晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「GIRL/ガール」(18・ベルギー)65点

2019-12-31 16:49:29 | 2016~(平成28~)

 ・ バレリーナの夢を追いかけ、美しくて痛々しい思春期を描いたドラマ。


 トランスジェンダーの主人公がバレリーナを目指し、本当の自分自身を生きる姿勢を描いた、ルーカス・ドン監督の長編デビュー作。カンヌ映画祭のカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞した。

 バレリーナを目指す15歳のララ(ヴァンサン・ラコスト)は、父親マティス(アリエ・ワルトアルテ)の支えもあって難関のバレエ学校に転入する。
 見た目は可憐な少女のララだが、男性の身体のトランスジェンダーのため二次成長を抑制するためにホルモン療法を受けながらのポワント(トウシューズでつま先立ち)の猛特訓を繰り返す。

 映画化のきっかけは監督18歳のとき(09年)、バレエ学校の生徒ノラ・モンスクールが女子クラスへ編入を希望したことで問題となった体験談が新聞記事となったこと。以来9年掛かりで念願が叶ったという。
 ダルデンヌ兄弟を始めベルギーの自然主義的表現によって人間を描く監督がもうひとり誕生した。

 主人公ララを演じたのはロイヤル・バレエスクールのトップダンサー、ヴィクトル・ポルスター。バレエ学校の男性同級生役のオーディションに応募してきて監督の目にとまったという。
 演技未経験ながら透明感ある繊細な表情や揺れる思春期の心情を見事に表現していて、まさにララにぴったりの演技だった。わずか三ヶ月の特訓でポワントをこなすのは文字通り血の滲むような努力のタマモノだ。

 劇中、LGBT先進国ともいえるベルギーの様子が描かれている。18歳まで性適合手術は受けられないが医師とカウンセラーがつき適切な診断やアドバイスがされる。何よりタクシー運転手として働く父親の献身的な支えは並大抵ではない。ララの16歳の誕生日に呼んだ親戚も理解がある。

 学校ではロッカー共有の賛否を挙手で問う先生の言動には驚かされた。バストにパット、股間にテーピングしてシャワーも浴びず文字通り血の滲む努力は実を結び舞台に立てるようになるが、クラスメイトの嫉妬や嫌がらせも・・・。

 カウンセラーや父から恋の勧めもある。ララにも好意を持ったクラスメイトの男子がいたが、結果は自分への嫌悪感が・・・。

 冒頭ピアスをしたララを注意した父にもう遅いというシーンがあるが、もっと衝撃的な自傷行為が終盤にある。自分で救急車を呼んだので手遅れにならないで良かった!

 否定的な評価も観られる。多くは監督・主演がシスジェンダー(性同一人)で外見に固執している。自傷行為をドラマティックに見せるためだけで、トランスジェンダーを本当に理解していないというもの。

 舌足らずの部分はあるものの、髪を切って颯爽と歩く続けるララのラストシーンは思春期の迷いを脱し女性らしく生きようとする女性の姿があった。

 

 


「アマンダと僕」(18・仏)70点

2019-12-29 13:16:20 | 2016~(平成28~)

 ・ パリの日常を描写した王道のヒューマンドラマ。


 突然の悲劇から姉を失った青年と母親を亡くした少女の互いに成長していくプロセスを描いて東京国際映画際グランプリと最優秀脚本賞を受賞したヒューマン・ドラマ。監督・脚本は長編三作目のミカエル・アース。

 パリで暮らす24歳のダヴィッド(ヴァンサン・ラコスト)は、ピアニストのレナ(ステイシー・マーティン)と知り合い幸せなときを過ごしている。しかし、突然テロ事件に巻き込まれた仲の良い姉・サンドリーヌ(オフェリア・コルブ)が7歳の一人娘アマンダ(イゾール・ミュルトリエ)を残し亡くなってしまった。
 
