晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『大いなる遺産(1997)』 80点

2009-09-27 11:55:45 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

大いなる遺産(1997)

1997年/アメリカ

A・キュアロン監督のアートへのこだわり満載

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

19世紀英国の作家チャールズ・ディケンズの最高傑作といわれる原作を、現代のNYに置き換えたアルフォンソ・キュアロン監督の愛憎劇。
フロリダのガルフ・コーストに住むフィネガン少年は、姉のボーイフレンドで便利屋ジョーに育てられる。ある日、スケッチブックを手にした海辺で脱獄犯(ロバート・デ・ニーロ)を助ける。そして<失われた楽園>と呼ばれる屋敷に住むディンズムア夫人(アン・バンクロフト)と姪のエステラという少女に出会う。
大人になったフィネガン(イーサン・ホーク)とエステラ(グウィネス・パルトロー)はNYで再会し、愛を育むことができるのだろうか?
ミッチ・グレーザーの脚本は、19世紀の英国階級社会の普遍的な愛憎劇を大胆な置き換えと省略によって米国人の孤独を表現している。そこにはキュアロン監督のアートへのこだわりが満載され、フランチェスコ・クレメントの絵画とともに全般に流れる光りと緑の映像美が秀逸。
印象的な水飲み場のキスシーンはその象徴である。美少年(ジェレミー・ジェイムズ・キスナー)美少女(ラクエル・ボーディーン)とディンズムア夫人のトライアングルが絶妙!
E・ホークは一途な若者を好演しているが、G・パルトロウの我が侭で冷酷な美しさに圧され気味。オトコの敵とも言われるエステラも、彼女が演じるとフィネガンと同じ気持ちになってしまう。
A・バンクロフトは厚化粧で隠しきれないほどのシワを堂々と見せ怪演。「卒業」のロビンソン夫人で見て以来の哀れな女振りは健在である。
ロバート・デ・ニーロには、トキドキ裏切られるが今回もそのひとつ。むしろ育ての親・ジョー役のC・クーパーが素朴で愛情豊かなオトコを演じて印象に残る。
金と名誉と幸せを量りにかけたテーマのドラマとしては荒っぽいが、美しい映像を112分楽しめた。


『山びこ学校』 80点

2009-09-17 14:46:35 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

山びこ学校

1952年/日本

戦後の教育実践記録を映像化

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

無着成恭の教育実践体験をもとに、脚本家・八木保太郎が日教組の協力で映画化。社会派の名匠今井正が監督している。
山形県の寒村・山元村の人々は、煙草の栽培や林業などで貧しいながら必死に働いている。山元中学の若い無着先生のクラス・43人のなかでも家業の働き手として欠席する生徒が目立っていた。おまけに戦後の民主主義教育を模索中で満足な教材もない。そこで考えたのは生徒の生活実態を作文させそれを教材として考え理解して解決法を探ることを実践して行く。
映画では持ち前の情熱で生徒たちをリードする熱血感振りを木村功が明るく演じている。逸話も金がなく修学旅行に行けない生徒や、母親が亡くなって家族がバラバラになった生徒をクラス全員で助け合う美談が教育映画っぽいのがイマ観ると気になるが、事実なのが驚きである。
のちにその作文が文部大臣賞を生むキッカケになったり、ベスト・セラーになったのに村の恥さらしだと追放される。
何より有名になったのはTBSラジオで28年間続いた「全国こども電話相談室」のレギュラー回答者ぶり。この映画とはイメージが違うが子供の目線で応える誠実な答え振りは「できる子供よりわかる子供に育てたい」という教育者としての一貫性を感じる。
この映画でも印象深かったのは当時流行の「トンコ節」まで教材にしてしまう直向きさ。こどもは意味も考えずに流行歌を唄うが意味を考えさせようという無着先生の本領発揮のシーンだ。
競演陣は杉葉子以外は岡田英次・滝沢修をはじめ東野栄治郎・殿山泰司・金子信雄の新劇俳優が脇を固め、子供達を支えている。北林谷栄の老け役と丹阿弥谷津子の若さが目に付いていた。


