晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「カッコーの巣の上で」 (75・米) 85点

2013-11-28 12:37:29 | 外国映画 1960~79

・ アメリカン・ニューシネマの象徴的作品。

       
 強制労働がイヤで狂人を装いオレゴン州立精神病院に贈られてきたマクマーフィ(ジャック・ニコルソン)は、担当医(ディーン・R・ブルックス)と看護師長ラチェッド(ルイーズ・フレッチャー)の監視下で、とことん反発して行く。

ケン・キ-ジーのベストセラーをミロシュ・フォアマンが監督、J・ニコルソンが主演して代表作のひとつとなった。70年代のアメリカン・ニューシネマの象徴的作品で米アカデミー賞主要5部門を独占した。

 精神病院という管理下にあって、日常生活を送れないのは当たり前だが、マクマーフィの享楽的な言動はその素晴らしさを改めて気付かせてくれる。同時に社会適応力のない人にとって、そこは自由を束縛されていても居心地の良いところでもある。そんな人たちに囲まれて、個の自由を失いそうになる主人公が哀れである。

 管理体制の代表的存在であるラチェッド看護師長も会社の中間管理職的存在で、彼女も犠牲者とも言える。人間の尊厳を問われるロボトミー手術(前頭葉の一部を切除)が許されていたことにも驚かされる。

 旧ソ連支配下のチェコ出身であるM・フォアマン監督悲願の作品だけに自身の思い入れとベトナム戦争末期の虚無的なアメリカの時代背景を反映した話題作に仕上がった。

 マーロン・ブランドなどの候補者を押しのけ主演したJ・ニコルソンは、人間臭さと終盤の無気力な変貌ぶりは、余人をもって換え難い。仕事に忠実なあまり冷徹な女のL・フレッチャーも主演女優賞を獲得したのも納得。

 脇役陣も芸達者が揃い、受賞はならなかったが、ビリー役のブラッド・ドゥリフを始めクリストファー・ロイド、ダニー・デヴィート、ウィリアム・レッドフィリルズなどが、ひと癖ある患者役になりきっていた。

 原作では主人公であるマクマーフィと親しいネイティヴ・アメリカンのチーフ(ウィル・サンプソン)のラストシーンが、心に沁み入る名作だ。

 

「ラン・ローラ・ラン」(98・ドイツ) 80点

2013-11-27 05:33:36 | (欧州・アジア他)1980~99 

 ・  才気あふれるトム・ティクヴァ。

     
 ローラ(フランカ・ポテンテ)は、恋人マニ(モーリッソ・ブライブトロイ)の電話で、20分以内に10万マルクを用意しないと命がないといわれ、パパのいる銀行へ一目散で走って行く。

 トム・ティクヴァ監督・脚本によるコミック風ラブ・ストーリー。

 3パターンのストーリーがあって、2人の運命が変わってしまう。この手のプロットは邦画では「羅生門」が有名で、洋画では「スライディング・ドア」があるが、本作は理屈なく楽しめる。

 アニメと実写、コマ落としや早送りなど、映像の斬新さとジャーマン・テクノ音楽に、才気あふれるT・ティクヴァを感じる。のちの「へヴン」「パヒューム」の何れとも違う作風だが、原点はここにある。

「妹の恋人」(93・米) 80点

2013-11-26 16:17:30 | (米国) 1980~99 

 ・ 若きJ・デップのヒューマン・ラブストーリー。

     
 交通事故で両親を亡くしたベニー(エイダン・クイン)とジューン(メアリー・スチュアート・マスターソン)の兄妹。ジューンは事故がもとで精神障害となり、それを健気に支える兄。テーマは暗いのに、サム(ジョニー・デップ)という、ちょっと風変わりな青年の登場でメルヘンの世界へ。

 レスリー・マックネイルの原案・脚本でリングリングサーカスのピエロだったバリー・バーマンが協力しているヒューマン・ラブストーリー。監督はジェレマイヤ・S・チェチック。

 若きJ・デップの達者な演技が秀逸だ。<バスター・キートンに憧れるピュアな心の持ち主>になりきってみえる。パンのダンス、パントマイムで周りを驚かせるところはチャップリンのようで、随所に無声映画を見るよう。

