晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『めぐりあう時間たち』 (02・米)80点

2017-02-28 10:58:50 | (米国) 2000~09 
 ・ J・ムーアにも主演女優賞をあげたかった

                                                                          マイケル・カニンガムの原作を「リトルダンサー」のスティーヴン・ダルドリー監督で映画化。ニコール・キッドマンがヴァージニア・ウルフ役でアカデミー主演女優賞を受賞した。 時代と地域を超えた3人の女性の一日を、交錯させながら描いてゆく手法が鮮やか。共通項が小説「ダロウェイ夫人」に出てくる花・パーティ・自殺がモチーフ。心理描写の微妙な揺れが、これ程見事に表現された映画は滅多にない。 3人の主演女優(N・キッドマン、M・ストリープ、J・ムーア)の競演が何れ劣らぬ好演。なかでもJ・ムーアが2大女優を向こうに廻し、抑えた演技で最も光っていた。主演女優賞は彼女にあげても良かった。 3人を囲む助演陣も達者な人が多く、エド・ハリスを始め、スティーヴン・ディレン、ジョン・C・ライリー、トニ・コレットなど夫々見せ場がある。アカデミー賞の作品賞は逃したが、この年アメリカの代表作だ。


『戦場にかける橋('57)』(57・ 英/米) 80点

2017-02-27 12:33:08 | 外国映画 1946~59
 ・ 英・米・日の異文化と軍人の不条理を描いた戦争ドラマ                                                                                                     フランス人作家ピエール・ブウル自身の体験をもとに書いた「クワイ河の橋」を英国人・デイヴィッド・リーンが監督したハリウッド製戦争ドラマ。オスカー作品賞・監督賞を始め7部門を受賞したこの年の代表作として、主題歌「クワイ河マーチ」のメロディとして今日まで燦然と輝いている。ただ、地上最大の作戦のような勇壮な戦争映画とは一味も二味も違っていて英・米・日の軍人精神の違いからくる異文化の食い違いをシニカルに描いた人間ドラマの趣きが色濃く出ている。
第二次世界大戦中のタイとビルマ(現ミャンマー)の国境沿いの日本軍による連合軍捕虜収容所。所長の斎藤は軍事物資輸送のための泰緬鉄道ルートに架かる橋を期日まで完成させる任務を負っている。あらたに英国軍捕虜の隊長であるニコルソン大佐に将校を含め全員に強制労働を強いるが大佐は将校を働かせるのはジュネーヴ条約違反だと拒否する。それを冷ややかに見ていたのは米軍捕虜のシアーズ中佐。
演じたのは早川雪洲、アレック・ギネス、ウィリアム・ホールデンの3人。英国人であるデヴィッド・リーンは、捕虜でありながら騎士道精神を最後まで失わず、軍人として行動規範をとるニコルソン大佐を英雄として扱うと思ったが終盤で風向きが変わってくる。橋の建設を自分のリーダーシップで作ったことに自己陶酔する階級意識丸出しの軍人でしかなかった。自己矛盾に苦しむことなくナイトを演じたA・ギネスがオスカー(主演男優賞)を獲得している。タイトルで最初に出てくる大スター・ウィリアム・ホールデンは、米国代表で軍人精神を発揮するかと思えば中佐を詐称する二等水兵で、脱走して連合軍病院で看護婦とデート三昧。特殊部隊に連れ戻され橋の爆破計画の一員にさせられるのも不条理で、出番の割に損な役回りだった。
斎藤(早川雪洲)も自分は切腹の覚悟を決めながら、<死を選ぶより労働者として生きよ>と自己矛盾の説得をする。戦後初めて日本人を好意的に描いたというこの映画でも今観ると不自然なところが見られるがバケツ・リレーと竹槍で内地訓練していたのも事実なので笑えない。イチバンまともなクリンプトン医師が叫ぶ台詞が印象的。要するに軍人は主義主張に縛られ自己矛盾に苛まれながら言動を重ねる人間なのだと言いたかったのだろう。
無能な日本人のがむしゃらな頑張りではできなかった橋が、英国人の理知的な計画と組織力で見事に完成したというストーリーは、日本嫌いのP・ブウルの原作とは言えこの映画が高評価だったので史実だと勘違いされるのが日本人としては辛い。

「世界一キライなあなたに」(16・米/英) 70点

2017-02-25 11:15:56 | 2016~(平成28~)

