晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「48時間」(82・米)70点

2019-04-30 17:17:49 | (米国) 1980~99 


 ・ 80年代バディムービーの先駆けとなったアクション・コメディ。


 サンフランシスコの一匹狼刑事と服役中の囚人がコンビを組んで強盗殺人犯を追うことになり、喧嘩を繰り返しながら次第に友情を深め合う48時間を描いたバディ・ムービー。

 監督は「ウォリアーズ」(79)、「ロング・ライダーズ」(80)のウォーター・ヒル。主演はニック・ノルティとこれがデビュー作のエディ・マーフィ。

 本作が決定するまで紆余曲折があったらしく、キャスティングに難航。当初、刑事役はC・イーストウッドから断られ、囚人役にはグレゴリー・ハインズを予定していたが「コットン・クラブ」(84)の出演が決まっていたためN・ノルティとE・マーフィに落ち着いたという。

 キャスティングが決まるまでシナリオが何度も書き換えられ結局4人が脚本を担当する羽目に。そのため、ぎこちないところや都合の良い展開が随所に見られるが、監督の豪腕で軽快なタッチのハードボイルド・テイストに仕上がった。

 いかついN・ノルティに切れ者の悪党E・マーフィのコンビが絶妙。後半は、のちにブレークするマシンガン・トークの片鱗も魅せるE・マーフィの独壇場となった。

 「リーサル・ウェポン」(87)や「ミッドナイト・ラン」(88)など80年代後半はバディ・ムービーの黄金期だが、その先駆けとなった作品としても記憶に残る作品だ。

「ジュリアス・シーザー」(53・米)70点

2019-04-26 13:44:22 | 外国映画 1946~59


 ・ シェークスピアの舞台劇を映像化したマンキウィッツ監督の歴史劇。


 「三人の妻への手紙」(49)「イヴの総て」(50)でオスカー監督・脚本賞を2年連続受賞した名匠ジョセフ・L・マンキウィッツのジュリアス・シーザー暗殺とその後を描いた歴史劇。ブルータスを演じたのはジェームズ・メイソン、アントニーをマーロン・ブランドが演じている。オスカー美術賞(白黒)受賞作品。

 「ブルータスお前もか」の台詞で有名なシェークスピアの舞台劇。紀元前44年のローマ、3月15日。シーザーが終身独裁官という位に就こうとして元老院から呼び出しを受け、暗殺されるまでが前半。

 後半はブルータスとアントニーの戦いとブルータスの自害までが描かれるが、民衆を前にブルータスが何故シーザーが殺されたかを、そのあとアントニーが本当の罪人はブルータスであると演説するシーンが圧巻。

 人望がありシーザーからも信頼され、民衆から人気があったブルータス。共和制擁護派のカシアス(ジョン・ギールウッド)やカスカ(エドモンド・オブライエン)の<シーザーは王位を狙う>という流言に悩ませられる。
 彼の愛国心からシーザーを裏切ることへの悩みや自身の名誉欲、さらには民衆への配慮などの葛藤するさまを軸に描かれる。

 ブルータスに喝采を送っていた民衆が、シーザーの忠臣アントニー逆転のスピーチによって今度はアントニーに大喝采を送るシーンがハイライト。まるでアントニーが乗り移ったような演技を超越したM・ブランドの追悼演説が総てをさらっていった感がある。

 「欲望という名の電車」(51)と「波止場」(54)の間の本作でアントニーに扮したM・ブランド。人気・実力とも絶頂のときで、のちに<20世紀最高の俳優>とも言われている彼が、主演のJ・メイソン、シェークスピア劇の名優J・ギールグッドを圧倒する作品でもあった。

 ほかではワンシーンだけだったがブルータスの妻でデポラカーの美しさがモノクロでも際立っていた。

 名匠マンキウィッツにしては平凡なできだが、手堅く歴史劇を纏め上げた作品と言えそうだ。

「眺めのいい部屋」(86・英)70点

2019-04-21 12:24:04 | (欧州・アジア他)1980~99 


 ・ 20世紀初頭、英国令嬢の恋をノスタルジックに描いたJ・アイヴォリー監督作品。


 英国の令嬢が旅先のイタリアで出会った青年と恋に落ち人生に目覚めるというE・M・フォースターの小説をジェームズ・アイヴォリー監督で映画化。オスカー3部門(脚本・美術・衣装)を受賞した。