 兄のA・クインは家族の絆を大切にし、人情味溢れるアイルランド人気質丸出しの人物を好演している。妹のM・S・クインは才能がありながら生活適応力がないため性格的に問題がある難役。もう少し繊細さが欲しかった。

 このドラマには悪人が出てこない。若き日のジュリアン・ムーアやオリバー・プラット、ダン・ヘダヤ、ウィリアム・H・メイシーなどお馴染みの俳優達が脇を固めているのも楽しみのひとつ。地味ながら、心温まる佳作に仕上がった。

「蜘蛛巣城」(57・日) 85点

2013-11-24 11:28:05 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

 ・ マクベスを戦国時代に移した、黒澤明の傑作。

       
 蜘蛛巣城主・都築国春(佐々木孝丸)は、謀反で籠城を強いられそうになる。危機を救ったのは、一の砦鷲津武時(三船敏郎)と二の砦三木義明(千秋実)だった。帰城途上で慣れた筈の蜘蛛の手の森で迷ってしまう。その時現れたものの怪の老婆(浪花千栄子)に「武時は蜘蛛巣城主に、義明の息子がのちの城主になれる」との予言を告げられる。

 シェイクスピアの「マクベス」を戦国時代へ置き換えた翻訳ドラマ。黒澤明監督の時代劇では「羅生門」「どん底」に続く傑作だ。「マクベス」を忠実に翻案しながらも、見事に下剋上の戦国時代の心理劇として作り上げている。冒頭の砂嵐に浮かぶ蜘蛛巣城、深い霧に迷う馬上の2人から黒澤イズムが堪能できる。

 人間の欲望は果てしなく、その心の奥を観るのは怖いもの。相変わらず緻密な描写は、鳥の鳴き声・笛と太鼓の音・衣擦れなど、日本の伝統芸能を巧みに取り入れている。

 三船敏郎は通じ綱武将が妻の讒言に乗せられ、哀れな末路を身体全体で表現している。有名な<矢の雨を受けるシーン>は邦画の名シーンとして永く記憶に残ることだろう。
 山田五十鈴はこの映画の要となる冷徹な妻の役。これも有名なシーン<血がついた手を洗う場面>をビビアン・リーが絶賛したという。

 当時の技術では限界だったのだろうが、台詞が聴き取れなかったのが残念!

「スクープ 悪意の不在」(81・米) 80点

2013-11-23 14:29:15 | (米国) 1980~99 

 ・ 真実を追求したメディア報道で、傷つく人もいる。

     
 マイアミ・スタンダード紙の女性記者ミーガン(サリー・フィールド)は、マイアミ港湾労働組合のリーダーが不慮の死を遂げた犯人の特ダネを追っている。FBIのローゼン(ボブ・べラバン)は、犯人の手掛かりを得るため、酒卸し商をしているマイケル(ポール・ニューマン)を標的とする。

 ワナを仕掛けたFBI、野心満々の検事、真実を追求しながらも権威を守るためには怠りないメディア。3者間で犠牲になり商売ができなくなったマイケルと、アリバイを証明することで秘密を知られてしまった旧友テレサ。自殺したテレサのために一考を案じ、司法省の役人が査察することになった。

 デトロイトに実在したギャングの息子がモデルとなったカート・リュデューク脚本、シドニー・ポラック製作・監督の社会派サスペンス。真実を追求するあまり、メディア報道は人を傷つけることがある。これが<悪意の不在>というタイトルの所以であろう。

 オスカー候補になった作品だけに単純な正義の物語ではないが、P・ニューマンは不屈な男振りで小気味よい。34歳の一人前の女を演じるS・フィールドは、颯爽としたジャーナリストのイメージではなくミスキャスト。むしろ旧友のテレサ役のメリンダ・ディロンが、悩み深い複雑な女心を好演。

 助演男優では、司法省役人役のウィルフォード・ブリムリーが気持ちよさそうに演じていて、出番が少ない割に印象に残った。

 今見直すと、ほとんどの人がタバコを頻繁に吸い、おまけに飲酒運転が当たり前。時代の移り変りを感じるが、メディアのモラルは普遍のはずだ。

 

 

「殯(もがり)の森」(07・日) 75点

2013-11-22 11:28:02 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 日本人が持つ自然崇拝が評価された?

