せに!マレーナさん>と言ったとき大人への第一歩を踏み出した清々しさがいっぱいで、エンニオ・モリコーネの音楽がシチリアに流れ、観客を安堵させてくれる。

 イタリア映画はラストシーンがいつも感動的だ!
 
 
 
 

「オーバードライヴ」(13・米)70点

2015-07-14 11:47:07 | (米国) 2010~15

 ・ 演技派転向?のザ・ロックが魅せたサスペンス・アクション。

                   

 スタントマン出身という異色の監督リック・ローマン・ウォーが、ザ・ロックことドウェン・ジョンソン主演の映画といえば、「ワイルド・スピード」シリーズのようなバリバリの肉体派アクションを想像する。

 確かに邦題が示すように、カーチェイスは充分な迫力でファンの期待は裏切らない。原題は「Snitch(密告者)」で、D・ジョンソンの演技力を堪能できる。

 運送会社経営のジョン・マシューズ(D・ジョンソン)は、離婚した妻シルヴィー(メリーナ・カナカレデス)から18歳の息子ジェイソン(ラフィ・ガヴロン)が麻薬売買容疑で逮捕されたとの、連絡を受ける。

 米国では麻薬売人の容疑者が減刑を狙い、他の麻薬犯罪者を密告するという理不尽ともいえるシステムがあるそうだ。麻薬にちょっぴり興味のあったジェイソンは友人の罠に嵌ったのだ。

 何とかジェイソンを救おうと、連邦検事ジョアン・キーガン(スーザン・サランドン)と掛け合い麻薬捜査局に協力して危険な潜入捜査に挑むことに。

 冒頭、<実際の出来事を基にした>ドラマであるとのクレジットが入るが、決してドキュメント風ではなく、緊迫感のあるアクションものに仕上がっている。

 違うのは大スターD・ジョンソン演じるジョンのキャクター設定。大男だが、潜入に失敗して袋叩きにあったり、売人マリークにピストルを突き付けられオドオドする素振りは、ロック様のファンには耐えられない?シークエンス。

 息子への愛情一筋で危険な罠に飛び込む命がけの行動は、別れたとはいえ家族との絆が何より大事というアメリカらしい父親像。

 もうひとり従業員の元麻薬売人ダニエル・ジェームズ(ジョン・バーンサル)の存在も見逃せない。足を洗って真面目に生きようとするが、貧しい生活から抜け出したいために命がけの協力をする。

 マシューズは機転と勇気を振り絞り、売人の囮捜査に成功するが、キーガン検事は大型麻薬カルテットの一掃を狙い逮捕を見送る。

 10万ドルの報酬より息子の減刑が目的だったマシューズは、息子の釈放と引き換えに元締めエル・ポトの現金輸送を買って出る。

 終盤での18輪大型トレーラーを駆ってのカーチェイスは、監督最大の見せ場でナカナカの緊迫感でD・ジョンソンも本領発揮。

 父と息子の愛で包んだこのアクションは、ほんの出来心さえ許さず手段を選ばず麻薬撲滅を狙うアメリカ社会の深い悩みが浮き彫りにされたドラマでもあった。

 

「わが命つきるとも」(66・英) 80点

2015-07-12 11:24:44 | 外国映画 1960~79

 ・ テューダー朝時代、自己像を全うした男を描いたF・ジンネマンの力作。

                   

 16世紀イングランド国王ヘンリー8世の時代、国王至上法に反対し斬首されたトーマス・モアを描いたロバート・ボルトの戯曲を、フレッド・ジンネマン監督が映画化した。原題は「四季を通じて変わらぬ男」。

 国王ヘンリー8世(ロバート・ショウ)は、カテリーヌ王妃と離婚して女官のアンと結婚しようとしていた。

 ウルジー枢機卿(オーソン・ウエルズ)は、ローマ法王の信頼厚い下院議員で偉大な文学者でもあるトーマス・モア(ポール・スコフィールド)にとりなしを頼むが、キッパリと拒否され仲介は失敗に終わった。

 1年後モアは官僚のトップ大法官に就任、国王に忠誠を誓うが王妃との離婚には賛成しなかった。らちが明かないと悟った国王は、離婚に反対するローマカトリック教会から英国教会を独立させ、自身が英国教会の主であることを宣言。

 それを知ったモアは、家族やノーフォーク侯爵(ナイジェル・ダベンポート)の進言にも拘らず意志を貫き大法官を辞職、後任は策士・クロムウエル(レオ・マッカーン)が就任する。

