・ アメリカン・ニューシネマの象徴的作品。
強制労働がイヤで狂人を装いオレゴン州立精神病院に贈られてきたマクマーフィ(ジャック・ニコルソン)は、担当医(ディーン・R・ブルックス)と看護師長ラチェッド(ルイーズ・フレッチャー)の監視下で、とことん反発して行く。
ケン・キ-ジーのベストセラーをミロシュ・フォアマンが監督、J・ニコルソンが主演して代表作のひとつとなった。70年代のアメリカン・ニューシネマの象徴的作品で米アカデミー賞主要5部門を独占した。
精神病院という管理下にあって、日常生活を送れないのは当たり前だが、マクマーフィの享楽的な言動はその素晴らしさを改めて気付かせてくれる。同時に社会適応力のない人にとって、そこは自由を束縛されていても居心地の良いところでもある。そんな人たちに囲まれて、個の自由を失いそうになる主人公が哀れである。
管理体制の代表的存在であるラチェッド看護師長も会社の中間管理職的存在で、彼女も犠牲者とも言える。人間の尊厳を問われるロボトミー手術(前頭葉の一部を切除)が許されていたことにも驚かされる。
旧ソ連支配下のチェコ出身であるM・フォアマン監督悲願の作品だけに自身の思い入れとベトナム戦争末期の虚無的なアメリカの時代背景を反映した話題作に仕上がった。
マーロン・ブランドなどの候補者を押しのけ主演したJ・ニコルソンは、人間臭さと終盤の無気力な変貌ぶりは、余人をもって換え難い。仕事に忠実なあまり冷徹な女のL・フレッチャーも主演女優賞を獲得したのも納得。
脇役陣も芸達者が揃い、受賞はならなかったが、ビリー役のブラッド・ドゥリフを始めクリストファー・ロイド、ダニー・デヴィート、ウィリアム・レッドフィリルズなどが、ひと癖ある患者役になりきっていた。
原作では主人公であるマクマーフィと親しいネイティヴ・アメリカンのチーフ(ウィル・サンプソン)のラストシーンが、心に沁み入る名作だ。