 突然親を亡くしたアマンダと保護者となったダヴィッドのふたり。触れ合ううちに徐々に距離を縮めて喪失の悼み・怒り憎しみを超えていく。

 難解で観客に結論を委ねるフランス映画という先入観を裏切る、優しい眼差しが全体に伝わる演出だ。パリ11区に住んでいた監督はパリの市井の人々の暮らしぶりをリアルに捉えながら、感情過多にならないよう節度あるストーリー展開に終始している。
 そのため同時多発テロやイスラム系住民への偏見などパリが抱えている社会問題は背景として描くにトドメ、二人を取り巻く人々も優しい人たちばかり。

 16ミリフィルムで撮影した映像が初夏のパリの街並みを美し捉え、自転車で疾走するダヴィッドたちが印象的。

 ダヴィッドに扮したV・ラコストはコメディでブレークした若手俳優で本作で新ジャンルに挑戦した。その戸惑いが少女の親代わりになる重荷を背負った青年役にフィットしたようだ。

 アマンダのI・ミュルトリエが可愛い。監督がスカウトした新人で演技経験がない分自然な振る舞いが、ちょっぴりオシャマな少女そのもの。泣き笑いのできる演技力は天性のものだろう。

 サンドリーヌが残したウィンブルドンへのチケットは20年ぶりの母・アリソン(グレタ・スカツキ)との再会でもあった。

 「エルヴィスは建物を出た」(もう望みはない。勝ち目はない。)という言葉がキイワードとなった再生の物語は、予定調和ながら静かな感動を呼ぶエンディングで幕を閉じる。

 年を取ってから涙もろくなった筆者だが、感動の涙を流す筈が泣けなくなった自分がいる。これも衰えの証拠なのだろうか?

 

「COLD WAR あの歌、2つの心」(18・ポーランド/ 英/仏)85点

2019-12-25 16:19:07 | 2016~(平成28~)

 ・ モノクロ・スタンダード画面で描かれた究極のラブ・ストーリー。


 「イーダ」(13)のパヴェヴ・パヴリコフスキ監督5年ぶりの作品で、「万引き家族」とパルムドールを争った。カンヌで監督賞を受賞している。冷戦下のポーランドで出会った男女が、時代に引き裂かれながら惹かれ合い、失意の別れを繰り返す15年間を描いた88分。全編モノクロでスタンダード画面ならではの時代感覚が表現された傑作だ。

 監督は両親をヒントに映画化したというが、ストーリーそのものはオリジナル。

 49年共産圏時代のポーランド。
 地方の民謡を舞台で披露する音楽舞踏学校<マズレク>の音楽監督・ピアニストのヴィクトル(トマシュ・コット)は、入団テストに応募した田舎娘ズーラ(ヨアンナ・クリーク)に一目惚れ、ふたりは恋におちる。
 時代は政府の監視でスターリン賛歌のプロパガンダ色の強いものとなって行き、ヴィクトルはズーラとともに逃亡を謀ろうとする。
 ベルリン、ユーゴスラビア、パリを舞台に別離と再会を繰り返しながら、祖国ポーランドで腐れ縁ともいえる恋を完結する15年間を情熱的に描いている。

  ウカシュ・ジャルによる光と影のコントラストによって奥行きがある美しいモノクロ画面が、時代に翻弄される二人を追っていく。ストーリーと音楽が絶えずリンクして行く映像は秀逸で目が離せない。
 
 テーマとなった<2つの心>は原曲ポーランドの民謡からジャズが流れるパリのクラブでアレンジされるなど、時と場所が変遷するたびに二人の関係が変化していく様が描かれる。
 省略されたストーリーの余韻を感じさせるカット代わりと音楽の巧みな構成は、観客を魅了して止まない。
 
 ファムファタール、ズーラを演じたヨアンナ・クーリクは’82年生まれだが、田舎娘から成長した大人の女まで幅広い年齢層をごく自然に振る舞い、ヴィクトルを惹きつけて止まない魅力ある情熱的な役柄を見事に演じている。

 自由な社会に浸った男がやつれ、束縛のなか自分のスタンスを守っていた女が輝いて行く情熱的なラヴ・ストーリーは、プロローグで現れた廃墟となった教会でモノローグとなる。