 政治・経済・宗教において事実上の支配者とする国王至上法を成立させた国王は、アン(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)と結婚。国王の怒りを買ったモアを放置するわけにはいかないクロムウエルは、反逆罪の疑義でロンドン塔に幽閉し、査問委員会を開催する。

 かつてモアの弟子で野心家のリチャード・リッチ(ジョン・ハート)の偽証が決め手となって反逆罪が成立し、逮捕されたモアは壇上で斬首される。

 その際<私は王より、神のしもべとして死ぬ>と言い残して・・・。

 重厚な舞台劇を大画面で観るような壮大な史劇大作は、テューダー時代に興味関心ある歴史好きでないと、退屈な物語でしかない。反面歴史好きには、権力者に敢然と立ち向かい信念を曲げないトーマス・モアと時代の風俗・背景を忠実に描いた傑作と映ることだろう。

 主人公モアは「ユートピア」の人文学者として名高いが、このドラマのような人生観を持った信念の男との認識はなかった。現代では家族の犠牲も顧みない頑固オヤジの印象があって、あまり評価されない気もする。

 筆者には宗教と法の狭間に人生を送りながら信条は曲げない人格者で、自己像を全うした稀有な男であるとの印象が残った。P・スコフィールドはモアそのものの人物像で完璧な演技。この役を希望したというチャールトン・ヘストンでなくて良かった。

 妻・アリス役のウエンディ・ヒラーとの絡みは名優同士の舞台劇を観るような圧巻のシーンだった。

 今日のイングランドの基礎を築いたヘンリー8世役のR・ショウは、豪快さと親しみ易さを併せ持った魅力的な人物に映ったが、現実は生涯6人の后を持った我儘で飽きっぽい人物だったという。

 アンに扮したのはカメオ出演のヴァネッサ・レッドグレイヴだったが、本当はモアの娘マーガレットの予定だった。スケジュールの都合でスザンナ・ヨークに譲ったが、2人とも美しい気品が漂い甲乙つけがたい。

 敵役のクロムウエル役のL・マッカーン、リッチ役のJ・ハートは如何にもという類型的な感じもあったが、どちらかというと地味な展開のアクセントとしては変え難い役柄であった。

 この年のオスカー6部門(作品・監督・主演男優・脚色・撮影・衣装デザイン)を獲得したのは意外な気もする。アメリカ映画界が<赤狩り批判を受け止めた度量>の証明ということか?

 この時代は断然アン・ブーリンのドラマチックな人生がハイライトを浴びそうだが、敢えてトーマス・モアを採り上げたジンネマン。「真昼の決闘」(52)が大好きな筆者にとって、男の生き様を描いた共通項を見る思いだった。

  
  
                   

「ロング・キス・グッドナイト」(96・米) 60点

2015-07-09 16:22:48 | (米国) 1980~99 

 ・ R・ハーリン監督得意のジェットコースター・ムービー。

                   

 ジェーン・ブラックの脚本料が400万ドルという破格の費用で話題となったアクション・ムービー。

 監督は「ダイ・ハード2」(90)、「クリフ・ハンガー」(93)のレニー・ハーリンでオスカー女優で妻のジーナ・デイヴィスが主演、「パルプフィクション」(94)、「ダイ・ハード3」(95)で注目されたサミュエル・L・ジャクソンが共演している。

 8年前海岸で発見されたサマンサ(G・デイヴィス)は記憶喪失していたが、小学校の教師として夫(トム・アマンデス)と娘(イヴォンヌ・ジーマ)とともに幸せに暮らしている。
 
 ときどき自分が予期しない行動で戸惑うこともあり、過去の人生を知りたくて私立探偵を雇って調べていた。

 イヴの夜、交通事故の衝撃で失われていた記憶が断片的に蘇ってくる。そんなとき突然殺し屋が自宅に現れ襲われるが、サマンサは男を倒し止めをを刺してしまう。

 ちょうど雇っていた3流私立探偵ヘネシー(S・L・ジャクソン)が持ってきたある情報をもとに、自分の過去を探る旅へ出た・・・。

 最大の見どころは、ヒロイン・サマンサが夫と娘を愛する善き妻・母・教師から一転して、政府お抱えの冷徹な殺し屋・チャーリーに変身するギャップを味わうこと。それでもなお娘を想う母親であることを再認識するところは、彼女のイメージには欠かせない。