  ・ チョッピリ風変わりな純愛ストーリーにテーマが隠れている。 


 
 ジョジュ・モイーズ原作「ミー・ビフォア・ユー 君と選んだ明日」の映画化で、本人が脚本を書いている。監督はティア・シャーロック。 

 16年世界で一番ヒット感動のラブ・ストーリーと銘打っているが、チョッピリ風変わりなロマ・コメの裏には重要なテーマが見え隠れしている。 

 イギリス・ヨークシャー地方の田園地帯に住む眉がキュートなルー(エミリア・クラーク)の新たな就職先は、大富豪の元青年実業家ウィル(サム・クラフリン)の話し相手。
 彼はバイク事故で車椅子生活を余儀なくされていて、首から下が付随のため男の世話係はいるが、気難しく気分を和ませる役割で母カミーラ(ジャネット・マクティア)が雇い入れたのだ。 給料も良く、ルーは大喜びだったが雇用期間は6か月の期限付き。
 スポーツ万能でイケメンのウィルには美しい恋人がいて順風満帆だったし、家庭の事情でヨークシャーで働くルーにも7年付き合っているボーイ・フレンドがいる。
 育ちの違う2人は、ウィルが健常者なら凡そ不釣り合いな2人だが、絶望した彼にはピュアな飾らない思い遣りが心に染み入ったように・・・。

 ルーを演じたE・クラークは、お世辞にも美人とは言えないが誰からも好かれそうな溌剌とした田舎娘を表情豊かに演じて好感が持てる。
 ウィル役のS・クラインは若い頃のイーストウッドを思わせる2枚目。この2人が恋に落ちるラブ・ストーリーは良くあるシンデレラ・ストーリーを思わせ、館内からはあちこちで女性のすすり泣きが聴こえた。

 筆者は、人生に絶望したウィルがルーとの交流で生き方が変わるのは出来過ぎだと感じながら進行を追っていたが、終盤には辛い結末が待っていた。 
 テーマをオブラートに包み込んだピント外れな邦題だったが、ハッピー・エンドとは言い切れない結末をお伽話的に幕を引くことに割り切れない気がした。

 2人の気持ちがしっかり描かれた素敵なラブストーリーだという絶賛派に真っ向から反対するのも大人げないが、賛否両論があって当然な気がする。 

 これからご覧になる方は、事前の情報なしにルーとウィルの気持ちになって観ることをお勧めしたい。   


『愛と青春の旅だち』 (82・米)70点

2017-02-21 17:57:19 | (米国) 1980~99 
 ・ リチャード・ギアの出世作。


  


   当時、海軍士官の制服は若い女性の憧れの的だったに違いない。リチャード・ギアとデブラ・ウィンガーの青春恋愛映画で、2人とも若くて美しい。当初見たときは2人が素晴らしく見えたが、今見ると海軍航空士官養成学校の鬼教官のフォーリー軍曹(ルイス・ゴセット・ジュニア)がカッコ良く見えたのは年齢のせいか?卒業時の2人の敬礼と主題歌が印象的。

「目撃」(70・米)70点

2017-02-20 11:28:50 | 外国映画 1960~79

  ・ 豪華キャストによるC・イーストウッドのB級サスペンス。


    

 デイヴィッド・ベルダッチ原作「黙殺」を、「大統領の陰謀」などサスペンスものに定評があるウィリアム・ゴールドマンが脚本化、クリント・イーストウッドが製作・監督・主演した。

 ヴァージニアの高級住宅街で起きた殺人事件を目撃した男・ルーサーが、暗殺者に狙われながら孤独の闘いを繰り広げるというストーリー。良くある話だが、大統領の不倫が原因で殺人事件が起き、その目撃者が盗みのプロというのがちょっぴり異色。

  C・イーストウッド(目撃者ルーサー)とジーン・ハックマン(大統領)の共演は「許されざる者」(92)以来で、それだけで期待が膨らむ。

 さらにルーサーの殺人に懐疑的な事件担当刑事にエド・ハリス、疎遠になっていたルーサーの娘にローラ・リニー、良心の呵責に苛まれるシークレット・サービスにスコット・グレン、事件の揉み消しに躍起となる大統領補佐官にジュディ・デイヴィス、政界の大物サリヴァンにこれが遺作となったE・G・マーシャルなど多士済々。

 これだけ多彩なキャストの割にストーリーは突っ込みどころ満載だが、脚本に「観客に気に入られる人物は殺さない」という注文をつけたイーストウッドらしく、娘への心情を絡めた父親が悪を正すという安定感ある娯楽作品だ。

 こんな豪華なキャストで<当時のクリントン政権への皮肉ともとれるB級サスペンス>を製作したのも、彼の長いキャリアでの通過点ともいえる。トランプ政権が誕生し、これからハリウッドはどんな大統領映画が作られるのだろうか?
 
