晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『嫌われ松子の一生』 80点

2010-01-24 15:13:53 | 日本映画 2000~09(平成12~21)




嫌われ松子の一生


2006年/日本






ファンタジーに成功した邦画の貴重な作品








総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
80点




キャスト

★★★★☆
85点




演出

★★★★☆
85点




ビジュアル

★★★★☆
85点




音楽

★★★★☆
80点





山田宗樹の原作を「下妻物語」の気鋭・中島哲也監督が、テイストの違うファンタジーな映画に仕上げた。昭和の時代を駆け抜け、平成になって取り残され孤独のまま死んでいったひとりの女・川尻松子の物語。
CM出身の中島監督はCG・アニメを駆使し松子の波乱万丈の人生を通して、昭和の高度成長期を画面いっぱいに原色で繰り広げ、POPな世界を創出している。好き嫌いがはっきり出る監督でどちらかというと苦手なほうだが、この作品は好きである。特に、どうしても暗く陰惨になりがちなソープ・ランドや刑務所暮らしのシーンをミュージカル仕立てでテンポ良く見せる技術は、和製ミュージカルの成功例で鮮やかのひとこと。
主演の中谷美紀は惚れこんだ役だけあって一皮むけた一世一代の大熱演で、日本アカデミー賞主演女優賞受賞も納得の役者振り。これも中島監督のサディスチックな指導が生きたお陰であろう。
松子に係わる男たちも個性派揃い。教え子でヤクザの龍洋一(伊勢谷友介)太宰治に憧れる作家の卵の八女川徹也(宮藤官九郎)雄琴で同棲するヒモ小野寺(武田真治)などどれをとっても幸せになりそうな男はいない。幸せを夢見る少女だった松子は孤独になることを恐れるあまり惨めな暮らしを繰り返す。
奇想天外で誇張されているが、平成の現代が抱える社会問題、家族の確執・失業・DVが浮き彫りにされていて決して絵空事ではない。それはミュージシャン志望の頼りない甥の笙(瑛太)と海外青年協力隊としてウズベキスタンへ旅立つ明日香(柴咲コウ)の若い2人の関係が象徴的。
不器用で惨めな53年の人生を精一杯生きた松子に愛着を感じさせたのは、「人間の価値とは何をしてもらうかではなく、何をしたか」で決まるという言葉のせいか?






『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』 80点

2010-01-23 15:40:15 | (欧州・アジア他) 2000~09

ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女

2009年/スウェーデン

ミステリー・ファン待望の映画化

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

世界で2100万部を売り上げたスウェーデンのベストセラーを映画化。ミステリー・ファン待望の第一作で原作のスティーグ・ラーソンはジャーナリスト出身の社会派。’04年に50歳の若さで急逝してしまった。
雑誌「ミレニアム」発行責任者ミカエル(マイケル・ニクヴィスト)は、大物実業家に名誉毀損で訴えられ有罪となり雑誌から離れることに。そこへヴァンケル・グループの前会長ヘンリック(スヴェン=ベルティル・タウベ)から、40年前失踪した姪のハリエットの調査依頼を受ける。
一族30人の会議があった日に本土から遮断された孤島で起きた密室ミステリーを紐解く、興味深々のプロローグ。ミカエルを追っていた謎の女性調査員リスベット(ノオミ・ラパス)の協力を得て、謎の解明へ進んで行く。
原題は「女を憎む男たち」で男達の性暴力を告発することがテーマとなっていて、ヒロインのリスベットも陵辱されてしまう悲惨なシーンが序盤にある。一見不必要と思われるが、彼女のキャラクターを納得させるシーンであり、のちの行動にもつながっていて欠かせない。小柄で細身な身体に黒ズクメの衣装を身に纏い、鼻ピアスに全身タトゥー。天才ハッカーでしかも映像記憶能力がずば抜けているという型破りのヒロインに圧倒させられる。
一族の過去にさかのぼり旧約聖書が引用されるなど壮大な展開へ。あの「ダヴィンチ・コード」と比較すると強引さはなく、ハナシも解りやすい。
153分はあっという間で長さは感じないが、ミカエルとリスベットの出会いが本題で、ハリエット失踪の要因である一族のプロフィールを掘り下げる余裕がない。時間をこれ以上取れなかったのは止むを得ないが、肝心のミステリー部分を急いでなぞった感は否めず勿体無かった。
終了後、第二作「火と戯れる女」の予告編を見たが、人物紹介を簡素化できるはず。期待したい。


