晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「地上最大のショウ」(52・米)75点

2020-11-25 10:34:43 | 外国映画 1946~59


 ・ 懐かしいサーカスの魅力をフンダンに映像化したオスカー受賞作。


 世界最大のサーカス団を舞台に絢爛豪華なショーとともに繰り広げられる人間模様を描いた150分のスペクタル・ドラマ。
 製作・監督は「クレオパトラ」(34)「サムソンとゲリラ」(49)の巨匠セシル・B・デミル。この年「真昼の決闘」「静かなる男」の間隙を縫ってオスカー作品・原案賞を受賞。「受賞理由不明」は伝説化している。

 団員1,400名のサーカス一座を率いるのはブラッド・ブレイデン(チャールトン・ヘストン)。長期巡業を渋る経営陣に空中ブランコの花形グレート・セバスチャン(コーネル・ワイルド)を迎入れることを条件に長い旅に出る。
 ブラッド団長を慕うホリー(ベティ・ハットン)とセバスチャンの花形スター争いを始め、団員同士の恋愛模様、不満を抱いた団員の不穏な動きなどの舞台裏とともに、スリルとコミカルを交えながら華やかなショーが繰り広げられる。

 今では数少なく観ることはメッキリなくなってしまったが、かつてサーカスは娯楽が少ない地方では町を挙げての一大イベントであったことを教えてくれる。
 実在のリングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンド・ベイリー・サーカスが出演し、懐かしいサーカスの魅力を映像で伝えてくれる。それはディズニー・パレードに動物園とラスベガスやブロードウェイのミュージカル・ショーをいっぺんに観るような楽しさ。
 監督自らナレーションを務め、スタッフの動向まで伝える熱の入れようはまるでドキュメンタリーのよう。

 リング・リングの元祖とも言えるP・T・バーナムがモデルとなった映画が「グレイテスト・ショウマン」(17・米)。興業は大当たりしたが、世評の評価はバーナムの人望やゲテモノ扱いにも関わらず大衆に夢と希望を与えたというストーリーをミュージカル化している。本作との優劣比較は無意味かもしれないが見比べてみるのも面白い。

 デミル監督は絢爛豪華なサーカス・シーンに加え、このために映画化したのでは?と思えるお得意の列車同士の大衝突を最後に用意し、スリル満点のスペクタルで観客を楽しませる工夫をしている。
 リアルなサーカス団のドキュメントと一座のイザコザをドラマ化した中盤までとは一変した終盤は大画面ならではの迫力だが、いま観ると陳腐に見え大団円となるラストシーンも余りにも出来過ぎの感は否めない。

 主人公ブラッドを演じたC・ヘストンは無名だったが,本作でデミル監督に見出され次回作「十戒」で一躍スターとなった。ヒロイン・ホリー役のベティ・ハットンは「アニーよ銃を取れ」以外は目立った活躍できなかったのは同名で主演した舞台女優の嫉妬によるとのことだが、まるで本作の役柄のよう。
 ブラッドに片想いするエンジェルに扮したグロリア・グレアムは実生活では恋多き女優で、年下の舞台俳優との実話をもとにアネット・ベニング主演で映画化<「リヴァプール・最後の恋」(16)>されているほど。
 さらにカメオ出演したボブ・ホープとビング・クロスビーという大物も出演し辣腕ぶりを発揮してるデミル監督は、道化師バトンズにジェームズ・スチュアートを隠し味で起用。最後まで素顔を見せず終盤で逸話を織り込んで役柄を納得させている。ある意味巨匠ならではの贅沢な起用法だ。

 おもちゃ箱をひっくり返したような本作だが、サーカスの楽しさを一大エンタテインメント化した意義は大きい。

「ポイズン・ローズ」(19・米/伊)55点

2020-11-08 12:38:05 | 2016~(平成28~)


 ・ 豪華キャストでハードボイルドへのオマージュ溢れるB級エンタテインメント。


 「ミッド・ナイト・ラン」で高名な脚本家ジョージ・ギャロの監督作品。ロスの私立探偵が故郷テキサス・ガルベストンへ戻り、失踪者捜索にあたるうち事件に巻き込まれる物語。リチャード・サルヴァトーレの原作・共同脚本による映画化で、ジョン・トラヴォルタとモーガン・フリーマンの初共演が最大の話題。

 元アメフト選手でロスの私立探偵カーソン・フィリップスが、ガルベストン近郊の療養所にいる叔母に会えないという失踪者捜索依頼を受け、20年ぶりに故郷へ戻ってくる。

 「マルタの鷹」(41)のようなプロローグは明らかにハードボイルドへのオマージュだ。お世辞と同調を誘う女に弱く、酒とタバコとギャンブルが好きな愛猫家で、飼い猫の名は<レイモンド>とくればチャンドラーのフィリップ・マーロウを想わせる。
スリムになったJ・トラヴォルタが渋い探偵という役柄でイメージ・チェンジに挑んでいるが、残念ながらハンフリー・ボガートの渋さやロバート・ミッチェルには及ばなかった。

 M・フリーマンは街の顔役ドク・モーガンに扮し静の演技で相変わらず存在感たっぷりだが、出番が少なく期待外れ。私的スキャンダルの影響と82歳という年齢がそうさせたのだろうか?