 ハニーチャーチ家の令嬢ルーシー(ヘレナ・ボナム=カーター)は、独身で年上の従姉妹シャーロット(マギー・スミス)を付添婦としてイタリアを旅行中、英国人旅行者ジョージ(ジュリアン・サンズ)に出逢い徐々に惹かれて行く。

 階級社会の英国では自由恋愛など許されるはずなく、帰国した彼女は上流階級の男セシル(ダニエル・ルイ=ルイス)のプロポーズを受け婚約する。そんな矢先、ジョージと再会する・・・。

現代では考え方が陳腐と思われがちなストーリーだが、近作「君の名前で僕を呼んで」の脚色でオスカーを獲得したアイヴォリーの格調高い演出で、古き善き時代の英国上流社会の情景が再現されている。

 花の街フィレンツェの美しい風景の映像に、プッチーニの<私のお父さん>が流れる冒頭から異次元に引き込まれる。他にも麦畑のキスシーンでは<ドレッタの夢>が使われ、情熱の国での心情が伝わてくるなどそのものズバリの演出。

 ヒロインH・ボナム=カーターは後にティム・バートン作品やハリー・ポッターなどでお馴染みな多彩な女優だが、本作はデビュー間もない頃。テキシス首相の曾孫という名家の出身らしい血筋を生かした上流社会の清楚な令嬢役で今では貴重な作品となった。

 ジョージを演じたJ・サンズは如何にも監督好みの金髪美青年だが、貴族社会に従順な婚約者セシルに扮したD・ルイ=ルイスの繊細な演技が光っていた。

 3人を囲む演技陣ではベテラン、マギー・スミスのヤキモキする付添婦役が独身女性の複雑な心理状況を表現、三流小説家ラヴィッシュに扮したジュディ・デンチとのやりとりも見どころのひとつ。

 何かと物議を醸したジョージ(J・サンズ)、ビーフ牧師(サイモン・キャロウ)、ルーシーの弟フレディ(ルパート・グレイブス)の3人が全裸で池ではしゃぎ回るシーンは新しい時代の到来を暗示するためのものだが、監督の力が入りすぎの気もする。そのため変なぼかしが入って、却って品性を失ってしまったのは残念!

 優雅な美しい衣装、本物感漂う緻密な美術、フィレンツェや郊外のロンドン田園風景など、時代のリアルな再現に挑んだアイヴォリー監督の力作は、プッチーニ、ベートーベン、シューベルト、モーツアルトの調べとともに小説のページをめくるようなラブ・ストーリーだ。


 

 
 

「お帰りブルゴーニュへ」(17・仏)65点

2019-04-17 12:02:15 | 2016~(平成28~)


 ・ ブルゴーニュ地方を舞台に人間模様を描いたドメーヌの物語。


フランスの都会派セドリック・クラピッシュ監督12作目は、ブルゴーニュのワイナリー一家・三兄妹弟を描いたドラマ。原題は「Ce qui nous lie」<私たちを結ぶもの>。

 ボルドーと並ぶワインの産地ブルゴーニュ。ドメーヌとはブドウ畑の栽培から醸造・瓶詰めまで一貫して行う生産者のこと。長男ジャン(ピオ・マルマイ)は故郷を飛び出したが、父親が末期症状で10年ぶりに帰ってきた。家業を継いだのは妹のジュリエット(アナ・ジラルド)で、弟ジェレミー(フランソワ・シビル)は別のドメーヌの婿養子になっていた。
 多少のギクシャクはあったものの3人は再会を喜ぶが、父の死で相続問題に直面する。ワイン造りの工程を挟みながら長男は離婚問題、長女は醸造家への不安感、次男は義父との関係というそれぞれの悩みを抱えていたことが明らかになる。

 筆者はワイン音痴でそれほど醸造過程やウンチクに興味はないが、フランス人にとっては生活文化に大切な位置にあるようだ。グラスを傾けながらその味を豊富な言葉で表現されるのを聴くと、その哲学的でさえあることに驚かされる。

 冒頭ジョンの回想でブドウ畑の移りゆく四季が映し出され、物語の進行とともにワインの製造過程が挿入されるシーンはワイン好きでなくても興味深く、ユネスコ世界遺産になっているのも納得。