『荒野の決闘』 85点

2010-01-20 09:49:34 | 外国映画 1946~59




荒野の決闘


1946年/アメリカ




巨匠ジョン・フォード監督の20世紀FOX最後の西部劇。原題は「いとしのクレメンタイン」で分かるように、伝説的保安官ワイアット・アープが登場する<OK牧場の決闘>のストーリーを古典的メロドラマにアレンジ。詩情豊かな西部劇として好評を博した。
主演は「怒りの葡萄」でコンビを組んだヘンリー・フォンダ。ワイアット・アープは何度も映画化され、それぞれワイアット像を作り上げているが、なかでもジョージ・スタージェス監督「OK牧場の決闘」(’57)でのバート・ランカスターの正義の保安官振りが有名。対してH・フォンダのそれはいかにも西部の純朴な人物像が魅力的でとても好感が持てる。
クレメンタインは東部からドクを追いかけてきたヒロイン。そこに酒場の女チワワが絡むが、ドクは肺を患っていてクレメンタインを追い返そうとする。ワイアットはクレメンタインに一目惚れするが勿論片想い。整髪して香水まで付け、クレメンタインとダンスするシーンはほほ笑ましく弟を殺され牛を盗まれたクラントン親子との対決を思わず忘れてしまうほど。
壮絶な銃撃戦を期待した本格的西部劇ファンや後のマカロニ・ウェスタンファンには物足りなさを感じたかもしれない。とはいえ決闘シーンでの抑えた演出ぶりは、親友ドク・ホリデイ(ヴィクター・マチュア)の最後に相応しく、ダイナミックさと繊細さを併せ持った作りとなった。
クロサワが憧れたJ・フォードらしく馬の疾走する迫力やモニュメント・バレーで撮影された岩山の風景は、モノクロならではの空と雲のコントラストで映画史に残る名シーンである。
映画の完成にはプロデューサーのダリル・F・ザナックの意向がかなり反映されたとか?盛りだくさんの97分だった。






『ずっとあなたを愛してる』 85点

2010-01-10 11:34:30 | (欧州・アジア他) 2000~09

ずっとあなたを愛してる

2008年/フランス

家族とは何か?を改めて想わせる

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

「灰色の魂」などの仏作家フィリップ・クローデル初の長編監督。仏ロネーヌ地方のナンシーが舞台でクリスティン・スコット・トーマスを主演に起用して、重いテーマながらジャン=ルイ・オーベールのギター音楽に合わせ、快いラスト・シーンへ導いて行くストーリー展開はなかなか見事である。
プロローグの空港ロービーで煙草を吹かすK・S・トーマスを見た観客は、その眼の下のクマとヒタイのシワに驚かされる。迎えにきたエルザ・ジルベルスタインは娘だろうと思わせるほど。年の離れた妹だと分かるが、ぎこちない再会に深い訳があった。
クローデル監督は刑務所で教壇に立った経験をもとに、犯罪者の心を理解することは不可能では?それでもその境目は危ういもので誰でもそのリスクがあること。そしてそれを癒すのは周りの人々特に家族であることを訴えてくる。
高度な医療に携わってきたジュリエット(K・S・トーマス)が何故息子殺しで15年の刑を受けたのか?夫や両親はどう思ったのか?幼かった妹レア(E・ジルベルスタイン)には何も分からない。ジュリエットはゆっくりと心の襞を洗われ再生への道を歩み始める。妹の家族はレアが英仏のハーフ、夫(セルジュ・アザナヴィシウス)がロシアとポーランドのハーフ、8歳と3歳の娘2人はベトナムの養女、義父は病気で言葉が話せない。この設定はコミュニケーションを取ることが容易でないことを思わせる。
偏見のない長女のプチ・リスはジュリエットの母性をいち早く感じ取りすぐ寄り添うようになる。義父も優しい眼が歓迎の意を表していて、最初は快く思っていなかった夫も打ち解けてくる。血が繋がらないでも家族とは心のヨリドコロである。
社会の眼はそれ程温かくなく、なかでもカウンセラーはおざなりで復帰を目指した就職は難航を極める。救いはフォレ警部(フレデリック・ピエロ)で、南米のオリノコ川に憧れるロマンチスト。もうひとりは妹の同僚大学教授ミシェル(ロラン・グレヴィル)で受刑者と自分は良く似ているという。ユーモアもあり懐が深い。2人から「人は傷を抱えてながら、生きていること」を知らされる。
K・S・トーマスは「イングリッシュ・ペイシェント」以来の好演で、その心の起伏を身体全体に表して観客を惹き付ける。E・ジルベルスタインも一途に姉を慕い、家族を思う聡明な女性をケレン身なく演じセザール最優秀助演女優賞を獲得している。養女役のリズ・セギュールは監督の実の養女だが、カメラを意識しない天性の演技振りはこの映画をホンモノに見せている。
クロサワの映画は眠くなるという台詞がでてくるが晩年の映画を指してのことか。随所にユーモアを交えながら、家族とは何か?を改めて考えさせる佳作に出会った。