 「ここから連れ出して」というズーラが二人の究極の愛を締めくくる15年間は、ポーランドにとっても激動の時代でもあった。14歳で母に連れられロンドンへ渡った監督にとって、祖国と両親への愛を込めた作品だった。

 

 

 

「ワイルドライフ」(18・米)75点

2019-12-16 12:40:04 | 2016~(平成28~)


 ・ 静謐な映像で自身の心情を投影したP・ダノ初監督作品の家族ドラマ。


 90年に発表したリチャード・フォードの同名小説をポール・ダノがパートナーでもあるゾーイ・カザンとともに脚本化して監督デビューした。

 60年代のモンタナを舞台に父親の失業をキッカケに、幸せな一家が崩壊して行くさまを14歳の一人息子の視点で描いた家族の物語。

 個性派俳優として「リトル・ミス・サンシャイン」を始め様々な役柄を演じてきたP・ダノ。35歳にして自身の体験を投影するような原作に惚れ込み映画化に挑戦した。

 元教師で働けるのに60年代の主婦像である専業主婦を務めながらも経済的不安から夫についていくジレンマが爆発、心の隙間を埋めるような行動に走る母・ジャネット(チャーリー・マリガン)。

 一家を支えるためプライドを貫こうとしながらも何をやってもうまく行かず、山火事を食い止める危険な仕事場に出稼ぎに出ることで現実逃避してしまう父・ジェリー(ジェイク・ギレンホール)。

 両親を愛していながらバラバラになっていく様をどうしようもなく、戸惑いながらも少しずつ成長していく息子・ジョー(エド・オクセンボールド)。

 なかでもC・マリガンが決して共感を得られそうもない生身の女性に扮し、オードリーの再来といわれたデビュー当時とは一皮むけた演技で目を惹いた。今とは違って当時の30代半ばは中年で、若かった時代を懐かしく焦りが生じる頃。夫が若かったころとは違い頼りない男だと思ったとき、全てを捨て再スタートしようとする変貌ぶりが哀しく痛々しい。

 J・ギレンホールは若手演技派俳優として大活躍中で、本作では理想的な父親を目指しながら挫折、プライドだけは失いたくないという男を演じている。
 今まで普通の男に扮したのをあまり観たことがなく、途中登場しないときでも再登場したらまるっきり違う風貌でいつ本性を現すのだろうか?と不安を抱きながら観ていた。妻の浮気を知ったときその片鱗が窺えたが、思ったよりまともでほっとする。

 ジョーに扮したE・オクセンボールドは事実上本作の主演。大人を向こうに回して一歩もひけを取らない好演で、将来が楽しみ。

 脇役では、車のディーラーでジャネットの浮気相手に扮したビル・キャンプが、金の力を誇示する如何にも女好きな初老の男を演じて存在感を示していた。

 何と言っても将来大監督となる期待充分なP・ダノの妥協のない監督ぶりが印象的。壮大で美しいがときに寒々しい原野風景や、それぞれの心情に沿った静謐な映像で一連のハリウッド作品とは一線を画した丁寧さに好感を持った。

「ダイハード」(88・米)80点

2019-12-13 12:03:49 | (米国) 1980~99 


 ・ 斬新なヒーローとして話題を呼んだ、巻き込まれ型サスペンス・アクション。


 ロデリック・ソープの原作をジョン・マクティアナン監督、ブルース・ウィリス主演で映画化。定石を変えた等身大のヒーロー、精緻な脚本、斬新なカメラワークと編集で話題を呼び大ヒット。
 B・ウィリスはTVシリーズ「こちらブルー・ムーン探偵社」のデヴィッド・アディスンで知られるコメディアンだったが、本作が出世作となりシリーズ6作を全て主演していてその第一作目。

 クリスマスのロスで武装テロリストたちに占拠された高層ビルを舞台に、たった一人戦いに挑んだNY市警刑事ジョン・マクレーンの孤独な奮闘を描いている。

 巻き込まれ型サスペンス・アクションのお手本のような本作。ジェフ・スチュアートとスティヴン・E・デ・スーザの脚本に無駄がない。冒頭飛行機嫌いの主人公が裸足で親指を丸めるシーンが伏線となるなど前半の回収も見事。