 本作では俳優でもあり、ドメーヌ・ルーロの6代目オーナーのジャン=マルク・ルーロの役割も大きく本物感が漂う。

 ときどきユーモアもあるが、大事件は起こらずありふれた日常を描いたベタな家族愛は、ドキュメンタリーの趣もある。

 フランス映画には珍しく、爽やかなラスト・シーンまでの1年間を丹念に追った3人の悩みは一旦解決の方向へ進む。ワイン同様、彼らにも熟成を待つ期間が必要なようで、今回出した結論の是非はまだまだ先のことかもしれないが・・・。

 自分の悩みを抱えている人が、ワイン片手に観ると解決の糸口が見つかるかもしれない。

 

 

「マダムのおかしな晩餐会」(16・仏)70点

2019-04-12 12:01:38 | 2016~(平成28~)


 ・ 個性派俳優たちが繰り広げる、仏流エスプリが効いたロマンチック・コメディ。


 トニ・コレット、ハーヴェイ・カイテルのアメリカ人夫婦とスペイン人メイドのロッシ・デ・パルマがパリで繰り広げるコメディ。エスプリの効いた舞台劇のような原作・共同脚本・監督はフランスの新進アマンダ・ステールで原題は「MADAME」。

 パリに越してきたアメリカ人夫婦のアンとボブ。セレブの友人を招いて豪華なパーティを開こうとするが、ボブの息子・スティーヴ(トム・ヒューズ)が飛び入り参加する羽目になり出席者は13人に。
 アンは不吉な13を嫌い、急遽メイドのマリアを客に仕立て上げたため困ったことに・・・。

一見アンとボブ夫婦が主役のようだが、ドラマが進行するうちマリアが主役になって行く。マリアを演じたのが<世界一美しい鷲鼻>という異名のL・デ・パルマで、その風貌が個性的。可憐という言葉とは両極にありながら、乙女チックな熟年女性。故郷に娘を残しメイドで暮らすが、その仕事ぶりはアンの信頼も厚く二人の子供たちも懐いている。

 そんなマリアがミステリアスな謎の美女に仕立て上げられ、緊張のあまりワインをガブ飲み。アンとの約束も忘れ、請われるまま下品なジョークを連発し大爆笑される。

 ところがマリアはシチリア王国の末裔で前スペイン王国の又従兄弟とスチーヴのジョークに英国人紳士デヴィッド(マイケル・スマイリー)が真に受け、彼女に一目惚れ求愛、倦怠期だったアンはマリアに嫉妬する。

 意外な展開から、本当の貴族社会を知らないアンとボブのアメリカ人、肩書きに弱くプライドだけが高いデヴィッドの英国人を
皮肉に描いたフランス人監督らしい大人のエスプリ満載のストーリーへ。

 トニ・コレットのセンスあるファッションと、パリ好きには嬉しい観光名所パレ・ロワイヤル、ホテル・プロヴァンス・パリ、ビストロ・オートゥイユ、シネマ・クインなどを背景に繰り広げられる大人の恋の数々は果たして本物だろうか?
 16区にある贋造博物館の外観が夫婦の豪邸という設定が何かを暗示している?!

 <人としてはマダムと同等>と毅然と言い放つヒロイン、マリアの恋の行方が気がかりなエンディングを迎えるが、「人は誰でもハッピーエンドが好き」というマリアの後ろ姿が颯爽としていて素敵だった。
 
 
 

「初恋のきた道」(99・中/米)80点

2019-04-09 12:03:30 | (欧州・アジア他)1980~99 


・ 中国伝統の詩的な物語を映像化したC・イーモウ監督。


 中国華北部の美しい風景をバックに父の死で故郷へ戻った息子が、両親の若かった頃を回想する物語。パオ・シーの原作を「あの子を探して」のチャン・イーモウが監督した<しあわせ3部作の2作目>。ベルリン国際映画際の銀熊賞(審査員グランプリ)受賞作品でチャン・ツイイーの出世作。

 都会で働く青年ルオ・ユーシェン(スン・ホンレイ)が父の訃報を聞き、故郷の三合屯へ戻ってきた。残された母チャオ・ディ(チャオ・ユエリン)は昔ながらの葬儀をしたいと言ってユーシェンを困らせる。
 頑なに伝統の葬儀をしたい母の想いには、村で初めての自由恋愛で結ばれた若き日の二人の恋物語があった。