     
 旧家を改築したグループホーム「ほととぎす」に住むしげき(うだしげき)は、軽い認知症ながら33年前亡くした妻の想い出とともに静かに暮らしている。

 新入りの介護士・真千子(尾野真千子)は、自分の過失で子供を失い傷心がなかなか癒えない。2人の出会いがトキとともに打ち解け、<命とは?生きるとは?>について問いかけてくる。

 河瀬直美監督によるカンヌ・グランプリ(審査員特別賞)受賞作品。随所で圧倒的に美しい日本の風景を捉えた監督の視点は素晴らしい!それをベルギー人デヴィット・フランケのサウンドが丁寧に追って、風の根・鳥やカエルの声・水の流れなど心情とオーバーラップさせ相乗効果となっている。

 中盤から森に迷い込んだシークエンスが如何にも冗長で、編集に消化不足なのは否めないが、カンヌで高評価を得たのは日本人が持つ自然崇拝の風習を本作で感じたのでは?

 かなり観念的な映画で、好き嫌いがハッキリしそう。あいまいなエンディングと説明不足が気になった。

「ミリオンズ」(04・米) 75点

2013-11-21 15:00:38 | (米国) 2000~09 

 ・ 現代への教訓が詰め込まれたファミリー映画。                                              
                 

 イングランド北部郊外に住む弟・ダニエル(アレック・エテル)は兄・アンソニー(ルイス・マクビボン)の2人兄弟。母を亡くして父(ジェイムズ・ネスビット)と新興地へ引っ越してきた。

 新居に馴染めず段ボールの隠れ家を作りひとりで遊んでいたとき、空からパックが降ってきて、中には札束が・・・。

 「28日後・・・。」のダニー・ボイル監督が脚本家フランク・コットレル・ボイスと組んで、ハートフルなファンタジー・ドラマを作り上げた。D・ボイルは従来の作風を原点に戻し、ユーモアたっぷりな心温まるメッセージを伝える。彼の故郷マンチェスターは灰色だが、CGを活かして青い空で風景も明るい。

 ポンドからユーロに替わり、12日で22万ポンドが紙屑になってしまうところが本作のポイント。クリスマス・年末年始にぴったりなテーマで、自分ならどうするか?を登場人物に置き換えてしまう。

 しっかりものの兄は、不動産投資をしたり買い物三昧など、大人顔負けの行動をする。純粋な弟は聖人を信じ、貧しい人に惜しげもなく分け与えてしまう。父とチャリティ・ワーカーのドロシーも、大金を目の前に警察へ届けるのを躊躇する。

 <本当に大切なモノはお金では買えない>という、現代への警鐘がたっぷりと詰め込まれて、ファミリー映画の秀作だ。

     

「スカーフェイス」(83・米) 80点

2013-11-19 05:27:37 | (米国) 1980~99 

・ デ・パルマ監督マニアには堪らない魅力満載。

     
 ’80キューバ、カストロ政権下、政治犯とともに犯罪者が追放される。マイアミの移民キャンプに住むトニー(アル・パチーノ)とマニー(スチーヴン・バウアー)は政治犯レベンカを殺し、フランク(ロバート・ロジア)に雇われる。
 コカイン取引の手先となり命を失いそうになったり、ボリビアの黒幕ソーサと手を組んでフランクや悪徳刑事バースティンを殺したりして伸し上がって行く。そして情婦エルヴィア(ミッシェル・ファイファー)と結婚し幸せの絶頂期を迎える。

 ハワード・ホークス監督、トニー・カーティス主演「暗黒街の顔役」のリメイク。舞台をシカゴからマイアミに移しブライアン・デ・パルマ監督、オリバー・ストーン脚本によって蘇った。

 電動のこぎりによる拷問を始め、残虐な暴力描写や、主要人物ほどんど全員による俗語の速射砲は強烈なインパクトを与えられる。チンピラから必死に這い上がったトニーが命を狙われたり、犯罪者となったりして目的を果たした末路は・・・。目的を果たした途端に生き甲斐を失うのは皮肉な結末だ。

 A・パチーノの出世作となったが、その割には評価が分かれる。共演したS・バウアーは役得で、M・ファイファーも透き通るような美しさで印象にのこる。ただし役柄としては平凡で寧ろ妹役のメアリー・エリザベス・マストラントニオがピュアな役どころを好演している。


