ホリデイ
2006年/アメリカ
古き良きハリウッド映画への郷愁
shinakamさん
男性
総合 70点
ストーリー 70点
キャスト 80点
演出 70点
ビジュアル 75点
音楽 70点
「恋愛適齢期」など大人のラブ・コメに定評あるナイシー・メイヤース製作・監督・脚本で、女性の視点による2組のラブストーリー。
失恋した2人アマンダ(キャメロン・ディアス)とアイリス(ケイト・ウィンスレット)が、クリスマス休暇で「ホーム・エクスチェンジ」して新しい出会いがある。
アマンダの設定がロスの映画予告編製作会社経営、アイリスがロンドン郊外に住む新聞コラムニストと対比が興味深い。
2人の性格も同棲中の男(イーサン)の浮気をスパッと思い切るアマンダと、3年も片思いの男ジャスパー(ルーファス・シーウェル)が別の女と婚約しても諦め切れないアイリスと対照的。
しかし、それぞれグレアム(ジュード・ロウ)とマイルズ(ジャック・ブラック)と出会いがあってハッピーエンドとなる予想通りの展開で、新鮮味に欠ける。
むしろ、DVD店でマイルズが「卒業」をレクチャーするシーンでダスティ・ホフマンがカメオ出演したり、老脚本家アーサー(イーライ・ウォラック)への感謝の会でのスピーチなど、古き良きハリウッドへの郷愁に監督の思い入れを感じた。
フレンチ・カンカン
1954年/フランス
色とりどりで圧巻のダンスシーン
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 85点
音楽 85点
ジャン・ルノワールが製作・監督した19世紀後半の華やかなパリを背景に生まれたムーラン・ルージュ誕生の物語。
何より主演のジャン・ギャバンがカッコいい。ロートレックの絵やオッペン・バッハの「天国と地獄」でお馴染みのフレンチ・カンカンを思いつくショービジネスのプロで、お客が喜ぶこと以外は二の次。そのため資金難や女性関係でムーラン・ルージュはなかなかオープンできない。若い頃の2枚目に渋みが増して老若男女に持てる<男のなかの男>を演じている。
フランソワール・アルヌールを始め踊り子達やエディット・ピアフなどの歌で華やかな舞台は色とりどりで圧巻、ミュージカルの原点を見る思い。
ミリオンダラー・ホテル
2000年/ドイツ=アメリカ
ヴィム・ヴェンダースが「自我」をテーマにしたメルヘン
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 85点
音楽 85点
U2ボノの原案を「ベルリン・天使の詩」「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のヴィム・ヴェンダースが監督。「自我」をテーマにしたメルヘンで、ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した。
親友を失った知的障害者トムトム(ジェレミー・デイヴィス)と心優しい娼婦エロイーズ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)のラブストーリーを中心に、FBI特別捜査官スキナー(メル・ギブソン)が絡んでゆく。ロスのうらぶれたホテルに住み着いた人々の強かな暮らしぶりが彩りを添える。
冒頭、屋上での綺麗なロスの風景が、ボノの音楽とも相まって何とも美しい。ヴェンダースらしく詩的な台詞で字幕を追うのに疲れるが、誰にでもある「自我」を表現するには欠かせない。社会から見放されているホテルの住人にもそれぞれの「自我」があり、話が思わぬ方向に進んで行く。トムトムとエロイーズのラブ・ロマンスだけの話にしないところがヴィム・ヴェンダースの面目躍如。
幻の光
1995年/日本
アンゲロプロスを彷彿させる映像美
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 85点
音楽 80点