『マークスの山』 75点

2010-01-06 10:56:12 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 

マークスの山

1995年/日本

どぎついバイオレンス描写だけが印象に...。

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

高村薫の直木賞受賞作品を崔洋一が脚色・監督した139分。暴力団組員と法務省刑事局課長の殺人事件が起きる。なんの関係もないはずの2件の殺人を追って警視庁捜査一課警部補合田(中井貴一)と王子北署警部補須崎(萩原流行)が対立。唯一の手掛かりは修学院大学の蛍雪山岳会で暴力団員の弁護士林原はそのOBだった。林原は誰かに脅されているらしく精神病院への入退院を繰り返す青年・水沢裕之(萩原聖人)の存在が浮かび上がる。
5時間ぐらいかかりそうな長編小説を2時間半以内に纏めるために大胆に脚色した崔洋一の手腕はなかなかのものだが、どぎついバイオレンス描写には、ついてゆけないものを感じた。
とくに冒頭の暴力団員(井筒和幸が友情出演)や刑事課長の死体のアップ。林原と水沢の鉄パイプでの暴力シーン。エリート弁護士は元全共闘世代の武闘派だった必然性があるのは理解できるが、これでもかというほどの執着ぶりはこの人の嗜好としか思えない。水沢と唯一の理解者である看護師(名取裕子)とのSEXシーンも孤独を癒す大切な場面だが過ぎたるは...の感。2人とも好演しているだけに惜しい。
主演の中井貴一は北岳でのロケなど頑張ったが、原作の関西弁で反体制を貫くしたたかさとは掛け離れたイメージ。新しい合田像は創りきれていない。
警察内部の捜査状況がリアルに描かれ捜査員達は豪華な脇役陣たちが顔を揃え、物語に厚みをましている。ただ登場人物に1回観ただけでは役柄が分からない人が沢山いた。思い切ってカットしたほうが良かったシーンもあったのでは?


『無法松の一生('58)』 85点

2010-01-04 13:48:20 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

無法松の一生('58)

1958年/日本

日本人好みのテーマを欧州人が高評価した傑作

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆90点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆80点

戦時中(’43)坂東妻三郎が演じた伝説の名作を手掛けた稲垣浩監督が、三船敏郎を得てカラー・シネマスコープでリメイク。ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したのは、映像の深みある美しさとともに日本人が最も好んだ浪花節的な人情の世界を、ヨーロッパでは身分違いの恋がメロドラマの主流だったとはいえ、欧州人も理解できたという証明なのだろう。
大先輩の映画通には板妻の松五郎には弾けるような奔放さがあって三船は劣るという評価もあるようだが、無学な荒くれ者ながら人情味あふれる実直さは決して見劣りしていない。クライマックスの祇園太鼓のシーンは情感が溢れて日本映画史に残る名シーンである。ただ当時38歳の三船の老後は若干無理があり、創りすぎて演技している感は否めない。それでも一連の黒澤作品での三船とは違う魅力たっぷりな演技には高得点をあげたい。
憧れの未亡人・良子役の高峰秀子は戦後の大スターでどちらかと言えば庶民派で、気品さでは物足りないが楚々とした美しさはマドンナ役にぴったり。
明治から大正初期のハナシだが、風俗描写も丁寧で的確なのも感心させられる。のちに「寅さんシリーズ」での山田洋次監督も多分に影響されたに違いない。