 B・D・パルマお得意の長廻しカメラの銃撃戦はマニアには堪らない魅力だろう。筆者は「明日に向かって撃て!」「俺たちに明日はない」のロマンあふれる作風に軍配を挙げたい。

「クリスタル殺人事件」(80・英) 75点

2013-11-18 21:03:24 | (米国) 1980~99 
 ・ キャストは超豪華、内容はかなり地味なクリスティ・ミステリー。

        
 ロンドン郊外の静かな街で、往年の名女優マリーナ・クレッグ(エリザベス・テーラー)と夫の監督ジェースン・ラッド(ロック・ハドソン)が映画撮影のため大歓迎を受ける。歓迎パーティの最中、予期せぬ犬猿の女優ローラ(キム・ノヴァック)とプロデューサー、マーティ(トニー・カーティス)が現れる。その直後、婦人会の女性がマリーナと談笑中に飲んだドリンクで突然死してしまう。
 ミス・マープル(アンジェラ・ランズベリー)と甥のクラドック警部(エドワード・フォックス)の推理と捜査が始まる・・・。

 アガサ・クリスティ原作「鏡は横にひび割れて」をガイ・ハミルトン監督で映画化。「オリエント急行殺人事件」「ナイル・・・」に続く第三弾でミス・マープルが初登場。

 とにかく豪華なキャスティングに驚く。ちょっと老けたとはいえ4人のハリウッド俳優に秘書役でジェラルディン・チャップリンも出演している。E・テーラーとR・ハドソンは「ジャイアンツ」以来の美男美女夫婦役。K・ノヴァックはE・テーラーにドリス・デイのシワを例えで出したり、R・ハドソンの監督にジョン・ヒューストンへ代ってもらうと言うなど、随所にハリウッドの楽屋落ちを楽しめる。

 その割にハナシはかなり地味で、おまけに犯人はだいたい途中で読めてしまう。映画化よりTVドラマに向いているらしく、ミス・マープルはこの1本だけでTVでシリーズ化されて行くのも頷ける。そういえば、主演のA・ランズベリーはミス・マープルよりTV版「ジェシカおばさん」でお馴染みのヒト。こちらのほうがお似合いだ。

「ディア・ハンター」(78・米) 80点

2013-11-17 12:19:08 | 外国映画 1960~79

・ 評価が分かれるが、一見の価値あり。

     
 ペンシルバニアの田舎町にある製鋼所に通う5人の若者。ベトナム派兵のマイケル(ロバート・デ・ニーロ)、ニック(クリストファー・ウォーケン)、スチーブン(ジョン・サベージ)の壮行会と、スチーブンとアンジェラ(ルタニア・アルダ)の結婚式を兼ねた盛大なパーティが延々と開かれている。

 ニックはマドンナのリンダ(メリル・ストリープ)にプロポーズ。その夜、5人はベトナムへの不安を抱きながらいつもの休日のように鹿狩りへ。

 ベトナムでは想像を絶する過酷な体験をして、3人とも捕虜になってしまう。そこにはベトコンによるロシアン・ルーレットが行われていた。

 「天国の門」のマイケル・チミノ監督が、’60年末にベトナム戦争を体験した若者を象徴的に描いた。78年オスカー5部門(作品・監督など)受賞作品。

 公開当時、評価が分かれる賛否両論作品として大いに話題となった。<賛>は普通の若者が悲惨な戦争を体験することで、心身とも傷を負う痛手を切々と訴えている。<否>はベトナム帰還兵への冷遇に対応して、アメリカの戦争正統性を映像化しているというもの。

 何れも頷けるシーンはあるが、その後アメリカは同じことを繰り返し、このような不幸な若者が後を絶たない。若者のやるせない思いを訴えた<賛>が製作意図であることを願いたい。

 前半での馬鹿騒ぎは、後半の悲惨さを描くためのプロローグとしては少し冗長な気もするが、スラブ系の移民が米国で楽しい時間を過ごすのはこういうときしかないのだろう。

 ロシア系の移民である彼らがロシアン・ルーレットで命の危機を実体験するシーンは決して史実ではない。筆者はこのドラマには欠かせないフィクションとして受け止めている。

 「カヴァティーナ」「君の瞳に恋してる」「ディア・アメリカ」がとても効果的に流れている。それだけでも一見の価値あり。