「誰も知らない」「花よりもなほ」の是枝裕和監督鮮烈のデビュー作で、宮本輝原作を映画化。ヴェネチア国際映画賞金のオゼッラ賞受賞作品。
12歳で祖母の失踪がトラウマとなりながら、ゆみ子(江角マキコ)は結婚してやっと幸せの絶頂期に、夫(浅野忠信)が突然の鉄道自殺。能登の漁村で男ヤモメ民雄(内藤剛志)と再婚して、改めて生と死を想う。
大阪・尼崎と能登の季節の移り変わりをローアングルで捉えた映像はそれだけで心情に迫ってくる。
海辺の葬列シーンなど、ゆるやかなワンシーン・ワンカットの積み重ねとアップなしの人物描写。アンゲロプロスを彷彿させる映像美だ。モノトーンで主人公の心の内を表現した衣装。ゆみ子が唯一見せた白の下着シーンが印象的。
「いい日和になりましたなあ」と義父(柄本明)に声を掛けるゆみ子に、漸く居場所が見つかった心の落ち着きを感じる。
フランシスコの2人の息子
2005年/ブラジル
思わず涙腺を刺激する、感動の家族愛
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 80点
音楽 85点
ブラジル映画の興行記録を作った実在のミュージシャン「ゼゼ・ジ・カマルゴ&ルシアーーノ」をモデルにした家族愛の物語。貧しい小作人のフランシスコ(アンジェロ・アントニオ)とエレーナ(ジラ・バエス)夫妻が奮闘する家族愛が思わず涙腺を刺激する。
監督のブレノ・シウヴェイラはあくまでブラジルの国民的スターの伝記映画になるのを嫌って、事実をもとに作ることに拘ったらしいが、それが見事に成功した。とくにオーディションで見つけたミロスマルとエミヴァウの兄弟の純粋さ無くして、この映画は有り得ないとまで思わせるほどの素晴らしさ。
バス・ターミナルでライブをするシーンやエージェントに騙されて巡業先で唄うところは感動的。悲惨な事実と違って、変に暗い話に写らなかったのはブラジルの青い空と広い大地のせいだろうか?父親の狂人的な兄弟への想い入れを影で支え「私は子育てをした」という母エレーナの言葉が印象的。
全編に流れる音楽を監修したカエターノ・ヴェローゾのセルタネージョが情緒たっぷりにいつまでも耳に残っている。
パリ、ジュテーム
2006年/フランス=ドイツ
40年ぶりパリ賛歌のオムニバス
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 80点
音楽 80点
クローディ・オサールのプロデュースによるパリを舞台に18人の監督が5分間づつ受け持ったオムニバス。「パリところどころ」以来40年ぶりの試みで、何れも甲乙付けがたい出来で楽しめた。その原因は、パリが持つ色々な顔の魅力とそこに出てくるサマザマな人々の想いがバランス良く描かれていること。話はバラバラなのにひとつの物語として纏まっている。
先ず「パヒューム・ある人殺しの物語」のトム・ティクヴァ監督で、ナタリー・ポートマン作品が作られパイロット版となった。なかなかお洒落なミニ・ストーリーが見本となって、コーエン兄弟が異色俳優、スティーヴ・ブシェミを起用した2作目を完成。ガス・ヴァンサントなど世界各国の監督が顔揃えした。
お気に入りはイザベル・コイシェ監督のバスティーユ編。白血病の妻(ミランダ・リチャードソン)と別れようとした夫(セルジオ・カステリット)。同じ料理しか作らない平凡な繰り返しの日常生活に新鮮味を感じなくなっていたのに、死を迎えようとしている妻を改めて見直す。お洒落なレストラン・赤いコートに隠れた夫婦の物語だ。
もうひとつ、アルソンフォ・キュアロン監督のモンソー公園編。いかにも訳ありな初老の男(ニック・ノルディ)と若い女(リュディヴィーヌ・サニエ)の出会い。会話に出てくるギャスパールという男が何者なのか?とてもウィットのある作品だ。
マネートレイン
1995年/アメリカ
キャスティングが魅力的な脇役陣
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 75点