 当時としては最先端のSFXによる爆発やヘリの墜落シーンなども迫力があるし、密室での巧みなカメラワークやワイルドな映像は、のちのノンストップ・アクション「スピード」(94)でブレークしたヤン・デ・ボンの手腕によるもの。

 ビル内で孤軍奮闘する主人公を困らせるのがロス市警やFBI、TVリポーターたちで、黒人のパウエル巡査部長やリムジン運転手が救世主となる愉快な展開も皮肉たっぷりで大衆受けを狙っている。

 バブル期の日系企業支社長(ジェームズ繁田)を殺害し社員30人あまりを人質にとったテロ集団のリーダーも、従来の悪役とは違ってダンディな知能犯なのも異色。そのハンスに扮したアラン・リックマンは、クールさで荒くれ男たちをリードし最後までジョンを苦しめる。実態は金庫に眠る6億4千万ドルの債権が狙いだったのも、政治色を出さない娯楽大作に相応しい。

 別居していた妻・ホリー(ボニー・ベデリア)に会うためのクリスマス休暇は、<世界一運の悪い男>の「愛しているとは何度も言ったが謝ったことはない」という妻との和解のメッセージとなった。
 

「洗骨」(18・日)70点

2019-12-04 12:31:11 | 2016~(平成28~)

・ 沖縄の離島に残る因習から家族と自分を見つめるヒューマン・ドラマ。


 沖縄出身のガレッジセール・ゴリこと照屋年之の脚本・監督による長編二作目。「洗骨」という古い風習が残る沖縄の離島・粟国島を舞台に、離れかけていた家族としての心情を取り戻していく様子をときにはユーモラスにそして厳粛に描いている。
 妻を亡くした夫に奥田瑛二、長男・剛に筒井道隆、長女・優子に水崎綾女が扮している。

 葬儀をテーマにした邦画は、伊丹十三監督作品「お葬式」やオスカー外国語映画賞受賞作品「おみおくり」があるが、本作はそれをミックスした作品だろうか?

 日本では火葬が全てという認識があったが、この島では風葬があって4年後死者の骨を荒い個人への感謝を表すという「洗骨」の儀式が残っているという。

 プロローグは亡くなった女性の棺を真俯瞰で捉えた厳粛なシーン。女性は信綱(奥田瑛二)の妻・恵美子(筒井真理子)だった。東京の大企業に勤める剛一家と名古屋で美容師として働く優子(水崎綾女)が帰郷していた。悲しみに暮れるなかユーモラスなオチでカットとなる。

 そして4年後信綱は酒に溺れ引き籠もり状態、剛は一人で帰郷、優子は大きなお腹で戻ってきた・・・。

 沖縄ならではの青い海と空、三線の音が流れるなか大らかな人情溢れる村の暮らしで繰り広げられる、離ればなれになった家族再生をユーモアを随所に交えながら描いていく。

 お笑いタレントの監督らしく暗くなりがちなシーンにも必ず笑いを取ろうとする姿勢はときには行き過ぎ感はあるものの、「洗骨」という因習を丁寧に描くことでバランスの良いドラマに仕上がっている。

 自制心を失い酒に溺れる父を演じた奥田が受けの演技で好演し、その姉に扮した大島蓉子が仕切り役として本作をリードしていてまるで地元民のよう。

 中盤登場した美容院店長役の鈴木Q太郎が、如何にもコメディリリーフ的な笑いで違和感があったが、知らない土地の文化に触れた戸惑いを観客目線で補完する役割りを担ったものだろう。

 情けない男たちと逞しい女たちが登場する本作だが、監督はスクー網魚のシーンで男たちに救いの手を差し伸べる。意地悪だった地元民も終盤でフォローするなど思いやりも欠かさない。

 ナレーションで洗骨のコンセプトを伝えるなど至れり尽くせりなのが気になったが、エンディングに流れる「童神」がこの作品のオリジナル曲にように余韻を醸し出す良作だった。