晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「マーティン・エデン」(19・伊/仏/独)75点

2021-03-21 14:19:09 | 2016~(平成28~)


 ・イタリアのA・ドロンと呼ばれるルカ・マネッリ渾身の演技。


 20世紀初頭米国の作家ジャック・ロンドンの自伝的小説をもとにイタリアのピエトロ・マルチェッロが故郷ナポリに舞台を移して映画化、主演したルカ・マネッリがヴェネツィアで「ジョーカー」のホアン・フェニックスを抑えて最優秀男優賞を受賞している。

 無学な貧しい船乗りだったマーティン(L・マネッリ)が、ブルジョワの娘エレナ(ジェシカ・クレッシー)に恋したことを契機に独学で作家を目指す。
 階級社会から脱却するために知識を取得しようと読書に明け暮れ、体験をもとにタイプライターに打ち込む姿は、エネルギッシュな若者らしい直向きさで幾多の挫折に立ち向かって行く。

 ドキュメンタリー出身の監督は、16ミリフィルムによるドキュメンタリー映像とフィクションを交互に挟みながら、自由主義と社会主義が交錯する20世紀の世界を二人の恋の行方とともに比喩的に描いている。
 イタリア映画全盛期40~50年代のネオレアリズモの雰囲気を感じさせながら閉塞感漂う20世紀世界を漂流する男の姿は、個人主義が行き場のない現代への警鐘を鳴らしているようにも見える。久々、イタリア映画界に気鋭の若手監督が誕生した。

 主演のL・マネッリはイタリアのアラン・ドロンとも呼ばれる豊かな感情表現と純粋で繊細な人物像を演じ、見事監督の期待に応えている。前半と後半では全く違う変貌ぶりは<成功と引き換えに自由を失った悲しさ>を見事に演じ分けていた。

 エレナを演じたJ・クレッシーは良家の令嬢としては少し地味な印象は否めないが、やや古典的な女性像のイメージで及第点か?
 マーティンの義兄に扮したマルコ・レオナルディは名作「ニュー・シネマ・パラダイス」(99)で青年期のトトを演じていた俳優で、とても懐かしいとともに時代の変遷を感じた。
 マーティンの人生に多大な影響を与えた老作家ブリッテンを演じたのは「レッド・バイオリン」(99)のカルロ・チェツキ。文化という武器を使って社会変革を目指すよう諭したブリッテンが、唯一マーティンの才能を認めた男だ。

 美しく退廃的な街ナポリで繰り広げられるドラマは、哀しくて穏やかなエンディングだった。

 
 

 

「ゼロ・グラビティ」(13・米) 75点

2021-03-12 12:33:11 | (米国) 2010~15


 ・ 3D大画面で疑似体験したかった宇宙空間と再生への旅。


 3D映画の代表作といえば「アバター」(09・J・キャメロン監督)、「ヒューゴの不思議な冒険」(11・M・スコセッシ監督)だが本作も加えたい。映像で無重力体験できる宇宙飛行士の極限状態を描いたSFヒューマン・サスペンス。

 ハリーポッターシリーズのプロデューサーデヴィッド・ヘイマン、長回し映像で著名なアルフォンソ・キュアロン監督で映画化され大ヒット。オスカー監督(A・キュアロン)、撮影(エマニュエル・ルベツキ)、作曲(スティーヴン・プライス)など7部門を獲得している。

 主演は「スピード」(94)、「デンジャラス・ビューティ」(00)のサンドラ・ブロック。幼い子供を失い心にキズを負いながらも宇宙へ飛び立つメディカルエンジニア役を全身で演じている。アラフィフにしてタンクトップにショーツ姿がさまになる俳優は希少価値である。当初はアンジョリーナ・ジョリーがキャスティングされていたようだが、彼女のほうが適役だと感じた。
 俳優だけでなくプロデューサーなど多方面で活躍しているジョージ・クルーニーが理想的な相棒役で好演しているが、中盤からはS・ブロックの独り芝居。とはいえロバート・ダウニーJrの代役とは思えない程はまり役に仕上がっているのは、彼のイメージに合うよう脚色したからだろう。
 ほかにはエド・ハリスがミッション・コントローラー役の声だけの出演で「アポロ13」(95)を想わせるキャスティング。

 12分半の長回しで始まる宇宙空間の神秘的な美しさは監督の真骨頂で、観客をまるで無重力の世界へ誘因するようだ。船外で修理活動しているストーン博士(S・ブロック)とベテラン飛行士マット(J・クルーニー)との会話は楽しげでこれから起こるアクシデントなど想定外の様子。

 突然ミッション・コントロールからロシアの人工衛星の宇宙ゴミがスペースシャトル・エクスプローラー号へ接近というアナウンスで船外活動を中止し船内に避難を余儀なくされる。
 ここからは数々のアクシデントの連続で仲間を失い、唯一の頼りマットとの無重力飛行の旅へ・・・。

 静寂のなかジョークを言いながら励まし続けるマットと結ばれていたワイヤーまで究極の選択によって離されてしまい、ストーンの孤独な恐怖感のなか生への執着心へのサバイバルゲームが展開されていく。

 科学的なリアリティには数々の間違いが指摘されているようだが、宇宙描写やISS(国際宇宙ステーション)、ソユーズなど映像のリアリティは専門家も納得の映像がドラマとしての質の高さに結びついていた。

 筆者は3D映画鑑賞が不得手で2Dでの鑑賞だったが、本作は3Dで観てみたいと思わせる初の作品だった。