現在(’58年頃)をモノクロでスタートするこの物語は、息子の回想からカラーに変わる。チャオ・ディ(チャン・ツイイ-)が都会から赴任してきた20歳の教員ルオ・チャンユー(チョン・ハオ)との出逢いに遡って行く。
 その40年前の中国農村は学校もない村が珍しくない時代。よそ行きのピンクの服を着たチャオ・ディは、遠目で若い教員ルオ・チャンユーを憧れの目で視る。

 18歳にしては幼い風貌だが、その可憐さには目を奪われ彼女のアップだけでどんな気持ちだったかが推測できる。重ねて四季折々の風景が彼女の所作に重なって、それだけで物語りが進行するのが心地よく、誰でも身覚えのある初恋というものを想い出させてくれる。
 カラー部分は原作にはないため、監督の思い入れが詰まっているシーン。この直後ハリウッド・スターとなるチャン・ツイイーはこれがデビュー作で、台詞はほとんどなく<視る・走る・待つだけの演技>で観客のハートをわしづかみしてしまう。

 邦題「初恋のきた道」はズバリだが、原題は「私の父親と母親」である。純愛物語でもあるが、40年後の母と息子を通して家族や親子の物語でもある。
 
 文革時代で引き裂かれそうになった両親が結ばれ、僻地の村で教育に一生を捧げた父とそれを一途に愛した母の姿が目に浮かぶ。時代の変遷とともに都会で暮らす息子が行った両親への親孝行が涙を誘う。祖国愛に満ちたイーモウ監督の力作だ。

「ターミナル」(04・米)70点

2019-04-04 15:10:00 | (米国) 2000~09 


・ S・スピルバーグとT・ハンクス3度目のコンビによるコメディ・タッチな人間ドラマ。


 空港に閉じ込められてしまった男の泣き笑いをスティーヴン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演で映画化。「シカゴ」(02)のキャサリン・ゼタ・ジョーンズ、「Shall We Dance?」(04)のスタンリー・トゥッチが共演。

 アメリカ、ジョン・F・ケネディ国際空港。入国手続き中のクラコウジア国(架空の国)のビクター(T・ハンクス)は、クーデターで母国が消滅、出入国を禁じられ空港内で生活する羽目になってしまった。空港労働者との交流や客室乗務員との淡い恋など、ユーモアを交えながら綴られる129分。

 「プライベート・ライアン」(98)、「キャッチ・ユー・イフ・ユー・キャン」(02)に続く3度目のコンビにだが、T・ハンクスの演技に全てを委ねたような演出のスピルバーグ。最大のエネルギーはジョンF空港をセットで再現することに注いだようで、重厚なヤヌス・カミンスキーの映像も軽快なジョン・ウィリアムズの音楽も本物感を醸成するためのもの。

 何ヶ月も空港内で暮らし、有名人物となっていく主人公。悲惨な境遇を、限られた空間で懸命に暮らす姿はまるで宇宙飛行士のようだ。突拍子もない展開だが、モデルがいたという。パリのドゴール空港になんと18年も生活していたイラン人、マーハン・カリミ・ナセリで「ターミナル・マン」という本まで出している。

 もっとも人物像は正反対に近く、主人公ビクターは言葉も不自由ながら人なつっこく、生活力旺盛。ポーカー仲間エンリケ(ディエゴ・ルナ)と入国係官(ゾーイ・ザルタナ)との縁結びをしたり、客室乗務員アメリア(k・ゼタ・ジョーンズ)に片想いしたり悲壮感とはほど遠い。

 そんないい人ばかりでは話は盛り上がらないので、敵役を一手に引き受けたのが警備局主任のフランク(スタンリー・トゥッチ)。局長昇進間近の生真面目な小役人ぶりが、身につまされる。

 父親との約束を果たすため、はるばるアメリカにやってきたビクター。T・ハンクスの泣き笑いで進むハートフルなファンタジーは、ジャズの巨匠ベニー・ジャコルソンが奏でるサックスの音色で幕を閉じる。

 若い頃コメディで売り出したT・ハンクスが大スターとなり、シリアスなキャラクターが増えつつあるこの頃。本作はちょうど分岐点になったようなシニカルな味付けが隠し味のヒューマン・コメディともいえる。