『ノーマ・レイ』 80点

2009-09-13 12:04:33 | 外国映画 1960~79

ノーマ・レイ

1979年/アメリカ

働く女性に勇気を与えてくれる

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

’70代の活動家クリスタル・リー・ジョーダンの実話をもとにマーティン・リット監督が抑揚のある演出で女性の自立を描いた。主演のサリー・フィールドがカンヌ・米アカデミー賞主演女優賞を獲得し話題となった作品でもある。
米南部の紡績工場で働くノーマ・レイ(S・フィールド)2人の子供を持つシングル・マザー。NYからきた組合活動家ルーベン(ロン・リーブマン)に影響を受け、その日暮らしで自覚のない生活から自立意識に目覚める。
ノーマ・レイ役はジェーン・フォンダからダイアン・キートンまで4人の候補から断られ、どちらかというとヤンキー娘のイメージが濃いS・フィールドが栄冠を射止めた経緯がある。
黒人は教会に入れない・ユダヤ人にはツノが生えていると噂のある根強い人種差別と厳しい労働環境のなか自立することが如何に大変かがひしひしと伝わってくる。
町全体が企業で支えられ一家は皆従業員という日本でも良くある社会環境から精神の自由を求めたち上がる彼女は決して30年前の出来事ではない。いまでも働く女性に勇気を与えてくれる。
AFI(全米映画協会)が’06に選んだ「勇気と感動ベスト100」で16位にランクされているが、安易な感動編ではなくバランスのとれた社会派映画に仕上がっている。


『ハウエルズ家のちょっとおかしなお葬式』 85点

2009-09-12 15:23:40 | (米国) 2000~09 

ハウエルズ家のちょっとおかしなお葬式

2007年/アメリカ

ユーモアあふれるハートフル・コメディ

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆90点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

スターウォーズのヨーダの声でお馴染みのフランク・オズ監督によるロンドン郊外を舞台に繰り広げるドタバタ喜劇。笑いとは対極にある<葬式>をテーマにした喜劇では、伊丹十三の「お葬式」を思い出すが、オズ監督は英国風ブラック・コメディの特徴を如何なく発揮して、ともすれば下品なだけで収拾がつかないハナシを、ユーモアあふれるハートフル・コメディに仕上げていて流石の手腕である。
ダニエル(マシュー・マクファディン)は父親の葬儀で弔辞を読むことに緊張気味。NYに住む売れっ子作家の弟や従姉妹のマーサ(デイジー・ドノヴァン)と婚約者サイモン(アラン・テュディック)などがそれぞれの想いで集まるが...。
若手ディーン・クレイグの脚本が素晴らしい。一種の群像劇だがドタバタを寸止めすることで、ひとりひとりの描き方が明快となり、それぞれの個性が際立って見える手腕は職人芸である。
それに伴うキャスティングも地味ながら見事。ダニエル役のM・マクファディンは「プライドと偏見」のダーシー、「フロスト×ニクソン」のプロデューサー役とは違う気弱で優しい普通の男を好演。妻のキリー・ホーズとは、実の夫婦なのでイキもピッタリ。そしてこの映画を独り占めしたのはサイモン役のA・テュデュック。安定剤と間違え飲まされたドラックのお陰でしめやかな葬儀をめちゃくちゃにして全裸で屋根に乗るサービス・ショットまで。もうひとり、謎の怪人ピーター(ピーター・ディンクレイジー)が最後までアブノーマルな世界へ誘導するなど個性が際立っている。
原題は「葬式での死」という不思議なタイトル。その意味がわかってから、心温まるエンディングに行き届くまで、笑いが耐えない90分だった。


『シャイニング』 85点

2009-09-04 13:44:02 | (米国) 1980~99 

シャイニング

1980年/イギリス

キューブリックの世界に浸れるホラー

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆85点

原作者スチーブン・キングが「エンジンのない高級車」といって気に入られなかったスタンリー・キューブリックが製作・監督・脚色したホラー。
コロラド州ロッキー山上の由緒あるホテルを舞台に、冬の閉館中の管理人一家に起きた恐怖のできごと。S・キングは別のタイトルにして欲しかったかもしれないが、原作を離れてキューブリックの世界にどっぷり浸れ堪能した。
シンメトリックな構図に壁面や床の幾何学模様、赤と白だけのシンプルな色使いのトイレなど、美しい映像がフンダンに観られる。不気味なBGMとともに当時最新の低い位置からの「ステディ・カム」撮影で、息子のダニーがホテル内を三輪車で遊ぶシーンや雪の迷路のシーンが、より恐怖感を増してくる。
何より欠かせないのは主演のジャック・ニコルソンの怪演振り。一見平凡な作家志望の教師が閉塞感のなか孤独に苛まれ、夢と現実の区別が分からなくなって行く世界をまるで百面相のように変えて行く。ホテル滞在1ヶ月後タイプの音が響き小説を書いてたはずの彼がキーンというノイズで風貌が可笑しくなるシーンが圧巻。妻(シェリー・デュヴァル)が観た原稿には「仕事ばかりで遊ばないジャックは、いまに気が変になる」という文章が何枚も。キューブリックは、ここからは彼が書きたかった小説の世界を映像化しのでは?
双子の少女とエレベータから流れる血の波しぶきが随所に現れ別世界を誘うシーンがキューブリックが最もお気に入りのカットであることが頷ける映画である。