 

『ドリームガールズ』(06・米) 80点

2017-02-19 10:51:36 | (米国) 2000~09 
  ・ ソウル・ミュージックの台頭と人々の浮き沈みが象徴的なミュージカル・ドラマ                                                                                                    マイケル・ベネットの大ヒット・ミュージカルを「シカゴ」の脚本ビル・コンドンが監督・脚本、ヘンリー・クリーガーの音楽で、アカデミー賞最多エントリー作品となった。                                                                  ヒロイン、ディーナ・ジョーンズ(ビヨンセ・ノウルズ)とマネージャー、カーティス(ジェイニー・フォックス)を中心にショービジネスの栄光と挫折を描いた物語。モータウン・レコードの創設者ベリー・ゴーディ・ジュニアとシュープリームスがモデルとなっている。         2人を完全に食っていたのが、R&Bのスター、ジミー・アーリー役のエディ・マーフィーとドリーム・メッツのリードボーカル役ジェニファー・ハドソン。E・マーフィーは一連のコメディとは打って変ったジェームス・ブラウンを思わせるシリアスな演技と歌唱力。        そして何より圧倒されたのはJ・ハドソンの迫力ある歌唱力。                                             ミュージカル映画だが、荒唐無稽な「シカゴ」とは違いドラマとしても充分楽しめる。ソウル・ミュージックがどのように白人社会にも浸透し、そこに関わる人々の浮き沈みがパワフルな音楽とともに変遷して行く様子が描かれる。                             <夢を掴んだとき、失った何かに気付く>というテーマをもとに、60~70年代のブラック・ミュージックの台頭を描いた上質なアメリカン・エンターテインメント。オスカー受賞は助演女優賞(J・ハドソン)、音響編集賞の2つだったが、劇場で見た大画面に流れる音響の迫力が忘れられない。

「めぐりあう日」(15・仏) 70点

2017-02-14 12:01:14 |  (欧州・アジア他) 2010~15

  ・ 過去と現在に向き合った娘と母の対峙を描いたルコント監督の二作目。


   

 匿名出産して大人になった理学療法士のエリザ(セリーヌ・サレット)。守秘義務の壁が障害となって見つからない実母を探すため出身地ダンケルクへ8歳の息子ノエとパリから移り住む。

 診療所で働くエルザのもとへ、ノエの学校で働く中年女性アネット(アンヌ・ブノワ)が治療にやってくる。ノエを可愛いと褒めるアネットに好感を抱いたエリザ。何度か通ううち、あることから自分が養子であることを口走る。アネットは非礼を詫びながら封印したはずの30年前がよみがえってくる。

 監督は、韓国から養女としてフランスへ渡った9歳の娘の心情を描いたデビュー作「冬の小鳥」(09)のウニー・ルコントの二作目。

 筆者は未見だが、主人公は彼女が9歳だった頃をオーバーラップさせた前作に引き続き、本作は別人だが匿名出産して養子として育った30歳の女性の実母探しの物語。

 メロドラマのような邦題だが、原題はアンドレ・ブルドン作「狂気の愛」での娘にあてた手紙の一文「あなたが狂おしいほど愛されることを、わたしは願っている」という長い題名で、監督が忘れられない一節。

 撮影監督カロリーヌ・シャンプティエが捉えた北の港町の風景と、ピアノとトランペットが奏でる哀愁漂う音楽で綴られ、エリザとアネットの心情の変化が表情や仕草などによって繊細に描かれる。

 主人公が身体の機能回復をサポートする理学療法士であることで、肌と肌で触れ合う母と娘に得も言われぬ命の繋がりを感じさせる。

 エリザを演じたS・サレットは、シャーロット・シャンプリング似の憂いを秘めた青い瞳が他人を惹きつける。過去の自分探しに没頭する必死な姿は事実の重さをヒシヒシと感じさせる。

 その余り、息子のノエや夫のアレックス(ルイ=ド・ドゥ・ランクサン)など周辺を傷つけていないかに気づいていないのでは?
 清く正しくとは言わないが、2人目の子を宿し夫にも相談せず中絶したり、職場の若い男と夜を共にし息子に見られた挙句顔を叩くのは余りにも自分勝手にしか映らない。

 画面には登場しないが育ててくれた養父母も理解しているというが、本当だろうか?