 G・デイヴィスは本来得意とは思えないながら、精一杯女殺し屋を演じていた。吹き替えなしでの湖への飛込みや、水車の拷問にも夫のため?によく耐え、変身ぶりも見事。

 ハーリンは終盤シナリオを無視?して、暴走するかのような何でもありのノンストップ・ムービーへ変身させている。とくに橋の爆破シーンには目を奪われる。

 この有り得ない展開に、程よく中和剤として絡むのがヘネシーだ。ダイ・ハード3で見せた巻き込まれた運の悪い男を再現。金のためなら法を破ることは厭わないが、情に厚くて命がけでチャーリーをサポートする。S・L・ジャクソンお気に入りの役柄を、嬉々として楽しそうに好演している。

 大統領やCIA高官が出てくる政治の駆け引きは如何にも安易だが、ナイヤガラの滝での<ハネムーン計画>は無事終了し、不死身の2人はご帰還というハッピー・エンドで、めでたしめでたし。

 面白かったが製作費の回収はままならず、パート2は制作されず、この後ハーリン・デイヴィス夫妻は離婚してしまう踏んだり蹴ったりの顛末は気の毒だった。もっとも得をしたのはS・L・ジャクソンだったかもしれない。


 

「野郎どもと女たち」(55・米) 70点

2015-07-06 15:06:12 | 外国映画 1946~59

 ・大ヒットした無冠のミュージカル映画。

                  

 ’50、ブロードウェイで大ヒットしたミュージカル「ガイズ&ドールズ」を映画化。

 プロデューサーのサミュエル・ゴールドウィンは主演にジーン・ケリーを希望していたが実らず、「欲望という名の電車」(51)、「波止場」(54)でブレーク中のスター、マーロン・ブランドが起用された。彼の初ミュージカル作品でもある。

 監督は「イヴの総て」(50)のオスカー監督ジョーゼフ・L・マンキーウィッツ。

 NYで賭場を開いているネイサン(フランク・シナトラ)は資金作りに困惑していた。婚約者の踊り子アデレイド(ヴィヴィアン・ブレイン)とも14年越し。

 そこへラスベガスから来た賭博師スカイ(M・ブランド)に、救世軍のサラ(ジーン・シモンズ)をデートに誘えるかで2千ドルを賭けることに。

 お堅いサラを巧みにハバナのデートに誘うことができたスカイだったが、その間ネイサンは救世軍本部を賭博場に使っていたことが分かり、サラは窮地に立たされてしまう。

 プレイボーイのスカイ役に意欲的だったM・ブランドはダンスも歌も見事にこなしている。もっともウマが合わなかったF・シナトラは、のちにM・ブランドが歌った<ラック・ビー・ア・レディ>を舞台で茶化し、自分の持ち歌にしていた。

 サラ役のJ・シモンズもミュージカルは初めてだったが、役柄がイメージにぴったりだったことが幸いしてゴールデン・グローブの主演女優賞を獲得している。

 本作が成功したのは、F・シナトラの出番を活かした起用方法と、脇を固めたアデレイド(V・ブレイン)、ジョンソン(スタビー・ケイ)、ビッグ・ジュール(B・S・プリイ)、ベニイ(ジョニー・シルヴァー)が舞台と同じメンバーだったことか。

 残念ながらオスカーには多数ノミネートされていながら無冠に終わったが、映画は大ヒット。その後も各地で舞台上演され、’92ネイサン・レインが主演したブロードウェイ上演が有名。日本では宝塚ファンなら誰でも知っている演目で、’84大地真央・黒木瞳の公演が初演という。

 ミュージカル映画はどちらかというと苦手な筆者には、時々ストーリー展開にブレーキが掛かる歌のシーンは少し興ざめする箇所があって、151分は長いと感じてしまう。

 ただ、冒頭NYの街角・ハバナでのレストラン・終盤の賭博場での集団による歌と踊りには流石だという思いがした。 
 
 マリリン・モンローがアデレイド役を熱望していたり、トム・クルーズがハイスクール時代演じて俳優を志すキッカケとなったとか、ヒュー・ジャックマンが次にミュージカル出演するとすれば本作であるとか何かと話題になる。今も昔も欧米ではミュージカルの古典として親しまれている証しだろう。

 再映画化されたら果たして成功するかは疑問だが、キャスティング次第では見てみたい気がする。