キャスト 85点
演出 75点
ビジュアル 80点
音楽 80点
ジョセフ・ルーベン監督の地下鉄のスピード・アクション。ウェズリー・スナイプス、ウディ・ハレルソンのコンビが地下鉄公安のおとり捜査官に扮し大活躍。
治安が不安なNYの地下鉄ならではの話で、ストーリーはちょっと荒っぽいが大いに楽しめた。
理不尽な上司のためクビになった2人は、マネートレインを奪うハメになる。地下鉄の暴走シーンは見所だが、K・リーブスの「スピード」の公開直後だけに分が悪かった。その分、脇を固める配役に魅力的な俳優がいた。
2人を補佐する捜査官にジェニファー・ロペス、敵役の上司に「冷血」のロバート・ブレーク、放火強盗犯に「アダプテーション」のクリス・クーパーなど存在感ある役者達だ。彼らの演技を見るだけでも損はない。
リード・マイ・リップス
2001年/フランス
J・オディアールならではのクライム・サスペンス
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 80点
音楽 80点
ジャック・オディアール監督・脚本でエマニュエル・ドゥヴォスがセザール主演女優賞受賞した他脚本・録音の3部門を受賞した作品。
難聴というハンディキャップを持つ土地開発会社の社長秘書カルラ(E・ドゥヴォス)が、助手としてきた保護観察中の粗野な青年ポール(ヴァンサン・カッセル)を知り、孤独な人生が変化してゆく。この映画の良さは2人が決して美男美女ではなく、善悪が明確ではないこと。
カルラはポールに惹かれながら体は許さず、自分の欲望を満たすため仕事に利用したりする。一方のポールも借金を返すためボス、マルシャン(オリヴィエ・グルメ)の大金を奪うためカルラの特技・読唇術に目をつける。互いに利害が一致することで繋がっているようで、男と女の境界線も漂っている。
E・ドヴォスが、人間の弱さとズルさを併せ持つ微妙な女心を見事に演じていて、決して美形とは云えない我が身を鏡に映し見入るところは面目躍如。
「地下室のメロディ」などフィルム・ノワール脚本家、ミシェル・オディアールの息子であるこの監督に、もっと活躍の場を与えてもらって新作を観てみたい。
今宵、フィッツジェラルド劇場で
2006年/アメリカ
懐かしのライブシヨーを再現
総合 80点
ストーリー 75点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 85点
音楽 85点
実在のラジオ番組「プレイリー・ホーム・コンパニオン」の司会を長年務めたギャリソン・キーラー原案・脚本を巨匠ロバート・アルトマンが監督。R・アルトマンといえば、ヨーロッパ三大映画祭のグランプリ監督、これが遺作となってしまった。
フィクションなのにG・キーラーが司会をして、実際のライブショーを見ているような気分にさせてくれる。複数のカメラワークも効果的で臨場感たっぷり。
ジョンソン・ガールズ(メリル・ストリープ、リリー・トムリン)やダスティ&レフティ(ウディ・ハレルソン、ジョン・C・ライリー)のナマ歌も見もののひとつ。勿論吹き替えなしなので本職には及ばないが、それを凌ぐ味を出していてこの映画の魅力となっている。
思わせぶりな保安係(ケヴィン・クライン)、ライブ劇場を買収したテキサスの企業家(トミー・リー・ジョーンズ)、謎のコートを着た美女(ヴァージニア・マドセン)が登場するが、大人のメルヘンとして、懐かしき良き時代を想起させてくれる。
これで最後のライブショーでありながら、いつもどおり楽屋で起きる日常・アクシデントを切り取りながら、人生とはこういうものだという達観ぶりがアルトマン監督らしい。ベテラン歌手チャック・エイカーズ(L・Q・ジョーンズ)が楽屋で亡くなっても「老人の死は悲劇じゃない」というシーンが印象的。
アンチ・アカデミー派の代表的監督であるアルトマンを、「マグノリア」のP・T・アンダーソンが補佐してこの映画が完成したのも感慨深い。