 アネットは母・ルネ(フランソワーズ・ルブラン)や兄の家族に囲まれ、現在の境遇に落ち着きを見せながら心のワダカマリは消えていないハズ。
 
 <あなたの誕生に何ひとつ偶然はない>というキャッチフレーズが、アイデンティティを見つけ出そうとする主人公に淡々とした語り口で寄り添ったような物語だ。 
 
 
 

   

「アスファルト」(15・仏)85点

2017-02-10 13:44:53 |  (欧州・アジア他) 2010~15

  ・ 人への優しい眼差しが素敵なS・ベンシェトリの団地映画。


    

 パリ郊外にある寂れた団地で繰り広げられる、3組の男女による人間模様が同時並行で描かれる大人の寓話。

 団地で過ごしたサミュエル・ベンシェトリ監督の子供時代を綴った小説をもとに、ガボール・ラッソブとともに脚本を書き下ろした。

 エレベータが故障して改修するかどうかの住民集会が行われている。挙手で賛否を問うが一人だけ反対した男がいた。

 理由は自分は2階に住んでいてエレベータを使わないから。497ユーロを払わずに修理後も使わないことで決着する。

 静かな立ち上がりでギンレイ・ホールはイビキを掻いたり、ビニールのカサカサ音が聞こえていたが、やがてユーモアと独特のセンスから彼方此方で笑いが起きた。

 男は自転車のエクササイズがもとで車椅子生活を余儀なくされ、夜中にこっそりエレベータを使うハメに。

 冴えない独身中年男と愁いを秘めた夜勤の看護師との出会いは病院の自販機で食べ物を買うためだった・・・。

 団地にはアルジェリア移民の女性が住んでいるが息子は服役中。屋上に不時着したNASAの宇宙飛行士が2日間同居することに・・・。

 鍵っ子の高校生の向かいに越してきた中年の女性は鍵が開かず困っていた。彼女は落ちぶれた女優だった。

 訳アリの6人が織りなすドラマはどこか滑稽で人間的魅力に溢れ、奇想天外な展開が淡々と進行していく。

 この不思議な空間が、灰色の空・コンクリートの落書きだらけの仕切りとその周辺で起きる偶然の出会いは人間への眼差しがとても優しい。

 キャスティングがとても良い。
 落ちぶれた女優にイザベル・ユペール、夜勤の看護師にバレリア・ブルーニ・テデスキ、アルジェリア移民の女性にタサディット・マンディのベテランを配置した個性豊かな女優陣。
 孤独な中年男にギュスタブ・ケルバン、宇宙飛行士にアメリカのマイケル・ビット、高校生にジュール・ベントリというはまり役の男優陣。

 国際色豊かでバランスの取れた演技陣には「沈黙と眼差しの交換を通して、人と人との絆が育っていく様子を視覚的に描く」という監督の狙いにピッタリ。

 大女優のI・ユペールが落ちぶれた女優に扮し、監督の息子でマリー・トランティニャンが母、ジャン=ルイ・トランティニャンが祖父というJ・ベントリが支える。母と息子とはちょっと違う不思議な交流もいい。

 アメリカの象徴宇宙飛行士とアルジェリア系移民という2人がクスクスを食べ、水漏れを修理しながら仲良く暮らすのも微笑ましい。

 そして孤独な中年男が「マジソン郡の橋」を真似てカメラマンと偽り、看護師に逢いに行く必死さに思わず失笑しながら応援する自分がいる。

 ピンクのカーディガンから青い花柄のワンピース姿の看護師は、彼にとってM・ストリープに夢中になったC・イーストウッドだったのだろう。
 


 
 

「トム・ホーン」(79・米) 70点

2017-02-09 12:00:24 | 外国映画 1960~79

 ・ 実在の主人公とS・マックイーンがオーバーラップする晩年の西部劇。


   

  19世紀末、アパッチ戦争で首長ジェロニモ降伏の仲介役で一躍その名を轟かせたトム・ホーン(1860~1903)の自伝をもとにスティーヴ・マックイーンが製作・主演した孤独な晩年を描いた西部劇。