 療養所の医師マイルズに扮したのは「ハムナプトラ」シリーズのブレンダン・フレイザー。哀れな役柄とともにその変貌ぶりにガッカリしたファンも多く、イメージダウンとなってしまった。
 カーソンの元恋人ジェインを演じたのは美魔女ファムケ・ヤンセン。そのスタイルは昔のままだが、年相応の自然な表情が欲しかった・・・。
 ほかにもドクの手下ウォルシュ保安官にロバート・パトリック、クラブ経営者オルセンにピーター・ストメアなど多士済々だが見せ場は少なく顔見せ程度。
 若手ではドクの娘でクラブ歌手ローズに扮したカット・グレアム、ジェインの娘ベッキーにエラ・ブルー・トラボルタが演じている。

 アメフトの八百長、石油採掘事業の経営、療養所の不正・麻薬など多彩なテーマを100分以内に盛り込んだシナリオには無理があり、サスペンス感が薄味となってしまったのが残念!

 70年代のハードボイルドへの郷愁は溢れ「さよならを言うことは、少しの間死ぬことだ。」という台詞が懐かしい。
 御年65歳のトラボルタが、愛する娘と続編で共演することを匂わせるエンディングだったが、かなりハードルは高そうだ。

「慕情」(55・米)70点

2020-11-01 15:15:00 | 外国映画 1946~59
 

 ・ 香港を舞台にしたJ・ジョーンズの代表作となった悲恋ドラマ


 1949年の香港を舞台に英国人の父と中国人の母のハーフで女医とアメリカの新聞社特派員との悲恋物語。ハン・スーインの自伝的小説をもとにジョン・パトリックが脚本化、監督は「頭上の敵機」(49)、「拳銃王」(50)のヘンリー・キング。サミー・フェイン作曲ナット・キング・コールの主題歌があまりにも有名でオスカー歌曲賞を受賞、A・ウィリアムスなどによってスタンダード曲となっている。

 悲恋映画といえばマーヴィン・ルロイ監督ビビアン・リー主演「哀愁」(40)、<ラフマニノフピアノ協奏曲>が流れるデヴィッド・リーン監督「逢いびき」(45)、邦画では菊田一夫原作・岸惠子主演「君の名は」三部作(53/54)などが思い浮かぶ。

 何れも時代背景とその地域、テーマ曲が印象的なものだが、本作では政情不安な香港が舞台に繰り広げられる。マッカーシズム(’50年代前半)の余韻が残っていたハリウッドでは、国民政府が中国共産党に敗れ香港に逃亡してきた難民の悲惨な姿を描き、終盤朝鮮戦争をさりげなく取り入れた反共映画のテイストとなっている。

 ヒロインのハン・スーインを演じたのは聖処女(43)でオスカー・主演女優賞を受賞したジェニファー・ジョーンズ。その後「黄昏」(51)、「終着駅」(53)などメロドラマのヒロインとして着実にスターの地位を築いていく。
 本作では中国人の夫が戦死して香港へ逃れ、医療へ献身しているヒロイン役。チャイナドレス、水着、ドレスを見事に着こなしファッション・モデル並みのスタイルを披露。妻帯者の米国人特派員との恋に身を捧げ戦争で引き離される悲恋物語のヒロインを魅力たっぷりに演じている。

 アメリカの特派員マーク・エリオットに扮したのは「第十七捕虜収容所」(53)のオスカー俳優ウィリアム・ホールデン。大スターだが本作では受けの演技に徹している。

 ふたりは同世代で初共演、ラブシーンが多い悲恋ドラマなのに仲が悪かったとのこと。W・ホールデンが撮影終了後白バラの花束を贈ったが、J・ジョーンズは受け取らなかったとか。
晩年共演した「タワーリング・インフェルノ」(74)でも口を聞かなかった程なので、真実は藪の中だが相当根が深そう。
だが本作では微塵も感じさせないのは流石大スター同士の競演だ。

 古典的で陳腐な不倫ドラマという評価もあるが、ビクトリア・ピーク、レパレス・ベイなど情緒溢れる香港の美しい風景、小高い丘に立つ一本の木、占い・迷信などの因習、手紙・翡翠などの小道具などがふたりの悲恋を引立て盛り上げる描写はその後のお手本にもなっている。

 現在、一国二制度の香港が揺れている。 改めて本作を観ると政治に翻弄される人々を思わずにはいられない。