 S・マックイーンはTVドラマ「拳銃無宿」(58~61)シリーズ94作で一躍有名となったが、その生い立ちからスターになるまでの人生は波乱万丈。

 ミズリーの農家に生まれ14歳で少年院送り、17歳で海兵隊入り、除隊後バーテンダー・タクシードライバーなど様々の職業を経験後俳優を目指しアクターズ・スタジオへ入学、「傷だらけの栄光」(56)で映画デビュー。

 「荒野の七人」「大脱走」「砲艦サンパブロ」「華麗なる賭け」「ブリット」など60年代でブレーク、「栄光のルマン」「パピヨン」「タワーリング・インフェルノ」など70年代前半までハリウッドを代表するスターだった人。

 筆者には、中高生時代毎週欠かざす観た夜9時・フジTV「拳銃無宿」のジョシュ・ランドルと、池袋で「黄色いリボン」と併映で観た「突撃隊」(62)のジョン・リース二等兵の印象が強い人。

 その経歴から西部劇スターの印象が強いが意外と少なく、代表作は上記以外では「ネバダ・スミス」(66)ぐらいか?

 本作は、01ワイオミングに到着後大牧場主ジョン・コーブル(リチャード・ファーンズワース)に見込まれ牛泥棒の用心棒として働くが、平穏な生活を願う一般の感覚から馴染まず、孤独な晩年を送るエピソードを描いている。

 製作総指揮・主演のマックイーンはドン・シーゲル監督を起用し、若かりし頃の活躍を織り込んだ英雄物語にすべく挑んだが製作費不足で断念。晩年のエピソードのみの地味な寂寥感漂う98分になってしまった。監督はウィリアム・ウィヤードだが、事実上S・マックイーンといっても過言ではない。

 今観ると、地味ながら哀愁漂うガンマンの末路を、病に侵されながらその徹底した頑固な役作りで精魂込めて挑んだマックイーンの俳優生活ともオーバーラップ。

 違っていたのは、トム・ホーンが末路を達成したような言動だったのに対し、マックイーンは生に対する執着が最後まであって諦めなかったこと。

 本作は、遺作の「ハンター」とともに忘れられない最後の西部劇となった。

 

「グッバイ・サマー」(15・仏) 65点

2017-02-04 10:40:21 |  (欧州・アジア他) 2010~15


 ・ 仏版「スタンド・バイ・ミー」はファンタジックなM・ゴンドリーの世界。


   

 14歳の少年2人が、スクラップを集めて作った<動くログハウス>で夏休みにベルサイユから300km南のモルヴァンまでの体験を描いたファンタジックなロード・ムービー。

 監督・脚本は「エターナル・サンシャイン」(04)のミシェル・ゴンドリーで、自身の少年時代を回想して制作した。

 女の子のような容姿のダニエル(アンジュ・ダルジャン)は、ミクロ(ちび)と呼ばれ周りから浮いた存在。
 転校生のテオ(テオフィル・バケ)は改造自転車を乗り回す変わり者で油臭いのでガソリンというあだ名がつく。ということで原題は「ミクロとガソリン」。

 家庭環境・風貌・考えが両極な2人が意気投合。何かに熱中すると現実にはあり得ないけれど、もしかすると・・・と思わせる夢の世界が繰り広げられる。

 この映画で観客は自分が14歳(中2)時代を思い出すに違いない。

 筆者の時代は長髪はなかったが、坊ちゃん刈りから丸坊主になった頃。 全校生徒で一人だけ坊主にならない子がいたが、自分は子供っぽく見られたくなかった。好意を持っている女の子とはワザと無視した態度を取りながら気になって仕方なかった。

 ダニエルは意を決して髪を切りに行くが、ハングル文字の風俗店。美容師が日本語の女性なのは、監督の知識不足か?それともフランスは東アジアは日本・韓国・台湾・中国が一緒に見えるというというジョークか?

 「個性は髪型ではなく、行動と選択で決まる」というテオが大人に見える。

 睡眠障害でよく夢を見るというゴンドリー監督は、<歯医者・美容師・アメフト・逆向き飛行機>という脈絡のない自分の夢を紡いだ物語をビジュアル化して思春期の心情を見事に結実させている。

 過干渉な母親(オドレイ・トトゥ)が疎ましく、女友達ローラ(ディアーヌ・ベニエ)を追った14歳の夏は、少し大人になったダニエルがいた。

 かけがえのない親友テオとのひと夏の出来事は一生忘れないことだろう。